はじめに:天国から地獄へ
スタートアップにとって、クラウドベンダーからの支援プログラム(Credits)は生命線です。
弊社も「Microsoft for Startups Founders」のプログラムに採択され、多額のクレジット枠を付与いただいていました。
「これでGPUもLLMも回し放題だ、検証が捗る!」
そう思っていた時期が私にもありました。
先日、クレジットカードの明細を見て凍りつきました。
MICROSOFT AZURE: 237,081円
え?クレジット残高、まだ数万ドルあるはずだよね?なんでカードから引かれてるの?
慌てて確認したところ、そこには 「AzureのUXの罠」と「Marketplace製品の仕様」 という、スタートアップ殺しの落とし穴がありました。
本記事は、同じ悲劇を繰り返さないための 「Azure上でClaude(Anthropic)を使う際の注意喚起」 と、現在進行系で行っているマイクロソフト・サポートとのバトルの記録です。
結論から言うと
- Azure for Startupsのクレジットは、「Marketplace経由のMaaS(Claudeなど)」には適用されない。
- Azure OpenAI Service(GPT-4など)は適用されるため、混同しやすい。
- 管理画面(Cost Management)では「クレジット適用外」であることが非常に分かりづらく、請求が来るまで気づけない。
- サポートに問い合わせても「仕様です」の一点張りで、全額返金は絶望的(現在係争中)。
何が起きたのか
1. Claude 3 Opus / 3.5 Sonnetを利用開始
Azure上で「Claude 3 Opus」や「Claude 3.5 Sonnet」が利用可能になったため、早速検証環境にデプロイしました。
Azure OpenAI Serviceと同様に、これもStartup特典のクレジット枠内で賄えるものと完全に思い込んでいました。
特にOpusは高単価ですが、クレジット枠があるからと強気で検証を進めていました。これが命取りでした。
2. 請求の不可視性(Invisibility)
これが今回の最大の問題点です。
利用中、Azureポータルの「サブスクリプション」画面や「コスト分析」を見ていましたが、クレジット残高は減っていませんでした。
「ああ、まだ無料枠(クレジット)の範囲内で収まっているんだな」
そう解釈していましたが、事実は逆でした。
「クレジットが適用されないため、残高は減らず、裏でカード請求額だけが積み上がっていた」 のです。
この仕様、あまりにもUIとして不親切すぎませんか…?
3. 突然の24万円請求
そして月初、クレジットカード会社からの通知で事態が発覚。
請求額:237,081円。
内訳を確認すると、案の定 Microsoft-G123xxxxx という謎の請求番号。
ポータルを掘り下げてようやく、これがAnthropic APIの利用料であることを突き止めました。
MSサポートとの戦い
ここからが本当の地獄でした。
Round 1: チケットが切れない
まず、課金サポートに問い合わせようとしましたが、Azureポータルの「サポートリクエスト」画面からチケットを作成しようとするとエラーが発生。
Startup特典が適用されているサブスクリプション特有の挙動なのか、フォームが機能しません。
仕方なく、X(旧Twitter)の公式サポートアカウント(@AzureSupport)にDMで突撃しました。
Round 2: 「仕様です」
サポート担当者(日本マイクロソフト)とのやり取りが始まりましたが、回答は非情なものでした。
弊社システムにて確認したところ、Anthropic Claude Sonnet プロダクトをご利用いただいていたことを確認しております。
大変恐縮ではございますが、当該プロダクトのご利用については Azure スポンサーシップの対象外であるため、請求自体は正しいものです。
つまり、「Azure OpenAI(GPT系)」はマイクロソフトのファーストパーティ製品だからクレジット対象だけど、「Claude(Anthropic)」は Marketplace経由のサードパーティ製品だから対象外 、ということのようです。
そんな重要なこと、デプロイ画面でデカデカと警告してくれ…。
Round 3: 謎の $21,001 と 1,000ドルの手切れ金
粘り強く交渉を続けたところ、2つの動きがありました。
謎の通知: 突然「Azure Sponsorshipを更新しました(上限$21,001)」というメールが届く。
→ 「おお!これで相殺してくれるのか!?」と期待しましたが、これは単にアカウント復旧に伴う特典枠の再表示であり、 今回のClaudeの支払いには1円も使えない枠 でした。ぬか喜びです。
特例措置: 「今回は意図しない請求だったことを考慮し、特例で 1,000 USD(約15万円) のクレジットを付与します」との提案。
…計算が合いません。
被害額は約24万円。補填は約15万円。
「差額の9万円は勉強代として自腹で払え」 ということです。
システムの不透明さが招いた事故なのに、なぜユーザーが身銭を切らなければならないのか。
Round 4: 「返金してほしければAnthropicに聞け」
「1,000ドルでは納得できない、全額返金か同等額の補填を」と返信したところ、最終的な回答がこれです。
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■ G123XXXX の対応について改めて当窓口で確認を行いましたところ、請求書番号 : G123XXXX にて発生している請求については Anthropic Claude の MarketPlace 製品であることを確認しております。
一方、今回の特典クレジットはスポンサー プランの特典クレジットとなっており、MarketPlace 製品には適用できない種類の特典クレジットでございます。
当窓口では、お客様のご利用が意図しないものであった点を関連部署へ共有し、相殺の可否について確認を進めておりましたが、MarketPlace 製品であることから相殺対象外である旨の回答を受けております。
しかしながら、関連部署にて特例対応として 1,000 USD のクレジット付与が行われた次第でございます。
今回のご利用につきましては、本来、相殺や補填の対象とはならないものであることをご理解賜れますと幸いです。
また、該当の MarketPlace 製品については、 サード パーティ製品の外部製品となり、Microsoft では請求書を代理で発行しているものでございます。
そのため、ご返金をご要望の場合は、Anthropic Claude の提供元の Anthropic 社へご相談いただけますようお願い申し上げます。
下記の公開情報にて MarketPlace 製品については、クレジットの除外であることの記載がございますため、併せてご確認いただけますようお願いいたします。
<公開情報>
Title : Azure スポンサー プラン | Microsoft Azure
URL : https://azure.microsoft.com/ja-jp/pricing/offers/ms-azr-0036p/
本メールでのご案内は以上でございます。
上記につきまして、ご確認のほど何卒よろしくお願いいたします。
以下が公開情報のスクリーンショットなのですが、この一文に書いてあるから記載していたでしょ?と主張してきました。
さらに、Microsoft Azureというプラットフォームを使っていたのに、金銭トラブルの解決はベンダーに直接英語で交渉しろと。
これが プラットフォーマーの対応として適切なのでしょうか。
教訓とまとめ
現在、マイクロソフトの指示通り、Anthropic社へ直接コンタクトを取る準備を進めています(正直、望みは薄いですが…)。
これからAzureでLLM開発をしようとしているスタートアップの皆さん、以下の点にだけは本当に気をつけてください。
- クレジット過信は禁物: 「Azure OpenAI」はOKでも、「MaaS(Models as a Service)」として提供されている Llama や Claude は クレジット対象外 の可能性が高いです。
- Marketplaceの罠: デプロイ時に「Publisher」を確認してください。「Microsoft」以外の場合、クレジットが効かない地雷原だと思ったほうがいいです。
- コストアラートの設定: クレジット消費だけでなく、「実際の支払額(Actual Cost)」に対してアラートを設定しないと、私のように死にます。
この24万円が、せめて誰かの財布を守るための尊い犠牲になることを祈って筆を置きます。
(もし進展があれば追記します)
追記:
もし同じような「Startup特典の罠」にハマった方がいれば、情報共有いただけると嬉しいです。集団で声を上げないと、このUI/UXは改善されない気がします。
