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【電通大生が考察】『チューリングラブ』を計算機科学で読み解くと、なぜ「オートマトンラブ」ではダメなのか分かった話

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こんにちは。
電気通信大学で情報系の分野を学びつつ、MMAに所属している take37 です。

ナナヲアカリ『チューリングラブ feat.Sou』は、
歌詞の中に理系で出てくる用語数学者の名前が実名で登場する、かなり珍しい楽曲です。

実はこの『チューリングラブ』という楽曲、
電気通信大学の文化祭「調布祭」に本人がゲストで来てライブをしてくれた
という超エモい瞬間がありました。

2025年11月、調布祭(文化祭)で電通大の講堂に ナナヲアカリさん が登場し、
『ワンルームシュガーライフ』や『チューリングラブ feat.Sou』を
ライブで披露してくれたのです。
私もこの公演に参加して当日はとても楽しかったです。電通大の講堂で実際に聞けたことに深く感動しました。「ムリムリ進化論」もよかったですね。後日「わたなれ」の映画も見に行きました~最高でした!

調布祭のナナヲアカリさんのリンク

そこでこの記事では『チューリングラブ』を、

「恋をなんとか理屈で解こうとして、
そのたびに計算モデルを乗り換えていく物語」

として、ちょっと本気で読んでみます。(正規言語でない事を証明し、最適化を目指す物語として読みます)

目次


0.1番の歌詞 恋を「問題」として定義しようとする

曲の冒頭は、完全に混乱状態から始まります。

あー、恋の定義がわかんない
客観? 主観? エビデンスプリーズ!

ここでやっているのは、
問題設定(Problem Definition)

Q(問い)が定まらないから、
A(答え)も出せない。

それでも、

愛は計算じゃ解けない  
もう大抵の事象において QがあってAを出して解けるのに

と言っているあたり、
「普段は計算によって問題解決できている人」なのが分かります。

たとえば、自販機のように、お金を入れたら商品が出るシステムは「普通の計算」によって作ることができます(論理回路設計)。

主人公たちは恐らく情報系(理系)でこれまでにこのような設計(論理回路設計)を沢山してきたのでしょう。

しかし、「恋」を取り扱おうとしたとき問題が生じます。

まず、普通の計算も解けない
要は、そんな状態が愛らしい

これらの歌詞はその中で壁にぶつかったことを示しています。


1. 有限オートマトン的に処理しようとして失敗する

まず彼らが試みたのは、
かなり素朴なアプローチです。

今123で証そうか
今はABCすらバグりそうだ

順番に数える。
文字列として分解する。

これは完全に
「ルールを決めて順番に処理する」タイプの発想の発想です。(※大学でいうと形式言語理論あたりのもの)

dfa1(1).png
図1:文字列を入力し、受理状態に到達すれば「恋」と判定できるはずだった理想的な有限オートマトンのイメージ

このようなスタートから文字列を入力して正しく受理されるような有限オートマトンを設計したかったはずです。

しかし、すぐに破綻します。

測ったって不確定性
勘違って間違って解のないこの気持ちはなんだろう

状態は有限なのに、
感情の振る舞いが安定しない。

dfa1(2).png

図2:恋を有限オートマトンとして設計しようとした結果。
実線は定義できた遷移、点線は「こうなってほしいが定義できなかった」仮説的遷移

いざ設計してみると上の図のようになってしまったのではないでしょうか?

ここで直感的に気づくのが、

「これ、有限個の状態だけで判定できる気がしないぞ?」(有限オートマトン作れないのでは?)

という違和感です。
ここから有限オートマトンが作れないことを証明しにいきます。


2. 「なんでか教えてオイラー」――構造を見抜いた瞬間

最初に名前が呼ばれる数学者は オイラー

なんでか教えてオイラー

オイラーは、
グラフ閉路といった「構造」を見抜く人です。
(グラフ理論という分野に大きな足跡を残しました)

ここで主人公たちが直面している状況を整理すると、

  • 状態の種類は限られている
  • でも時間(入力)はいくらでも続く
  • 同じ状態に何度も戻ってきてしまう

というものです。

これは感情の話というより、
有限オートマトンというモデルの構造そのものの問題です。

有限個の状態しか持てない有限オートマトンに、
十分長い入力を与えれば、
必ず同じ状態を2回以上通ることになります。
つまり、どこかにループ(閉路)が生まれる

歌詞にある

何度空回ったってぶつかっちゃったって

は、
状態遷移図の中で同じノードをぐるぐる回っている様子と
そのまま重なります。

しかし繰り返しても同じ状態にはなりません。

何度空回ったってぶつかっちゃった
測ったって不確定性
バグりそう

と、同じところを回っているはずなのに、
結果が安定しない。

ここで初めて、
「これは感情の問題ではなく、モデルの限界だ」
と気づいたのではないでしょうか。

オイラーに「なんでか教えて」と聞いているのは、
「ループしているのに、なぜ計算が合わない構造になるか?」 という、モデルと現実の矛盾への問いかけだったのです。


3. 「感想きかせてフェルマー」――証明完了、そして「お気持ち」へ

次に呼ばれるのが フェルマー

感想きかせてフェルマー

オイラーの段階で、すでに「上手くいかないループ構造(閉路)」を見つけました。

この地点で 

「私が有限オートマトンを作れるわけないじゃん、ムリムリ!」

となっています。すなわち、作れないタイプの有限オートマトンだったのです。

だからこそ、次に呼ぶフェルマーには「証明」ではなく、
あえてこう聞いたのではないでしょうか。

感想きかせて

フェルマーといえば、

「真なる証明を見つけたが、余白が狭すぎて書けない」

という逸話で知られる数学者です。

彼が象徴しているのは、
証明は書けなくても、真理には確信がある
という状態です。

そこで、
フェルマーに求めたのは、厳密な数式の記述ではなく、
「やっぱり無理だったね」「解なしってことだね」という、答え合わせ(直感の共有)です。

理屈で解こうとしたけれど、
構造的に無理なことがわかってしまった。

その事実は、
残念なのか、
それとも「定義できないものだと分かって」むしろ安心したのか。

そんなふうに、
証明を終えたあとの「お気持ち」を確認しあうフェーズ
だったからこそ、直後にこの言葉が続くのです。

シンプルな Q.E.D.(証明完了)

それは、
厳密な数式を書き切ったという意味ではなく、

「これ、有限オートマトンでやろうとするのが間違いだったね」

という結論に、
全員が納得してしまった、という合図です。

だからこその "Simple" な Q.E.D. なのです。

実際、
「有限オートマトンでは表現できないこと」を示す方法は存在します。(厳密な証明は学部2年生で**Pumping Lemma(反復補題)**という形で登場します)


ここまで(1番まで)のまとめ:何が分かって、何が分からなかったのか

ここまでの1番で、主人公たちはかなり真面目に考えました。

  • 恋を「入力」として受け取り
  • 状態を遷移させ
  • 最後に「YES / NO」を出す

そんな 有限オートマトン的なモデルを作ろうとしたのです。

けれど実際に設計してみると、

  • 状態は有限なのに
  • 振る舞いは安定せず
  • 同じところを何度回っても答えが定まらない

という問題にぶつかります。

オイラーによって
「ループがうまくいかない」という 構造的な原因 が見え、

フェルマーによって
「これは証明以前に、モデル選びが間違っている」
という 直感的な結論 に至りました。

つまり1番の時点で分かったのは、

この恋は、有限オートマトンでは扱えない

ということ。

ただし、

では、どうすればいいのか?

という問いには、まだ答えが出ていません。

その「次の一手」を探しにいくところから、
歌詞は2番へと進みます。

4. 2番の歌詞 ASAP:論理的証明のタイムアウト

その後歌詞は2番に移ります。

目に視えない 無理難題を
ASAP!

これは「急げ」ではなく、

このままだと終わらない

という警告です。

論理的に証明しようとすると、
計算が止まらない。

ここで彼らは、
アプローチを変える決断をします。


5. 最適解へ:最適化としての恋

後半で突然出てくるこのフレーズ。

導き出したい たどり着きたい
最適解へ

1番では「定義」や「基準」にこだわっていましたが、それらが通用しないことは先ほどのQ.E.D.(有限オートマトンの設計不能)で明らかになりました。
ここからは、
証明ではなく最適化の世界です。

20130614111139.png

図:局所解(Local Optimum)と大域解(Global Optimum)の違い
出典:simulated annealing (焼きなまし法) の概要 - zellij's note

図3:局所最適解にハマりながらも、大域的最適解を探索する最適化のイメージ(焼きなまし法)

そこで、図のような最適解を探索する方向に舵をきったのではないでしょうか。

  • 更新する
  • 近づく
  • 収束するかもしれない

だから2番最後の 「シンプルな Q.E.D.」 は、

数学的証明完了

ではなく、

工学的に「まあ安定した」

という意味になります。


6. ピタゴラスの失敗――単純すぎたモデル

次に名前が出るのが ピタゴラス

確かめさせてピタゴラス

歌詞にはこうあります。

3次元における2点AB間の距離を求めよ
的な感じだと思ってたのに

これは、

  • 距離
  • 直線
  • ユークリッド空間

という、単純で分かりやすいモデルへの期待です。

pc2-pi.png

図4:ピタゴラスが想定した、距離が一意に定まる平らな空間(ユークリッド幾何)

しかし現実は、

座標も公式も見当たらない

つまり、
恋の空間は平らではなかった。

pic2-ri.png
図5:距離や直線の概念が単純でなくなる、曲がった空間(リーマン幾何)


7. 「確かにさせてリーマン」――空間が歪んでいると気づく

最後に呼ばれるのが リーマン

確かにさせてリーマン

リーマンは、
**曲がった空間(リーマン幾何学)**の人です。

彼が出てきたということは、

この恋は
単純なユークリッド空間では表現できない

という宣言。

ここで世界は、

  • 多様体
  • 高次元
  • 非線形

へと拡張されます。

これはそのまま、
機械学習や最適化の世界観です。


8. なぜタイトルは「チューリングラブ」なのか

ここでようやく、
チューリングが意味を持ちます。

チューリングマシンは有限オートマトンを強化したものです。

チューリングマシンには、
有名な性質があります。

停止するかどうかを判定できない計算が存在する

つまり、

  • 終わるかもしれない
  • 終わらないかもしれない
  • それは誰にも分からない

恋そのものです。

有限オートマトンなら、必ず処理は終わります(そういう定義だから)。
でもチューリングマシンでは、終わるかどうか自体が分からない。

だからこの恋は、
「必ず答えが出る恋」ではなかった。

だからこの曲は、

『チューリングラブ』

だったのです。

判定をしたかったのではなくて、状態の遷移が永遠に続くことを望んでいたのかもしれないですね。


結論

この楽曲は、

恋を解こうとして
「まずは単純なモデルで説明できないか?」と考え、
うまくいかない理由を構造から理解し、
証明を諦めて直感を共有し、
それでも前に進むために最適化へ舵を切り、
最後には「止まるかどうか分からない計算」として受け入れる

そんな 計算モデルを乗り換えながら成熟していく思考の物語 でした。

だからこれは、
「恋が分からない話」ではなく、

分からないものと、どう向き合うかを学ぶ話

だったのです。

歌詞に出てくる数学者たちは、
そのときの思考を体現したものでした。

なお、
これを有限オートマトンで解こうとした時点で無理なのは、
電通大ではちゃんと習います。

そのときまたこの曲を聴くと、
たぶん今より少し笑えるはずです。


おわりに

電気通信大学では、

  • 数学
  • 情報
  • 計算機

を使って、
世界をこんなふうに読み替えることを学びます。

この考察は、
その延長線上にある「真面目な悪ふざけ」です。

今は分からなくても大丈夫です。
数年後に読み返すと、

「あ、これ全部習ったやつだ」

となるはずです。

そんな大学生活、
ちょっと楽しそうだと思いませんか?

電通大には、
こういうことを本気で考えて、
本気で楽しんでいる人たちがいます。

※ 私が所属するMMAではだいたいこんなノリで活動しています。
詳しくはこちらまで!!

付録A:数年後に全部つながる対応表(未来のあなたへ)

この記事に出てきた話は、
電通大ではだいたいこんな感じで登場します。

歌詞・考察 大学での対応
123 / ABC 離散数学・形式言語理論・鳩ノ巣原理
論理回路 論理回路設計
有限オートマトンっぽくない 正規言語
ループ・構造 グラフ理論(離散数学)
証明できないが確信がある 最適化
最適解へ 最適化・機械学習
止まらない計算 計算理論・停止性問題

※ 学部2~3年くらいで全部出てきます(どのときに聞くかで印象が変わるかもですね)。

付録B:この記事が面白かった人へ(おすすめ読み物)

※ 今は分からなくてもOKです。

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