はじめに
プログラミング言語の選択は、エンジニアのキャリアにおいて重要な決断の一つです。近年、RustやGoなどの新しい言語が注目を集める中で、20代のシステムエンジニアの皆さんの中には、C/C++の学習価値について疑問を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
本記事では、2025年最新の市場データと業界動向を基に、C/C++言語の現状と将来性について客観的に分析します。データに基づいた分析により、C/C++が現在も多くの分野で重要な役割を果たし続けていることをご紹介します。
現在の市場動向:データが示すC/C++の位置づけ
プログラミング言語人気ランキングでの現状
最新のTIOBEインデックス(2025年8月)によると、C++は2位(9.18%)、C言語は3位(9.03%)にランクインしています。これは、両言語が長期間にわたって安定した人気と需要を維持していることを示しています。
Pythonが1位(26.14%)と高い人気を誇る一方で、C/C++も継続的に上位ランキングを維持しています。特にC++は、1995年には1位、2000年には2位と、四半世紀以上にわたって常にトップクラスの地位を保っており、その安定性と継続性を証明しています。
日本国内での年収と市場価値
レバテックキャリアの調査(2024年8月)によると、C++エンジニアの平均年収は約582万円となっており、他のプログラミング言語と比較しても高水準を維持しています。
この高い市場価値の背景には、C++エンジニアの専門性があります。求人数は他言語と比較して限定的である一方、C++を深く理解し活用できるエンジニアの数も限られているため、需要と供給のバランスから高い評価を受けているのです。
C/C++が重要な役割を果たす分野
組み込みシステム・IoT分野での活用
C/C++が特に重要な役割を果たしているのが組み込みシステムの分野です。自動車の車載システム、家電製品のマイコン、産業用ロボットの制御プログラムなど、ハードウェアに密接に関わる開発において、C/C++の特性が活かされています。
近年急速に発展しているIoT(Internet of Things)分野では、限られたリソースで効率的に動作するプログラムが求められます。C/C++の「少ないメモリ使用量で高速動作する」という特性は、IoTデバイスの要件と合致しており、この分野での需要は今後も継続的な成長が見込まれています。
ゲーム開発における重要性
ゲーム業界では、C++は現在も中核的な開発言語として位置づけられています。特に、世界的に広く使用されているゲームエンジン「Unreal Engine」では、C++が主要な開発言語として採用されています。
ゲーム開発では、60FPSや120FPSといった高いフレームレートを維持しながら、複雑な物理演算やグラフィック処理を実行する必要があります。このような高性能要件において、C++の処理速度とメモリ効率の優位性が重要な価値を提供しています。
AI・機械学習基盤技術での貢献
AI・機械学習の分野においても、C/C++は重要な基盤技術として機能しています。多くのPythonベースのAIアプリケーションは、実際には内部でC/C++で実装された高性能ライブラリを活用しています。
例えば、Googleが開発した機械学習ライブラリ「TensorFlow」は、C/C++で実装されています。Pythonは使いやすいインターフェースを提供する一方で、実際の計算集約的な処理はC/C++が担当しており、AI技術の発展を支える重要な役割を果たしています。
他言語との関係性と住み分け
Rustとの関係性
近年注目を集めているRustは、メモリ安全性や並行処理の安全性において優れた特徴を持つ言語です。Rustは特に新規プロジェクトにおいて、安全性を重視するシステム開発で採用が進んでいます。
一方で、既存のC++プロジェクトとの互換性や、長年蓄積されたエコシステムの価値も重要な要素です。実際に、大規模なC++コードベースをRustに移行した事例がある一方で、開発効率や既存資産の活用を考慮してC++を継続選択する事例も多く見られます。
Goとの適用領域の違い
Goは主にWebサービスやマイクロサービスの開発において人気を集めている言語です。Goはシンプルさと開発効率を重視した設計となっており、C/C++とは主要な適用領域が異なります。
C/C++が得意とする低レベルなハードウェア制御や高性能計算の分野と、Goが得意とするWebサービス開発の分野は、それぞれ異なる要件と特性を持っており、相互補完的な関係にあると考えられます。
C++の継続的進化と技術革新
C++23で追加された新機能
C++は継続的に進化を続けている言語です。2023年にリリースされたC++23では、開発者の生産性向上と言語の表現力向上を目的とした多くの新機能が追加されました。
主要な新機能には以下が含まれます:
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if consteval:コンパイル時の文脈での条件分岐機能 - 添字演算子の多次元サポート:
operator[](int x, int y, int z)のような多次元アクセスが可能 - ラムダ式の機能拡張:より柔軟な関数オブジェクトの記述
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assume属性:コンパイラ最適化のためのヒント機能 -
<stacktrace>ライブラリ:デバッグ支援のためのスタックトレース取得機能
C++26への展望
2026年リリース予定のC++26では、さらなる機能拡張が計画されています。特に注目されるのは、Boost.Asioを基盤としたネットワークライブラリの標準化です。これにより、C++でのネットワークプログラミングがより標準化され、適用範囲の拡大が期待されています。
このような継続的な進化により、C++は3年周期で新しい機能を取り入れながら、現代の開発ニーズに対応し続けています。
20代エンジニアにとってのC/C++学習価値
学習することで得られる価値
C/C++を学習することで得られる価値は多岐にわたります:
技術的価値
- 高い市場価値:平均年収582万円という高水準の待遇
- 専門性の獲得:組み込み、ゲーム、AI基盤など特定分野での専門性
- 基礎力の向上:メモリ管理やハードウェア理解など、エンジニアとしての基礎力向上
- 長期的な安定性:四半世紀以上にわたる実績と継続的な進化
キャリア的価値
- 希少性:C/C++を深く理解できるエンジニアの希少性
- 適用範囲の広さ:多様な分野での活用可能性
- 技術的深度:低レベルプログラミングの理解による技術力向上
学習時の考慮点
C/C++の学習を検討する際には、以下の点を考慮することが重要です:
- 学習投資の計画性:他言語と比較して習得に時間を要するため、学習計画の策定が重要
- 適用分野の明確化:自分の目指すキャリア分野でC/C++が必要かの事前確認
- モダンな手法の習得:C++11以降の現代的な記法と開発手法の学習
まとめ:C/C++の継続的価値
データと事実に基づいた分析の結果、C/C++言語は現在も多くの分野で重要な価値を提供し続けています。以下の要因により、今後も重要な地位を維持すると考えられます:
- 継続的な技術革新:C++23、C++26と言語仕様の継続的な改善
- 特定分野での優位性:高性能・低レベル制御が必要な分野での独自の価値
- 安定した市場需要:TIOBEインデックス上位ランキングと高い年収水準
- 成熟したエコシステム:豊富なライブラリと開発ツールの蓄積
20代のシステムエンジニアの皆さんには、自分のキャリア目標と照らし合わせて、C/C++の学習を検討することをお勧めします。特に、組み込みシステム、ゲーム開発、高性能計算などの分野を目指す方には、重要なスキルセットの一つとなるでしょう。
プログラミング言語は、それぞれ異なる特性と適用領域を持つ道具です。重要なのは、各言語の特性を理解し、適切な場面で適切な技術を選択できる判断力を身につけることです。C/C++は、その技術選択肢の中でも特に強力で、長期間にわたって価値を提供し続ける技術の一つです。
参考文献
[1] TIOBE Index for August 2025. https://www.tiobe.com/tiobe-index/
[2] レバテックキャリア「C++エンジニアの転職は難しい?将来性や需要、年収などを解説」. https://career.levtech.jp/guide/knowhow/article/588/
[3] Reddit「Goodbye Rust, I wish you success but I'm back to C++」. https://www.reddit.com/r/rust/comments/1h15md8/goodbye_rust_i_wish_you_success_but_im_back_to_c/
[4] cpprefjp「C++23 - C++日本語リファレンス」. https://cpprefjp.github.io/lang/cpp23.html