はじめに
ソフトウェア開発において、コードレビューやバグ修正などの反復的な作業は大きな負担です。
Claude Code はターミナル上で動作するエージェント型AIアシスタントで、自然言語による対話を通じてコードの編集やテスト実行、Git操作などを支援してくれます。
本記事では、インストール手順から具体的な使い方、セキュリティやコスト管理に至るまでを網羅し、導入検討の材料になる情報をまとめました。
1. Claude Code とは
Claude Code は、ターミナルから直接操作できるエージェント型のAIコーディングアシスタントです。
下記のような特徴を備えています。
-
自然言語でコードを編集・質問可能
ターミナル上から自然言語で指示を出すと、AIがコードベースの文脈を理解して修正や解説を行います。 -
エンジニアのワークフローを加速
バグ修正、コードリファクタリング、テスト実行などをAIが代行するため、手動での反復作業を大幅に削減できます。 -
Git 連携
コミットやPull Request作成、リベース、マージコンフリクト解消などを支援し、チーム開発における効率を向上させます。 -
セキュリティとプライバシー重視
コードやターミナル操作の内容はローカル環境で完結し、危険な操作には明示的に承認を求める仕組みが導入されています。
現在は ベータ版 (研究プレビュー) として提供されており、ユーザーフィードバックをもとに日々アップデートが行われています。
2. システム要件
Claude Code の推奨環境は以下の通りです。
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OS
- macOS 10.15 以降
- Ubuntu 20.04+ / Debian 10+
- Windows (WSLを介して)
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ハードウェア
- 4GB 以上のRAM(推奨)
-
ソフトウェア要件
- Node.js 18 以上
- (任意) git 2.23 以上 (Git 操作をする場合)
- (任意) GitHub CLI / GitLab CLI (PR 作成などをする場合)
- (任意) ripgrep (rg) (コード検索を高速化)
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ネットワーク
- api.anthropic.com へのアクセス
- statsig.anthropic.com, sentry.io への送信を許可
- 認証/課金のために Anthropic Console のアカウントが必要(有料プラン対応)
3. インストール手順
npm からのインストール
npm install -g @anthropic-ai/claude-code
グローバルインストール後、claude
コマンドが使用可能になります。
プロジェクトディレクトリへ移動
cd your-project-directory
作業中のリポジトリやプロジェクトのパスを指定します。
Claude Code の起動
claude
初回起動時には OAuth 認証が求められます。
あらかじめ Anthropic Console にログインし、課金設定などを完了させておいてください。
4. 主要機能
Claude Code が提供する主な機能は以下の通りです。
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ファイル編集・バグ修正
自然言語で「ここを修正して」と指示すれば、複数ファイルにわたる修正を自動的に行うことが可能。 -
コードベースの理解と説明
「コード全体で何をやっているのか」「認証システムのフローを説明して」などの問いかけが可能。 -
テスト実行・lint・デバッグ
lintやテストの実行、バグ修正までをAIが対話的に支援します。 -
Git 操作
- 変更差分のコミット
- プルリクエスト作成 (GitHub CLI / GitLab CLI と連携)
- リベースやマージコンフリクト解消
-
高度な思考プロンプト
「認証周りのエッジケースを検討して」「設計のアーキテクチャを深く考えて」など、より踏み込んだ検討も依頼できます。
5. 使い方
基本的な CLI コマンド
claude # 対話的なREPLを起動
claude "query" # REPLを起動し、最初に "query" を実行
claude -p "query" # "query" を1回実行して即終了
cat file | claude -p "query" # ファイル内容をパイプで渡して解説
claude config # 設定を変更
claude update # 最新バージョンへアップデート
claude mcp # MCP (Model Context Protocol) 関連の設定
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主なオプション
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--print
: インタラクティブモードに入らず、出力のみ表示して終了 -
--verbose
: 詳細ログを有効化 -
--dangerously-skip-permissions
: コンテナ環境などでの明示的承認をスキップする (通常は非推奨)
-
インタラクティブモード内でのスラッシュコマンド
-
/bug
: バグレポート送信 (Anthropicに会話履歴が送られる) -
/clear
: 会話履歴をクリア -
/compact
: 会話履歴を圧縮してトークン消費を抑制 -
/config
: 設定の閲覧/変更 -
/cost
: 現セッションのトークン消費量を表示 -
/doctor
: インストール状況を診断 -
/help
: ヘルプ表示 -
/init
: プロジェクト用のガイドCLAUDE.md
を生成 -
/login
,/logout
: アカウントの切り替え/ログアウト -
/pr_comments
: PRのコメント一覧を確認 -
/review
: コードレビューを依頼 -
/terminal-setup
: ターミナル環境のショートカットキー設定を支援
6. 具体的な活用例
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コードの理解
$ claude > how does our authentication system work?
AI がソースファイルを読み取り、認証フローの概要を説明してくれます。
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コード修正
$ claude > fix the type errors in the auth module
型エラーを特定し、必要な修正案を提案。ユーザが承認すれば自動編集も可能です。
-
テスト実行とバグ修正
$ claude > run tests for the auth module and fix failures
テストの失敗内容を解析し、修正箇所や修正方法を提案してくれます。
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Git 操作
$ claude > commit my changes > create a pr > rebase on main and resolve any merge conflicts
プロジェクトを自動コミット・PR 作成からリベースまで支援します。
-
アーキテクチャの議論
$ claude > think hard about the edge cases in our authentication flow
複雑なシステムのエッジケースやリファクタリング指針について、さらに踏み込んだ提案をしてくれます。
7. セキュリティとパーミッション
Claude Code は、危険なコマンドの誤実行や不正操作を防ぐために、以下のようなパーミッション(権限付与)システムを導入しています。
権限種類 | 内容 | 初回承認の要否 | 「今後は聞かない」を許可した場合 |
---|---|---|---|
Read-only | ファイルの読み取り、ls 、grep など |
不要 | 常に許可 (読み取り操作) |
Bash Commands | シェルコマンドの実行 | 必要 (Yes / No) | プロジェクト単位で恒久許可可能 |
File Modification | ファイルの編集(上書き/追記) | 必要 (Yes / No) | セッション終了まで許可 |
主な利用可能ツール
- BashTool: シェルコマンド実行 (要承認)
- FileReadTool: ファイルの読み取り (承認不要)
- FileEditTool: ファイル内容の編集 (要承認)
-
GrepTool:
grep
コマンド検索 (承認不要) - GlobTool: ファイルパターン検索 (承認不要)
- NotebookReadTool / NotebookEditTool: Jupyter Notebook 関連 (要承認)
プロンプトインジェクション対策
- 権限システム: 危険な操作には必ず明示的承認が必要
- コンテキスト分析: 悪意のある指示を検出
- 入力サニタイズ: シェルコマンド実行時の入力を安全に処理
-
コマンドブロックリスト: 任意の外部サイトへアクセスする
curl
,wget
などをブロック
完全なリスクゼロではないため、不審な挙動があった場合は /bug
で報告し、常に操作内容を精査することが推奨されます。
8. ターミナル環境の最適化
シェルのサポート
- Bash, Zsh (Fishは未サポート)
改行の入力
インタラクティブモードで複数行を入力したいときは、以下の方法があります。
-
\
+ Enter で改行 - Option+Enter (Meta+Enter)
-
/terminal-setup
コマンドで、iTerm2 / VSCode 向けに Shift+Enter を割り当て可能
通知設定
-
ターミナルベル: タスク完了時に通知音を出す
claude config set --global preferredNotifChannel terminal_bell
-
iTerm2 システム通知:
iTerm2 設定 → Profiles → Terminal から 「Silence bell」 と 「Send notification when idle」 を有効にする
9. コスト管理
Claude Code は対話時のトークン消費に応じて料金が発生します。
-
目安: 1日あたり 5~10ドル/開発者。
ただし、コード量や長時間の対話で 1時間あたり100ドル超 になる場合も。 -
コスト確認:
-
/cost
コマンドでセッション内のトークン利用状況を確認 - セッション終了時にもサマリを表示
- Anthropic Console で利用履歴を閲覧
-
-
コスト削減策
-
/compact
で会話履歴を適宜圧縮 - 大きな範囲を一度に処理させず、具体的に指示を行う
- タスクを細分化して、大量ファイルの一括修正を避ける
-
/clear
で不要な会話履歴をクリア
-
大規模導入前に、少人数で試験運用しながらトークン使用量の傾向を把握し、上限設定や運用ポリシーを検討するのが望ましいです。
10. サードパーティ連携
Claude Code は、Amazon Bedrock や Google Vertex AI をバックエンドとして利用可能です。
環境変数を設定することで連携が有効になります。
Amazon Bedrock の利用例
export CLAUDE_CODE_USE_BEDROCK=1
export ANTHROPIC_MODEL='us.anthropic.claude-3-7-sonnet-20250219-v1:0'
export DISABLE_PROMPT_CACHING=1
AWS アカウントの認証情報(AWS_ACCESS_KEY_ID
など)が必要。Bedrock 経由の利用はレートリミットやコスト削減機能が充実しています。
Google Vertex AI の利用例
export CLAUDE_CODE_USE_VERTEX=1
export CLOUD_ML_REGION=us-east5
export ANTHROPIC_VERTEX_PROJECT_ID=your-project-id
Google Cloud プロジェクトとリージョン設定 (us-east5
) が必要です。
11. 開発コンテナの利用
VS Code の Remote-Containers 機能などで使える 開発コンテナ(Dev Container) 用のリファレンスが用意されています。
--dangerously-skip-permissions
を用いた無人操作でも、コンテナ内でセキュリティを担保できます。
開発コンテナの特徴
- Node.js 20 ベースイメージ + 必要ツールがプリインストール
- ファイアウォールルールによるアクセス制限 (api.anthropic.com 等必須ドメインのみ許可)
- Zsh, fzf, git など開発に便利なツールを搭載
- VS Code の拡張機能もプリセット
- リファレンス実装として公開されており、自由にカスタマイズ可能
セットアップの流れ
- VS Code と Remote - Containers をインストール
- 対象リポジトリをクローン
- VS Code でリポジトリを開く
- 「Reopen in Container」 をクリックしてDev Containerで起動
12. データ利用ポリシー
-
ライセンス / 利用規約
Claude Code はベータ版として、AnthropicのCommercial Terms of Service に基づいて提供されます。 -
ユーザーデータの取り扱い
- コードや会話の内容はモデル学習に使用されません。
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/bug
コマンドによる送信データは、問題解析の目的でのみ利用され、30日後に削除されます。
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プライバシー保護
- 受け取ったデータへのアクセスは厳格に制限され、必要最小限の情報のみ保持。
- 詳細は Anthropic のプライバシーポリシー を参照。
まとめ
Claude Code は、ターミナル上から自然言語でコード編集やデバッグ、Git操作までできる強力なアシスタントツールです。
導入にあたって意識すべきポイントを振り返ってみましょう。
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npm でインストール & 認証
npm install -g @anthropic-ai/claude-code claude
Anthropic Console アカウントでのログイン・課金設定が必要。
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ターミナルで対話的に操作
- コード解説やバグ修正、テスト実行、Git操作を自然言語で指示。
- ファイル編集やシェルコマンド実行時に明示的承認が求められるので安心。
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コスト管理
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/cost
や Anthropic Console で利用履歴を確認 - 会話履歴を
/compact
,/clear
でこまめに整理し、トークン使用量を抑制
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セキュリティ
- 権限管理システムで誤操作や悪用を防止
- 開発コンテナを使った安全な実行環境づくり
-
拡張連携
- Amazon Bedrock、Google Vertex AI など他社プラットフォームとも連携可能
- GitHub CLI / GitLab CLI と組み合わせてPR 作成やレビューの自動化
まだ ベータ版 ではありますが、既に実務での生産性向上に役立つ機能が揃っています。まずは小規模に試していただき、コードレビューやリファクタリング、バグ修正の効率化を実感してみてください。
参考文献