株式会社ブレインパッドプロダクトユニットでRtoaster GenAIの開発をしている依田です。
今回はGoogle Cloudの認定資格を取得した実体験について記してまいります。
はじめに
「Google Cloudの資格を取りたいけど、実務経験がないから不安...」
「IT資格を取ったことがないから、どう勉強すればいいかわからない...」
この記事は、そんな不安を抱えている方に向けて書きました。
私自身、Google Cloudの業務経験はゼロ、有償のIT系資格も未取得でしたが、2ヶ月の学習でAssociate Cloud Engineer(以下、ACE)に合格できました。総学習時間は50〜60時間程度です。
この記事では、実際に使用した教材、効果的だった勉強法、つまずいたポイントとその乗り越え方を、できるだけ詳しく紹介します。
同じような状況にあるエンジニアの方が、「自分にもできそう」と感じ、第一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
本記事は筆者の個人的な受験体験を記載したものです。試験内容は時期により変更される可能性があります。
筆者のスペック・バックグラウンド
読者の皆さんが「自分にもできそう」と感じていただけるよう、私のバックグラウンドを可能な限り詳しく記載します。
| 経験年数 | 15年 |
|---|---|
| キャリアパス | Oracle EBSのアドオン開発からスタートし、グローバル企業の基幹システム開発に携わるSIerとして勤務 現職では自社プロダクトの開発に従事 |
| 経験工程 | 要件定義からシステムテスト、負荷テストやセキュリティ脆弱性テスト、運用保守まで一通り経験 |
| 技術領域 | PL/SQL, Java, JavaScript, PHP, C#, Perlなど 開発言語やフレームワークの選定・決定に関与した経験あり |
| 得意分野 | Webアプリケーション開発、RDBMS(特にOracle Database) |
| 苦手分野 | インフラ関連の経験は少なく、RHELの運用保守に関与した程度 IaaSなどの選定や環境構築を直接(業務として)経験したことはありません |
| Google Cloud使用経験 |
業務経験はゼロ ただし、転職期間中の自主学習でBigQueryのDDL/DML実行、App EngineへのPython(Flask)アプリケーションのデプロイを経験 |
| 保有資格 | 有償のIT系資格は取得経験なし Oracle Cloud Infrastructure 2023 Certified Foundations Associateを無償期間中に取得 |
Associate Cloud Engineer(ACE)とは
Associate Cloud Engineerは、Google Cloudの認定資格の一つで、Google Cloudを使用したアプリケーションのデプロイ、運用、管理に関する基礎的な能力を証明する資格です。
公式サイト:Associate Cloud Engineer
試験は50〜60問程度の選択式問題で、試験時間は2時間です。テストセンターまたはオンライン監督付き試験で受験でき、合格ラインは非公開(スコアベース)となっています。
資格の位置付け
Google Cloudでソリューションを作っていく際の、基礎中の基礎という位置づけです。Webアプリケーション開発の経験がある方であれば、Cloud Digital Leader(Google Cloudの入門レベル資格)をスキップしてACEからスタートするとちょうど良いレベル感だと思います。
クラウドサービスの基本(IaaS、PaaS、SaaS)、サービスをクラウドネイティブにすることのメリット・デメリット、水平スケールと垂直スケールといった概念を説明できる程度の知識があると、学習がスムーズに進みます。
これらに馴染みがなければ、Digital Leaderから始めるのがおすすめです。
受験の動機と学習期間
ACEの受験を決めた理由は以下の3つです。
- 現職でGoogle Cloudを利用しており、業務で必要になったため
- 現職に資格取得や学習に対する非常に大きな支援制度があること
- モダンなシステム開発においてパブリッククラウドの理解が必須であること
学習期間は2ヶ月で計画し、実際もその通り2ヶ月で合格できました。学習時間は、平日は0〜30分程度、休日は0〜4時間程度でした。概算で総学習時間は50〜60時間程度だったと思います。
実際のところ、毎日勉強できたわけではありません。週によっては全く勉強しない日もありました。しかし、少なくとも週に1日は4時間以上勉強できるよう心がけていました。
学習で使用した教材など
学習と模擬試験には、書籍とUdemy、Google公式のコンテンツを使いました。
書籍
合格対策 Google Cloud認定資格Associate Cloud Engineer
この書籍は試験対策として非常に役立ちました。特に巻末問題が本番試験に近い形式・難易度で多数収録されており、実戦的な演習ができます。
唯一残念だった点は、巻末問題の答えと説明のページが紐付けされていないため、間違えた問題が書籍内の何ページに記載されているかわかりにくかったことです。
Udemy
模擬試験問題集(5回分、250問前後)を購入しました。
短期間で効率的に合格を目指す方は、前述した書籍だけで十分なので、必須ではありません。
公式教材
Google Skills(旧Skill Boost)の「Cloud Engineer 学習プログラム」
公式の学習プログラムで、無料で利用できます。特に以下のコース、コンテンツは必ず履修しておくことをおすすめします。
- 重要な Google Cloud インフラストラクチャ: 基礎
- Associate Cloud Engineer の取得に向けた準備
- Associate Cloud Engineer 模擬試験
Google Cloud の無料枠を利用したハンズオンは実施せず、Google Skills のラボのみを利用しました。
学習時間の確保
平日はフレックス勤務を最大限活用し、ラッシュ時間帯を避けて通勤することで、電車内で書籍を読む時間を確保しました。
休日は家族の協力を得て、午後を勉強時間に充てました。ただし、毎日を勉強に費やすのではなく、趣味に時間を使う日は全く勉強しないなど、メリハリをつけていました。
週に1日は4時間以上勉強できるよう心がけていましたが、できない週もありました。無理をしすぎず、継続することを重視しました。
学習の進め方
私の学習は、大きく3つのフェーズに分けて進めました。
フェーズ1:基礎固め
Google Skillsの「Cloud Engineer 学習プログラム」を進めながら、書籍も並行して読み込みました。
Google Skillsでは「重要な Google Cloud インフラストラクチャ: 基礎」と「Associate Cloud Engineer の取得に向けた準備」を一通り履修し、書籍も最後まで読み通しました。
Google Skillsには資格取得に直接関係しないテーマのコースもありましたが、私の場合は実務で役立つ知識の習得も目的だったため、気にせず学習を進めました。資格だけを取りたいという方は、「ラボ」はスキップしても良いかもしれません。
余談ですが、私のOracle Database経験は、AlloyDBやCloud SQL、Spannerの差異を理解する際に多少役立ちましたが、大きなアドバンテージには感じられませんでした。
フェーズ2:弱点特定→集中学習
公式の模擬試験とUdemyの問題集を解き、自分の苦手なカテゴリを明確にしました。
私の場合、ネットワーク(VPCネットワーキング、Cloud NAT、IPアドレスなど)とKubernetes(K8s)が苦手であることが判明しました。
苦手分野が明確になったら、Google Skillsと書籍を使ってその部分を集中的に学習しました。このサイクルを、模擬試験(公式1回分とUdemy5回分)を使って繰り返しました。
フェーズ3:直前対策(最終週)
試験前の最終週は、公式の模擬試験と書籍の巻末問題集を繰り返し解きました。
苦手分野の乗り越え方
私の場合、VPCネットワーキング、Cloud NAT、IPアドレスといったネットワーク関連の問題は特に苦戦しました。インフラ経験が少なかったことが影響していたと思います。
また、実務での経験が全くなかったため、GKE(Google Kubernetes Engine)関連の問題も難しく感じ、Terraformに関することも経験がなかったため理解に時間がかかりました。
乗り越え方
苦手分野が明確になったら、Google Skillsの「Cloud Engineer 学習プログラム」から、その分野に関連するコース、レッスン、ラボを抜粋して集中的に学習しました。
書籍も該当箇所を重点的に読み込み、理解を深めました。
また、苦手分野は放置せず、模擬試験で間違えた問題は必ず復習しました。なぜ間違えたのかを理解するまで繰り返すことで、少しずつ克服できました。
試験当日
私はテストセンターで受験しました。
渋谷のテストセンターを選択しましたが、当初は秋葉原で受験しようと思っていたものの、希望する日に受験枠がなかったため、変更した経緯があります。
テストセンターでは、スマホや時計など全ての持ち物をロッカーに収納してから着席します。荷物は可能な限り少なくして会場に行くことをおすすめします。
テストセンターによって、受験可能な日が少ないところもあります。受験を決めた場合、可能な限り早めに予約することをおすすめします。
時間配分
試験時間は2時間ですが、私の場合は約1時間で全問回答、20分で見直しを行い、40分程度余りました。時間には余裕を持って回答できます。
試験には回答に目印をつける機能があり、自信のない問題を後回しにして効率的に進められます。
時間配分を重視していた私にとって、この機能は非常に便利でした。
試験の難易度と所感
私が感じた難易度順は以下の通りです。
Udemy模擬試験 > 実際の試験 = 書籍模擬試験 = 公式模擬試験
Udemyの模擬試験は本番より難しめでしたが、それで練習しておくと本番が楽に感じられます。内容としては、概ね想定通りの難易度でした。書籍の巻末問題をしっかり解けるようになっていれば、問題なく合格できるレベルです。
OCI Foundations Associateとの比較
私が以前取得したOracle Cloud Infrastructure Foundations Associateと比較すると、2023年時点ではOCIにそこまで多くのクラウドサービスがなかったこともあり、ACEの方が幅広く、難易度は高めに感じました。
一方で、IAM(Identity and Access Management)の考え方はOCIとほとんど変わらないため、その点はACE受験で役立ちました。
資格未取得エンジニアにとっての難易度
IPアドレスの基礎知識や仮想コンテナ技術の知識が多少求められるため、若干のハードルはあります。しかし、趣味の範疇でDockerを使ったり、Webサーバを構築した経験があれば、実務経験がなくても超えられるレベルです。
私にとっては、最初の有償資格としてちょうど良いハードルでした。
合否の通知
試験提出直後に画面上で仮の合否が表示されます。画面上ではあまり大きく表示されず目立たないので、注視しないと見逃してしまいそうだったと記憶しています。
また、この時点の結果はあくまで仮であり、正式な合否は試験中に不審な動き(カンニングが疑われるような行為)がなかったか審査された上で、別途メールで送られてきます。
私の場合は2営業日程度でメールが届きました。
教材の評価
各教材の重要度を3段階(★★★:必須、★★☆:推奨、★☆☆:任意)で評価しました。
| 教材 | 評価 | コメント |
|---|---|---|
| 書籍 | ★★★ | 巻末問題が本番と酷似。必須の一冊 |
| Udemy | ★☆☆ | 本番より難易度高め。練習に最適だが、mustではない |
| Google Skills | ★★☆ | 実務で使える知識が身につく |
| 公式模擬試験 | ★★☆ | 本番と同レベル。問題数は少なめ |
まとめ
ACEはあくまで初級レベルの資格です。実運用や実際にサービスを作り上げる水準の知識にはさらなる追求が必要だと感じています。この資格を足がかりに、次のステップの資格取得を目指す必要があると思います。
しかし、基本的なクラウドサービスにどのようなものがあるか理解できたことで、Google Cloudを使ったサービスに携わる際、開発者間の会話がスムーズにできるようになれたと感じます。これは大きな収穫でした。
資格未取得のエンジニアへ
1.私と同じような立場の方へ
学んだことが資格という形で結果になった点は、大きな達成感がありました。私のように過去に資格を取ったことのない方ならば、資格取得に挑戦してみることを強くおすすめします。
2.資格取得に踏み出せないという方へ
結果以上に、学習した事実の方がより重要だと感じています。
Google Skillsには、学習を継続させようとする仕組みや、たくさんのコースを学びたくなるような仕掛けがあります。資格取得に踏み出す前に、まずはGoogle Skillsを遊びの気持ちで取り組んでみるのも良いかもしれません。
3.受験前に不安を感じている方へ
私も試験対策が本当に十分なのか、ずっと不安でした。
その点に関しては、書籍の巻末問題をしっかり解けるようになっていれば全く問題ありません。不安のある方はぜひ書籍を購入することをおすすめします。
最後に
この記事が、ACE受験を検討している方の参考になれば幸いです。皆さんの合格を心から応援しています。