AIを使いこなすにはどうしたらいいのか、って個人利用レベルでは使ってみるところからだと思いますが、組織の中で使うとなる技術でない問題が多くあります。使う人のスキルではなく、組織の仕組みそのものが、AIのいる前提になっていなくて詰まりがちです。
ここでは、組織の仕組みが問われる具体例を3つ挙げます。
例1:AIコストは、工数管理・経理・契約部門をまたぐ話になる
先日の記事で、AIコストについて考えるときに大事なのは、「今どのモデルが安いか」「従量課金と定額制のどちらが得か」という目先の比較ではなく、その裏でどれだけの計算資源が動いているかを捉える視点だと書きました。会社としてこの原価構造にどう向き合うかは、組織としての設計の話になります。その一例が、AIコストの按分です。
昨今、AIコストが人件費に並ぶ規模になってきています。人間の工数管理をしているプロジェクトでは、AIのコストも同じように管理する必要があります。
とはいえ、プロジェクトごとに厳密にAIコストを算出できるわけではありません。人間だって、複数のプロジェクトを並行して進めている人は、月初や月末に「Aプロジェクトに6割、Bプロジェクトに2割、その他2割」のような主観的な配分をして、その数字がそのまま管理会計に載ります。AIコストも同じでよいはずです。人間の工数と同じ精度までしか望めません。
工数管理システムには、たいていそもそもAIコストを入力する欄がありません。
経理部門には、AI利用料を1円単位で振り分ける必要がありますが、按分のわかる明細書はありません。
AI契約を管理している部門は、契約や支払いは見ていても、プロジェクトへの按分までは管掌していません。
AI契約部門、経理部門、工数管理システムの担当部門、プロジェクト現場のすべてを巻き込んだ変革が必要です。
例2:人月前提の契約・見積もりは、AIの分だけ実態とずれていく
SI業界では、準委任・請負のどちらであっても、人月を基準に見積もる商慣行が根強く残っています。何人が何ヶ月働くかで金額が決まり、成果物はその対価として提供されます。
AIがタスクの一部を代替するようになると、この対応関係が崩れてきます。
たとえば、従来なら3人月と見積もっていた開発を、AIの支援で2人月相当の人手で進められるようになったとします。「1人月分を値引きするか」だけではありません。AI利用料は誰が負担するのか。短縮できた時間で品質を高めたり、追加の提案をしたりする価値を、どう見積もりに反映するのか。そもそも、顧客と提供側のどちらにAIによる生産性向上の価値が帰属するのか。
本質的には、見積もりの単位そのもの、人月なのか、成果物ベースなのか、価値ベースなのかを、営業、PM、契約部門が一緒になって考え直していく必要があります。これはプロジェクトの中で個人が工夫できる話ではありません。旧態依然とした社内見積もりの体制を残していては、AIコストを適切に扱えません。逆に言えば、ここに正面から向き合った会社ほど、AI時代の競争力を得るのではないかと思います。
例3:ソフトウェア利用申請制度はAI時代に機能しなくなっていく
「ソフトウェアをインストールするには申請してください」という、多くの現場にあるルールも、AIエージェントの前では機能しなくなっていきます。
スクリプト作成、パッケージ取得、設定ファイル編集など、それらがソフトウェアのインストールに当たるのかどうか、線引きがもともと曖昧でした。AIは自動でこれらを行います。申請制度でセキュリティ管理というのは難しいです。詳しくは、先日の記事で述べました。
この問題も、部門横断で組織全体で考える必要があります。ルールを作る部門、現場のエンジニア、セキュリティ部門が一緒になって考えていきませんか。
組織を作り替えるとは
3つの例に共通しているのは、古い前提を崩していくということです。厳密な工数配分という前提。人月と成果物が対応するという前提。ソフトウェアという概念が明確だという前提。どれも、AI登場後に現実とのずれが大きくなってきていると思います。
使う人がどれだけ上手にAIを使いこなしても、それを受け止める組織の仕組みが変わらなければ、AI活用はどこかで頭打ちになってしまいます。逆に言えば、頭打ちになっている場所さえ見つけて手を入れれば、AI活用はまだまだ伸びる余地があるということでもあります。工数管理システムの入力欄、契約書のひな形、申請フローの文言、社内ルールなど、地味な場所ほど、まだ手つかずのまま残っているのではないでしょうか。
手を打たずに放置すると、もっと悪いことも起こります。仕組みの整備を後回しにして、そのつどの人間同士の調整や稟議、部門間の押し付け合いでこのズレを埋めようとすると、AIによって削減できたはずの知的労働コストが、社内調整コストとしてそのまま発生してしまいます。AIによって浮いた時間を、社内調整ではなく、より価値の高い判断や設計に使えるようにしたいですよね。
まとめ
- AIコストの按分には、工数管理・経理・AI契約部門をまたぐ仕組みの変革が要る
- 人月前提の契約・見積もりは、AIが生産性を上げるほど実態とずれていく
- ソフトウェア利用申請制度は、AIエージェントの登場で線引きが崩れるからこそ、申請の対象を再定義するチャンスでもある
いずれも、使う人個人の努力だけでは解決できず、複数部門をまたぐ仕組みやシステムの作り替えが必要です。工数管理も、契約の形も、申請のルールも、業界全体で手つかずの部分がたくさん残っています。だからこそ、ここは業界みんなで一緒に整えていく価値があると思うのです。AIを使いこなせる組織や業界になれるかは、こういう部分にあるんじゃないかと思うんです。