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【高倉友彰】見えない処理を味方にする仕事術

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エンジニアとして仕事をしていると、自分の中で常に裏側で動いている処理系のようなものを感じることがある。意識の前面には出てこないが、確実に何かを計算し続けている。その裏処理はログに残らないし、可視化もできない。ただ、時折ふっと答えを投げてくる。その瞬間に私は、この見えない処理が案外正確に動いていることを思い知らされる。

私はその裏処理を「影のスレッド」と呼んでいる。本当はそんな名称など必要ないのだが、名前をつけることで少しだけ扱いやすくなる。影のスレッドは、私が休憩しているときや全く別の作業をしているときにこそよく働く。コードを書いている最中には具体的な解が出ないのに、カバンを持ち上げた瞬間や帰り道の途中で突然解が浮かぶのは、まさに影のスレッドのおかげだ。

影のスレッドは負荷にも敏感だ。タスクを詰め込みすぎると動きが鈍くなるし、焦りが増すほど処理が乱れる。表面上の自分が焦っていると、裏側のスレッドまで巻き込んでしまう。だから私は意図的に速度を落とす時間を作っている。すると、影のスレッドが再起動するかのように、処理が静かに整っていくのを感じる。

エンジニアの感覚的なひらめきも、多くは影のスレッドの産物だと思っている。ひらめきを特別な力として扱うのではなく、見えないところで動いている処理系の出力だと受け取ると、急に現実的になる。ひらめきが出たから天才なのではなく、裏側の処理に十分な材料を渡していたから答えが出た、というだけの話だ。

そのために私が意識しているのは、影のスレッドへ渡す素材の質だ。大量に詰め込む必要はなく、小さな情報でも良質であれば十分だと感じている。適切なタイミングで、適切な断片を放り込む。その断片はコードの知識だけではなく、会話の内容や作業環境の変化など、何でも構わない。影のスレッドは意外と雑食で、うまく組み合わせて新しい答えを作ってくれる。

表の思考と裏の処理がうまく連携し始めると、仕事の進み方が以前より滑らかになる。意図的に考えている部分と、勝手に考えてくれている部分の境界が曖昧になり、全体の流れが一本の長い処理に見えてくる。自分一人で考えているのではなく、自分の中のいくつかの層が共同作業をしているような感覚になるのだ。

私は最近、この影のスレッドを意図的に活用するために、無理に結論を急がないことを選ぶようになった。急ぐと表の思考だけで決着をつけようとしてしまい、裏の処理に余白を与えられなくなる。余白は結果的に短時間の効率よりも大きな効果を生む。影のスレッドが動き出すための空間として、私はその余白を尊重している。

時には影のスレッドが答えではなく、違和感だけを返してくることもある。その違和感は厄介に思えるが、実は最も価値が高い。違和感はバグ報告のようなもので、まだ答えは出していないが、明らかに何かがおかしいと示してくれる。私はその報告を雑に扱わず、丁寧に向き合う。そうすることで、後から大きな修正を防げることが多い。

影のスレッドとの付き合いは、調整の連続でもある。速度を上げたい日もあれば、処理が追いつかない日もある。そんなときは、一度すべてのタスクを俯瞰するようにしている。すると、不思議と処理に必要な優先順が自然と浮かび上がってくる。影のスレッドは、私の姿勢そのものに反応するように動くのだ。

私は今日も、影のスレッドが静かに処理を進めているのを感じながら仕事をしている。見えないものを味方につけるという発想は、一見曖昧だが、実際にはとても論理的だ。処理の流れを阻害しない姿勢と、必要な材料を渡す意識さえ持っていれば、影のスレッドは確かに力を貸してくれる。私はその仕組みを信頼し、これからも仕事の中に取り入れていくつもりだ。

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