目次の記事、量子情報のための線形代数のシリーズ第1回目です。今回は量子情報を学ぶ上で必要なベクトル空間のまとめです。
以下、KをR(実数の集合)またはC(複素数の集合)とする。
ここでは、抽象的な体$K=R$または$C$上のベクトル空間(線型空間)の導入を行う。
集合$V$が$K$上のベクトル空間であるとは、$V$の元(ベクトル)である$u,v∈V$と$K$の元(スカラー)$a∈K$に対して次の公理を満たす、和$u+v$とスカラー倍である$au$が定義された集合のことをいう。
公理1.1
ベクトル空間$V$は次に条件を満たす集合である。任意の$u,v∈V$に対して和$u+v∈V$が定義されていて、次の条件を満たす。
(1) 結合則:$(u+v)+ w = u + (v + w)$ $(u,v,w ∈V)$
(2) 交換則:$u + v = v + u$ $(u,v ∈V)$
(3) $V$の特別な元0が存在して、$u + 0 = u$ $(u ∈ V)$を満たす。この0を零ベクトルという。
(4) 任意の$u ∈ V$に対して、$u ∈ V$が存在して、$u + v = 0$を満たす。この元$v$を$u$の逆ベクトルといい、$-u$と表す。
また、任意の$u ∈ V$や$a ∈ K$に対して、スカラー倍$au ∈ V$
が定義されていて、次を満たす。
分配則:
(5)$a(u + v) = au + av$ $(a∈K, u,v∈V)$
(6)$(a + b)u = au + bu$ $(a,b∈K, u∈V)$
(7) 結合則:$(ab)u = a(bu)$ $(a,b∈K, u∈V)$
(8) 単位元:$1u = u$ $(u∈V)$
ただし、1は$K$の積に関する単位元である。
ベクトル空間においては、その構造を考える上で、同じ構造を持つ集合がある場合を考えてみる。
定義1.2
$V$をベクトル空間として、 $V$における空でない$W$という部分集合が$V$の演算のもとでベクトル空間となるとき、$W$を$V$の部分空間という。
この場合、$V$は最大の部分空間ともいい、${0}$の場合は$V$の最小部分空間である。
実際では、次のような命題が知られている。
命題1.3
$V$をベクトル空間とする。$V$の部分集合$W$が次の条件(1)~(3)を満たすならば、$W$は$V$の部分空間である。
(1) $V$の零ベクトルは$W$の含まれる
(2) $W$の任意の元$u,v∈W$に対して、$U+v∈W$が成立する
(3) $W$の任意の元$u$と任意の$a∈K$に対して、$au∈W$が成立する
最後に、線形代数の教科書に見られる部分空間の表記について述べておく。
$V$の任意の部分集合S(必ずしも部分空間ではない)に対して、Sを含む最小の部分空間をsが張る部分空間といい、Span(S)と表す。
※この場合はベクトルが張る空間(Spanning Space)としている。
今回は以上です。次回は、Diracのブラケット記法や線型独立・従属について書く予定です。