電子回路における重要なIC素子,オペアンプですが,その汎用性ゆえにいろいろな使用方法を覚え,それらを適切に利用できるスキルが求められます.
次のクイズに答えられる方には本記事は不要です:
- なぜ理想オペアンプはオープンループゲイン無限大なのか
- なぜ仮想ショートは重要な性質なのか
その起源は内部のトランジスタ回路にあります.しかし,内部回路を読み解いて各アプリケーションの原理を説明できるようになるのが理想なのは当然ではありますが,それはさすがにかなり大変です.
本記事ではその,「詳しすぎる理論背景」と「丸暗記に頼らなければならないあやふやさ」の間に隔たるギャップを埋めるべく,オペアンプの「気持ち」から,各アプリケーションの動作原理を説明します.丸暗記および忘れる度の調べなおしからの脱却を補助し,使うにあたり「絶対に間違えない」ようになれるのを目指します.
先にまとめ
- オペアンプ君は仮想ショートを維持し続けたい生き物である
- 入力端子間の電位バランスが崩れると,なんとかしたくて電圧を出力するようにできている
- しかし人間がネガティブフィードバック機能=安定化能力をとりあげてしまったので,オペアンプ君はわけもわからずがむしゃらに電圧を出力せざるを得ず,出力電圧は極端に大きくなる(→オープンループゲイン大で不安定)
- 正負どちらの電圧を出すべきかだけは,出力電圧が非反転入力(-)端子に届くことを期待して判断できるという能力はもっており,非反転(+)入力電位が増加した場合は正の,反転入力電位が増加した場合は負の電圧を出力する(ゲイン$>0$)
- 人間がそんなイジワル設計をした理由は,柔軟性をもたせるため.オペアンプ君に自身で安定状態に到達できる能力があると,保守的になられてしまい人間の都合での改変が困難になる
- 結果としてオペアンプ君は,単体での不安定性ゆえに回路構成次第で様々な用途に転用できる
→オペアンプは増幅器,と理解せず,不器用でがむしゃらな可哀そうな生き物,と思えば各アプリケーションは理解可能!
※ネガティブフィードバック(負帰還):
部屋が「暑」ければエアコン設定「温度を下げる」,前の車に「ぶつかりそう」ならアクセルを緩め「減速する」,というように,現在状態に応じてその逆の操作をすることです.制御工学におけるシステム安定化の大原則です.
コンパレータ
さっそく実験的に,なにもしないままのオペアンプ君にとにかく動いてもらいましょう.入力端子の電圧はなんでもいいのですが$E_{+}$および$E_{-}$とよぶことにします.オペアンプ君は"正負どちらの電圧を出すべきか"判断は可能なのですが,それは端子間の電位差$E_{+}-E_{-}$に比例した電圧を出してみることにしよう,と考えるからです.そうすれば,それがネガティブフィードバックされた際に,その反転つまり$E_{-}-E_{+}$を入力することになり,電位差を打ち消し仮想ショートに近づけることができそうです.
あとは比例係数をどうするか,ですが,まぁ仮想ショートが回復するまでどんどん大きくしてみようと考えます.しかしかわいそうなことに,どれだけオペアンプ君ががんばって大きい電圧を出力したとしても一向に端子間電位は同じになってくれません.フィードバック装置がついていないためです.オペアンプ君は自身の,電圧の正負に関する判断基準に従ったままがむしゃらに能力の限り最大の電圧を出力します.出力電圧は無限ではなく駆動電源電圧が上限となりますので,出力は正電源電圧VCCあるいは負電源電圧VEEにベタバリします.
一応,人間都合でむしろその挙動がほしい,という場面はあり,わずかな電位差に対してでも「どちらが高い?」を明確にするのに利用でき,このアプリケーションにはコンパレータという名前がつけられています.しかし,オペアンプ君にはかなり負荷をかけた用途であるのがおわかりいただけるかと思います.
ボルテージフォロワ
人間都合でとりあげたネガティブフィードバックをオペアンプ君に返してあげるのを考えましょう.反転入力端子はフィードバックのみとし,入力は非反転入力端子のみに与えます.
ここで,ある瞬間に入力電位が変動すると,オペアンプ君はやはりそれに反応して直ちに動きだします.変化があったのはしかしこの回路の場合,仮想ショートを回復させるための解は入力電位と同じ値の電圧を出力することになります(電位が増加したら,非反転入力の増加なので出力も正の向きに増加させる判断が活きる).もちろんオペアンプ君自身もいくらか試行錯誤はするでしょうが,反転入力端子と出力端子の短絡からその最適解にたどりつくのはかなり容易でしょう.
結果として,オペアンプ君は非反転入力端子とおなじ電位を出力し続けることで落ち着きます.これがボルテージフォロワです.結局電圧値を右から左へ受け流している(図的には逆ですが笑)ことになりますが,値が同じなだけで電気としては回路本体由来からオペアンプ由来へと大きく実態が変わっています.これを利用して,回路としては分離するが電圧情報だけは転送する,バッファと呼ばれる使われ方で役立ちます.なお,オペアンプ君は無事安定することができましたが,実際には製品によっては発振する使用方法なため,適切なパーツ選定が要求されます.
反転増幅
こんな回路を組んでみましょう.非反転入力端子がGNDに接続されているので,このときのオペアンプ君の希望は,反転入力端子もGND電位であり続けること,だとわかります.
しかし反転入力端子に接続される抵抗$R_{1}$の向こう側で電位が変化する(増加とします)と,抵抗の両端の電位差により反転入力端子にむかって電流が流れ込んできてしまいます.こうなると反転入力端子の電位は狂いますのでなんとかオペアンプ君は対策をとらなければなりません.
そこで人間の手で,オペアンプ君の出力と入力端子を,抵抗$R_{2}$を使いはしますが接続してあげることにしてみましょう.このとき入力端子に流れ込んできた電流の影響を回避するには,出力端子の電位を下げれば,その電流を入力端子から出力端子に向けて吸い出すことになるので安心です(電位が増加したら,反転入力の増加なので出力は負の向きに増加させる判断が活きる).しかしその努力は抵抗$R_{2}$に応じて変化します.$R_{2}$が大きいとその分気合入れて出力しないと十分に電流を吸い出せません.十分な電流吸出しの条件は,$i_{i}=E_{-}/R_{1}=-i_{2}=-E_{o}/R_{2}$です.よって目標出力電圧は$E_{o}=-(R_{2}/R_{1})E_{-}$と求まります.
つまり,$R_{2}/R_{1}$倍大きいが,符号は逆転する電圧を出力することで落ち着きをとりもどす,このようにして反転増幅の原理が説明できます.
非反転増幅
こんな回路はどうでしょうか.コンパレータの亜種で,反転入力端子は抵抗$R_{1}$を介してGNDに繋がれています.この場合のオペアンプ君のトライは$E_{+}$を定数倍して$E_{o}$として出力することです.
抵抗$R_{2}$を使いますがフィードバックをつけてあげます.ネガティブフィードバックになるよう反転入力端子へ繋げます.ただし問題は,いくら$E_{o}$を変えても非反転入力電圧$E_{+}$は変更できない点にあります.したがって反転入力電位$E_{-}$を$E_{+}$と一致させるしかありません.
幸いにして$R_{1}$があるおかげで,電流を余計に流せば$R_{1}$分GNDから電位上昇させられます.ゆえに$E_{-}=R_{1}i_{1}$です.すると$E_{o}$からGNDへの直列回路より,$R_{1}$分の電圧降下も$R_{2}i_{1}$であり,したがって$E_{o}-E_{-}=R_{2}i_{1}$という式が成立します.あとは$E_{-}/R_{1}=i_{1}$により$i_{1}$を消去し,$E_{-}$を$E_{+}$で置き換えれば,$E_{o}=(1+R_{2}/R_{1})E_{+}$という非反転増幅の式が導出できます.
差動増幅(練習問題)
オペアンプにはこんな回路を組んでの使い方もあります.差動増幅といいます.しかしここまでの考え方で,この回路の場合$E_{o}$はどんな値をとることになるのか,計算できるようになっていることと期待します.調べれば答えが見つかるわけでもありますので,こちらについては練習問題として解説を控えさせていただきます.
総括
以上のような,実は重要な機能を人間にとりあげられた気の毒な生き物であるオペアンプ君ですが,その設計の理由は以上をはじめとしたさまざまな場面での柔軟な使い方に応えるためです.もしボルテージフォロワに見られた,オペアンプ君にとって最も好都合なフィードバック機能を持つのを認めてしまうと,オペアンプ君はきっと「大きい電圧なんて出してたまるか,今が一番楽なんだから」と言い張ることでしょう.ゆえにオペアンプ君に自信にとっては不都合な仕様で世にリリースされています.結果として我々消費者には,「最後の1ピースを何にするかは,使用者であるあなたが決めてください」というメーカーからのメッセージとして受け止められるような仕組みである,と理解して使うのがよいかもしれません.

