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レンズなんて何でもいいと思ってたら痛い目にあった話(産業用カメラの選び方 -レンズ編-)

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Last updated at Posted at 2026-05-29

はじめに — 「適当に安いやつでいいでしょ」

前回のカメラ編では「産業用カメラは帯域で詰む」という話を書きました。今回はもう一つの沼 — レンズ選定 の話です。

Webカメラはレンズ一体型ですが、産業用カメラはボディとレンズが別売り。しかもカメラメーカーとレンズメーカーは別の会社(例: LUCID / BASLER はボディのみ、レンズは Kowa / Computar / VS Technology など)。一眼レフの純正レンズのような概念がないので、自力で互換性を確認して組み合わせを決める必要があります。

「適当に安いやつでいいでしょ」と思っていた自分に最初にぶつかった壁がこれです:

  • 「レンズは何でもいい」 → センサーサイズが合わないと物理的に使えない
  • 「暗いから F値は小さいほど正義」 → F1.8で撮ったら立体物がピンぼけ。DoFの罠
  • 「高性能レンズなら安心」 → 大きい、重い、高い。30gのカメラに300gのレンズ…?

本記事ではこうした失敗を経て学んだ、レンズ選定の考え方を整理します。


レンズの世界観 — 産業用レンズはいくらするのか

選定の話に入る前に、産業用レンズの予算感を掴んでおきましょう。「思ったより安い」か「思ったより高い」か、最初に知っておくと選定の軸が定まります。

対応解像度 参考価格帯 重量目安
~2MP 14,000〜80,000円 50〜110g
5MP 80,000〜200,000円 90〜150g
10MP+ 80,000〜200,000円 150〜300g
12MP超 300,000円〜 300g〜

出典: MonotaRO の2026年時点の実売価格。メーカー・種類で数倍の差があるので、あくまで目安です。

ポイント:

  • 2MPでも最低14,000円。Webカメラとは別世界
  • 5MP以上で一気に高くなる。光学設計の複雑さが価格に直結
  • 重い。カメラ本体が30g程度の小型機に対して、レンズが100〜300g。取り付け方法の再検討が必要

この価格帯を踏まえて、以降の「どうやって候補を絞るか」を読んでいきましょう。


1. まず確認 — カメラで自動的に決まる制約

カメラを選んだ時点で、レンズの候補は自動的に絞られます。以下の3つを満たさないレンズはそもそも使えないので、最初に確認してふるい落とすだけです。

1-1. マウント規格

カメラのマウント(Cマウント / CSマウント)に合ったレンズを選びます。CマウントカメラにCSマウントレンズはNG(ピントが合わない)です。詳細はカメラ編を参照。

1-2. センサーサイズ適合

レンズには対応センサーサイズがあります。

レンズの対応センサーサイズ ≥ カメラのセンサーサイズ

これを満たさないと四隅が黒くなります(ケラレ)。

規格 対角線 よく使う解像度
1/3" 6.0mm VGA〜1MP
1/2" 8.0mm 1〜2MP
2/3" 11.0mm 2〜5MP
1" 16.0mm 5〜12MP
1.1" 17.6mm 12MP

例えばカメラが2/3型なら、レンズも2/3"対応以上を選べばOK。大きいレンズ(1"対応等)も物理的には付きますが、デカくて高いので、ぴったりのサイズを選ぶのが無難です。

参考: CCS テクニカルガイド — カメライメージセンササイズ

1-3. 解像度(MTF)

MTFとは、レンズがどの程度細かいパターンを再現できるかを示す指標(単位: lp/mm)です。カメラの画素が細かいほど、レンズにも高い解像力が要求されます。

レンズのMTF(中央) ≥ 500 ÷ ピクセルピッチ [μm]

この式はナイキスト定理から来ています。詳しくは Edmund Optics — MTF解説 を参照。

ピクセルピッチ 必要なMTF 該当センサー例
5.86μm 約 85 lp/mm 2MP前後
3.45μm 約145 lp/mm 5MP / 2/3"
2.74μm 約182 lp/mm 10MP前後

ピクセルピッチはカメラのデータシート(スペックシート)に記載されています。「Pixel Size」や「Cell Size」という項目名で掲載されていることが多いので、カメラ選定時にメモしておきましょう。

高解像カメラを選ぶほど、レンズにも高いMTFが必要。

注意: MTFは画像中心と周辺で値が異なり、周辺は性能が落ちます。カタログの中心値だけでなく、周辺性能も確認しましょう。


2. 選ぶときに考えること — 焦点距離・F値・DoF・歪み

制約をクリアしたレンズの中から「どれを選ぶか」。ここからがトレードオフの世界です。

2-1. 焦点距離・F値の選び方

焦点距離

短いほど広角(広い範囲が写る)、長いほど望遠(遠くのものが大きく写る)です(参考: Sony Support — 焦点距離)。

撮影距離 焦点距離の目安
近距離(〜1m) 3〜5mm
中距離(1〜3m) 5〜12mm
遠距離(3m〜) 12〜25mm

F値

F値が小さいほど明るいが、DoFが浅くなるトレードオフ(参考: Sony Support — F値)。

F値範囲 特徴 向いている場面
F1.4〜F2.0 明るいがDoF浅い 暗い環境+被写体が平面
F2.0〜F2.8 バランス型 汎用(産業用途で最も多い)
F4.0〜F8.0 DoF深いが暗い 立体物の検査、ステレオ

注意: センサーサイズが大きいほど、短焦点距離・小F値のレンズ選択肢が少なくなります。1"以上では f=3.5mm / F1.4 のような製品がほぼ存在しません。


2-2. 被写界深度(DoF) — F1.8で撮ったらピンぼけした話

失敗エピソード

暗い環境で明るさを確保するため、F値はF1.8固定、焦点距離5mmのレンズで撮影していました。平面の被写体では問題なかったのですが、奥行きが15cm程度ある立体物を50cmの距離で撮影したとき、手前は合っているのに奥側がぼける。

色々と調べてみたところ、被写界深度(DoF)— ピントが合う奥行きの範囲 — が足りていませんでした。f=5mm・F1.8・撮影距離500mmだとDoFは約129mm。15cm(150mm)の奥行きには足りなかったのです。

そこで焦点距離3.7mmのレンズに変更したところ、同じF1.8・50cmでDoFが約243mmに拡大。F値を変えずに解決できました。焦点距離が短いほどDoFが深くなる、という原理を知っていれば最初から適切なレンズを選べたはずです。

今回は焦点距離の変更で対応しましたが、DoFが足りないときの手段は他にもあります。撮影距離を離す、F値を上げる、など。状況に合わせて柔軟に組み合わせてください。

DoFとは

ピントが合って見える奥行き方向の範囲です(参考: e-con Systems — DoF解説)。

  • 浅い = 一部しかピントが合わない(ポートレートのボケ)
  • 深い = 全体にピントが合う(スマホのカメラ)

DoFを決める4つの要素

要素 DoFが深い DoFが浅い
F値(絞り) 大きくする(F8〜) 小さくする(F1.4〜)
焦点距離 短くする(3〜5mm) 長くする(12mm〜)
撮影距離(WD) 遠ざける(1m〜) 近づける(〜30cm)
許容錯乱円(c) 大きいセンサー 小さいセンサー

許容錯乱円 $c$ = ピクセルピッチ(μm)÷ 1000。2/3型なら約0.00345mm。

ここからは計算ツール(keisan — 被写界深度の計算)に必要な数値を入れれば1分で確認可能です。撮影距離・焦点距離・F値を変えてDoFが足りるかをシミュレーションしてみてください。

注意: 本記事の計算値と計算ツールの結果は公式の精度差により1〜3%異なる場合があります。

※ 後方DoFが∞(無限遠)になることがありますが、これはバグではなく前方被写界深度以遠で、無限遠にピントが合うという意味になります。(過焦点距離と呼ばれる状態)

DoFの計算式と具体例(クリックで展開)

計算式

$$
DoF_{front} = \frac{(WD + f)^2 \cdot c \cdot N}{f^2 - c \cdot N \cdot (WD + f)}
$$

$$
DoF_{rear} = \frac{(WD + f)^2 \cdot c \cdot N}{f^2 + c \cdot N \cdot (WD + f)}
$$

記号 意味
$WD$ 撮影距離 [mm] 500mm
$f$ 焦点距離 [mm] 5mm
$N$ F値 1.8
$c$ 許容錯乱円 [mm] 0.00345mm(2/3型)

エピソードで登場した数値を、実際に計算式で検証してみます。

計算例(2/3型センサー、F1.8固定)

撮影距離 WD=500mm(50cm)の場合

f=5mm f=3.7mm
DoF(合計) 約129mm 約243mm

撮影距離 WD=1000mm(100cm)の場合

f=5mm f=3.7mm
DoF(合計) 約535mm 約1.15m

→ 焦点距離を5mm→3.7mmに変えるだけでDoFが約2倍に。F値を変えずにDoFを確保したいなら、焦点距離の短いレンズを検討する。

参考: F4.0に絞った場合

撮影距離 WD=500mm(50cm)の場合

f=5mm f=3.7mm
DoF(合計) 約305mm 約690mm

撮影距離 WD=1000mm(100cm)の場合

f=5mm f=3.7mm
DoF(合計) 約1.6m ∞(過焦点距離超過)

→ F値を上げれば当然DoFは深くなる。f=3.7mm・F4.0・1mなら過焦点距離を超えて無限遠までピントが合う。ただし暗くなるので照明との兼ね合いが必要。

過焦点距離

過焦点距離 $H$ にピントを合わせると、$H/2$ から無限遠まですべてにピントが合います。

$$
H = \frac{f^2}{c \cdot N}
$$

例: f=5mm、F1.8、2/3" → $H$ ≈ 4.0m 2.0mより先は全部ピントが合う。
f=3.7mmなら $H$ ≈ 2.2m。同じF値でも焦点距離が短いほど $H$ が近づく。


2-3. 歪み(ディストーション)

レンズを通った光は、画像の端ほど本来の位置からずれて写ります(参考: レンズ歪みパラメータ入門 — e-con Systems)。

  • 樽型歪み: 周辺が外に膨らむ(広角レンズに多い)
  • 糸巻き型歪み: 周辺が内側に引っ張られる(望遠に多い)

カタログの TVディストーション [%] で確認します:

TVディストーション レベル 用途
±0.1%以下 超低歪み 精密寸法計測
±0.5%以下 低歪み 一般的な検査
±1.0%以上 通常 ソフト補正前提

計測用途でなければ、ソフトウェアキャリブレーションで補正する選択肢もあります。ただし画像端がトリミングされるため有効画角が狭くなる点に注意が必要です。


3. レンズの現実 — 予算とサイズ、そして「まず借りる」

冒頭のテーブルで予算感を掴んでもらいましたが、もう少し現実的な話を。

構成全体で考える

レンズ選定はレンズ単体では完結しません:

  • ハウジング(防水ケース等)に収まるか → 前玉径の確認
  • カメラとの重量バランス → 固定方法への影響
  • 予算 → 複数台構成の場合はレンズ代も×台数

まず借りて試す

産業用レンズも代理店やメーカーからレンタル(デモ機貸出) できます。焦点距離違いを2〜3本借りて比較するのがベスト。実際の撮影距離でDoFが足りるか、ケラレや周辺画質が許容範囲か、実画像で判断できます。

迷ったら代理店に相談。 用途と撮影条件(撮影距離・被写体サイズ・環境の明るさ)を伝えるだけで候補を絞ってくれます。試作段階から相談するのが最もコストを抑えられる方法です。


どう選んだか — チェックリストと判断の流れ

自分が実際にたどった選定プロセスを、カメラのスペックから具体的にたどります。

使用カメラのスペック

項目
センサー 2/3型 5MP CMOS
解像度 2448 × 2048(約5MP)
ピクセルピッチ 3.45μm
マウント Cマウント
インターフェース GigE

Step 1: 足切り(カメラのスペックから自動決定)

カメラのデータシートから以下が機械的に決まります:

  • マウント: Cマウント → Cマウントレンズのみ候補
  • センサーサイズ: 2/3型 → 2/3"対応以上のイメージサークル
  • 必要MTF: 500 ÷ 3.45 ≈ 145 lp/mm → 中央MTF 145 lp/mm以上

この時点で選択肢はかなり絞られます。10MP対応クラスのレンズであれば確実にクリアできます。

Step 2: 用途からトレードオフを判断

  • 撮影距離: 30cm〜1m → 焦点距離は3.5〜5mmが候補
  • DoF要件: 立体物(奥行き15cm程度) → DoF 15cm以上を確保できるレンズが必要
  • 歪み: 計測用途あり → TVディストーション ±0.5%以下

Step 3: 現実制約の確認

  • 予算: レンズ1本あたり〜10万円目安
  • サイズ: カメラが小型 → 軽量・コンパクトなレンズ希望
  • 入手性: 国内代理店から購入可能

結果: 10MP対応 f≈3.7mm Cマウントレンズ

上記の条件で絞り込むと、Cマウント・2/3"対応・10MP対応・f≈3.7mmのレンズに到達しました。

チェック項目 要件 選定レンズ
マウント Cマウント
センサー対応 2/3"以上
MTF ≥ 145 lp/mm(中央) ✓(10MP対応)
絞り範囲 F1.8〜
歪み ≤ ±0.5% ✓(低歪み設計)

暗い環境はF1.8のまま、焦点距離を短くすることでDoFを確保。「F値を変えずにDoFを確保する」という判断をしました。


まとめ — 勘違いから学んだこと

最初の勘違い 実際に学んだこと 次やるなら
レンズは何でもいい センサーサイズが合わないと物理的に使えない まずマウント・センサーサイズ・MTFの3点で足切り
暗いからF値は小さいほど正義 F値を下げるとDoFが浅くなる。立体物で致命的 DoFを先に計算 → 足りなければ焦点距離を短く
高性能レンズなら安心 大きい・重い・高い。30gのカメラに300gのレンズは本末転倒 必要十分なスペックで選ぶ。借りて試す

レンズは「なんとなく」で選ぶと問題が出ます。でも面倒な計算は keisan.site に任せればOK。「何を確認すべきか」を知っているだけでハマり方が全く違います。

迷ったら代理店に相談。それが最短ルートです。


参考

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