ServiceNow Advent Calendar 2025 の 12月6日 を担当します takagiko です。
皆さんの組織では、ServiceNowから通知を送る際、どのような手段を使っていますか? ポップアップ通知、メール、Teams/Slack...これらは非常に便利ですが、「現場」では気づかれないことが多々あります。
今回は、ServiceNowからオンプレミスの パトライト(信号灯) を制御し、光と音で「物理的」に通知を行う仕組みを構築しました。 「SaaSからオンプレのハードウェアを制御」というと大掛かりに聞こえますが、ServiceNowの持つFlowやMID Serverといった機能と、パトライト社のお手軽な新モデルを使うことで、低コストかつノーコードで、そしてセキュアに実現できました。
なぜ「ServiceNow」で「パトライト」なのか?
1. ServiceNowは「情報の集約点」
ServiceNowは、ITシステムのイベント管理(Event Management)、インシデント、セキュリティインシデント、申請や自動化フロー、そしてもちろん CMDB 等、組織内のあらゆる情報が集まる「情報の集約点」です。情報が集約される場所だからこそ、例えばインシデント情報とSLAとCMDBとユーザ情報等を組み合わせ、柔軟かつ的確に通知をすることができます。
2. デジタル通知の限界と「物理割り込み」
PCキッティング作業や工場・倉庫作業など、物理的な作業を行っている現場では、画面上のポップアップやメール通知には気づけません。また、デスクワークであっても「通知疲れ」でメールが見落とされることは日常茶飯事です。
そんな時、 「光る」 「鳴る」 と いう物理的な割り込み(Physical Interrupt)は強力です。昭和の時代から工場で使われてきたパトライトは、今でも 最強の通知手段の一つです。
3. コストの壁を壊す「LR5-LAN」
これまで、ネットワーク制御可能な信号灯(パトライト社の従来製品や、ISA社の「警子ちゃん」等)は、1台10万円近くすることが一般的でした。SNMPでの監視やメール発信ができたりと高機能ですが、「ちょっと光らせたい」だけにしては too much 感がありました。
しかし、パトライト社の2025年2月発売の新モデル 「LR5-LAN」 は、機能がシンプルな分、最も安価な構成では 実売1万円台で購入可能です。この価格なら気軽に置くことができますね! 今回はこのLR5-LANを利用します。
構成図(アーキテクチャ)
ServiceNowはクラウド(SaaS)、パトライトは社内LAN(オンプレミス)にあります。この壁を超えるために、ServiceNowの標準機能であるMID Serverを利用します。
仕組みのポイント
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ServiceNow (クラウド): フローが実行されると、RESTリクエストのジョブがキュー(ECC Queue)に積まれます。
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MID Server (オンプレ): オンプレミス側のMID Serverが、ServiceNowに対して ロングポーリング を行っており、自分宛てのジョブを見つけると取得します。
- 図にあるように、社内からクラウドへのHTTPSアウトバウンド通信(Proxy経由でも可)のみで成立するため、ファイアウォールに「外から内」への穴を開ける必要がありません。
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LR5-LAN (オンプレ): MID Serverが、同一ネットワーク内のパトライトに対してHTTP(S)リクエスト(API実行)を行い、制御コマンドを送ります。
実装手順
1. Actionの作成 (Workflow Studio)
パトライトを叩くためのカスタムアクションを作成します。LR5-LANはシンプルなHTTP(S) GETリクエストで制御可能です。こういう場合も「RESTステップ」で対応可能です。
設定のポイント
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接続: 別オブジェクトで定義することもできますが、今回はこの画面で完結する
インラインで接続を定義を使用。 -
MIDを使用: これをチェックすることで、リクエストがMID Server経由になります。チェックしない場合は、ServiceNowインスタンスからのリクエストになります。
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認証情報エイリアス: 今回は認証不要にしているので、何も選択しないままでOKです。参考までに、LR5-LAN側に設定をすればクエリパラメーターで認証を入れることもできます。
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ベースURL: パトライトに設定したIPアドレスのエンドポイントを設定します(例:
http://172.31.10.10/api/control) -
クエリパラメーター: 制御用のパラメータ(alert)を設定します。
- 例として
alertに400001を送ると「赤点滅・ブザー吹鳴」、000000を送ると「全消灯・ブザー消音」といった制御が可能です。6桁の数字は左から赤・黄・緑・青・白のランプと、ブザーの状態を示します。
- 例として
2. Flowの作成 (Workflow Studio)
作成したアクションを呼び出すフローを組みます。
今回は「パトライト点滅・吹鳴」→「5秒待機(Wait)」→「パトライト消灯・消音」という流れを作り、現場で気づきやすい挙動を定義しました。ここまで、アクション・フローとも 完全ノーコード で実装可能です。
活用シーン:PCキッティング現場
実際にこの仕組みを、PCキッティング業務の現場向けにデモ構築しました。
シナリオ
キッティング担当者は、キッティング対象機での作業や梱包発送作業などに集中しており、自分のPCに向かうことが少なく、新しい作業依頼(タスク)等になかなか気づけませんでした。
動作
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ServiceNowでフローが回ってきてキッティングタスクが作成される。
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パトライトが 約5秒間、点滅・吹鳴する。🚨
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同時に、レシートプリンタ(これもMID Server経由で制御)から、タスク内容が印字された 「物理チケット」 が出力される。
「メール送りました」「もうすぐSLAが切れます(ポップアップ)」ではなかなか気づけませんが、 「ブザーが鳴りランプが光り、レシートが出てくる」 となれば、嫌でも気づきますし、レシートを持って すぐに作業に取り掛かかることができます。 ServiceNowのデジタルワークフローと、物理的なデバイスを組み合わせることで、現場のオペレーションを確実・迅速に動かすことができます。
まとめ
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ServiceNow × MID Server × パトライト 構成図の通り、MID Serverを使えば、追加のVPNやFirewallの穴あけ・複雑なネットワーク設定なしに、クラウドのServiceNowからローカルデバイスを セキュア かつ 簡単(ノーコード) に制御できます。
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安価な新製品 今年発売のLR5-LANのような安価なネットワーク対応のパトライトが出たことで、ServiceNowを「現実世界」に干渉させるハードルが以前よりグッと下がりました。
「とりあえず 1 本パトライトを置いてみる」だけでも、運用の“気づき力”はかなり変わります。ぜひ皆さんの環境でも試してみてください🚨


