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20年前の日本でのEmbodiedAIの取り組みのお話

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Last updated at Posted at 2025-12-07

こちらは、「フィジカルAIxロボティクス Advent Calendar 2025」8日目の記事です。

こんにちは。ここ数年、AIxRoboticsはとても進化を遂げ、さまざまなロボットや研究が出てきています。このアドベントカレンダーでも、連日、新しい取り組みの話やビジネス的見通しなど、いろいろと出てきていますが、この記事では、今、中国やアメリカで進んでいるPysicalAI(どちらかいうと正確にはEmbodiedAIの方ですかね)とまさに同じような研究の流れが、20年前に日本で行われていた、ということをさらっと紹介したいと思います。

2000年代初頭の日本でのPhysicalAI研究

 2000年代初頭、まだ、十分な計算機能力も、基盤モデルだけではなくDeepLearningすらもなかった時代、まさに、今行われているような、ロボットを使ってデータをとり、EndToEnd学習をして模倣させるようなことや、強化学習を使ったロボット制御のアプローチ、データを解析することで、コツを知るような研究など、日本発の研究が行われていました。
 大阪大学の浅田稔先生発案の「認知発達ロボティクス」という分野において、特に構成論的アプローチとして、システムを作って動かしながら理解をしていくというアプローチがとられて、数々の研究がありました。当時、理化学研究所にいた谷淳先生、産総研から東大へ所属を変えられた國吉康夫先生、ATRの研究所の川人光男先生、銅谷賢二先生、など、この分野の世界トップを走る研究が日本で行われていました。ここにあげた先生方は、今でもトップを走っていると思いますが、20年前(下手したら30年ぐらい前?)にはすでに研究が始まっていたのです。
 発達ということをキーワードに学習や脳の仕組み等に関する研究をシステムとして動く形にして確認していくという日本から始まった研究が、ヨーロッパ等にも広がり、フランスにも研究所が作られたり、いくつも国際会議が行われたりしていました。(Epigenetic RoboticsやICDLなど。今でも続いている国際会議ですが。)これらの会議で、かの有名なHinton先生なども見かけたことがありました。

構成論的アプローチ

 上に書いたように、システムとして動く形にして、実際の現象と比較し、脳や発達の仕組みを理解していくというアプローチを行う際、当然、動くものとして、ロボットが使われてきました。当時、いくつか国家プロジェクト等も動いていましたが、代表的な研究者の方々と当時行われいた代表的な研究をリストにします。

浅田稔先生

 言わずとしれた、認知発達ロボティクスの提唱をはじめた方です。ロボカップ提唱者の一人としても有名ですが、認知発達ロボティクスとしてプロジェクトを始められた方でもあります。認知発達ロボティクスとは、人間の赤ちゃんが成長する過程(認知発達)をロボットに再現させ、環境との相互作用を通じて自律的に学習・獲得していく知能(認知能力)を研究する学際的な分野です。浅田先生は、いくつもこのような認知発達のプロジェクトを牽引し、認知発達の研究者の活躍の場を作っていました。

  • 身体・脳・心の理解と設計を目指す認知発達ロボティクス,浅田, Vol.48, No.1, p. 11-20, 2009

谷淳先生

 ロボットを用いたEndToEnd学習については、谷先生が第一人者だと思います。現在、PhysicalAIの分野で活躍されている尾形先生の師匠にあたる方です。現在もOISTで先端的な研究をされていますが、当時、RNNのモデルの改良なども進めながら、脳の機能を実現させていく研究はものすごく画期的なものでした。

  • On the Dynamics of Robot Exploration Learning,J.Tani,Cognitive Systems Research, Vol.3, No.3, pp.459-470, 2002

  • Self-Organization of Distributedly Represented Multiple Behavior Schemata in a Mirror System: Reviews of Robot Experiments Using RNNPB, J.Tani, M.Ito, Y.Sugita,Neural Networks, Vol.17, pp.1273-1289, 2004

※谷先生の論文はおもしろいものがいろいろあります!論文リストはこちら

川人光男先生

 ATRという研究機関で、ERATO 川人学習動態脳プロジェクトをはじめ、ヒトの小脳の研究やブレインマシンインタフェースの研究などをされていました。MOSAICというモデルの研究を当時されていたと思います。

銅谷賢治先生

 強化学習や報酬系の研究をしながら、それを使ってロボットの学習をさせる研究をしていました。倒立振子の制御を報酬系を使って学習をさせるという、まさに今の強化学習の王道を行く研究をされていて、さらにそれに人の脳のドーパミンなどの考え方も組み合わせて、学習に関する研究を進めていました。

  • 階層型強化学習を用いた3リンク2関節ロボットによる起立運動の獲得, 森本、銅谷、日本ロボット学会誌, vol.19, No.5, pp.572-579,2001

國吉康夫先生

 國吉先生も学生時代から現在にいたるまで、AIの研究のトップを走っている先生ですが、この当時は、コツの研究をされていました。起き上がりロボットを使って、何度も起き上がり動作をし、その軌跡を比べると、クリティカルなところとブレの大きいところがある、ということがわかったというとてもおもしろい研究です。

  • 全身行動における「コツ」と「目の付け所」のヒューマノイド科学 科研費報告書

他にも、いろいろ研究はあったと思いますが、おそらく、今の流れのAIxRoboticsに関係するのはこの方々からスタートしているのではないかと思っています。

インテリジェンスダイナミクス

 さて、ここまでざっくりと2000年代初頭にあった、AIxRoboticsに関する研究を振り返ってみましたが、いよいよ本記事のメイン(?)である、インテリジェンスダイナミクスです。
実は、2000年代初めごろにある企業がEmbodied AIに向けて挑戦をしていました。その名も「ソニーインテリジェンスダイナミクス研究所」。SONYの100%子会社です。3年間しか存在しなかった幻のような研究所でした。
2000年代初めは、何回目かのロボットブームのころでしたが、その時にロボットを作っていた会社の一つであるSONYが、2004年~2006年にロボティクス、認知発達、脳科学等の分野を合わせた「インテリジェンスダイナミクス」(自律発達をする知能)の研究をしていました。当時書かれた本には、「身体性を通してインテリジェンスを創発させる新しい人工知能の方法論と,ロボットによる実世界とのインタラクションを通じて計算モデルを検証する構成論的脳科学の統合を目指した新しい学問分野」と書かれており、ロボットを用いて、ロボットが自分の身体を通して経験したデータを元に、世界についてのモデルを作っていく、という研究を行っていました。上記に挙げていた先生方とも共同研究をしたり、交流をしたりしながら、この分野を盛り上げていこうとしていました。
 毎年、シンポジウムも開かれ、当時、この分野の著名な先生方や、ソニーインテリジェンスダイナミクス研究所の成果発表などを行い、ロボットを使った実デモも用意して発表していました。多くの人が参加をしていました。

 その時の様子は、有名なサイエンスライターで長年ロボティクスを取材している森山和道さんが記事にしてくれています。写真や動画もあるので、ぜひ、リンク先を見てください。

  • ソニー・インテリジェント・ダイナミクス2004

  • ソニー・インテリジェンス・ダイナミクス2005レポート

  • ソニー・インテリジェンス・ダイナミクス2006レポート

 当時、SONYが作っていた人型ロボットQRIOを用いて、学習にはRNNPBや、RNNSOMを用いて、最終的には24個の遊びを画像情報とロボットの関節角度情報を使って学習させて、おもちゃの種類によって適切に遊ぶということができていました。スナップショットで認識するのではなく、時系列的にどのように自分の腕を動かすとどのように環境が変わっていくかということから、次の自分の動きを予測して作っていくという、まさに現在のEndToEndな学習を行っていました。当時、まだGPUもない時代でしたが、クラスタPCを使って、一晩中学習をまわし、推論もさせながら動かしていました。
先ほどのシンポジウムレポートのリンク先に、ロボットが動く様子の動画などもあがっています。

その当時の研究の論文や解説記事はこちら。

  • On-line imitative interaction with a humanoid robot using a dynamic neural network model of a mirror system , M. Ito, J. Tani, Adaptive Behavior, Vol.12, No.2, pp.93-115, 2004

  • Dynamic and interactive generation of object handling behaviors by a small humanoid robot using a dynamic neural network model, M. ITO, K. NODA, Y. HOSHINO, and J. TANI. , Neural Networks, Vol.19, Issue 3, pp.323-337, Apr. 2006. [DOI:10.1016/j.neunet.2006.02.007]

  • ロボットの知能への発達型アプローチ,下村, 藤田, 佐部, 日本ロボット学会誌, vol.28, No.4, pp.401-406,2010

あと、インテリジェンスダイナミクスは3冊本が出ています。絶版かもしれないので、図書館などで見かけたらぜひ。

  • 脳・身体性・ロボット-知能の創発をめざして (インテリジェンス・ダイナミクス 1)

  • 身体を持つ知能-脳科学とロボティクスの共進化 (インテリジェンス・ダイナミクス 2)

  • 発達する知能―知能を形作る相互作用 (インテリジェンス・ダイナミクス 3)

その後、インテリジェンスダイナミクス研究所は2006年で解散し、当時の研究者は、各所でそれぞれの道を歩んでいます。


 ということで、今、日本は遅れているとかいろいろと言われますが、むしろ、早すぎるぐらいにこういう取り組みが過去にあったこと、そして、今でも示唆に富んだ研究があったということを知っておいてもらえたらと思い、書いてみました。みなさまの何かのヒントになるようなことがあれば幸いです。

※文字ばかりですみません、まずは記事を上げようと思います。あとで、写真やイラストなどが足せたら追加したいと思います。

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