検証の経緯
Google Workspace の Frontlineエディション とは、主に「個人に専用PCが割り当てられていない『現場作業者(フロントラインワーカー、ファーストラインワーカー)』」向けのライセンスプランです。
(Microsoft 365 にも、同様に F1/F3 プランが存在します)
これらは、標準エディション(Business または Enterprise)のサブスクリプションが存在する GWS テナントで、アドオン的に利用できるプランとなっていますが、機能が制限されているうえ、Business エディションの 300 ライセンス上限の制約を受けないなど、標準エディションと比較すると安価に調達できる条件が揃っているため、導入時は「『標準エディション』が不要なユーザーは Frontline に乗り換えて、トータルを安く抑えよう」となる場合も多いでしょう。
しかし、実際にライセンス切替について確認してみたところ、以下の状況でした。
- Google からは「 Business/Enterprise を利用している既存アカウントに Frontline を付与することはできない 」と言われた
- 実際に試してみると、 「既存アカウントのライセンスの切替はできるようだが、確かに色々と問題は起きそう」 という感じだった
というわけで、ようわからんので、やり方として考えうる以下の2パターンのシナリオを実際に流してみました。
(1) 既存アカウントを切り替える(※保証外)
(2) 新規アカウントに移行する(※推奨手順)
(1) 既存アカウントのライセンスを切り替える
保証外と言われていますが、どうも何故かできちゃうようだったので、まあどんな問題がありそうかをまずは試してみましょう。
a. 切替前に確認すべきこと
提供機能の差異から、ハレーションが起こりそうなポイントをまずはリストアップしました。
| Frontline | Business Std | Enterprise Std | |
|---|---|---|---|
| 領域サイズ | 5 GB | 2 TB x ユーザー数 | 5 TB x ユーザー数 |
| 容量共有 | ユーザー単位 | テナントで共有 | テナントで共有 |
| 容量追加 | 購入不可 | 購入可 | 購入可 |
| 共有ドライブ | 閲覧/編集のみ可 | 作成/共有も可能 | 作成/共有も可能 |
- データ容量が減る
i. FL では、データ容量はアカウントに閉じ、テナント内で共有されない
ii. FL ユーザーは、そもそもテナントの共有フォルダで業務するものであり、アカウントのデータ領域を常用することは想定されていないためその領域は小さい - 共有ドライブのアクセス権が制限されている
i. 閲覧/編集しかできない
まあ、思いついたのが一旦これらだったので、とりあえず見ていきましょう。
(※網羅性があるとは言ってない←)
b. 切替作業
実際の切替作業を行う
-
切替の準備
ライセンスの重複はできない想定なので、組織部門(OU)の移動で切り替えるのが現実的か。
i. ライセンスを付与する組織部門を作成する
ii. 新規組織部門の設定を「B/E を振らない」かつ「FL を必須」にする
iii. ユーザーアカウントの容量(メール + ドライブ + フォト)を 5 GB 以内に収める
iv. 切り替えるアカウントに付与されている共有ドライブの管理者権限を外す
→ なお仕様確認のため、 iii. と iv. については、あえてエラーになるようにして進めた -
切替作業
対象ユーザーを、FL の組織部門に移動する
c. 切替後確認
切替準備であえてエラーにした項目(iii.と iv.)について、実際の挙動を確認する
-
容量超過時の挙動
各アプリ(Gmail,マイドライブ,フォト)について、編集 および 追加 が一切できなくなる。
閲覧とダウンロードについてはできたので、ダウンロード→削除 の対応はできるので、超えてからにっちもさっちもいかない状況には(ドライブとフォトに関しては)ならないと思われる。
ただし、 容量超過時点でメールの受信は止まる ので、そちらについては明確なダウンタイムであると認識する必要があり、やはり しっかり 5 GB に収めてから移行するべき である。 -
共有ドライブのアクセス権確認
基本的に、あらゆるアクセス権が強制的に『閲覧者』扱いに落とされる挙動をする。
編集したいファイルについては、ユーザーにて各ファイルを開いて『編集アクセス権』の申請を上げることになる。
『閲覧者』以外の権限(管理者、コンテンツ管理者、投稿者)の場合、「編集権があるのに、編集ライセンスが無い」という状態に陥り、権限がコンフリクトする。結果として「編集アクセス権」の申請がエラーになってしまう。
よって、共有ドライブのアクセス権は、移行前に「閲覧者に下げる」か「はく奪する」かの二択で対応を完了させておく必要がある、と考えた方がよい。
d. まとめ(既存アカウントのライセンス切替)
既存アカウントを切り替えるシナリオの場合は、データの状態を移行先ライセンスの制約にちゃんと収めてから、ライセンスを切り替えましょう。
「どうせライセンスの制約で使えなくなるから、それに任せてもいいでしょ」って思ってると、思わぬところで足をすくわれるでしょう。
…なお、しつこく言いますが、あくまでこのシナリオは Google 非推奨である点は理解したうえで、自己責任で進める必要がある点は留意しましょう。
(2) 新規アカウントにデータ移行する
「Frontline のアカウントを別途作成し、アカウント間でデータ移行」をする、Google 推奨のシナリオとなります。
a. 切替手順の確認
以下は「移行先アカウントで、移行元アカウントのUPNを継承する」前提のシナリオとなりますので、必要ない場合は手順 1.-2.を読み換えてください。
- 該当アカウントがSSOしていないかをあらかじめ確認しておく。SSOしている場合は、OIDCやSAMLを用いない『メールアドレス/パスワードによるログイン』に変更しておくこと
- 移行元アカウントのUPNを変更する
- 移行先アカウントを、FL ライセンス および「移行元アカウントの変更前UPN」で作成する
- 手動移行が必要なデータを、移行元アカウントからエクスポートする
- 移行サービスでデータを移行元アカウントから移行先アカウントに移行する
- 移行元のアカウントを削除する。その際に、マイドライブのデータを移行する
- 手動移行が必要なデータを、移行先アカウントへインポートする
- 移行先アカウントで移行データを確認後、移行元アカウントを削除する
→ 2.をせずに 8.のあとに移行先アカウントでUPN変更をやるパターンもあると思いますが、UPN変更はリスクを伴うので、削除対象である『移行元アカウント』でやることをオススメします。
b. アカウント削除時に引き継げるデータを確認する
アカウント削除時に別のユーザーに移行できるのは、実質『マイドライブ』のみです。
c. 移行サービスで移行可能なデータを確認する
移行サービスで移行できるのは、実質『メールデータ』のみです。
d. 手動移行が必要なデータを確認し、取捨選択する
カレンダー、連絡先、メールフィルタ、などが該当します。
データエクスポートを許可していれば、各ユーザーがセルフサービスで実施可能です。
※なお当然ですが、ここまでの b.-d. で対象外だった項目のデータ移行はできません。
e. 実際にテストアカウントを切り替えてみましょう
切り替えて動作確認をしてみましょう。
なお、アカウントの削除後20日以内なら復元できますので、テストアカウントでここまでの手順をぐるぐるまわして、実際の挙動とリスクを自分の目でしっかり確認しましょう。
f. 問題なければ、全アカウントを移行しちゃいましょう
あとは野となれ山となれ←
2パターンの実験を踏まえた、全体のまとめ
Google Workspace の Frontline プランは、「最初から FL で作成したアカウントを運用する」ことを想定した仕様であると言え、「元々 Business/Enterprise で運用していたアカウントをコスト削減のために FL に移行する」ものとしてはそもそも想定されていない、と考えるべきものなのでしょう。
そのため、どちらのパターンにしても自社でリスクを負わなければならない範囲がどうしても発生します。特に(1)のパターンでは、サービス提供元である Google が保証していない手順であるため、代理店やSIerでもリスクは負ってくれない可能性が高いです。
| (1)既存アカウントをFLに切替 | (2)新規FLアカウントに移行 | |
|---|---|---|
| SSO | 影響なし(?) | 切断/再接続が必要 |
| データ移行 | 不要 | 必要 |
| 作業工数 | 小 | 大 |
| 移行影響 | 予測不能、メーカー保証無 | コントロール可能だが、データ移行が仕様上不可能な項目がある |
以上を踏まえ、どうしても Google Workspace の Business/Enterprise で運用中のアカウントを Frontline にコンバートする場合は、各移行プランのメリット/デメリットを勘案のうえ、自己責任で実施する必要があります。
手順についてのサポートが必要であれば、購入時に発注先に依頼しましょう。
(※そもそも Frontline は購入時に Google による審査が必要で、直販のセルフサービスでは購入できないサブスクリプションです)