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【AWS Lore #SAA-23】世界への帰還(Layers Upon Return)

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Last updated at Posted at 2026-04-17

--第22話はこちら

■世界の重さ

光が反転し、
私はゆっくりと現実へ浮かび上がっていく。
まぶたの裏に残る白い残光が、
深層の静けさをまだ手放せないでいる。

その光は、
まるで私の意識の奥に
薄い膜を残していくようだった。

空気の温度。
優しく肌を撫でる微かな風。
しっかりと私を繋ぎとめるように引き寄せられる重力。

深層にはなかった“現実のざらつき”が、
ゆっくりと、でも確かに私の感覚へ戻ってくる。

感じているざらつきは、
深層の滑らかな静寂とは違う。
けれど──
その違いが、
(ああ……帰ってきたんだ……)と
自分の存在を確かめるようにゆっくりと戻っていく。

胸の奥で、
心臓がひとつ強く脈打った。
深層では感じなかった“重さ”が、
確かに戻ってくる……

「……ニカさんっ!!」

私が目を開くより早く、
柔らかい衝撃が胸元に飛び込んできた。

優しく包み込む温かい腕。
震える指先。
押し殺した呼吸。
私の服を掴む力が、
離れたくない気持ちをそのまま伝えてくる。

「よかった……ほんとに……っ
 戻ってきてくれて……!」

涙で顔をぐしゃぐしゃにしたルミエラが、私を抱きしめていた。

彼女の震えは、
深層での出来事が
どれほど彼女を不安にさせたかを
痛いほど伝えてくる。

「ルミエラ……」

声を出そうとした瞬間、
喉が少しだけ震えて、上手く声が出なかった。

深層の静寂に慣れた身体が、
現実の空気にまだ馴染めていないのだろうか。

呼吸が浅く、
胸の奥に残る光が
まだ微かに脈打っている。

「ニカさん、無理に動かないでください。」

落ち着いた声が重なる。
ネリアお姉様が、私の肩にそっと手を添えてくれる。

その手は温かく、
けれど決して強くは握らない。

触れられた場所から、包み込まれるような静かな安心が広がっていく。

「まだ深層の影響が残っているはずです。
 まずは、呼吸を整えましょう……ゆっくりで大丈夫ですよ。」

その声は静かで、
でも確かな安心をくれる。

少し離れた場所で、リミラが静かに目を閉じていた。
まるで、私の周囲に残る“揺れ”だけを
正確に拾い上げるように、
余計な気配を避けて集中しているのが分かった。

「……ニカはん、ちゃんと戻ってきはりましたねぇ。
せやけど……深層の残り香が、
まだちぃと……揺れとりますわ。」

静かで落ち着いた声。
観測者としての距離感。
けれど、そこには確かな優しさがあった。

■揺れる世界

私はゆっくりと息を吸い、
深層の静寂とは違う“現実の空気”を確かめた。

戻ってきた世界の空気は重く、
深層の透明な静けさとはまた違った感じを受ける。

その瞬間──
視界の奥で世界がわずかに“重なった”。

光の膜が薄く揺れ、空気の境界が静かに震える。

深層で触れた“層”の感覚が、
まだ私の中に残っている。

その揺れは、
現実の世界に薄く重なる
もうひとつの層のようだった。

「……世界が、少し……違って見える。」

思わず漏れた言葉に、
ルミエラが顔を上げた。

涙の跡が残る瞳が、
不安と安堵の間で揺れている。

「違って……?
 えっ……ニカさん、どこか痛いところとか……?」

「ううん。違うの……痛みじゃない。
 ただ……層が、見えるというか……境界が薄いというか……」

ネリアお姉様は、
私の言葉にわずかに目を細めて応える。

「深層で触れた“構造”が、
 まだあなたの感覚に残っているのですね。」

ネリアお姉様の言葉に、リミラが静かに続ける。

「悪いもんやあらしまへん。
 ただ……ニカはんの感覚が、深層に潜る前より、ちぃと鋭うなっとるだけですわ。」

■深層の痕跡

そのリミラの言葉に、胸の奥が、"とくん"、と震えた。

痛みではない。
でも確かに何かが反応した。

深層の光の粒が、
まだ静かに脈打っているような感覚。

その脈動は、
深層の静けさとは違う。
けれど──
確かに“生きている”。

「……っ」

その微かな震えに、
ルミエラがすぐに気づいた。

「ニカさん!? 今の……?」

「大丈夫。
 ただ……呼ばれたわけじゃないけど……
 何かが“応えた”感じがした。」

リミラが、わずかに目を細めた。
その瞬間、周囲の空気がひとつ静まる。
まるで、彼女の視線が
私の胸の奥に残る“揺れ”へと
そっと触れたかのようだった。

「深層で触れた意志の残り香やねぇ。
 悪さはしまへん。
 ただ……ニカはんの中で、
 静かに息してるだけや。」

言葉に合わせるように、
胸の奥の光がふっと脈打った。
リミラはそれを確かめるように、
静かに息を吐いた。

ネリアお姉様が優しく言う。

「深層で得たものは、
 あなたを傷つけるものではありません。むしろ……あなたを強くするものです。」

私は、ネリアお姉様の言葉の意味を確かめるように、胸に手を当てる。
そこには、確かに“温度”があった。

深層の光が、まだ私の中で生きている。

その温度は、私が深層で触れた“意志”の名残。

■新しい世界へ

ゆっくりと立ち上がると、
世界がほんの少しだけ深く見えた。

今までは気にならなかった空気の揺れ。
微かに感じる光の屈折。
それぞれの人の声の奥にある意図。

すべてが、以前より静かに、
でも確かに“層”を持って響いてくる。

深層で触れた構造が、まだ私の視界の奥に残っている。

胸の奥の温度が、ふっと強まった。

まるで 「ここにいる」 と告げるように。

「……行こう。
 一緒に……みんなと一緒に!」

ルミエラが涙の跡を残したまま笑い、
ネリアお姉様が静かに頷き、
リミラが軽く手を振った。

世界は、深層に潜る前より深く、
深層の静けさよりずっと広い。

でもその深さは、もう怖くなかった。

私は三人と共に、
新しい“現実の層”へと歩き出した。


物語は、ここで一旦、一区切りです。
ニカが感じた“層”や“境界”については、
第2部の設定集で少し触れます。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

--第2部全話はこちらから

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