はじめに
新しい言語を学び始めるとき、いちばん最初につまずきやすいのが「環境構築」です。インストール手順を調べても情報が古かったり、コマンドを実行したのに command not found と言われたり、そもそも何をインストールしているのか分からないまま進めてしまったり。ここで消耗すると、肝心の言語そのものを触る前に息切れしてしまいます。
Rust の場合、この工程は実はかなり簡単です。公式のインストーラである rustup がコンパイラもビルドツールもまとめて入れてくれますし、その前段としてブラウザだけで試せる Rust Playground も用意されています。
この記事では、Playground でお試し → rustup でローカル環境を構築 → Cargo で新規プロジェクトを作って実行 までを1本にまとめました。読み終わるころには、手元で cargo run して Hello, world! が出せる状態になります。
この記事で分かること
- Rust Playground でコードを試す方法と、その得意・不得意が分かる
- macOS に rustup で Rust をインストールし、PATH まで通せる
- rustup・rustc・Cargo という3つのツールの役割の違いが分かる
-
cargo newで作られるファイルの中身と、cargo runが何をしているかが分かる - インストール直後によくあるつまずき(
cargoが見つからない等)に対処できる
第1章:まずは Rust Playground で試す
ローカルに何も入れなくても、ブラウザだけで Rust のコードを書いて実行できるのが Rust Playground です。公式が提供しているサービスで、URL は次のとおりです。
https://play.rust-lang.org/
「rust playground」で検索してもすぐ見つかります。開くと左側にエディタ、右側に出力エリアが表示され、初回は Hello, world! を出力するプログラムが最初から入っています。
左上の RUN ボタンを押すとコードがコンパイル・実行され、出力エリアに Hello, world! と表示されれば成功です。
Playground はただコードが動くだけでなく、ビルドモードやツールチェインを切り替えられるのが便利なところです。
| できること | 内容 |
|---|---|
| ビルドモード切り替え | Debug(最適化なし)/Release(最適化あり)を選べる |
| チャンネル切り替え | Stable/Beta/Nightly を切り替えて挙動を比較できる |
| 外部クレートの利用 | ダウンロード数上位のよく使われるクレートが最初から使える |
| 共有 | GitHub Gist として保存し、URL で他人に共有できる |
| 整形・静的解析 | rustfmt での整形や Clippy でのチェックをその場で実行できる |
| 低レベル出力の確認 | LLVM IR・アセンブリ・MIR を表示できる |
Nightly に切り替えると #![feature(...)] を使った未安定機能も試せます。「この機能っていつから使えるんだろう」を確かめたいときに便利です。
とはいえ Playground はあくまでサンドボックスで、実行時間には上限があり、ファイル操作やネットワークアクセスを伴う本格的なプログラムには向きません。ちょっとした文法の確認や、他人にコードを見せたいときの道具と考えるのが良いバランスです。
ここからは、腰を据えて学ぶためのローカル環境を作っていきます。
第2章:macOS に Rust をインストールする
Rust のインストール方法は macOS/Linux と Windows で異なります。まずは macOS から見ていきましょう(Windows の方は後半の補足へ)。
rustup とは
Rust は rustup という公式ツール経由でインストールするのが推奨です。rustup は「Rust のバージョン管理ツール」で、コンパイラ本体(rustc)、ビルドツール兼パッケージマネージャ(Cargo)、その他の標準ツールをまとめて入れてくれます。
3つのツールの関係を整理すると、こうなります。
普段の開発で直接叩くのはほとんど cargo で、rustc は Cargo が裏で呼んでくれます。rustup はバージョンを上げたいときなどに使います。
インストールコマンド
公式サイト(https://www.rust-lang.org/tools/install)のインストールページに、Unix 系向けのワンライナーが掲載されています。ターミナルに貼り付けて実行してください。
curl --proto '=https' --tlsv1.2 -sSf https://sh.rustup.rs | sh
実行するとインストールオプションを聞かれます。選択肢は次の3つです。
1) Proceed with standard installation (default - just press enter)
2) Customize installation
3) Cancel installation
学習用途であれば 1 を入力して Enter(そのまま Enter でも可)で問題ありません。あとはダウンロードとインストールが終わるのを待ちます。
PATH を通す
インストールが完了すると、次のようなメッセージが表示されます。
Rust is installed now. Great!
To get started you may need to restart your current shell.
This would reload your PATH environment variable to include
Cargo's bin directory ($HOME/.cargo/bin).
To configure your current shell, run:
source "$HOME/.cargo/env"
Rust のツール群は $HOME/.cargo/bin にインストールされます。このディレクトリを PATH に追加する設定は rustup がプロファイルファイルへ自動で書き込むので、新しいターミナルを開けば普通は何もしなくても使えます。
いま開いているターミナルですぐ使いたい場合だけ、表示されたコマンドを実行してください。
source "$HOME/.cargo/env"
古い記事では「~/.zshrc に手動で PATH を追記する」手順を紹介していることがありますが、現行の rustup では通常不要です。まずは新しいターミナルを開いて確認してください。
それでも cargo が見つからない場合のみ、フォールバックとして次の1行を追記します。
echo 'source "$HOME/.cargo/env"' >> ~/.zshrc
インストールを確認する
新しいターミナルを開いて、次のコマンドでバージョンが表示されればインストール成功です。
rustc --version
cargo --version
rustup --version
cargo とだけ入力して実行すると、使用可能なサブコマンドの一覧が表示されます。ここで一覧が出れば、Cargo が正しく PATH に入っています。
執筆時点(2026年7月)の安定版は Rust 1.97.1 です。Rust はおよそ6週間ごとにリリースされるため、表示されるバージョンは当然これより新しくなります。バージョンを上げたくなったら rustup update stable を実行してください。
Windows の場合(補足)
Windows では公式サイトから rustup-init.exe をダウンロードして実行し、画面の指示に従います。コンパイル時に Microsoft C++ ビルドツール(Visual Studio の C++ ビルド環境)が必要になるため、未導入の場合はインストーラの案内に従って先に入れてください。WSL を使っている場合は、上の Unix 向けワンライナーがそのまま使えます。
第3章:Cargo の役割を押さえる
cargo は Rust 開発の中心にあるツールです。ひとことで言えば「ビルドシステム兼パッケージマネージャ」で、次のような仕事をまとめて引き受けてくれます。
| コマンド | やること |
|---|---|
cargo new <名前> |
新しいプロジェクトの雛形を作る |
cargo build |
プロジェクトをコンパイルする |
cargo run |
コンパイルしてそのまま実行する |
cargo check |
実行ファイルを作らずに型エラー等だけ高速に確認する |
cargo test |
テストを実行する |
cargo add <クレート名> |
外部ライブラリ(クレート)を依存に追加する |
他の言語で言えば、ビルドツールとパッケージマネージャが最初から一体になって公式提供されているイメージです。依存ライブラリの管理も Cargo が Cargo.toml を通じて面倒を見てくれるので、Rust の開発ではまず使わない日がありません。
第4章:最初のプロジェクトを作って実行する
それでは実際にプロジェクトを作ってみましょう。まず作業用ディレクトリを用意します。
cd ~
mkdir workspace
cd workspace
新規プロジェクトは cargo new <プロジェクト名> で作成できます。ここでは学習用に rust-lesson という名前にします。
cargo new rust-lesson
cd rust-lesson
エディタで開きます(VS Code の場合)。
code .
code コマンドが見つからない場合は、VS Code を起動してコマンドパレット(Cmd + Shift + P)から Shell Command: Install 'code' command in PATH を実行してください。
生成されたファイルを見る
cargo new を実行すると、次の構成が作られます。
rust-lesson/
├── Cargo.toml
├── .gitignore
└── src/
└── main.rs
Git リポジトリの初期化も同時に行われます(すでに Git 管理下のディレクトリ内で実行した場合は、Git 関連ファイルは作られません)。
Cargo.toml はプロジェクトの設定ファイル(マニフェスト)で、中身はこうなっています。
[package]
name = "rust-lesson"
version = "0.1.0"
edition = "2024"
[dependencies]
edition は Rust の言語エディションで、現行の cargo new は最新の安定エディションである 2024 を指定します。外部ライブラリを使うときは [dependencies] に追記していきます(cargo add を使えば自動で書き込まれます)。
ソースコードは src ディレクトリの中に置くのが Cargo の約束事です。.rs が Rust ファイルの拡張子で、src/main.rs の中身は次のようになっています。
fn main() {
println!("Hello, world!");
}
fn は関数を定義するキーワードで、ここでは main 関数を定義しています。Rust ではプログラムを実行すると最初に main 関数が呼ばれる決まりになっています。その中の println! が、文字列を標準出力に表示するマクロです。
println! の末尾に付いている ! は「マクロ呼び出し」の印です。関数ではなくマクロなので、println("...") と書くとエラーになります。最初のうちは間違えやすいポイントです。
実行する
プログラムの実行には cargo run を使います。
cargo run
Compiling rust-lesson v0.1.0 (/Users/you/workspace/rust-lesson)
Finished `dev` profile [unoptimized + debuginfo] target(s) in 0.42s
Running `target/debug/rust-lesson`
Hello, world!
Hello, world! が表示されれば成功です。
本来 Rust のプログラムを動かすには、ソースをコンパイルして実行ファイルを生成し、そのファイルを起動する、という2段階が必要です。cargo run はこの2つをまとめて行ってくれます。
生成された実行ファイルは target/debug/ の下にあるので、次のように直接起動することもできます。
cargo build
./target/debug/rust-lesson
普段の開発では cargo run だけ覚えておけば十分です。なお target/ ディレクトリはビルド成果物置き場で、cargo new が作る .gitignore によって最初から Git の管理対象外になっています。
第5章:つまずきやすいポイント
環境構築でよく引っかかる箇所をまとめておきます。
-
command not found: cargoと出る:インストール直後の既存ターミナルには PATH が反映されていません。新しいターミナルを開き直すか、source "$HOME/.cargo/env"を実行してください。 - Playground と手元で結果が違う:Playground のチャンネル(Stable/Beta/Nightly)やエディションが手元と異なる可能性があります。Nightly 限定の機能は手元の Stable ではコンパイルできません。
-
プロジェクト名にハイフンを使った:パッケージ名にハイフンは使えますが、コード内でクレートとして参照する際はアンダースコアに変換されます(
rust-lesson→rust_lesson)。気になる場合は最初からアンダースコアで作ると混乱がありません。 -
他のプロジェクトの中で
cargo newしてしまった:既存のワークスペース内では作成に失敗することがあります。作業用ディレクトリの階層を確認してください。
curl ... | sh は、ダウンロードしたスクリプトをそのまま実行する形式です。今回は公式が案内している https://sh.rustup.rs なので問題ありませんが、出所の分からないスクリプトをこの形で実行しない習慣は付けておきましょう。
まとめ:Rust 環境構築チェックリスト
-
Rust Playground(
https://play.rust-lang.org/)で RUN を押し、Hello, world!が出た -
curl --proto '=https' --tlsv1.2 -sSf https://sh.rustup.rs | shを実行し、1を選んでインストールした -
新しいターミナル、または
source "$HOME/.cargo/env"で PATH を反映した -
rustc --version/cargo --versionでバージョンが表示された -
cargo new rust-lessonでプロジェクトを作成し、Cargo.tomlとsrc/main.rsを確認した -
cargo runでHello, world!を出力できた -
バージョンを上げたくなったら
rustup update stableを使うと覚えた
ここまで来れば準備は完了です。あとは src/main.rs を書き換えて cargo run するサイクルを回すだけで、いくらでも試せます。まずは println! の中身を変えるところから、気軽に手を動かしてみてください。
