本記事ではSIerに所属する著者が3年間にわたり、私たちのグループで実践している「1on1」の内容を紹介します(グループの業務内容は主にAI系の自社製品開発です)。
・1on1をこれから始める方
・1on1の取り組みを検討をされている方
・1on1を実施しており、さらに改善を検討されている上司側の方
・1on1を実施してもらっているが、なんだかしっくりきていない部下側の方
こうした方々にとって、何らか参考となれば幸いです。
とくにIT系の企業や職種では1on1を開催しているところも多いと思います。
新人プログラマの方にとっても、1on1を実施する側がどのようなことを考えて実施しているのか、ひとつの例として参考にいただければ幸いです。
(なおQiitaでは現在、新人プログラマ応援 - みんなで新人を育てよう!企画も開催中です)
私が自分の頭を整理するために記事化しましたが、非常に長い文章になってしまいました。
しかし、効果的で長期間継続されるような1on1を実現するためには、実施する側が考えておくべきことは非常に多いと感じています。
そこで、約3年間にわたり継続されている1on1の背景として、私がどのように考えて、どのように設計・改善し、現在は具体的にどのような実施されているのかを解説します。
本テーマに興味がある方は、お時間ございますときに、コーヒー片手にゆっくりと一読いただければ幸いです。
本記事の内容
1. 世間一般的な1on1について
2. 1on1を実施する目的(著者の場合)
3. 具体的にどのような会話を行うのか(目的1について)
4. 具体的にどのような会話を行うのか(目的2について)
5. 1on1の最大の注意点:やり方とあり方
6. さいごに
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1. 世間一般的な1on1について
最初に世間一般的な1on1について説明します。
一般的な1on1の実施目的としては、
上司と部下の対話型コミュニケーションを通じて、
・部下が自身の仕事を振り返る手助けをして、成長を促進し、やる気を促す
・上司と部下の間に信頼関係を構築する
といった記載が多いように感じます。
1on1の内容ですが、1on1は部下のための時間なので、話題の中心は部下とされます。
それを踏まえた1on1の一般的なテンプレートには以下のような話題設定が多いように感じます。
・部下より、最近の体調について
・部下より、最近取り組んだことについて
・部下より、その他、悩んでいることや困っていること、キャリアについて
・部下より、今後取り組むことについて
・部下より、その他、話をしておきたいこと
・部下より、今回話しながら振り返ってみて気付いた点について
上記のような形式の1on1で目的が達成され、皆が楽しく幸せに働けているのであれば何の問題もありません。
しかし、通り一辺倒な1on1では、
・1on1の予定がリスケされたり、いつの間にか定期的開催されなくなり、そして開催すらなくなった
・なんだか形式的であり、会社や組織の方針だから仕方なく実施しているだけに感じる
・1on1を終えたあと、「ああ、今日1on1を実施してもらえて(or 実施して)良かった~」と思えない
・双方ともに1on1にかける時間に投資対効果がないと感じている
といった感想を、とくに1on1を受ける側が持ちやすいと感じています。
もしかしたら今現在、上記のような状況の方もいらっしゃるかもしれません。
そこでこの3年間、私が1on1を実施する側になり、私なりにいろいろと改善した内容を本記事では紹介します。
2. 1on1を実施する目的(著者の場合)
以下より、著者である私が実施している1on1について記します。
まず、
・どのような1on1を誰と行うのか
・どのような目的で1on1を実施しているのか
について紹介します。
その後、
・具体的にどのような会話を行うのか
・開催頻度
などを紹介します。
2.1 どのような1on1を誰と行うのか
私は1on1を、毎日ともに働く同じ部署のメンバー(つまり毎朝、朝会をするメンバー)を相手に実施しています。
ここで「同じ部署のメンバー全員と1on1を実施しているのか?」という疑問が湧くかと思います。
回答としては、「全員とは実施していません」。
私が1on1を実施する相手は、最大で5人までにしています。
そのためグループのメンバーが6人を超えた時点からは、そのメンバーの1on1はリーダーである私ではなく、サブリーダーであり、今後私が抜けた場合にはリーダーになるであろう人物に任せています。
これには四つの理由があります。
・きちんとした質の1on1を継続するには5人が精一杯
・サブリーダーが1on1を実施する側にも回ることで、実施する側に立ってみた成長が期待できる
・リーダーの私が不在となっても(病気、育休、転職等)、チームが継続可能な体制を保てる
・ある程度年齢が近いペアの方が1on1の効果が高いと実感している(10歳差あたりが最適と実感)
だからです。
2.2 どのような目的で1on1を実施しているのか
私が(私たちのグループ)が、1on1を実施している目的は大きく二つです。
一つ目の目的は、
メンバーが「毎日、心身ともに健康で、楽しく、成長しながら働ける」ように、”私が”皆と効果的にコミュニケーションして、良い組織を作り・運営をしていくためには、どのような改善が可能かを確認する
二つ目の目的は、
メンバーが抱えている、緊急ではないが重要な「気になること」(問題)に対して、”私が”実行できるアクションがないかを確認する
です(上記の目的文章の”私”とは、1on1を実施する側の人間を意味します)。
この二つの目的設定には、一般的な1on1の目的とは大きく異なるポイントが三つあります。
1. 部下の成長の促進は目的には含めない
2. 曖昧な内容の文言は目的には含めない
3. 目的は常に「私側(1on1を実施する側)」の行動の改善にある
となります。以下にてそれぞれの詳細について説明します。
2.3 一般的な1on1の目的との三つの違い
一つ目の違いは、一般的な1on1で目的とされる「部下の成長の促進」を、私(私たち)の1on1では目的に掲げていない点です。
基本的に1on1は、30分間~60分間で実施されます。
私たちは30分間で開催しています。
しかしたったの30分間で、「本当に効果的な振り返り」と「成長ための最適な行動プランの策定」は不可能です。
当然ながら1on1を実施していれば、メンバー自身が振り返りながら話をする過程で、自ら成長のきっかけや改善の行動策を見つけることもあります。
しかし、これを再現性をもって毎回実現するのは不可能だと実感しました。
この事実をいさぎよく受け止め、「たったの30分間に部下の成長を促し導くことを、毎回確実に実行するのは無理」と、私は諦めています
(※ただし、1on1の目的からは外しますが、成長促進は重要であり、個々人に成長のためのフィードバックとして、私が感じていることを伝えディスカッションするMTGを別途実施しています)
二つ目の違いは、一般的な1on1で目的に掲げられることが多い、上司と部下の間に信頼関係を構築するといった曖昧な内容を、目的の文言に含めていない点です。
私にはまず、
そもそも「信頼の構築」とは、30分程度の会話を月に1、2回追加で実施するだけで可能なのか、という疑問があります。
そして結論として、それだけで信頼など構築できないと実感しています。
そのため、私たちの1on1の場合、信頼関係の構築はその前段階に置かれています。
信頼関係が構築されているからこそ、1on1の実施がより効果的となり、だからこそ1on1が継続され、そして習慣化されると実感しています。
そのため新メンバ加入などの際には、まずきちんと私、そしてメンバー間で信頼関係を築くことを最優先に取り組みます。
信頼関係が構築できていない状態での1on1は、ただの上っ面な会話に終わり、ムダな時間になりがちです。
そして、上っ面な会話をいくら繰り返したところで、そこに信頼関係が生まれることは難しいでしょう。
もちろん、「信頼関係の構築や醸成」を、1on1の成果として私(私たち)は期待しています。
しかし「信頼関係の構築や醸成」はアウトプット(出力)ではなく、アウトカム(成果)だと考えています。
アウトカム(成果)はコントロールできないものです。
私はコントロールできないものにフォーカスを当てるのではなく、コントロールできることに対してフォーカスして行動することが大切だと考えています。
そのため、1on1の目的も曖昧な表現(≒アウトカム)の文言は避け、
「どのような改善が可能かを確認する」、「実行できるアクションがないかを確認する」という文言に定めることで、明確かつ毎回の1on1でその目的の実現が可能な具体的な内容に設定しています。
三つ目の違いですが、これが一般的な1on1との大きな違いであると、私は考えています。
それは、1on1を実施する目的は常に「私側(1on1を実施する側)」の行動の改善にフォーカスしている点です。
私は、他人の思考や行動はコントロールできないと考えています。
1on1を実施する側として、実施される側であるメンバーの行動や思考をコントロールしたり、思い通りに自由自在に導くことは不可能だと考えています。
私がコントロールできるのは私自身の行動だけであり、だからこそ私は、1on1とは、「メンバーが望む、短期的・中長期的に働きやすい環境を構築するために、私には何ができるのか?」を確認する機会、だと考えています。
そして私ができることを実行(アウトプット)し、その成果(アウトカム)としてメンバーが働きやすくなれば嬉しいと考えています。
以上、1on1の目的とその意図についての解説でした。
(再掲)【目的】
(1)メンバーが「毎日、心身ともに健康で、楽しく、成長しながら働ける」ように、”私が”皆と効果的にコミュニケーションして、良い組織を作り・運営をしていくためには、どのような改善が可能かを確認する
(2)メンバーが抱えている、緊急ではないが重要な「気になること」(問題)に対して、”私が”実行できるアクションがないかを確認する
(再掲)【目的内容の特徴】
1. 部下の成長の促進は目的には含めない
2. 曖昧な内容の文言は目的には含めない
3. 目的は常に「私側(1on1を実施する側)」の行動の改善にある
3. 具体的にどのような会話を行うのか(目的1について)
私たちの1on1の二つの目的のうち、一つ目の目的
(1)メンバーが「毎日、心身ともに健康で、楽しく、成長しながら働ける」ように、”私が”皆と効果的にコミュニケーションして、良い組織を作り・運営をしていくためには、どのような改善が可能かを確認する
に対する、具体的な会話テンプレートを紹介します。
上記の目的の文言、「毎日、心身ともに健康で、楽しく、成長しながら働ける」とは、私たちがグループの価値観、バリューとして定めている内容です
(ただし、この文言は私が定め、最初から全員に求めている内容となります)。
私は、「半期もしくは四半期ごとに、リーダーとメンバで合意した大目標や仕事内容」に対して、毎日健康に、楽しく、成長を実感しながら働けていれば、
メンバーから、
・自然と成果が生まれる
・転職したいという気持ちは湧きづらい
と考えています。
注意点ですが、私はメンバーの転職を防ぎ、メンバーを囲い込みたいという意図はありません。
むしろ、その人のキャリアにとって、そろそろ私のグループを離れることを検討するべきだと感じれば、私からまずは社内での兼務や部署異動、それではうまくいかなさそうな場合は転職すらも検討してみてはどうかと提案します。
当然、押し付けたり、勝手に異動を決めたりはしないですが、この今どきの社会において、中長期的に考え、定年までずっと私のグループにいるというのはあり得ず、離れるべき適切な時期が必ず存在します。
上記に記載した1on1の結果として「転職したいという気持ちが湧きづらい」という表現は、その人のキャリアとしての理想的タイミングでの転職ではなく、現在の私が創り上げているメンバーの仕事環境への不満から転職願望が湧くのは防ぎたい、という意味です。
なぜなら、そんな気持ちと葛藤しながら毎日を過ごすこと自体がその人の人生の時間効率のムダであり、私は最高の気持ちで働ける環境をメンバーに用意したいと考えています。
そのような環境が用意できるように、私は本当にきちんと行動できているか、私に改善したり、実行できる行動が他にないかを1on1で確認するのです。
そこで、1on1の冒頭では毎回決まって、以下の三つの質問をします。
・2週間前と比べて、この2週間の心身の健康はどうですか?
・2週間前と比べて、この2週間はより楽しかったですか?
・2週間前と比べて、この2週間で成長できたと感じますか?
です。
以下にてこの三つの質問の意図について解説します。
3.1 目的1に対する具体的質問の意図
一般的な1on1であっても、メンバーの健康面について質問したり、気にかけたりするかと思います。
ですがここで1on1を実施する側が、
「最近、健康面はどうですか?、体調はどうですか?」
と尋ねたところで、ほとんど意味はないと実感しています。
多くの場合、「はい、ちょっと疲れてはいますが、とくに問題ないです」 と回答されるだけです。
ここで「最近、精神的に辛くて、精神科に通うようになりました」と言われたら、そもそも手遅れですし、そんな内容を開示してくれる関係性であれば、もっと事前に察知、対応できるはずです。
とくにメンタル関係は、メンバーが通院し出してからでは遅いです。
(メンタル系の通院歴は、通院が終わって数年経つまで、生命保険、医療保険、団信付き住宅ローン等に制限が発生するため、人生への影響が非常に大きいです)
そこで私は、1on1で効果的に心身の健康を確かめるコツとして、リファレンスポイントの設定が重要となる、という結論に至っています。
リファレンスポイントとは基準点を意味します。
メンバーに対して、2週間前の自分に基準点・リファレンスポイントに置いてもらい、
2週間前と比較して、この2週間の自身の心身の健康について振り返りながら話してもらうと、話す側はより具体的に詳細な内容を話しやすくなります
また1on1を実施する側も、2週間単位で変化を知り、対応することができます。
(アジャイル、スクラムの用語では、2週間スプリントで検査を実施し、適応することができます)
ただし、健康状態を本音で話してもらうには、やはり事前に信頼関係が構築できていないと無理です。本当のことを話してくれません。
(アジャイル、スクラムの用語では、透明性が低い状態と言えます。
スクラムの三本柱である、透明性、検査、適応は、1on1の実施においても重要だと私は感じています)
1on1で話す内容が具体的となり、効果的な1on1を実現するべくリファレンスポイントを設けるためには、自然と、1on1の実施スパンは2週間に1度のペースになります。
「なぜリファレンスポイントが2週間前なのか?」ですが、これには三つの理由があります。
-
私たちはスクラム開発をしている期間は2週間スプリントを採用することが多いです。そのため、1on1も2週に1度にすると、1スプリントに1回の1on1開催となり、スクラム開発のリズムを乱さず、同期させて実施できます
-
リファレンスポイントがたとえば3週間や1カ月前など、2週間以上前になると意味をなさないです。記憶が曖昧になるため、話す内容も曖昧となり、振り返りから詳細さが失われ、1on1の効果が非常に薄れてしまいます
-
何より、私の改善行動が2週間に1度より遅いペースだと、本当に良い環境を作るのが難しくなる
という3つの理由から、1on1の開催は2週間に1回のペースです。
1on1でメンバーの話を聞き、私は自身の行動を改善したり、環境を変えるための行動を起こして、必要によっては自分の上位ラインに相談・依頼したりしますが、
たとえば1on1が月に1回開催のペースでは、その改善ペースも月に1回となり、組織としてまったくアジャイルではなく(機敏性がなく)、
そんな改善が遅い組織では、今どきの若く優秀な方の多くは嫌気がさす、と感じています
さすがに週1で1on1を開催するのは頻度が高すぎでしたので、
2週間に1回ペースが最適で一番効果的だと実感し、落ち着いています。
ここまで、心身の健康の話をしましたが、「楽しさ」と「成長」も同様です。
・2週間前と比べて、この2週間はより楽しかったですか?
・2週間前と比べて、この2週間で成長できたと感じますか?
という質問も、具体的で詳細な話となるようにするために、2週間前の自分の状態と比較して、この2週間について話をしてもらいます。
楽しかった話と、成長実感の話は内容が被ることも多いのですが、その点はとくに問題ではありません。
(「●●が楽しかったし、成長にもつながった。」という感じです)
逆に楽しさと成長が被らないときこそ、1on1をしている側としても面白いタイミング、というよりは非常に重要な場面となります。
「この2週間あまり楽しくはなかったが、成長した実感は強い」というのは、短期間であれば悪くはないですし、仕事なのでそんな時期もあります。
しかし、その期間が1ヶ月以上続く場合は、健康面に危険に感じます。
最初にそのような状態であると聞いたときに、すぐさま「その状態はいつまで続きそうですか」と尋ねます。
ある程度近いスパンで終わりが見えているならば、様子に注意しながら、観察ですが、
いつまでその状態が続くのか、その終わりが不明の場合は、1on1をする側からなんらかの改善アクションを起こさないと、いつかそのメンバーは健康を崩します。
一方真逆で、「この2週間楽しくはあったが、成長できた感は少ない」というのは、仕事のアサインなどを私は(1on1をする側)は、話し合って改善していく必要があります。
楽しく過ごしてくれているのは嬉しいですが、成長実感のないまま仕事をさせ、人生を過ごさせるのは上司側の罪だと私は考えています。
とくに最近の若くて優秀な人材は、会社というのはもう終身雇用の時代ではないですし、新卒で入社した会社にずっといるなんて想定していないです。
成長できない職場にいることに危機感を感じます。
ちなみにこうした「成長できない企業」は、「ゆるブラック企業」 と呼ばれています。
(日経ビジネス:ゆるブラック企業 残念な働き方改革の末路(2021年11月15日号))
私はメンバーにダイレクトな指示はあまりしませんし、行う仕事を選ぶ最終決定は常に本人にしてもらいます。しかしそれでもやはり、上司である私側の指示であることに変わりはありません。
そして私の指示でメンバーが仕事をしているということは、メンバーの時間の使い方を私が決めているわけであり、すなわちメンバーの人生の大切な時間を私が左右しています。
だからこそ依頼する仕事内容、提案する仕事内容はそのメンバーの人生にとって意味のあるものとなるようにいつも心がけています。
「いやいや、給料もらって仕事している身なんだし・・・」と思われる方も当然いらしゃるとは思いますが、
今どき、給料もらっている立場なんだから、言われた仕事をきちんとやれ、という態度の上司のもとで働き続けてくれるような、賢く優秀な若者などほとんどいないでしょう。。。
終身雇用も崩れつつあり、メンバーシップ型からジョブ型へと移行する気配もあり、何よりCOVID-19によって、リモート面談が当然となって、転職活動が気軽に実施できる社会になった影響は大きいです
ということで、きちんと、楽しく、成長しながら働けているかを具体的に知るためにも、
やはり2週間前の自分をリファレンスポイント、基準点におき、比較しながらこの2週間について詳細に話してもらうことで、具体的な話を聞くことができ、
”私が”、メンバーが「心身ともに健康で、楽しく、成長しながら働ける」ように改善、行動すべき点を洗い出すことができます
主目的は「私側」にありますが、当然話を聞いているとメンバーに対して、「こう行動するともっと良いのではないか」とアドバイスできる内容は多々あります。
しかし、それは必要に応じて伝えるか判断です。
基本的に、
・伝えないと絶対マズイ
・相手側から私に、何か良いアドバイスはありますか?と尋ねている
でない限り、私から「今の話を聞いていて、こうするのはどうかね?」と発言することはないです。
目的1に対する質問はテンプレート的にいつも同じ質問なので、お決まりとなっています
(再掲)
・2週間前と比べて、この2週間の心身の健康はどうですか?
・2週間前と比べて、この2週間はより楽しかったですか?
・2週間前と比べて、この2週間で成長できたと感じますか?
4. 具体的にどのような会話を行うのか(目的2について)
私たちの1on1の二つの目的のうち、二つ目の目的
(2)メンバーが抱えている、緊急ではないが重要な「気になること」(問題)に対して、”私が”実行できるアクションがないかを確認する
に対する、具体的な会話テンプレートを紹介します。
しかし、これに対する会話テンプレートはないに等しいです。
目的1の3つの質問をして、応答したあと、
「ありがとう。今わたしに話したい事、聞いてみたいこと、最近気になっていることは何かありますか?」
と尋ね、あとは永遠に私は黙っていて、うなづきながら聞き、傾聴しているだけです。
なお、一般的な1on1では記録をとることが多いですが、私(私たち)は1on1において記録をとったり、残したりしません。
理由は以下の二点です。
・その場で記録をとる場合は、自分の注意が「記録として打ち込む内容として何を書こうか?」に移ってしまい、相手から注意が外れる瞬間が生まれてしまって、相手の話への傾聴の姿勢が崩れるため
・後から記録を残す場合は、その時間が面倒であり、そのうえその記録を見直す必要性が生じたことがないため
です。
1on1を実施する側である私は、一切、口をはさむことなく、聞き続け、傾聴し続けるだけです。
メンバーによっては話したいことを用意してきますし、その場で思いつくままに話す人もいます。
「それで沈黙にはならないのですか?」と疑問が湧くかもしれませんが、回答としては「ならないです」。
なぜならグループのメンバーは、そもそも沈黙にならないメンバーを選んでいるからです。
(これは採用面接におけるエアポートテストと呼ばれ、外資で多い手法ですが、「その人と空港に数時間閉じ込められたとして、話が弾み、楽しく時間を過ごせるか」を一つの採用基準にする考え方です)
私たちは、私および既存メンバーと楽しく話が弾むであろうメンバーだけを新加入させるので、沈黙の心配はないです。
この2番目の目的において、自由に話をしてもらうのですが、私が気をつけている点としては
・短期的な仕事の話はしない
・一切、私からは何も話さない
・緊急ではないが重要な「気になること」(問題)を話してもらう
の三点となります。
短期的な仕事の状況は別途、きちんとホウレンソウをもらうので、1on1の開催時までホウレンソウを待つような状況にはそもそもならないです。
仮に短期的な仕事の話や相談になりそうな場合は、「その話はでは別途時間をとりましょう」と言って、すぐに別のMTGを設定し、併せて一緒に参加すべき人も参加できるようにします。
また、一切私から何も話さないのは、1on1は相手側が話す時間であるからです。
「小川さんはどう思いますか?」と相手が言うまで、一切、私から話すことはないです。
相手から振られて初めて言葉を出します。
そうしないと、短い30分間という時間を相手のために有効に使えないからです。
1on1は"私が"行動を改善するために、”相手”の話を聞くことを、私は(私たちは)目的としているので、私(1on1を実施する側)がペラペラ話すのは、私たちの場合、1on1の目的から外れた行動になります。
そしてこの二つ目の目的に関して話してもらいたい内容は、あくまで、緊急ではないが重要な「気になること」(問題)、です。
緊急性と重要性の4象限で物事を分類できますが、
緊急かつ重要な問題は、1on1を待たず、すぐにcallかメンションです
緊急だが重要ではない問題は、私以外のメンバーに対してメンションするなり、相談して、自己解決してくれます
緊急でも重要でもない問題は、日報の「気になること」か、毎朝の朝会で朝会前に各人が「気になること」としてTeamsの朝会メモ欄に記載しており、それに朝会で対応します。
(なお私たちのグル―プは毎日の終わりに、「YWT-P」:本日やったこと(Y)、本日新たに理解し学んだこと(W)、明日以降実施すること(T)、気になっていること(P)を、丁寧に日報として記載し、1日単位で個人の振り返りを促す仕組みにしています)
また、私は 「問題」 という言葉を基本的には使わないようにしています。
「問題」という表現は、仰々しく、構えてしまう印象を与えるので、気軽に何でも口にしてもらえるように、「気になること」と、私はいつも表現しています。
そして大切なのは 「緊急ではないが重要なこと」 です。
たとえばどのような会話があるか例を挙げると、
・今後、●●のスキルをもっと磨きたいのですが、そのために最適な方法は何がありますか?
や
・●●について知りたいのですが、社内で誰に聞くと良いですか?
といった、自身の中長期的な技術研鑽、キャリアの話、
逆に
・小川さんって起業とか興味ないんですか?なんでISIDにいるんですか?
みたいな私のキャリアへの考えた方の質問、
そして、もっとプライベートな内容としては、
・今度結婚します、部内全員に伝えるべきでしょうか?
や、
・妻が妊娠して、子供ができたのですが、いつどのように誰に伝え、育休などを考えたら良いでしょうか?
などが話題になります。
とはいえ、確かに誰もが自分の中長期的キャリアを自ら考え、私に話をできるわけではないです。
そのため、最初の頃は会話のフックを私から投げることもあります。
また、他のメンバーの1on1も実施しているメンバーについては私から、
「●●さんと今1on1していて、彼はどんな感じですか?私に何かできることはありますか?」
と質問し、直接1on1できていないメンバーの様子を確認します。
私(私たち)の1on1の時間、とくにこの二つ目の目的の時間は、
業務報告のホウレンソウの時間ではないですし、
現在進行中の業務の困りごとを相談する場でもないです。
では何の時間かというと、メンバーのキャリヤとその人の働き方、生き方の相談時間です。
そしてその話を聞いてのアウトプットは、そのメンバーが望む中長期的な状況に向けて、"私が"(1on1を実施する側が)遂行できるアクションの実施となります。
話を聞いて、私はそのキャリアを実現できるように、早め早めに社内の変革に必要なアクションなどを実行に移します(部署異動、案件アサイン、仕事内容変更、採用制度の変更、社内制度改革の提言などなど)。
もちろん私たちの1on1において、1on1をされる側は話しながら自身のキャリアについて考えを深めることになりますが、本当に自身のキャリアを考えるのは1on1の30分間ではなく、日々の業務の後や休日やら、多くの時間をかけてゆっくりとです。
たった30分間、月に1回か2回の機会に考えてもらったところで、自身の今後のキャリアのような難しい内容は見えてきません。
普段から考えてもらい、それを1on1の機会に私にぶつけることで、メンバーはさらに考えを深めることができるのです。
以上で1on1の1セッションは終了ですが、最後に重要な行動が、 「1on1を終える前に次回の1on1の予定を入れる」 という点です。
1on1が定期予定としてスケジュールされている場合は良いですが、任意に毎回スケジュールの予約を入れる場合は、今回の1on1を終える前に、次回の日程をさっと予約しておきます。
そうしないと、次回の予定を入れることが放置されてしまい、1on1が立ち消えるリスクが高まります。
ここまで長い文章となりましたが、最後に、私が1on1を3年間実施してきて実感した、1on1の最大の注意点について記載します。
5. 1on1の最大の注意点:やり方とあり方
1on1において、非常に重要だと実感したのは、やり方(How)にばかり気を取られ、1on1を実施する側の人間としてのあり方(Being)がおろそかにならないよう気をつけるという点です。
偉そうなことを記載してまだまだ私も若輩ものですが、少なくとも自身のあり方を見つめ直し、1on1に臨むことが大切だと実感しています。
とくに1on1は人事部の号令のもと、全社的に導入されるケースが最近では多いかと思います。
その結果、そのプロセスやツール、すなわち、やり方(How) に焦点があたりがちです。
ですが、まず人としてのあり方(Human Being)があり、そのあり方、価値観に基づいてその人の行動(How)を脳が判断して、実際に実行されます
その意味では、自発的に「1on1を実施したい」というあり方・マインドになっていない人に、やり方として1on1のツールやプロセス(How)だけを与えたり、押し付けたりすると、
1on1を実施する側もされる側も、あり方とやり方のギャップが埋められていないので、結果的に冒頭でも記載したような、
・1on1の予定がリスケされたり、いつの間にか定期的開催されなくなり、そして開催すらなくなった
・なんだか形式的であり、会社や組織の方針だから仕方なく実施しているだけに感じる
・1on1を終えたあと、「ああ、今日1on1を実施してもらえて(or 実施して)良かった~」と思えない
・双方ともに1on1にかける時間に投資対効果がないと感じている
といった結果に陥りがちです
誤解していただきたくない点は、なんらかの号令のもと1on1を実験的に導入すること自体は何も悪いことではないです。
それはむしろ良いことです。
大切なのはそれと併せて、あり方(とくに1on1を実施する側)の変革まで踏み込む必要があるという点です。
これはピーターセンゲの「学習する組織」の言葉で言うならば、メンタルモデルの無意識的部分の変革とも言えます。
ではどのような「人としてのあり方」が、1on1を実施する側に重要かが問題となりますが、私が常に目指し続けている姿、そして意識していることが二つあります。
一つ目はダイアログ、対話を大切にすることです。
ダイアログ、対話は、ピーターセンゲの「学習する組織」のメンタルモデルとペアになっている概念でもあり、アジャイルソフトウェア開発宣言の「プロセスやツールよりも個人と対話を」という言葉にも登場する通りです。
自分が一方的に話すのではなく、対話、とくにメンバーの話を積極的に聞くという姿勢と行動、そして何より、対話をグループの仕事の中心に据えるというリーダーとしてのあり方です。
人間は仕事になると、個人作業が中心にあって、それを円滑にするための「枝葉」として、コミュニケーションやチームミーティング、対話が必要になる、と考えがちです。
しかし本来、人は群れを成す生物であり、個で生きる生物ではありません。
なので仕事もその通りだと感じています。
まずチーム(群れ)が中心にあって、皆のコミュニケーションやチームミーティング、そして対話やモブ・ペアでの作業があり、それらを円滑にするための「枝葉」として個人作業がある、と私は考えています
そのため、対話を中心に据え、アジャイルソフトウェア開発宣言の通り、「プロセスやツールよりも対話を重要視する」、というあり方を、常に私は(私たちは)、目指しています。
二つ目は、私自身が(1on1を実施する側の人間)が、メンバーから「信頼される人間」を目指すということです。
先にも記載した通り、
信頼関係が構築されているからこそ、1on1の実施がより効果的となり、だからこそ1on1が継続され、そして習慣化されます
そのためにはまず、私自身が(1on1を実施する側の人間)が、メンバーから信頼される人間になるべく、努力し続けることが大切だと考えています。
セオドア・ルーズベルトなどが引用している米国の有名な言葉があります。
People don't care how much you know until they know how much you care.
(人々は自分のことを大切に想ってくれていると感じるまで、あなたがどれだけ博識で優秀であろうとも、あなたに見向きもしません。)
上司と部下、1on1をする側とされる側の関係性も、上記の言葉と同じだと私は考えています。
メンバーが私(1on1をする側)に対して、「自分のことを大切に想ってくれている」と感じられない限り、1on1が効果的になることは難しいでしょう。
では、どうすればメンバーは「自分のことを大切に想ってくれている」と感じられるのかですが、私は論語でいうところの 「仁(人間愛)」 を実践することだと考えています。
(※本当は「恕(じょ)」の方が適切ですが現代用語ではないですし、仁と人間愛も本当は少し違う意味なのですがここでは上記の記載で進めます)
恋は情動的であり盲目的なものですが、仁(人間愛)とは行動であり、改善が可能です。
エーリッヒ・フロムはその著書「愛するということ」で以下のように述べています。
愛は技術であるという前者の前提のうえに立っている。
愛は心の中にあるだけでは、ほとんど幸せを生まないし、相手にも伝わりません。愛の行為が必要なのです
愛とは、愛する者の生命と成長を積極的に気にかけることである。この積極的な配慮のないところに愛はない
フロムの言葉の通り、仁(人間愛)は改善可能な「技術」です。
そして行為として実際に具体的な行動に移さなければ相手に伝わらないものです。
ではどのような行動が「仁(人間愛)」であるのかというと、フロムは、
相手の生命と成長を積極的に気にかけること、と述べています。
ここで、私が記載した1on1の「目的1」へと戻ることになります。
再掲(1)メンバーが「毎日、心身ともに健康で、楽しく、成長しながら働ける」ように、”私が”皆と効果的にコミュニケーションして、良い組織を作り・運営をしていくためには、どのような改善が可能かを確認する
「相手の生命と成長を積極的に気にかけ、配慮する行為」を自然と促す目的で、私は1on1の目的1の文言に、「健康」と「成長」を入れて、明文化しています。
健康的に、そして成長しながら働けているかを話してもらうことで、”私が”、「仁(人間愛)」を実践できているかをメンバーからフィードバックしてもらい、私は自分自身を改善して、メンバーにさらに良い仁を実践するという、「仁(人間愛)」の実践のフィードバックサイクルを確立しているのです。
ここでの「成長」とはビジネススキルの成長も含みますし、もっと大きく、人間としての成長も含まれます。
6. さいごに
以上、あまりに長い本文章をもしここまで読んでくださった方がいらしゃったとしたら感動です。
誠にありがとうございます。
まだまだ若輩者の私の一意見です。
多々、諸先輩方とは異なる点、未熟な点はあるかと思いますが、1on1を実施していての現状や想いを共有いたしました。
ときおり「これから1on1に実施する側として、読むと良いおすすめの書籍はありますか?」と尋ねられます。
最近は1on1の「how to」本は多く、そしてネット上にも情報が溢れています。
私はそうした書籍よりも、1on1を実施する側として、人を育てる人間となる自分のあり方を見つめ直すことができる書籍をおすすめしています。
具体的には、宮大工の小川三夫さんが、弟子たちを育てるうえで感じているお話まとめた書籍
「不揃いの木を組む」を読むことをすすめています。
以上、若輩者のポエムでしたが、
ここまで一読いただけたとしたら感動です。誠にありがとうございました。
(謝辞)私に1on1とは何たるかを教えて下さった、私の兼務先部署で1on1を実施してくださったIさんに心から感謝しています。
【記事執筆者】
電通国際情報サービス(ISID)AIトランスフォーメーションセンター 製品開発Gr
小川 雄太郎
主書「つくりながら学ぶ! PyTorchによる発展ディープラーニング」
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