【おまけ2】音声合成(txt2speech)
講義目録:即戦力化 ディープラーニング実習
はじめに
本記事では、テキストを音声に変換するAI(音声合成、Text-to-Speech: TTS) を体験します。
テキストから音声を自動生成するTTS技術は、近年大きく進化しており、
ナビゲーション音声、アナウンサーの代替、ボイスアシスタント(Siri, Alexa等)など、実生活でも広く使われるようになってきました。
今回も、Hugging Faceで公開されている音声合成モデルを使って、
日本語の文章を読み上げる実習を行います。
Google Colab上で動かすことで、環境構築の負担なく実行できます。
特に、AIに「自分の書いたテキスト」を読ませるという体験は、深層学習の理解を楽しく直感的にしてくれるはずです。
Google Colabへのリンク
実習の目的
- 日本語の音声合成モデルをGoogle Colabで動かす
- テキストを自然な音声に変換するTTSモデルの使い方を学ぶ
- 生成された音声ファイル(WAV形式)をColab上で再生する
- 音声合成AIの仕組みと応用可能性に触れる
実習のコード(音声合成:日本語)
それでは、テキストを音声に変換し、WAVファイルとして再生する実習を行いましょう。
google colab で動くコードは次の通りです。
# 1. 音声合成用ライブラリのインストール
!pip install -q --force-reinstall git+https://github.com/myshell-ai/MeloTTS.git
!python -m unidic download
google colab の場合、いったんセッションの再起動をし、上記セル(コード)を再実行してください。
再起動しないと、次のセルでエラーが発生してしまいます。
from melo.api import TTS
from IPython.display import Audio
tts = TTS(language="JP", device="auto") # 初回のみ重みDL
wav = "japanese.wav"
tts.tts_to_file("おはようございます。今日は良い天気ですね。", tts.hps.data.spk2id["JP"], wav)
Audio(wav)
✅ 実行結果
上記のコードを実行すると、指定したテキストが読み上げられた音声が再生されます。
生成された音声は output 変数にWAV形式で保存されており、Colab上で直接再生が可能です。
それにしても、なんというか……。日本人離れした日本語発音ですよね。
このあたりはもっと新しく、規模の大きいモデルを使えばよくなります。
注意事項
音声の出力にはGPUがあると高速ですが、CPUでも動作可能です。
音声が再生されない場合は、Runtime > Restart and run all を試してください。
実習のコード(音声合成:英語)
日本語の次は、英語の音声合成(Text-to-Speech, TTS)を体験しましょう。
アメリカ英語(US)とインド英語(India)の両方で同じ文章を読み上げて、発音や抑揚の違いを観察します。
まず、必要なライブラリをインストールし、モデルを読み込みます。
!pip install -q --upgrade nltk
import ssl, nltk
ssl._create_default_https_context = ssl._create_unverified_context # ← Colab 用
nltk.download("punkt") # 文分割モデル
nltk.download("averaged_perceptron_tagger_eng") # 品詞タガー(英語用)
english_model = TTS(language="EN", device="auto") # ← ここを EN
2. 英語を米国アクセントで音声合成
続いて、米国アクセントを指定して、音声合成を行います。
発音する文は、Good morning! How are you today? にしました。
text = "Good morning! How are you today?"
spk_us = english_model.hps.data.spk2id["EN-US"] # ← American
wav = "en_us.wav"
english_model.tts_to_file(text, spk_us, wav)
Audio(wav)
聞き取れましたか?
では、米国英語とインド英語との違いを体験してみましょう。
spk_india = english_model.hps.data.spk2id["EN_INDIA"]
wav = "en_india.wav"
english_model.tts_to_file(text, spk_india, wav)
Audio(wav)
実習結果の比較
-
同じ文でも、話者のアクセント(US vs India)やイントネーションが異なりますね。ディープラーニングの実習だけではなく、英語の知識まで増えました。やったね!
-
実社会では、地域や文化に応じた発話スタイルが求められる場面があり、TTSモデルはそれに対応可能です。
補足:音声合成AIの仕組みと応用可能性
音声合成(Text-to-Speech, TTS)は、文字列(テキスト)を自然な音声に変換する技術です。
その裏では、深層学習を用いた複数のモデルが連携し、人間らしい発話を実現しています。
🔧 音声合成AIの仕組み(典型的な3段階)
TTSシステムは、以下のような段階で動作します:
1. テキスト前処理(Text Analysis)
- 入力された文を単語や音素に分解(トークン化)
- アクセント、イントネーション、ポーズなどを文法から推定
- 多くのTTSモデルは、音素表記(phoneme) という発音記号に変換して処理します
2. 音響特徴量の生成(Acoustic Modeling)
- テキストの特徴から、メルスペクトログラムなどの音響表現を生成
- Tacotron, FastSpeechなどのモデルが使われます
- 感情・話者のスタイル(速さ・高低)もこの段階で学習可能
3. 音声波形の生成(Vocoder)
- 音響特徴量を、実際の音(波形)に変換する
- WaveNet, HiFi-GAN, VocGAN などの「ボコーダ(vocoder)」と呼ばれるモデルを使用
例:今回使用した
facebook/mms-tts-jpn
やTTS(language="EN")
も、この流れを内部で処理しています。
🧠 最近のTTSモデルの進化
近年のTTSは、以下のような特徴を備えています:
- マルチスピーカ対応:話者ごとの音声を1つのモデルで切り替え可能(例:US英語、インド英語など)
- エンドツーエンド化:テキスト→音声までを一つの深層モデルで完結(例:VITS)
- 感情・スタイル制御:怒り・悲しみ・喜びなどの感情表現も可能に
- 多言語モデル:1つのモデルで多数の言語をカバー(例:MetaのMMS)
🔊 音声合成AIの応用可能性
TTSは多くの実社会タスクに応用され始めています。
分野 | 応用例 |
---|---|
教育 | 読み上げ教材、英語リスニング練習、読み聞かせアプリ |
アシスタント系 | Siri、Alexa、Google Assistant などの会話応答 |
医療 | 音声合成による患者案内、高齢者向けの読み上げ支援 |
バリアフリー | 視覚障がい者への情報提示、駅の自動音声案内 |
ゲーム・メディア | キャラクターボイス、ナレーション、YouTubeナビ音声、自動動画生成BGM |
法律・契約文書 | 長文ドキュメントの読み上げによる内容確認(監査・読み聞かせ用途) |
🔭 今後の展望
- 感情合成:話し方や気分を指定して表現の幅を広げる
- ゼロショット話者合成:声のサンプル1つで誰でも再現(音声クローン)
- リアルタイム生成:ストリーミング処理による会話AIの即時音声応答
音声合成AIは、「テキスト情報を声で伝える」という点で、
人とAIのインタフェースとして極めて重要な役割を担い始めています。
🔭 次回予告:
次回【第7週】からは、CNN編へと突入です。
主に自然言語を扱うRNNから、主に画像を扱うCNNの実習を行います。