はじめに
本記事は、re:Invent 2025にて現地 12/3(水) に行われた、
R&D(研究開発)部門向けの「Agentic AI(エージェント型AI)」を活用したナレッジアシスタント構築に関するセッションの参加レポートです。
製造業やエンジニアリングの現場では、膨大なデータが複数のシステムに散在しており、エンジニアがデータを探すだけに多くの時間を費やしているという課題があります。
本セッションでは、こうした「閉じ込められたデータ」を解放し、業務効率を劇的に向上させるためのアーキテクチャやデモが紹介されました。
セッションについて
タイトル
Building an Agentic AI-powered Knowledge Assistant for Engineering R&D [REPEAT] (IND402-R)
概要(機械翻訳)
Agentic AI(エージェント型AI)を活用したエンジニアリング・ナレッジ・アシスタントが、
組織の専門知識との対話方法をどのように変革し、情報の検索・要約だけでなくタスクやアクションの実行までを可能にするかについて学びます。
この革新的なソリューションは、業界の知識と企業固有のインサイトを組み合わせ、マルチモーダルな対話機能を通じて、ナレッジベース、ベストプラクティス、意思決定サポートへの即時アクセスを提供します。
このアシスタントは、デザイナーやR&Dアナリストから製造チームまで、多様なステークホルダーに文脈に応じた推奨事項とインサイトを提供し、複雑なエンジニアリング情報のナビゲーションをこれまでにない効率で支援します。
実用的なアプリケーション、実装戦略、そしてAIによって拡張されるエンジニアリングワークフローの未来について探ります。
スピーカー
- Keith Lee, Partner Solutions Architect, Amazon Web Services
- Vedanth Srinivasan, Head of Solutions, Engineering & Design, Amazon Web Services
スケジュール
- 日時: 2025年12月3日(水)
- 時間: 8:30 AM - 9:30 AM PST
- 場所: Caesars Forum | Level 1 | Summit 231
セッションタグ
- セッションタイプ: Chalk talk
- レベル: 400 – Expert
- トピック: Industry Solutions
- 関心領域: Agentic AI
- 業界: Manufacturing & Industrial
ポイント
このセッションの主なポイントは以下の通りです。
- エンジニアリングにおける「データ検索」の課題: エンジニアの業務時間の約30%がデータの検索に費やされており、イノベーションの妨げになっている。
- Agentic AIの成熟度モデル: 単なるチャットボット(Level 1)から、自律的に協調するマルチエージェントシステム(Level 4)までの段階的な進化。
- ペルソナ駆動型アーキテクチャ: ユーザーの役割(デザイナー、シミュレーションエンジニアなど)に応じて、適切なエージェントと権限を割り当てるセキュリティ設計。
- 最新技術の実装: MCP (Model Context Protocol) による外部ツール連携や、GraphRAG を用いた複雑なデータ関係性の理解。
1. 製造業におけるAI主導の変革トレンド
セッション冒頭では、製造業の顧客が求めている3つの主要なトレンドが紹介されました。
-
インテリジェントな製品開発 (Intelligent Product Development):
消費者のトレンド分析や、不足データを補うための「合成データ (Synthetic Data)」の活用。 -
労働力の拡張 (Workforce Augmentation):
「干し草の山から針を見つける」だけでなく、データの出所や行き先(トレーサビリティ)まで理解できるインテリジェントなアシスタント。 -
オペレーショナル・エクセレンス (Operational Excellence):
パターン認識を用いた品質管理やスマートファクトリー化。
2. Agentic AIの4つのレベル
単にAIを導入するだけでなく、どのようなレベルの「エージェント」を構築するかという視点が重要です。
スピーカーは以下の4段階を定義しました。
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Level 1: ナレッジアシスタント (Retrieval Agents)
- チャットボット形式。データを入れて、検索して取り出すシンプルな形。
-
Level 2: シングルタスクエージェント (Single-Task Agentic Workflows)
- 特定のタスク(例:特定の計算や処理)を実行する完結したループを持つエージェント。
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Level 3: クロスエージェントシステム / スーパーバイザーエージェント (Cross-Agentic Systems)
- 複数のエージェントを束ねる「スーパーバイザー」が存在し、複雑なワークフローをオーケストレーションする。今回のデモの中心はここです。
-
Level 4: マルチエージェント・コンステレーション (Multi-Agent Constellations)
- エージェント同士が自律的に連携(Any-to-Any)し、人間が指示しなくても適切なエージェントを見つけて問題を解決する。
3. アーキテクチャとデモ
今回紹介されたシステムは、ペルソナベースのセキュアアクセス環境です。
ユーザーがログインすると、その役割(デザイナー、調達担当など)に応じて利用可能なエージェントが自動的に割り当てられます。
主な技術要素
- プラットフォーム: Amazon EKS (Kubernetes) 上でホスト。
- 認証: SSO(シングルサインオン)。ロールベースのアクセス制御を実現。
- エージェント開発: "Strands" と呼ばれるSDKを使用(※セッション内で紹介されたエージェント開発用フレームワーク)。
- データ連携: MCP (Model Context Protocol) を使用して、外部SaaS(例:PTC Onshape)と双方向に対話。
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RAG (検索拡張生成):
- Vector RAG: 類似性検索に使用。
- GraphRAG: 部品表(BOM)やサプライチェーンなど、データ間の関係性が重要な場面で使用。
ユースケースデモ
セッションでは、実際の業務フローに沿ったデモが紹介されました。
(1) デザイナー向け: 類似図面検索とDFM
CADデータを画像化してシステムに入力し、「これに似た部品は過去にあるか?」と尋ねます。
ベクトル検索と推論を組み合わせ、形状的に類似した過去の部品、関連するシミュレーションデータ、サプライヤー情報を提示します。
また、「製造のための設計(DFM)」の観点からリスクやコストのアドバイスを受けることも可能です。
(2) シミュレーションエンジニア向け: エラー解析と自動セットアップ
シミュレーションのセットアップでエラーが出た際、画面のスクリーンショットを撮ってエージェントに送るだけで、「ディレクトリ設定が間違っている」といった原因を特定します。また、論文やレポートを読み込ませて「この内容に基づいてシミュレーションモデルをセットアップして」と指示することで、パラメータ設定を自動化できます。
(3) RFQ(見積依頼)プロセス: マルチエージェント連携
「スーパーバイザーエージェント」が以下のフローを自動化します。
- 顧客からのRFQドキュメントを読み込み、要件を解析。
- 「デザイナーエージェント」に依頼して最適な製品・部品を選定。
- 「調達エージェント」が在庫やリードタイムを確認。
- CRM(Salesforce等)から顧客情報を取得。
- 最終的に見積回答メールの下書きを作成。
- Human-in-the-loop: 最後に人間が内容を確認・修正してから送信。
4. 開発の教訓 (Lessons Learned)
エージェント開発における実践的なアドバイスも共有されました。
- エージェントが常に答えではない: 計算などLLMが苦手なタスクは、適切な「ツール」を呼び出して処理させるべき。
- スコープを明確にする: エージェントに何でもやらせようとすると「コンテキスト腐敗 (Context Rot)」が起きて精度が下がる。タスクを小さく分割し、専門特化させる。
- 小さなプロンプトから始める: 最初から複雑にしない。
- ソースを引用する: ハルシネーション(嘘)を防ぐため、回答の根拠となるドキュメントを明示させる。
- 画像の扱いに注意: 同じ画像を異なるモデル(ClaudeとNovaなど)で処理するとテキスト表現が変わり、検索精度に影響することがある。パースする際は、同じモデルで統一すると良い。
まとめ
本セッションでは、製造業のR&Dにおけるデータアクセスの課題を、Agentic AIを用いて解決する具体的なアプローチが示されました。
単なる検索ツールではなく、MCPやGraphRAG、そしてマルチエージェントオーケストレーションを組み合わせることで、
実際の業務プロセス(設計、解析、見積など)を自律的に実行できるシステムを構築する例を確認することができました。
「データはあるのに使えない」という製造業共通の悩みを解決する手段として、AIエージェントを活用する方針が示されたセッションでした。
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