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【AWS Lore SAA-12】理層の静寂(Deep Layer)

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Last updated at Posted at 2026-04-08

--第11話はこちら

光が、ふっと消えた。

まぶしさの余韻だけが瞼の裏に残り、
次の瞬間、世界は静寂に沈んだ。

「……ここ、は……?」

声を出したつもりなのに、音が空気に触れた感触がない。
足元に広がるのは、白とも灰ともつかない“揺らぐ床”。
踏みしめても硬さがなく、それなのに沈まない。

まるで、
存在していることだけが許されている場所。
存在すること以外を許されない場所。
そんな印象だった。

「ニカ様。お気をつけくださいませ」

アストルの声だけが、この異質な空間で唯一“現実”の温度を持っていた。
扉に入る前の狂気は跡形もなく、老紳士は私たちの傍らで静かに微笑んでいる。
だが、その瞳の奥に映る深層の闇が先程の狂気を思い出させて、一瞬後退る。

「こちらでは、主様の理がすべてを定めます。どうか……夢々お忘れなきよう……理から逸れませぬように」

その言葉に、ミリアが小さく肩を震わせた。

影の異常と“欠片”の反応

「……えっ……何?……影が、勝手に……」

ミリアの足元にあるはずの影。
彼女の影が、ミリアの動きとは“半拍遅れて”動いていた。
本来は同じ動きをするはずの影の挙動がおかしい……
一歩踏み出すたび、影が遅れてついてくる。
まるで本人とは全く別の意志を持っているかのように。

私の胸元の光粒が、微かに脈打つ。
それは光でも熱でもない。
ただ、意識の奥に触れるような気配を確かに感じる。

アストルはその光粒を見て、ほんの一瞬だけ目を細める。

「……やはり、反応なさいますか。
 深層は、欠片の持ち主をよく覚えておりますので」

欠片?
持ち主?

アストルの言葉の意味を問い返す前に、世界が震えた。

空気が揺れ、光が歪み、影がひれ伏すように沈む。
ミリアが息を呑み、ルミエラが私の腕を掴み、
ネリアお姉様が無言で杖を構えて周囲を警戒する。

そのときだった!!

わさわさ??

白い灰色の床の継ぎ目から、黒い影の塊が滲み出す。

「……えっ……?」

ミリアが小さく息を呑む。

影の塊は、ミリアの姿を“かすかに”模していた。
だが輪郭が揺らぎ、形が定まらない。

「ちょ、ちょっと待って……これ……えっ?……アタシ……?」
ミリアが自分と自分の影を見比べて、目をぱちぱちさせる。

影の塊は、ワサ……ワサ……と揺れた。

「えっ……アタシ……また増えちゃうの……?
 もう勘弁してよー!!」

声が裏返り、ミリアは涙目で私の袖を掴む。

ルミエラが困ったように眉を寄せる。

「ミリアさんが……その……ワサワサと……ミリアさんが……ワサワサ……出てきてる……?」

ネリアお姉様が静かに言葉を継ぐ。

「……ワサワサミリア……略して……ワサミ……ですか……」

「は?……ワサミ!? ちょ、ちょっと待って、それは……!」
ミリアが真っ赤になって両手をぶんぶん振る。

だが影のミリア──ワサミ達は、
その名前を肯定するように“ワサワサ”と揺れる。

「……ワサミ、でいいんじゃないかしら……これ……喜んでますよね?」
ルミエラは、笑い出しそうになるのを必死に堪えている。

「いやいやいやいや……!!
 これ……アタシでしょ?
 もう!……アタシの名前……勝手に決めないでよぉ……!」

ミリアの抗議をよそに、
ワサミ達は滑るように私たちへ迫ってくる。

ワサミ達に反応して、ミリアの足元の影が暴れ、
彼女の足元から千切れそうに揺れる。

「ひぃっ……来ないでぇ……!」

その瞬間──

“理の衝撃”

私の胸元の光粒が ぱちん と乾いた音と共に弾けるように光った。

光ではない。
熱でもない。

ただ、
理の衝撃 が空間を走った。

押し寄せていたワサミ達の影が、
見えない壁にぶつかったように弾かれる。

影が軋み、深層の空気が震える。
ワサミ達は床に貼りつくように揺れ、
まるで見えない壁から“押し返されている”ようだった。

アストルが静かに目を細める。

「……やはり、押し留められますか。
 欠片の持ち主の意志は、深層では強く働きますので」

光粒は、私の意志ではなく──
私ではない “誰かの意志” に応えて動いた。

ワサミ達は怯えるように後退し、
影が影を抱きしめるように縮こまり、
ゆっくりと深層の揺らぎの中へ溶けていった。

ミリアが胸を押さえて、ほっと息を吐く。

「……よかった……アタシ、また増えるのかと思った……
 ほんとにもう勘弁してよぉ……」

ルミエラがそっとミリアの頭を撫で、
ネリアお姉様は無言で頷く。

ルミエラは、どこか笑いを堪えているようにも見える。
「ワサワサ……ミリアさん……ワサミ……ワ……ワサミ……」
いつもの冷静なルミエラからは想像できないほどウケている。

アストルはそんな私たちを気にせず、
じっと深層の奥を見つめたまま動かない。

私の胸元の光粒が、まだかすかに脈打っている。

深層からの呼び声

──誰かが、呼んでいる。

そんな感覚だけが、胸の奥で静かにくすぶり続ける。

問いを口にする前に、深層が静かに軋んだ。

空気が震え、光が揺れ、影が沈む。
でも、音はない。
風の吹く気配もない。
ただ、何かわからない。
でも、その“存在”だけは確かに近づいてくる。

私の胸元で光粒が、その“存在”へまるで応えるように強く明滅した。

その時、世界が一瞬だけ白く染まる。

そして──

──ニカ。

それは、私を呼ぶ声ではない。
空気を震わせる音でもない。

それは、
意識の奥に直接触れる“呼び声”だった。

私は、呼ばれたと感じた方へ振り返った瞬間、
深層の理が静かに波打った。

静かに……だけど、確かな波動。

--第13話へつづく

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