はじめに
近年、日本では少子高齢化、人口減少、過疎化などの課題を抱える地方自治体が多く、従来の中央集権的な行政/企業主導の地方創生だけでは「人手不足」「関係人口の確保」「継続性」の壁に直面することが増えています。
そんな中、ブロックチェーン技術と「DAO(分散型自律組織)」を活用することで、地域外の人々を「関係人口」「デジタル村民」として巻き込みながら、地域づくりを持続可能にする動きが出てきています。
以下では、現在進行中または注目された「地方創生DAO」の代表的な事例を紹介します。
主な事例紹介
美しい村DAO(複数自治体連携型)
- 発足の背景
「日本で最も美しい村」連合に加盟する自治体は、豊かな自然や文化を持つ一方で、人口減少・高齢化・観光の持続性といった共通課題を抱えていた。
単独自治体での情報発信や関係人口創出には限界がある中、複数自治体が横断的に連携できる新しい枠組みとしてDAOが選ばれた。
- 何をしているDAOか
NFTを「デジタル村民証」として発行し、購入者は地域外に住みながらもDAOメンバーとして参加可能。
村の魅力発信、イベント企画、コンテンツ制作、観光施策のアイデア出しなどをコミュニティ主導で行う。DAOは自治体と外部ファンをつなぐハブ的存在となっている。
- 現状
DAOを通じて地域への関心層を可視化し、これまで接点のなかった層との継続的な関係づくりに成功しつつある段階。
自治体単位ではなく「連合」としてのブランド価値をDAOで拡張している点が特徴。
- これから
今後はDAOメンバー限定の体験型観光、共同プロジェクト、地域産品の企画など、関係人口を“行動”に変えるフェーズが期待される。
複数自治体DAOというモデル自体が、他地域への横展開の可能性を持つ。
おさかなだお長崎(地域コミュニティ型)
- 発足の背景
長崎は水産資源が豊富である一方、漁業の担い手不足や魚の価値の伝え方に課題を抱えていた。
「魚」を軸に、人・学び・遊びを結びつけるコミュニティとしてDAOが誕生。
- 何をしているDAOか
勉強会、料理イベント、ブランディング企画などを、メンバーの提案と投票によって実行。
活動の対価としてNFTトークンを付与し、地元飲食店などでリワードとして使える仕組みも導入。
DAOを「稼ぐ場」よりも「参加して楽しい場」として設計している点が特徴。
- 現状
地域内外から多様なメンバーが参加し、イベントベースでの関係構築が進行中。
DAOが“ゆるく関われる入口”として機能している。
- これから
ファンコミュニティを基盤に、観光誘客、商品開発、教育分野との連携などへの発展が期待される。
関係人口を育てるDAOの代表例といえる。
HATARAKU DAO(岩手県紫波町・自治体連携型/Web3ガバナンス実証DAO)
- 発足の背景
従来の地方自治体運営では、意思決定プロセスがブラックボックス化しやすく、住民が主体的に関わる余地が限られていた。
こうした課題に対し紫波町では、DAO(分散型自律組織)の思想とブロックチェーン技術を導入し、「地域運営をオンチェーン化する」実証的な取り組みとしてHATARAKU DAOを立ち上げた。
- 何をしているDAOか
HATARAKU DAOは、地域づくりに関する提案・議論・合意形成のプロセスをWeb3的に設計し、
誰が・いつ・どのような意見を出したのかをオンチェーンで可視化可能なガバナンス実験を行っている。
住民、地域団体、事業者、自治体がDAOの参加者としてフラットに関わり、
「参加できる自治」「コードで支えられる地域運営」の実現を目指している点が特徴である。
- 現状
現在はPoC(概念実証)フェーズにあり、DAOガバナンスが現実の地域コミュニティでどこまで機能するかを検証中。
オンチェーン投票、参加履歴の可視化、インセンティブ設計など、Web3ならではの仕組みが実地で試されており、
日本における“自治×DAO”の貴重な実験フィールドとなっている。
- これから
今後は、DAOによる意思形成がどこまで実際の地域運営や行政判断に接続できるかが最大の焦点となる。
この取り組みが成熟すれば、HATARAKU DAOは
「自治体DAO」「公共領域におけるWeb3ガバナンスモデル」の先行事例として位置づけられ、
日本におけるDAO活用の可能性を大きく押し広げる存在になるだろう。
ぐんま山育DAO(株式会社型DAO × 地域産業)
- 発足の背景
地域産業を持続させるには、補助金ではなく事業として成立する仕組みが必要だった。
そこで、ナチュラルワインを軸に、株式会社型DAOという形でプロジェクトが立ち上がった。
- 何をしているDAOか
DAO参加者は出資者・オーナーとしてプロジェクトに関与。
ブドウ栽培からワイン生産・販売までを一体で行い、事業成長と地域振興を両立させる。
- 現状
すでに資金調達に成功し、事業として具体的に進行中。
DAOが「事業推進装置」として機能している点が特徴。
- これから
ワイン事業の成長とともに、雇用創出や関係人口拡大が期待される。
収益性と地域活性を両立するDAOモデルとして注目度が高い。
地域創生DAOのこれまでと現在
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地方創生 × Web3 の萌芽期(〜2020年頃)
日本の地方創生は長らく、補助金や行政主導の施策が中心だった。一方でブロックチェーン黎明期には、仮想通貨やNFTは主に投機的文脈で語られ、地域課題との接点はほとんどなかった。この時期は「技術先行」で、社会実装は限定的だった。
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DAO概念の登場とコミュニティ活用の模索(2021年頃)
海外を中心に DAO が注目され始め、「組織をコードで運営する」「意思決定を分散化する」という思想が広まる。日本でもDAOという概念が紹介され始め、地域コミュニティやファンコミュニティへの応用が検討されるようになった。
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NFTブームと“関係人口DAO”の誕生(2022年頃)
NFTブームをきっかけに、地域をテーマにしたNFTやデジタル住民票、会員証NFTなどが登場。
「移住しなくても地域に関われる」という価値が可視化され、関係人口をDAOで形成する試みが各地で始まった。
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実証フェーズへの移行と課題の顕在化(2023年頃)
単なるNFT販売では持続しないことが明らかになり、DAOとしての意思決定、資金の使い道、実際の地域活動との接続が課題に。
この時期から「DAOは目的ではなく手段である」という認識が広まり、運営設計やガバナンスの重要性が強調されるようになった。
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“実装フェーズ”に入った地域創生DAO(2024年〜現在)
現在は、観光、農業、空き家活用、教育、地域通貨など、具体的な地域課題にDAOを組み込むフェーズへ。
NFTやトークンは単なる資金調達手段ではなく、「参加証」「投票権」「インセンティブ設計」として活用され、持続可能な地域運営を目指す動きが進んでいる。
DAOで地方創生を行う意味・メリット
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関係人口を“デジタル”で拡張できる
DAOを活用すれば、実際に移住しなくても、地域に継続的に関わる「デジタル村民」「サポーター」「共同オーナー」を増やすことが可能になる。地理的制約を超えて、地域への関与を生み出せる点は、従来の地方創生にはなかった大きな強みである。
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多様な人材・スキルを地域に取り込める
地域住民に限らず、都市部の会社員、Web3・ITエンジニア、クリエイター、投資家など、さまざまなバックグラウンドを持つ人々が参加可能。外部視点による課題発見や、発信力・技術力を活かした新たな価値創出が期待できる。
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資金調達・収益モデルを多様化できる
NFTやトークンを活用した資金調達、小口参加型の投資、地域産品の販売、体験型イベントなど、補助金や行政予算に依存しない持続的な収益モデルを構築できる。地域活動を“経済的に回る仕組み”へと進化させられる点が大きい。
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透明性の高い参加型ガバナンスを実現できる
DAOでは、意思決定や資金の使途が可視化され、参加者全員が運営に関与できる。行政や一部の組織に依存しない、コミュニティ主導の地域運営・プロジェクト推進が可能となる。
課題と留意点
- 法制度・法的整備の問題:DAO/トークン/NFT を地域振興に使うには、既存の法制度・金融規制との整合性が課題。特に株式会社型 DAO や資金調達のスキームでは注意が必要。
- 参加者のモチベーション維持:オンライン主体の「関係人口」は気軽に参加できる反面、継続的な関与を促す仕組みや明確なメリット設計が求められる。
- リアル地域との融合:デジタル上で盛り上がっても、それをリアルな地域の活性化(住民との協働、移住、観光、産業振興など)にどうつなげるかは設計が重要。
- 地域ごとの特性を踏まえたデザイン:人口構成、文化、地域資源、住民の意識などが地域ごとに異なるため、標準化せず「その地域に合ったDAOづくり」が必要。
今後の展望
DAO を使った地方創生モデルは、従来の行政・企業・補助金中心のアプローチとは異なる新たな可能性を持っています。特に「関係人口」という概念を拡張し、地域外の人を巻き込むことで、人口減少・過疎化という構造的課題へのアプローチが可能になる点で注目されます。
ただし、成功には「地域の事情にあったDAO設計」「理念・ビジョンの共有」「法制度・収益性のバランス」「住民との実践的な連携」が必要不可欠です。今後、こうした取り組みが増え、成功事例が蓄積されることで、「DAO × 地方創生」が日本の地方再生の新たなスタンダードになる可能性もあります。
