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Cloudflare OSが賭けたのは「SaaSの終わり」だった。触る前に、設計を読み解いてみる

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はじめに

Cloudflare OSについては、Qiitaにもう「触ってみた」「ローカルで動かした」系の良い記事がいくつもあります。なので、この記事では同じことはしません。実機のスクリーンショットは出てきません。

代わりにやりたいのは、公開されているリポジトリのREADMEをじっくり読み解くことです。というのも、READMEを読んで最初に感じたのは「便利なAIツールがまた1つ出た」ではなく、「これは過去25年のクラウドの作り方を否定しにきている」だったからです。実際、READMEには次の一文があります。これはCloudflare自身の言葉です。

This is a big departure from the last 25 years of cloud architecture and "Software as a Service"

過去25年のクラウドアーキテクチャと、SaaSからの大きな決別。ずいぶん大きなことを言っています。今回は、Cloudflare OSが具体的に何に賭けているのかを、READMEの記述に沿って2つの軸で読み解きます。「動かし方」ではなく「設計思想」の話です。

先に3行でまとめると

  • Cloudflare OSは「会社が安全にAIで生産性を上げるためのOS」を名乗る、Cloudflare Workers上のエージェント・ワークスペース。ライセンスはApache-2.0で、2026年8月時点はearly access(v2)
  • 賭けの1つ目は脱SaaS。スライドやアプリを共有SaaSとして呼ぶのではなく、利用者ごとに専用インスタンス(private instance)をその場で生成する
  • 賭けの2つ目はCode Mode。エージェントは決まったツールを呼ぶのではなく、その場でコードを書いて即実行してタスクをこなす。権限はGatekeeperで縛る

この記事に出てくる用語の位置づけ

Cloudflare OS独自の呼び名と、クラウド/AI界隈で一般に使う言葉が混ざります。迷ったらここに戻ってきてください。

用語 位置づけ ざっくりの意味
Cloudflare OS Cloudflare独自 Workers上に構築されたAIエージェント・ワークスペース
Gadget Cloudflare独自 利用者ごとに作られる個別アプリ。サンドボックスで動く
Gatekeeper Cloudflare独自 外部リソースへのアクセスを仲介し権限を縛る仕組み
Code Mode 一般用語(近年のエージェント設計) ツールを呼ぶ代わりにコードを書いて実行する方式
Pi(pi-agent_core) 外部OSS 1つのAPIで各種LLMに対応するためのエージェント基盤
Workers / Durable Objects Cloudflare独自 サーバーレス実行基盤と、状態を持つその一種
private instance 本記事で強調する呼称 共有SaaSではなく、利用者ごとに立つ専用の実体

「SaaSの終わり」という言い方は、私が刺激的にまとめたものではなく、README自身のトーンに寄せた表現です。誇張に見えたら、上に引用した原文で確かめてください。

まず、これは何なのか

READMEの定義はこうです。「Agent workspace built on Cloudflare Workers for creating documents, building apps, and running agents with your company's context and systems」。つまり、自社の文脈やシステムをつないで、ドキュメントを作り、アプリを組み、エージェントを走らせるための作業環境です。もう少し踏み込んだ言い方だと「会社がAIで生産的になるためのOS。しかも安全なやり方で」と自称しています。

押さえておきたいのは、Apache-2.0で公開され、2026年8月時点で「v2はかなり使えるが、まだ荒削り」とREADME自身が認めるearly access段階だということ。完成品というより、設計思想ごと公開された実装、という受け止めが近いです。

技術基盤は、徹底してCloudflareのエッジに寄せて組まれています。

役割 使っているもの
実行基盤 Cloudflare Workers / Dynamic Workers
状態管理 Durable Objects / Facets
通信(RPC) Cap'n Web
エディタ・Git CodeMirror / isomorphic-git
LLM接続 Pi(pi-agent_core。1つのAPIで各種LLMに対応)

賭け①:SaaSではなく「一人ひとりの専用インスタンス」

いちばん面白いのがここです。READMEには、こう書かれています。

When you create a slide deck in Cloudflare OS, you are not calling out to some SaaS software running in the cloud. The system creates a private instance ...

スライドを1枚作るとき、クラウドのどこかで動いている共有のSaaSを呼び出すのではなく、あなた専用のインスタンスがその場で生成される。この差は、地味に見えて根っこが深いです。

従来のSaaSは全員が1つの共有インスタンスを使うが、Cloudflare OSは利用者ごとに専用インスタンスをその場で生成する。使い終われば畳める

従来のSaaSは、巨大な共有インスタンスに全員がぶら下がる形でした。データもロジックも中央に集まり、事業者がそれを一手に運用する。この25年、クラウドはだいたいこの形で進んできました。Cloudflare OSが賭けているのは、その逆です。アプリ(Gadget)は共有のプロダクトではなく、利用者ごとに立ち上がる私物のインスタンスとして作られる。Cloudflare Workersが1コマンドで世界中のエッジにアプリを配れる基盤だからこそ、「一人ひとりに専用の実体を配る」という重たそうな発想が現実的に成り立つ、という理屈です。

ここが「大きな決別」と自称する理由だと読めます。SaaSの本質は「1つのソフトを大勢で共有して割り勘する」ことでした。専用インスタンスをその都度生成する世界では、その共有の前提そのものが崩れます。うまくいくかはこれからですが、賭けている対象がはっきりしているのは確かです。

賭け②:ツールを呼ぶのではなく「コードを書いて実行する」

もう1つの軸が、エージェントの動き方です。READMEはCloudflare OSのエージェントを「Code Mode」と説明し、「performs tasks by writing and immediately executing snippets of code(コード片を書いて即座に実行することでタスクをこなす)」と書いています。

よくあるエージェントは用意されたツールから選んで呼ぶが、Cloudflare OSのCode Modeはその場でコードを書いて即実行する。検索・要約・送信を1つの流れで組める

よくあるエージェントは、あらかじめ用意された関数(ツール)の一覧から1つを選んで呼び出します。send_email() を呼ぶ、search() を呼ぶ、という具合です。これは分かりやすい反面、できることが用意された関数の範囲に縛られ、複数を組み合わせたり条件で分岐したりが不得意でした。Code Modeは、そこをコードそのものに委ねます。「検索して、要約して、Slackに送る」を、その場で書いた数行のコードとして表現し、即実行する。組み合わせも繰り返しも、コードで書けることは全部できる、という発想です。

この方向は、エージェント設計の新しい潮流と重なります。ツールの一覧を増やしていくより、コードを書ける環境を渡してしまったほうが、結局は柔軟で表現力が高い。Cloudflare OSは、その考え方をワークスペースの中核に据えています。

自由なエージェントを、どう縛るのか

コードを書いて何でも実行できるエージェントは、強力な反面おそろしくもあります。勝手にSlackへ送られたり、GitHubのコードを書き換えられたりしたら困る。そこを受け持つのがGatekeeperです。

READMEはGatekeeperを「強化版のMCPサーバーのようなもの」と表現します。外部リソースへの経路を一手に引き受け、OAuthを扱い、権限を必要な範囲に絞り、操作を記録する。特徴的なのは、人間の承認を「実行のシミュレーション」と組み合わせる点です。エージェントは止めずに先へ進ませ、副作用のある操作は保留のキューに積んで、あとでまとめて人間が承認します。

やっているのは、実行環境・データ・外部アクセスを分け、それぞれに必要な権限だけ渡すケイパビリティベースの発想です。Claude Codeのpermission modeで「どのコマンドを自動で通し、どこで人間に確認を挟むか」を決める話と、同じ問題を別角度から解いていると感じました。エージェントに自由を与えるほど、「何をどこまで許すか」を先に決める仕組みが要る。ツールが違っても、行き着く論点は同じです。

自分で確かめるには

設計の話をしてきましたが、READMEには動かし方も3通り書かれています。手を動かして確かめたい人向けに整理しておきます。

  • 自分のCloudflareアカウントにデプロイする(オンラインの手順に沿って進める)
  • 手元で wrangler を使って動かす(データは .wrangler ディレクトリに保存される)
  • 自前のサーバーに workerd(オープンソースのWorkersランタイム)でデプロイする ※この手順はREADME上「COMING SOON」

LLMは自分で選べます。READMEは「主要なAIモデルプロバイダーとセルフホストのモデルの多くに対応する」としていて、特定モデルに縛られない作りは、企業導入を意識した設計に見えます。

おわりに

Cloudflare OSを読み解いて感じたのは、これは「AIツール」ではなく「AIエージェントが仕事をする場所そのもの」を作り直そうとしている、ということでした。エージェントに何を書かせ、どこで動かし、どこまで許すか。その全部を、SaaSではなく専用インスタンス、ツール呼び出しではなくCode Mode、という前提で組み直している。賭けの是非はこれから問われますが、賭けている対象は驚くほど明確です。

Devinのようなエージェントを使っていると、いつも「エージェントに渡す環境」の設計が効いてくるのを感じます。どんな権限で、どんな文脈を持たせて、どこで人間が確認するか。Cloudflare OSは、その環境設計を会社まるごとのスケールでやろうとしている試みだと読めます。次は宣言どおり手を動かして、wrangler でローカルに立てたときに、この「専用インスタンス」と「Code Mode」が体感としてどう効くのかを確かめてみるつもりです。設計を読んで面白いものが、触っても面白いとは限らない。そこは自分の手で確かめたいところです。

参考リンク

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