はじめに
こんにちは、株式会社Sapeetのウェルネス事業部でプロダクトマネージャーとして働いている佐藤です。
突然ですが、スクラム開発をしていて、こんな風に思ったことはないでしょうか?
「フロー(流れ去る情報)」を、どうにかして「ストック(蓄積される資産)」に変えられないか。
日々繰り返されるスクラムイベント。
Slackのテキストログは流れるそばから検索困難な地層の奥深くへと消えていき、ハドルやMTGでの「会話」に至っては、ログも残らないので、終わった瞬間にきれいさっぱり消えてしまいます。
この記事は、そんな 「チームの記憶喪失」 にあらがうために、Slack AI議事録 と NotebookLM を組み合わせて「チームの外部脳」を作ろうとしている、現在進行形の記録です。
キラキラした成功事例ではありませんが、「情報の行き場」に困っている誰かのヒントになればと思い、記事にまとめてみました。
背景:なぜこの取り組みを始めたのか
きっかけは、チームのプロダクトオーナー(PO)が交代したことでした。
スクラムイベント(Daily / PBR / Retro / Planning)では、日々たくさんの判断や議論が生まれます。
しかし、重要な意思決定に限って、「ちょっとハドルで話そうか」という会話の中で行われ、テキストとしてどこにも残っていない そんなことが頻発していました。
PO引き継ぎの際、まさにこの問題が一気に表面化しました。
「これまでのストーリーをどう説明する?」
「どこにも集約されていない情報、多すぎない?」
- 「あれ、この仕様ってなんでこう決まったんだっけ?(ログがない…)」
- 「確かあの時のハドルで決めた気がするけど、誰もメモってない…」
こうした問いに対して、これまでは個人の記憶を頼りになんとか凌いでいました。しかし、主要メンバーの入れ替えを機に「個人の記憶頼み」が限界を迎えました。
この課題感が強くなり、 「日常の会話やテキストログをコストゼロで記録し、勝手に蓄積されていく仕組み」 を検討し始めたのが、この取り組みの背景です。
やってみたこと1:Slack AI議事録で「とりあえず全部録る」
最初に手を出したのは、Slack のハドルミーティングに付いている「AI議事録機能」です。
Daily、PBR、Retro、Planning と、いつものスクラムイベントを片っ端から記録させてみました。
(※スプリントレビューだけはステークホルダー参加のため Google Meet 開催でしたが、チーム内で「この取り組み良さそうじゃん」という空気になり、最近は Meet の文字起こしデータも対象に含めるようになりました)
Slack AI議事録から、以下のような「文字起こしテキスト」をそのまま使っています。

細かい誤字やニュアンスはともかく、『何が話されたか』の骨子は結構拾ってくれます。
小さなつまずきと改善:「ボタン押し忘れ問題」
運用を始めてすぐに、地味ながら致命的な課題に直面しました。
ハドルを始めるたびに「AI議事録をオン」にするのが、めちゃくちゃ面倒くさい。そして忘れる。
人間だもの、忘れます。「あ、今日のデイリー、録るの忘れてた…」ということが頻発しました。
そこで対策として、チームの定例MTG専用の Slack チャンネルを新設し、チャンネル設定で 「ハドル開始時にデフォルトでAI議事録をONにする」 ように設定しました。
これが効果てきめん。「議事録ON忘れ」問題がゼロになりました。
こういう地味な設定変更が、ツールの定着率を左右するんだなと痛感した出来事です。
やってみたこと2:NotebookLM という名の「記憶の倉庫」へ放り込む
Slack AIが生成したテキストログは、そのまま Google の NotebookLM に手動でアップロードしています。
ここをチームの「記憶の倉庫」にする作戦です。
現状、整理なんて全然できていません。
「とりあえずログを全部突っ込んでおく雑多な箱」 状態です。
それでも、NotebookLM にこんな風に問いかけると、面白い気づきが得られます。
- 「この1週間のログから、重要な意思決定を3つ抽出して」
- 「〇〇機能の議論で、懸念点として挙がっていたことは?」
- 「今週のスプリントを“冒険の旅”に例えてストーリーでまとめて(←これはお遊び)」
ログから抽出された「チームの価値観」スライド。断片的な会話から、ここまでそれらしいアウトプットを出してくれます。
雑に突っ込んだログからでも、それらしい回答を生成してくれるので楽しいです。
意外な発見:レトロスペクティブの「解像度」が一段上がる
ひとつ、当初は想定していなかったけれど「これはいい!」とチームで盛り上がった使い方があります。
それが レトロスペクティブ(振り返り)での活用 です。
レトロの冒頭で「今スプリント、何があったっけ?」と思い出す時間をとるチームも多いと思います。
でも正直、スプリント前半の出来事なんて、みんな驚くほど忘れています。記憶がおぼろげなまま、「なんとなく最近のこと」だけを振り返りがちではありませんか?
そこで最近は、レトロを始める前に、NotebookLM にこう投げるようにしました。
提供された会議の文字起こしに基づき、チームの状態をまとめたドキュメントを作成してください。
完了したタスク、決定事項、変更事項、要検討事項、課題、方針等を明確に記録し、関係者が参照しやすいように整理してください。
すると、AIが淡々と事実を列挙してくれます。これを見ると、埋もれていた記憶がスムーズに蘇ります。
- 「あー! そんな議論してたね! すっかり忘れてた」
- 「そうそう、この突発対応がけっこう重かったんだよ」
- 「これ、スプリント序盤に決めた話だったのか(遠い目)」
AIの要約が「記憶の呼び水」になり、事実確認に使っていた時間をショートカットして、本質的な議論に入れるようになりました。
感覚的には、レトロスペクティブの“解像度”が一段上がった印象です。
今のところ、地味ですがこれが一番「手応え」を感じている活用ポイントかもしれません。
チームの反応は?(中間振り返り)
運用開始から数週間後、チーム内で軽く振り返りをしました。
メンバーから出た生の声を紹介します。
👍 良いところ
- 「新メンバーへのオンボーディングで、『まずここを見ておけば大枠は掴めるよ』と渡せる資料があるのは良さそう」
- 「議論のログが後から『検索できる状態』にあるだけで価値があるよね」
- 「チーム外の人に状況を説明するときの、客観的な材料にもなりそう」
🤔 課題感
- 「スコープが広いと漏れがある。狭いとコンテキストが伝わらない…」
- 「やっぱり文脈が抜け落ちる部分はあるね(AIの限界)」
- 「NotebookLM 自体の使い方に慣れが必要だね」
全体の温度感としては、 「まだ荒削りだけど、方向性は間違ってなさそう。続けてみよう」 というポジティブなものでした。
現時点でわかってきた「3つの実感」
ここまで試行錯誤してみて、肌感覚として残っていることが3つあります。
1. 「残っている」という安心感は偉大
情報は完璧じゃなくてもいいんです。「どこかに残っている」という事実があるだけで、「あれ、どこだっけ?」と焦る瞬間が大幅に減ります。
Slackの過去ログをキーワードを変えながら無限に検索する、あの虚無の作業時間から解放されるだけでも、個人的にはお釣りがくると感じています。
2. Slack AI議事録は「骨子」を残すのに使える
会話の細かい機微やニュアンスまでは拾えませんが、「話した内容の骨組み」はしっかり残してくれます。「ざっくり何の議論をした会議だったか」を後から振り返る用途なら、かなり実用的です。
3. ログの海を「言語化」してもらえる心地よさ
NotebookLM は、まだ辞書代わりに使っている段階ですが、大量のログを食わせてまとめを依頼すると、それっぽい解釈を返してくれます。
「自分たちが生み出した膨大なログの海を、AIが一度整理して言語化してくれる」 体験は、なんとも言えない心地よさがあります。
これからの課題(山積みです)
とはいえ、課題は山積みです。むしろ「何が課題かが見えてきた」フェーズです。
- イベントごとの綺麗な分類運用(今は雑多すぎる)
- NotebookLM に食わせるプロンプトの最適化
- 会議ログからのナレッジ化の仕組み作り
- 手動アップロードの手間をどうするか(自動化したい…!)
- ファイル数上限や命名規則などの基本設計
これらは、運用しながら少しずつ整えていくつもりです。焦らずやります。
まとめと今後の展望
まだ「成果物」と呼べる段階ではありませんが、議論の流れや判断の背景を「チームの記憶」として外部化する試みは、未来の自分たちを助けると思います。
最後に、今の運用フローを一枚絵にまとめると、こんな感じです。
今後は、ログがある程度溜まってきたら、
- 「アジャイルコーチ的な視点で、チームの課題を指摘して」
- 「スプリントごとの“旅のまとめ”を自動生成して」
といった、もう一歩踏み込んだ活用にもチャレンジしてみたいです。
数ヶ月後、この「スクラムの旅ログ」を読み返すのを楽しみに、ゆるく続けていこうと思います。
まだ私たちも試行錯誤の段階ですので、「うちはこんなツールを使ってるよ」「もっと良いやり方あるよ!」といった知見があれば、ぜひコメント欄で教えていただけると嬉しいです!


