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AI時代のセキュリティ Devinの「Security Swarm」は、脆弱性を"見つけて・試して・直す"まで自動でやる

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はじめに

セキュリティスキャナのレポートを開いて、げんなりした経験はないでしょうか。私は何度もあります。数百件のアラートがずらっと並び、その大半が誤検知。本当に危ないやつを探すだけで半日が溶ける、あの感じです。

厄介なのは、既存のスキャナが「怪しいパターン」を機械的に拾うだけで、そのコードに攻撃者が実際に到達できるのか、複数の小さな穴がつながって一撃になるのか、までは見てくれない点です。だから件数は増える、けれど本当に直すべきものは埋もれる。結局セキュリティエンジニアが一件ずつ手で潰していく。

Cognitionが2026年7月に出してきた Devin Security Swarm は、この構図に別のアプローチで挑みます。ざっくり言えば、たくさんのDevinエージェントをチームで走らせて、セキュリティエンジニアがやるように「データがどう流れるか」「攻撃者がその行に届くか」まで読ませる。しかも見つけて終わりではなく、サンドボックスで実際に攻撃を再現し、直すPRまで出してくる。この記事では公式発表をもとに、何をしているのか、なぜ精度が出るのか、今どこまで使えるのかを整理します。

先に3行でまとめると

  • Security Swarmは、脆弱性を「見つける・実際に試して確かめる・直すPRを出す」まで自動でやるセキュリティ用エージェント
  • 支えているのは「Agentic MapReduce」という、コードベース全体を並列で総当たりする仕組み
  • 実在CVE 50件のベンチで72%リコール、コストは次点の約2/3。すでにセルフサービスで提供中

この記事に出てくる用語の位置づけ

Security Swarmの話には、Cognitionが独自に付けた呼び名と、セキュリティ業界で普通に使う言葉が混ざっています。読み分けやすいように、先に整理しておきます。迷ったらここに戻ってくればOKです。

用語 位置づけ ざっくりの意味
Devin Security Swarm Devin独自(機能名) この記事の主役。脆弱性を見つけて直すエージェント群
Agentic MapReduce Cognition独自の呼び名 分散処理の定番「MapReduce」をエージェントに応用した構造
スキャンプロファイル Devin独自(設定名) どの脅威を重点的に見るかを定義したスキャンの設定
Remediation Program Devin独自(提供メニュー名) 脆弱性の棚卸しを手伝う6週間のEnterprise向け支援
リコール(recall) 一般用語 本物の脆弱性のうち、何%を取りこぼさず見つけたか
誤検知(false positive) 一般用語 危険と報告したが、実際は問題なかったもの
脅威モデリング 一般用語 そのシステムで何が狙われるかを先に洗い出す作業
サンドボックス 一般用語 隔離された実行環境。攻撃の再現を安全に試せる
CVE / GitHub Security Advisory 一般用語 公開された脆弱性の識別番号・報告

固有名詞(Devin独自)は「Devinの世界でだけ通じる言葉」、一般用語は「他のセキュリティツールの記事でも出てくる言葉」と考えてください。

何をしてくれるのか

Security Swarmの仕事は、大きく3つの段階に分かれます。

まず見つける。1体のエージェントがコードを追うのではなく、複数のエージェントがコードベースを分担して同時に読みます。それぞれがファイルをまたいで推論し、ビジネスロジックの欠陥、認証バイパスの連鎖、サービスをまたいだ攻撃経路といった、単純なパターンマッチでは拾えない穴を探します。

次に組み立てて、試す。バラバラに見つかった小さな問題を、Devinが「一続きの攻撃経路」に組み立て直します。そのうえで、隔離されたサンドボックス内で実際に再現し、攻撃が成立するかをランタイムで確かめる。ここが既存スキャナとの決定的な違いです。「たぶん危ない」ではなく「実際に刺さった」まで持っていく。

最後に直す。確認が取れた脆弱性については、修正のプルリクエストを生成します。見つけるところから直すところまでを、ひとつの流れでやり切るわけです。

仕組み:Agentic MapReduce

では、なぜ「コードベース全体を漏れなく」読めるのか。カギになっているのが、Cognitionが Agentic MapReduce と呼ぶ構造です。名前のとおり、分散処理で有名なMapReduce(大量データを分割して並列処理し、最後に集約する定番パターン)を、エージェントの推論に当てはめたものです。

すごく雑に言うと、こういう5段構えになっています。

肝は最初のPlanとShardです。まず1体のエージェントがリポジトリを調べ、その言語やフレームワークで問題になりやすい脆弱性クラスを絞り込みます。そして「どのコードが関係しそうか」を判定するルール(Cognitionはこれを selector と呼びます)を書き起こす。このルールはモデルを介さない決定的なテストなので、人が中身を検証できます。

書いたルールをコードベース全体に機械的に流すと、ヒットした箇所が「シグナル」として残り、何もヒットしなかったファイルは調査対象から外れます。残ったファイルを手ごろな大きさのバッチにまとめ、1バッチにつき1体の子Devinセッションを割り当てて並列で精査する。これがMap、いわゆる「スウォーム(群れ)」の正体です。

なぜ"総当たり"を保証できるのか

ここは少し理屈っぽいですが、Security Swarmの一番おもしろい部分なので触れておきます。

普通のAIエージェントにコード全体を調べさせると、grepして、ファイルを開いて、また検索して…と探索を延々と続けます。そしてどこかで「まあこのへんで十分だろう」と主観的に打ち切る。どこまで見たかの保証がありません。Cognitionのブログは、この弱点を研究結果で裏づけています。

研究(2026年) 指摘している弱点
Zhang et al. 読む・検索するだけで、ツール使用の半分以上・メインエージェントのトークンの約半分を消費
Zeng et al. コンテキストが8Kから128Kに伸びると、成功率が96.0%から34.0%まで低下(Claude Opus 4.5)
Ko et al. 複数条件のタスクの52.1%で、検証が不十分なまま回答を打ち切っていた

Agentic MapReduceは、この「探索しすぎ」「文脈が伸びて溺れる」「どこまでやったか曖昧」をまとめて回避します。最初の決定的なルール走査で「調べるべき箇所」が有限のキューとして確定するので、網羅性は構造として保証される。各子エージェントは自分のバッチという狭い文脈だけを見るので、コンテキストが膨らんで溺れることもない。

そしてコストの効き方も変わります。ブログの表現を借りると「コストはリポジトリの大きさではなく、関係するコードの量に比例する」。無関係なコードを延々とかき分ける分の料金が、そもそも発生しないわけです。この発想は、自分でコード調査エージェントを組む人にもヒントになると思います。

ランタイム検証:確認・誤検知・判定不能

見つけた候補を、Security Swarmは鵜呑みにしません。最後のVerify段階で、実際に動くビルドに対して攻撃を再現し、3つのいずれかに判定します。

この「確認済み」だけをPRにつなげる設計が、冒頭のげんなり問題への回答になっています。人間が向き合うのは、実際に刺さると確かめられたものだけ。誤検知の山を掘る作業から解放されるわけです。ここだけ押さえておけば、Security Swarmが何を変えるのかは掴めます。

ベンチマーク:72%リコール、コストは約2/3

ここからが数字の話です。Cognitionは、合成バグやベンダー自作のベンチではなく、実在する公開済み脆弱性でテストしたと強調しています。GitHub Security Advisoryから50件、14言語、RCEやSQLインジェクション、パストラバーサル、SSRF、認証バイパスなど幅広いクラスをそろえ、しかもすべてモデルの学習カットオフ後に公開されたものを、パッチ前のコミットで試しています。カンニングができない条件です。

評価軸はリコール、つまり本物の脆弱性のうち「その特定の脆弱性」を言い当てられた割合です。どのツールが左上(高リコール・低コスト)に来るかを見てみます。

リコールとコストの散布図。Devin Security Swarmが高リコール帯に位置する

主役の緑、Devin Security Swarmが上のほうに来ています。50件中36件を検出して72%。これは測定した中で最も高いリコールで、しかもコストは次点の約2/3に収まっています。

ツール リコール 1スキャンあたりコスト
Devin Security Swarm 72%(36/50) $90.23
Claude Security 68% $131.87
Codex Security 48% $118.20
Cursor Security 26% $4.60

リコールだけを並べ替えると、差がもっとはっきりします。

4ツールのリコール比較の横棒グラフ。Devin Security Swarmが最も高い

数字の裏には具体的な戦果もあって、Devinだけが見つけた3件が挙げられています。テンプレートインジェクションによるPHPサンドボックスの回避、メタデータ解析を通した引数インジェクション、Spring Kafkaの過度に広いデシリアライズ。いずれもパターンマッチでは拾いにくい、ロジックを追わないと見えないタイプの穴です。

安いだけならCursorの$4.60が目を引きますが、リコールは26%。7割の脆弱性を取りこぼすスキャナに、セキュリティ予算を預けられるかという話になります。「安さ」と「取りこぼさなさ」は別物だと、この表はきれいに示しています。

使い方・料金・提供状況

Security Swarmはすでにセルフサービスで提供が始まっていて、devin.ai/security からサインアップできます。設定まわりで気が利いていると感じたのは、既存の脅威モデルのドキュメントからスキャンプロファイルを自動生成できる点です。攻撃者ペルソナに合わせて調整し、組織全体に適用する。リポジトリごとのCI設定は要りません。

運用面では、スキャンを日次・週次・任意のスケジュールで回せます。最初のフル스캔でベースラインを作り、次回からは前回以降に変更されたコードだけを見るので、コストは回を追うごとに下がっていく設計です。バッチサイズはプロファイルごとに変えられるので、深さとコストのバランスも自分で握れます。

導入判断の前に、いくつか正直に押さえておきます。

まず料金です。ベンチマークの1スキャン$90.23はあくまで測定条件でのコストで、ACU換算や実際の課金体系の詳細は、執筆時点(2026年7月)で公式ブログ以外の一次情報が限られます。対象コードの量で変動する設計なので、自社のリポジトリでいくらになるかは実際に試すのが確実です。

次にベンチの出どころです。50件のベンチマークはCognition自身によるもので、第三者の再現はまだありません。条件(学習カットオフ後・パッチ前コミット)はかなり誠実に作られていますが、自社ベンチである点は割り引いて読む余地があります。

もう手厚くやりたい組織向けには、6週間の Security Vulnerability Remediation Program が用意されています。溜まった脆弱性の棚卸しと、継続的な修正体制の立ち上げまで伴走するEnterprise向けメニューです。

おわりに

Security Swarmのいちばんの発想転換は、「怪しいパターンを列挙する」のではなく「実際に攻撃が成立するかまで確かめてから人に渡す」だと思います。誤検知の山にうんざりしてきた身としては、確認済みのものだけがPRになって上がってくる、という体験はかなり効きそうです。

技術的にも、Agentic MapReduceのように「決定的なルールで調査範囲を先に確定させ、そこだけを並列エージェントで深掘りする」というやり方は、セキュリティに限らず、大きなコードベースを相手にするエージェント全般に応用が利く考え方だと感じました。自分の環境で回せるようになったら、実際のリポジトリでリコールと料金がどう出るのかを計測して、続編を書くつもりです。そのときはこの記事の数字と突き合わせてみます。

参考リンク

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