AWS re:Invent 2025 の Dr. Werner Vogels Keynote ではルネサンスデベロッパーという概念が提唱されました。
ルネサンスデベロッパーとは一体何なのでしょうか?
そして今後活躍するエンジニア、実は危ないエンジニア像を自分なりに整理してみました。
1. ルネサンスデベロッパーとは?
ルネサンス時代とは、14 世紀から 16 世紀にかけてイタリアを中心にヨーロッパで起こった「再生(ルネサンス)」を意味する文化運動のことです。
中世から近代への移行期に古代ギリシャ・ローマの文化を復興し、人間中心主義 (ヒューマニズム) のもと芸術、科学、文学など多岐にわたる分野で大きな発展が見られました。
ダ・ヴィンチ、ガリレオ、コペルニクスなどの巨匠が活躍した時代です。
ルネサンス時代が訪れた背景として、大航海時代の交易が莫大な富を産んだことが挙げられます。
富を持った人々は時間を獲得し、またベンチャーキャピタリストのように芸術、科学、文学に投資を行いました。
その結果、印刷、望遠鏡、顕微鏡などの革新的なツールが発明され、そしてそれらがまた研究や表現活動を加速させました。
Werner はこのルネサンス時代に準えて、今の AI エージェント時代の開発者をルネサンスデベロッパーと表現しました。
AI エージェントというこれまでにない革命的なツールを持ち、これまでにないスピードであらゆる開発、実装を行う新しい時代のデベロッパーです。
2. 有望なエンジニア、実は危ないエンジニア
Werner は Keynote でルネサンスデベロッパーの資質について多くの時間を割いて説明しました。
これからの時代に活躍するルネサンスデベロッパーは何を備えている必要があるのでしょうか。
そしてそれらに照らし合わせると、どんなエンジニアが有望、もしくは危ないと言えるのでしょうか。
「ルネサンスデベロッパー」「なんちゃってルネサンスデベロッパー」として、同じシチュエーションで差が出そうな場面を考えてみました。
「なんちゃって」の方も一見きちんとしたエンジニアである点が、耳の痛い内容となっています。
好奇心がある (Curious)
まず旺盛な好奇心が大事です。
何かを分解して仕組みを理解したい。
何かを構築して改善したい。
構築したものを他の人や社会に適用したい。
そのための失敗を厭わず、何度も実験する。
そのような好奇心 (と行動力) に溢れるエンジニアです。
例えばここで差が出る
AWS re:Invent で発表された新しい AI 系サービスを触ったあと
ルネサンスデベロッパー
「これは今までどこが一番しんどかった人向けのサービス、機能なんだろう?」
「既存の仕組みだと、どこに限界があったんだっけ?」
なんちゃってルネサンスデベロッパー
「できること増えたなー」
「とりあえず触ったし、まあ把握はできたかな」
同じ体験でも、問いが次につながるか、体験で終わるかで差がつきそうです。
システムとして考える (Think in systems)
孤立した一部分ではなく、相互作用する大きなシステムとして捉えるエンジニアです。
動的なシステムは各パーツのフィードバックループにより形成されるため、全体を見て影響を評価する必要があります。
Werner はイエローストーン国立公園の例を挙げていました。
この公園では、多くの生き物が繁栄できるように、捕食者であるオオカミを排除したことがありました。
しかし起こった結果は期待とは真逆でした。
草食動物の放牧が過剰となり、森林が減少し、河川が侵食され、生き物が住める環境が減ってしまいました。
システム全体への影響は、単体や機能やサービスのみに着目していては分からないという例です。
例えばここで差が出る
新しい機能をリリースする直前のレビュー
ルネサンスデベロッパー
「これ、運用に入ったら最初に困るのは誰だろう?」
「夜中にアラートが発報されたら、何分で判断できそう?」
なんちゃってルネサンスデベロッパー
「仕様どおりなので問題なし」
「あとは運用でカバーできるでしょう」
同じ設計でも、ゴールをコードの完成に置くか、システムを回すことに置くかで着眼点が変わってきそうです。
コミュニケーションする (Communicate)
考えを明確に言語化して伝える能力です。
例えば、必要なシステムを機能や優先度ごとに分解して説明することは、明確にビジネスの成功に貢献します。
これはプログラムを考える上でもそうですし、ビジネスパートナーと擦り合わせをする時、そして生成 AI と協働する際にも大きな違いを生みます。
曖昧な指示でも仕様を明確にする手助けをしてくれる Kiro IDE の紹介もありました。
生成 AI が言語化すらも手伝ってくれるとは、本当にすごい時代になっているなと感じました。
例えばここで差が出る
技術的な選択について、非エンジニアと話す場面
ルネサンスデベロッパー
「リスクは 3 つ考えられます。今日は何を重視するかだけ決められたら十分です」
なんちゃってルネサンスデベロッパー
「技術的にはこちらが正しいです。その理由を説明します (そして詳細説明)」
同じ説明でも、意思決定を前に進めるか、情報を並べるだけかで大きな差を生みそうです。
オーナーである (Owner)
仕事に責任を持つ態度です。
生成 AI が間違ったコードを書いたとしても、仕事の責任はエンジニアにあります。
AI がコードをどんなに高速で生成しても、それをレビュー、検証する作業は残ります。
レビューだらけになる検証負債や、生成 AI の正しさを担保できないハルシネーションの問題とは依然として向き合う必要があります。
ビジネスの成長、システムの実装や改善にオーナーシップを持てるかどうかが資質のひとつとなります。
例えばここで差が出る
リリース後、システムが想定より使われていないことが分かった時
ルネサンスデベロッパー
「設計か前提に何か読み違いがあるのかも」
なんちゃってルネサンスデベロッパー
「仕様通り作っているので、問題は使い方にあるんだろう」
同じ事実でも、問題を自分ごととして引き取れるかどうかで、AI 時代に「任される側」か「切り分けられる側」かの分かれ目となりそうです。
領域横断型である (Polymath)
深い専門性の軸と、異なる分野にまたがる知識を持つエンジニアです。
ルネサンス時代のダ・ヴィンチは画家、エンジニア、解剖学者、発明家であったことを例に挙げ、幅のある知識が相乗効果を生むと語りました。
I 型から T 型へ、そしてより大きな T 型へ。
自分のドメインを武器にする深さ、複数分野でアイディアを繋げる幅。
その両方を追求していきたいものです。
例えばここで差が出る
専門外の分野の話題が出たミーティング
ルネサンスデベロッパー
「詳しくないのですが、つまりボトルネックはここにあるという理解で合ってますか?」
なんちゃってルネサンスデベロッパー
「それは自分の領域ではないので分かりません」
同じ知識量でも、境界に踏み込めるか、線を引いてしまうかで価値が変わってきそうです。
3. 結局どうすればいいの?
並べてはみましたが、結局やることはこれまでと大きく変わらないように思います。
アンテナを張り、俯瞰し、協働し、責任感を持って仕事に取り組み、自分の領域を広げていく。
全くの新しい概念ではないですよね。
ただしツールの進化速度は明らかに過去のものとは異なります。
AI エージェントの力を存分に活かしつつ、上記を実践できるかどうかの勝負になると感じました。
まとめ
AI エージェントが生まれた新ルネサンス時代ではどんな世の中になっていくのでしょうか。
「なんちゃってルネサンスデベロッパー」に甘んじないように気を付けつつ、
ワクワクするようなゾクゾクするようなルネサンス時代を楽しんでいこうと思います。
今日も小さな学びを。
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