過去の自分自身と、同じ経験をしたことのある人を救いたい。
TL;DR
- 目標面談の「5年後どうなりたい?」に答えられなくても、あなたに何かが欠けているわけではない
- 山に登る人間は3種類いると思っています
- ① 登らないと危険が迫るから登る人
- ② 頂上に目的があるから登る人
- ③ 登ること自体が好きな人
- どれも正しい登り方で、優劣はないです。ただ「価値を置いている場所」が人によって違う事実は知っておいてほしい。
- この事実を知っているだけで、面談で答えられないモヤモヤも、「あいつを変えなきゃ」という焦りも、だいぶ軽くなるはず、という話です。
自分は目標設定面談が苦手だった
「5年後、どうなっていたいですか?」
目標設定面談で、この質問をされて答えに詰まったことはありませんか?
自分はあります。何度もあります。
周りの同僚は例えば「テックリードになりたい」「プロジェクトマネージャーの方向に進みたい」みたいな感じでスラスラ答えている(ように見える)。一方の自分は、頭の中でイメージしても、それらしい「なりたい姿」がパッと出てこない。もしくは浮かんでは来るけど、その像が複数あり、どれが良いのか絞れないというような状況。
エンジニアの仕事は好きなのに・・・。
むしろ割とエンジニアという職業が好きだと思っているからこそ、答えられない自分に焦りました。
- 自分は向上心がないのか?
- キャリア意識が低いのか?
- どこか欠けているトコロがあるのか?
そんな不安が広がっていきます。
でも先に結論を言っておくと、全然大丈夫です。
欠けていないです。質問者とあなたのタイプが違うだけです。
この記事は、かつての自分と同じ不安を抱えているエンジニアと、そういう部下や後輩を見て「あいつを変えなきゃ」と思っている先輩・上司に向けて書いています。
HUNTER×HUNTERのジンの話
急に話が変わりますが、少しだけ漫画の話に付き合ってください。
僕の大好きな漫画の一つに『HUNTER×HUNTER』という週間少年ジャンプで連載されているマンガがあります。有名なので知ってる人も多いと思います。
この『HUNTER×HUNTER』32巻に私が何度も何度も読み返している、とても好きなシーンがあります。世界樹という巨大な木のてっぺんで、主人公のゴンが、ずっと探し続けていた父親のジンとようやく語り合う場面です。
ゴンがジンに「ジンがほしいものって何?」と聞きます。それに答えて、ジンは自分がハンターになった理由を話し始めます。
ジンは昔、ある王族の王墓(遺跡)にどうしても入りたかった。でも簡単には入れない場所で、信頼される団体でないと調査が許されない。そこでジンは15歳でNPO法人を立ち上げ、2年間、王墓の調査と修繕を続けます。ネットで知り合った仲間たちが、無償でその計画を支えてくれました。
そして念願の王墓に足を踏み入れたとき、ジンは気づくんです。一番嬉しかったのは、ずっと見たかった王墓の「真実」を目の当たりにした瞬間ではなく——
「ずっと願ってた連中と顔を見合わせて握手した瞬間だった」
「ほしいものより大切なものは、先に来た。王墓の真実は、ただのおまけだった」そう語ったうえで、ジンはゴンにこう伝えます。
道草を楽しめ、大いにな
ほしいものより大切なものが、きっとそっちにころがってる
出典: 冨樫義博『HUNTER×HUNTER』32巻 No.339「静寂」(集英社)
私はこの上記の話を読んだ時、強い共感を覚えました。自分が昔からなんとなく思っていたことを、そのまま言語化してくれていたからです。
余談
後で気づいたのですが、この話よくできた入れ子構造になっています。
ゴン自身も「父親に会う」という頂上を目指して旅をしてきて、その道中で得たもの(キルアを始めとした仲間たちやビスケという師匠)こそが宝物になっていっています。
しかもこの会話が交わされるのは、文字どおり世界樹の「頂上」になっていて、「頂上」に着いたゴンがそこで手に入れたのは、栄光でも秘宝でもなく、父親との素敵な雑談の時間でした。素敵やん・・・。
自分の場合
この共感したと思う部分について、以下2つ例を挙げます。
その1 旅行
1つ目は旅行です。
私は旅行に行くとき、メインの目的地は決めますが、道中どこに寄るか、何を食べるか、といったスケジュールは綿密に立てません。
なぜかというと、旅に出ると、道中で必ず自分の興味を引くものや素敵な出会いに遭遇するからです。それを楽しみたいから、あえて予定に余白を残しておく。あと、一緒に旅行に行く家族との関係が深まるという、すごく良い副作用もありました。
「あの旅行楽しかったね」という思い出話を未来にしてる時間のほうが、僕は好きかもしれません。
つまり自分の旅は、目的地のほうが結果的に「おまけ」になっているんです。
まさにジンの話と同じ。
その2 エンジニアになったこと
2つ目は、この仕事です。
私はもともと「素晴らしいシステムを作る、素晴らしいエンジニアになりたい」という夢を見てエンジニアになりました。いわば「強者としてのエンジニア=つよつよエンジニア」になりたかったんですね。
でも実際エンジニアになってみると、大切になったのは別のものでした。
- プログラミングすること自体が楽しかったり
- 自分が作ったソフトウェアを人に使ってもらえることが嬉しかったり
システムを作ることそのものじゃなくて、その道中で生まれるいろんな出来事が、私の大切なものになっていきました。
今では、プロダクト開発を通じて「世界の誰かを救える」ことに、エンジニアという仕事の一番の良さを感じています。もちろん、仕事で求められる目標はもっと具体的なものです。でも、私を動かしているガソリンのような存在は上記のものになります。
本題:山に登る3種類の人間について
さて、ここからが本題です。私は、山に登る人間は3種類に分けられると思っています。
1つ目は、登らないと危険が迫るから登る人。 海面が上昇してきて、登らないと沈む。だから登る。切実駆動型。
2つ目は、頂上に目的があるから登る人。 てっぺんに伝説の剣がある。登頂記録を作りたい。頂上にこそ価値があり、道中はそのためのコストです。
3つ目は、山に登ること自体が好きな人。 もちろん山に登る以上、目指すのはてっぺんです。でも、メインの楽しみは道中にある。ジンも私も、これです。
エンジニアで言い換えると以下のイメージ。
-
タイプ1
- 学ばないと市場価値が落ちる、食えなくなる。だから勉強する
-
タイプ2
- CTOになりたい、年収を上げたい、あのOSSのコミッターになりたい。だから頑張る。
-
タイプ3
- コードを書くこと、作る道中で起きることが楽しい。てっぺんはその先にあるだけ
同じ「技術を学ぶ」という登山でも、どこに価値を置いているかは人によってまったく違うと思っています。
これは優劣の話じゃない
誤解を生みたくないので補足するのですが、私は「道草を楽しむべきだ」という考えを別に布教したいわけではないです。
タイプ1の良さは必ず実行する確実性がとても高いことにあると思っています。
家族を食わせるために学ぶ人はめちゃくちゃ高尚だと思うし、むしろこの中では一番強い動機になるかもしれません。
タイプ2の人は、頂上が明確な部分に強みがあると思ってます。逆算して最短ルートを引けるし、実際に世の中に大きな影響を与えたり、偉大な記録を打ち立てるのは、たいていこのタイプの人です。
5年後の自身の姿をスラスラ答えられるのも、この型の人が持つ立派な能力です。
そしてタイプ3。
頂上への最短ルートを外れても気にしないし、傍目から見たら「あいつ登る気あるのか?」と見えることもしばしばかもしれません。が、道草で拾ったものが資産として活きてくることがなによりの旨味だと思っています。
3つとも、正しい登り方だと思ってます。
ただ、「価値が置かれている場所がそれぞれ違う」 という事実がある形ですね。
この「事実」を知らないとどうなるか・・・
問題は優劣とかではなく、この違いを知らないことじゃないかと思います。
タイプ3のエンジニアは、タイプ2用に設計された問い(「5年後どうなりたい?」など)に答えられず、自分を欠陥品だと思い込みます。冒頭の私です。
一方で、タイプ2の先輩がタイプ3の後輩を見ると「あいつは向上心がない。変えてやらないと」と映ります。逆に、タイプ3の先輩がタイプ2の後輩に「もっと過程を楽しめよ」と言って「???」となることも予想できます。
どちらも「善意」ではあるし、同時に「押し付け」なんじゃないかなーと思っています。
かつての私と同じような不安を抱いている人に伝えたいのは上記の話で、あなたは変でも異常でもないということです。落ち込む必要もないです。ただ、エンジニアという山の登り方が違うということに気づけばモヤモヤも取れますよと言うのが言いたいです。 面談で答えに詰まるのは、キャリア意識の欠如ではなく、あなたの価値感が別のところにあるからです。
そして、部下や後輩を「あいつ目的・目標意識がない、変えなきゃ!」と思っている先輩・上司に伝えたいのも、一緒です。変える必要は、たぶんないです。 その人は登っていないのではなく、あなたと違う場所に価値を置いて登っています。「あいつはどういうタイプなんだろう?」と一度観察してみると、これまで欠点に見えていたものが、単なる型の違いに見えてくるはずです。
ただ一つ注意したいのは、会社や組織が一つのタイプを推奨しているような環境の場合、そのタイプではない人は居づらさや疎外感を感じることにつながるでしょう。対話を繰り返すか、別の部署で働いてみるか、思い切って転職をするか、考えてみるのは大事だと思います。
おわりに
ジンの「道草を楽しめ」は個人的にはかなり名言なんですが、これをそのまま人に勧めると、それはそれでタイプ3の押し付けになってしまいます。なので私は、こう言い換えると良いんじゃないかと思います。
あなたは、なぜ山に登っていますか。
その答えがどれであっても、自信を持っていいです。
ただ、隣で登っている別の人の答えは、あなたと違うかもしれない。その事実を知っているだけで、面談も、チームも、キャリアの焦りも、少し違って見えてくると思います。
この考えが過去の自分だけでなく、同じ悩みを持つ人の支えになれば幸いです。

