FDEとは
FDEとは顧客の現場に立って技術的な課題からビジネス戦略まで幅広くサポートするエンジニアのことです。Palantirが始めたモデルで、AI業界の新しい人材モデルとして話題となっています。
FDEには人材モデルとしての側面と、ビジネスモデルとしての側面があります。FDEを正しく認識するには、この両方の側面から把握する必要があります。
FDEのとらえ方
人材モデルとしてのFDE
人材モデルとしてとらえると、FDEは「コンサルタント」であり、「ソリューションアーキテクト」であり、「ソフトウェア開発者」でもあります。この3つの要素を全て兼ね備えているのがFDEだという人材定義になります。たとえばこのようなベン図で表現されたりします。https://newsletter.pragmaticengineer.com/p/forward-deployed-engineers
つまり、クライアントの現場(前線)に行き、コンサルタント的に業務を把握し、AIを活用したらどのように改善できるか、ビジネスがどう変わるかを検討します。そしてソリューションアーキテクト的にどのようなシステムであればよいか、ソリューションを組み合わせて、システムとして実現する像を描きます。さらにソフトウェア開発者として、POCレベルのソフトウェアをクイックに作り、具体的に見せることで、より業務に密接して効果があるシステムだったりツールを開発できる、というわけです。
Palantirは2000年代からアメリカで防衛産業やCIA/FBIなど向けのシステムをFDEを駆使して開発してきた企業です。直近ではイランへの空爆にPalantirのシステムが使われているとされています(AIモデルはAnthropicだったのが話題になりましたが)。
ビジネスモデルとしてのFDE
PalantirのFDEは単に人材を定義しただけではなく、ビジネスモデルで見ても大きな特徴があります。それがあるためにFDEが現実的に稼働し、ビジネスとして成立する(=利益を生む)という構図があるのです。ビジネスモデルとしてのFDEの特徴をいくつか整理します。
カスタマイズ開発ではない
まず一つ目の重要な点は、FDEはクライアントごとのカスタマイズ開発とは違うということです。人材モデルとしてのFDEがやっていることは、それが一人でやるのではなく組織的にやっていると見れば日本のSI企業と大差なく見えます。顧客の要望を聞いてそこに向けたカスタム開発をするというのは典型的な日本のSIです。前線で全部やるわけではないですし、業務をどこまでつかんでシステムに落とすかはレベルの違いは個々にあるでしょうが、遠目にみれば同じように見えなくもないです。
ですがFDEがカスタマイズSIと決定的に違うのは、FDEは会社としてプロダクトを持っており、FDEが把握してきた要件をプロダクトに反映させるということです。そしてプロダクトをさらに横展開していくのです。あくまでプロダクトを強化して、プロダクトとしての価値を高めることが目的です。カスタマイズ開発はある意味楽です。要望・要件に応じて作ってしまえばよいからです。一品ものを作るというのは実は簡単で、その顧客のその要件を満たせばよく、少しでもずれたらそれは想定していませんでした、で逃げることができます。プロダクトではそうはいきません。要件をもう一段抽象化し、いろいろなパターンを想定し、どういう実装が汎用的かを考える必要があります。私はプロダクト開発、OSS開発とSIを両方やってきたので、その違いが大きいとよくわかります。
人月ではなく、成果報酬
FDEの人材モデルを実行できる人材というのはとても貴重です。つまり価値が高い、ということは報酬もですし、「人月」のモデルであれば、顧客に提供する単価が高くなります。ということはFDEを頼む顧客は当然高い費用を払わなければならないということになり、まだ結果が出るかわからないFDEに高額のコミットをしないとなりません。このハードルをクリアするのが成果報酬です。成果報酬とは文字通り成果に応じて報酬をもらうというモデルです。成果報酬は以前からコンサル界隈では話がありますがなかなか難しく普及しません。原因として以下のような課題がよく挙がります。
- 成果が定量化できるものでないといけない。例えば新規顧客が何件増えた、不良率が何%減った、利益率が何%改善した、など定量化できるものがないといけない
- プロジェクトと成果の因果関係が明確でなければならない。このプロジェクトがあったからこの成果が出たというのが言えないと成果を主張しづらい
- プロジェクト以外の要因に左右されるリスクがある。たとえばプロジェクトはよくやったのに、市場全体が落ちて目標を達成できなかった、自然災害や戦争の影響を受けた、など
総じて成果報酬モデルは、供給側からすれば、成果が出ずタダ働きになるリスクがあります。仮に成果報酬にすれば人月よりもはるかに大きな報酬を得られる可能性があったとしても、手堅く人月にしてリスクをとらないほうを選びたくなってしまうのです。
ですがFDE(少なくともPalantir)は成果報酬で契約をします。定量化できる成果を定義し、必ず成功させる、というのが彼らの考え方ですし、そのためのハイレベルな人材をそろえ、高い報酬と高い成功率を実現しています。クライアントにとってもそのような人材が初期投資なしで問題解決にあたってくれるのですから、ありがたいでしょう。
その企業の最重要な課題を狙う
新しい技術の採用にはリスクがありますし、AIのようにこれまでのやり方が変わる可能性のある技術に対しては、まずは小さな課題からやろう、という考え方は根強くあります。"Think Big, Act Small"(構想は大きく持ち、ただし活動は小さく始める)という言葉もあります。リスクをコントロールできる(失敗しても痛くないともいう)範囲でPOCをやりましょう、というのは提案としても通りやすいため、どうしても小さな課題でまずは様子見、というのは多くあります。あと日本だと現場レベルでの課題からやろうとする傾向があります。全てではないですが、現場の課題は小さな改善です。それを積み重ねるのが日本の強みだという面はありますが、経営へのインパクトは小さくなります。ですがFDEは成果報酬です。大きな課題で経営インパクトを与える大きな成果を狙いにいきます。Palantirは「CEOのトップ5の課題を狙え」と言っています。そのような大きな課題を狙うのには理由があります。まずは当然成果報酬が大きくなること、あとトップダウンマターとすることで、ミドル層やIT部門の制約を突破することです。新しい技術やシステムの採用に対しては既存部門が抵抗勢力となったり、リスクやセキュリティを盾に煩雑な手続きを要求してくることがよくあります。トップダウンで動くことで、その制約を突破しやすくなります。それが成果を出しやすくすることにつながるという考え方です。
The FDE Playbook for AI Startups with Bob McGrew
このYouTubeは元Palantirの幹部だったBob MacGrewがFDEについて語ったものです。知る限り、これが一番FDEとは何かについてクリアにわかると思います。
これをインフォグラフにしてみました。
まとめ
本稿ではFDEについて人材モデルとビジネスモデルの観点があることを説明しました。次回は日本においてFDEがどう現実的にありえるのかを考えてみたいと思います。

