統計物理でスケーリング仮説や臨界指数というのがよくでてくる。なんだろうか?
材料などの第一原理計算を考えるときには、臨界指数を問題にすることはあんまりなくて平均場近似的な臨界指数でだいたいは事足りるようにも思うし深入りすることもないと思われる。が以下に書いてることぐらいの理解はあったほうがいいかもしれない(というか私の理解が以下程度)。
昔はたぶんかなり流行っていて多数の研究がなされた分野である。
- そもそも自由エネルギー$F$は$\beta$($\beta=1/T$)の複素解析関数である、というのが大前提。複素数$\beta$の関数として考える。外場があれば外場の複素解析関数でもある。
- 有限系では、分配関数Zが解析的で零点を持つ。自由エネルギーは $F(\beta)=-\beta \ln Z(\beta)$ の形を取るため,$Z$がゼロでない点では解析的.有限系では零点は孤立点となるため$\ln Z$は零点を除く領域で解析的に定義できる。$\ln Z$のZ=0は特異点の一種である「分岐点」であることに注意する。すべてのエネルギーに対して e^{-βE} が正ならばZ(β)=Σ e^{-βE_i} は正の実数になり零にならない。したがって正の実軸上(β>0)に零点は現れない。それ以外のところで零点は現れうる($\beta$の領域を正の実数に限定せず複素関数として考える)。有限系での$F(\beta)$の特異点は$\ln Z$の$Z$に対する特異性(分岐点)を反映するものであり、たぶん分岐点的なものになる。有限系においても$Z(β)=\sum_i e^{-βE_i}$は無限和であるので注意する必要はあるが通常であれば指数関数によるカットオフが入った関数なのでそんなに変なものにはならない。これに関連してツェータ関数を分配関数とみなす、みたいな議論は古くからいろいろあるらしい。$\ln x$という関数の分岐点$x=0$が相転移の元凶である。あるいは分岐するからこそ相転移が起こる、と言える。
- 二次相転移などの議論では体積を無限大に持っていったときの均質な物質を考えている。その零点の集積の仕方が問題になる. 熱力学極限(無限系)で零点が実軸上に移動して$\ln Z$に特異点が生じることで初めて臨界挙動が出現する。たとえば強磁性体の$F(\beta)$なら$\beta=\beta_c$で分岐点となったりする。「有限系で体積$\to$無限大」に対して「$Z(\beta)$の零点の位置$\to \beta_c$」ということが必要である。有限系でも十分に大きけば、あたかも$\beta=\beta_c$で特異点があるように見える。有限系の平均場近似で観察してみると、有限系での$\ln Z$の特異点の集積がどういうメカニズムで実軸上に集積するかわかる(はず)。
- 強磁性の平均場近似では「$F(\beta,M)$を$M$の4次関数、ただし$\partial F(\beta,M)/\partial M=0$」として$F(\beta)$を扱う。これは初等的に解ける。しかし複素解析関数$F(\beta)$がどういう性質を持つのかを考えないといけない。この複素解析関数$F(\beta)$は、$\beta=\beta_c$という特異点をもつ。この特異点は3つ(対称性があれば2つ)に分岐する分岐点である、ということである。複素解析関数$F(\beta)$を考えないといけないーこの点が重要なのだが教科書などでもあまりきちんと強調されていないようにも思える。もし6次関数まで取れば、微分をとると5次方程式になるので5分岐になる。無限次になると無限分岐になる。
- 臨界指数などというときは、$F(\beta)$の$\beta=\beta_c$特異点の性質を問題にしている。数値計算においては、有限系のサイズを変えながら$F(\beta)$の変化を計算できる。有限系での計算なので数学的な意味で完全にその特異性を把握することはできないが、上述の集積の仕方は把握できる。それゆえ特異点の性質を例えば「特異点近傍での$F(\beta)$が$(\beta-\beta_c)^\gamma$として振る舞う」として仮定しておくならその$\gamma$を求めることができる、ということになる。
- 一般に言われる「スケーリング則を仮定して...」とは「$\beta_c$での特異点が$(\beta-\beta_c)^\gamma$と振る舞うとして」と同義である。この振る舞いは、「1.$\beta=\beta_c$が解析関数の特異点であること。2.物理的に自然なこと」でほぼ決まってしまうんだと思う。複雑な特異点(いくつものパラメータで指定される)はいろいろと想定しうるのだが一番カンタンで物理的に自然なものとして$(\beta-\beta_c)^\gamma$を考えましょう、ということである。平均場近似で$(\beta-\beta_c)^{1/2}$なら$(\beta-\beta_c)^\gamma$が一番単純で自然な拡張だろうということ。
- 密度汎関数法$E[n,\beta]$でも相転移などを問題にするときには、密度$n(\mathbf{r})$,スピン密度$\mathbf{S}(\mathbf{r})$,温度$\beta$の解析関数として考える。磁性があるときには複数のブランチがあらわれる。局所ミニマムなどを議論するときにもすこし意識したほうがいいかもしれない。