株式会社ZOZO 執行役員 兼 CTO の @sonots です。この記事は「ZOZO Advent Calendar 2024」のカレンダー1の最終回(25日目)です。
2024年は、1年をかけて開発を進めてきた複数の大規模案件をついにリリースすることができた充実の年でした。これらのプロジェクトは、組織のリソースを集中させ、細部までこだわり抜いて実現したものであり、ZOZOの技術力とチームの結束を象徴する成果といえます。昨年の記事「ZOZO開発組織の2023年の振り返りと現状」を執筆していた当時は、まだ開発の真っただ中にあり、具体的な進捗や成果を公開できないもどかしさを感じていました。
本記事では、そんな大規模案件の成果を中心に、2024年を通じてZOZOの開発組織が取り組んできたプロジェクトや挑戦をいくつかご紹介します。
ZOZOTOWNの事業開発、生産性、リプレイス
ZOZOTOWNの事業開発
2024年、ZOZOTOWN事業の成長を支えるさまざまな開発案件を実施してきました。その中でも、事業への影響が大きく、プレスリリースを通じて公表したような取り組みを中心に紹介します。
即日配送エリアの拡大
即日配送サービスが北海道、九州、北陸、南東北エリアにまで拡大しました。
新配送サービス「ゆっくり配送」の導入
環境負荷を軽減する「ゆっくり配送」をスタートしました。「注文のおまとめ」を行うことにより、物流の効率化と配送コスト削減にも寄与しています。
抽選販売の実装
人気商品の公平な購入機会を提供するための抽選販売システムを開発、導入しました。
例えば、こちらのプレスリリースにあるような商品でこの機能が活用されています。
抽選販売は、以前より多くのユーザから要望をいただいていた機能であり、なかなか影響箇所が大きく時間がかかってしまいましたが、ついにリリースすることができました。この場を借りて、関係者の皆様にお礼申し上げます。
ZOZOUSEDヤフオクストアへの出店
ZOZOUSEDがYahoo!オークションに出店しました。
ZOZOは、新品と古着の両方を取り扱うZOZOならではの仕組みでファッションの循環に取り組んでまいりましたが、今後は「Yahoo!ショッピング」、そして「ZOZOUSED」がオープンした「Yahoo!オークション」とのサービス連携を生かし、さらなるファッションの循環と、ZOZOとLINEヤフーによるグループシナジーの強化も目指してまいります。
ZOZOTOWN生産性2倍
昨年度の「ZOZO開発組織の2023年の振り返りと現状」でも触れたように、ZOZOTOWNの生産性向上に向けた取り組みを進めています。2023年度は、「人員増強」に注力した年でした。一方、2024年度は、その基盤をもとに「効率」を高めることを目指してきました。
具体的には、「Findy Team+」で計測可能なFour Keys指標にて、Eliteランク入りすることを目標に掲げ活動してきました(会員基盤、MLOpsの事例)。おかげさまで2024年も開発生産性が優れたエンジニア組織として「Findy Team+ Award 2024」を表彰していただきました。また、日本CTO協会の「開発者体験が良い」イメージのある企業を表彰する「Developer eXperience AWARD 2024」ランキング上位15位に載ることもできました。
同時に、よくある施策をパターン化し、ビジネス部門だけで施策実行できる社内ツールづくりや、社内問い合わせ対応にかかる時間を削減するためのドキュメントやBIツールの整備も進めました。
これらの結果、小規模案件を含めると、プロジェクト開始前の2倍以上の案件を処理できた月も現れ始めました。これは、ツール化によって小さい施策を簡単に実施できるようになった効果が大きいのですが、結果的に数字として「2倍」を達成できたのは非常に意義深い成果だと思っています。ただし、これが最終的なゴールだとは考えていません。上述したような大規模案件をよりスピーディに開発・実現する方法について、引き続き模索していくつもりです。
ZOZOTOWNリプレイス
ZOZOTOWNリプレイスプロジェクトも引き続き進行中です。昨年度までのリプレイスでは、社内で「基盤」と呼んでいるDBを参照するレイヤーのマイクロサービス開発が中心でしたが、2024年度は「Backends for Frontends(BFF)」レイヤーのリプレイスが主軸となりました。
担当領域のリプレイス作業が完了に近づいているチームもあり、次のステップを考え始める段階に差し掛かっています。
ZOZOTOWNリプレイスプロジェクトは終わりが見えて来ましたが、一方で全社的な視点に立つと「VBScriptからの脱却」という意味では、基幹システムリプレイスをはじめ、ZOZOTOWN以外にもリプレイスすべきシステムが依然として残っています。執行役員CTOとしては、これらの全社レベルでのリプレイス計画をしっかりと管理し、長期的な視点での推進が必要だと考えています。
WEARのリニューアル
2024年5月、ファッションコーディネートアプリ「WEAR」を、「あなたの『似合う』が探せるアプリ」をコンセプトに「WEAR by ZOZO」としてリニューアルしました。AIを活用した新機能を随所に導入するとともに、アプリのUIを全面的に刷新し、より直感的でモダンなデザインに生まれ変わりました。
このリニューアルに伴う開発は、企画から約1年をかけて進められました。その間「WEAR」の通常の改修案件を一時停止し、開発リソースをリニューアルに集中させました。その結果、「WEAR」をご利用いただいている皆さまにはご不便やご心配をおかけした部分もあったかと思いますが、今回のリニューアルを通じて、より良い体験をお届けできていれば幸いです。
以下に今回のリニューアルで目玉となった2つのAI機能を紹介します。
ファッションジャンル診断
新たに「ファッションジャンル診断」を開発しました。アプリ初回起動時の診断画面(オンボーディング画面)に表示されるコーディネート画像の中から、好みのコーディネート画像を選ぶことで機械学習エンジンがユーザの好みのジャンルを診断します。
アプリHOMEでは、その好みのジャンルに沿ったコーディネート画像を表示するような、AIによるパーソナライズ機能も提供しています。
WEARお試しメイク
「WEARお試しメイク」はメイクアップアイテムのバーチャル試着を可能にする機能です。スマホのカメラを使い、リップやアイシャドウの仕上がりをリアルタイムで確認することができます。
当初は、リアルタイムで合成する際に速度が出ないなどの問題もありましたが、高速化して実用にまで持っていくことができました。
「似合う」を中心としたアプリ体験
リニューアルの中心となる「あなたの『似合う』」というコンセプトは、単に商品の検索や購入を超えて、ユーザが自分自身を再発見し、自信を持って新しいスタイルに挑戦できるようサポートすることを目指しています。
リニューアル後、「WEAR by ZOZO」はアクティブユーザ数も向上し、多くのユーザに「新しい自分」を発見する楽しさを提供しています。今後もさらに進化を続け、「似合う」に特化した唯一無二のアプリとして成長していきます。
計測技術: ZOZOMAT for Kids と ZOZOMETRY
ZOZOMAT for Kids
2024年8月、ZOZOTOWNにて子ども向け足型計測ツール「ZOZOMAT for Kids」をリリースしました。子どもは足の成長が早いため、サイズアウトに気付きにくいなど、子どもをもつ親ならではの悩みが多くあります。「ZOZOMAT for Kids」で成長期の子どもたちのシューズ選びをサポートします。
従来の「ZOZOMAT」は16歳以上を対象としていましたが、新たにローンチされた「ZOZOMAT for Kids」では、4歳以上の子どもも計測が可能になりました。さらに、成長が早い子どもの特性に対応するため、計測データを基にした将来のサイズ予測機能を搭載しています。ZOZOTOWN上では、各対応シューズのサイズごとに、相性度の高いおすすめサイズと、1つ上のサイズを履ける期間を表示するようにしました。これにより、サイズアウトのタイミングを予測しやすくなり、成長期の靴選びがよりスムーズに行えることを狙いとしています。
ZOZOMETRYと「ZOZOSUITなし」計測
2024年10月、事業者向けに体型計測技術を提供するツールとして「ZOZOMETRY」をリリースしました。
ZOZOでは、以前から3D計測用ボディースーツ「ZOZOSUIT」をマーカーとして利用した計測技術を持っていましたが、今回、精度では劣るものの、ZOZOSUITなしでも手軽に計測できる「ZOZOSUITなし計測」を新たに開発し、その機能を搭載しました。また、ZOZOMETRYはtoB向けのツールとなるため、マルチテナントシステム設計で実装されました。
計測データは、ZOZOMETRYの管理ツールで一元管理でき、事業者は大規模な設備投資やシステム開発を必要とせず、アカウントの申し込みだけで導入可能です。このサービスは、オーダーメイド服や衣料品の研究開発分野での導入が決定しており、今後はフィットネス、ゲーム、医療などファッション以外の分野への展開も視野に入れています。
生成AI業務活用プロジェクト
開発部門では GitHub Copilot をはじめとする生成AI技術の活用がすでに進んでいましたが、ビジネス部門でも業務改善に活用できないか検討すべくプロジェクトが始まりました。
このプロジェクトにより、例えば以下のような社内ツールが作られました。
-
情報システム部門の問い合わせ対応ボット
- 特定の資料を参照して一次回答を行う
-
SNS投稿文生成ツール
- 過去の投稿を参考に、媒体に合わせた文章案を生成
-
IR情報の自動収集&サマリ作成ツール
- 指定企業のIR情報を収集し、要約を作成
-
売上に関するトピックス作成ツール
- 売上データを基に、前週比や前年比を含むトピックスを作成
23個のAIツールを9カ月で開発し、ITmediaの記事にも取り上げていただきました。
今年は主に社内ツールとして生成AIを活用してきましたが、次のステップとして、ユーザ向け機能への展開に挑戦していきます。社内ツールでは、社内スタッフが確認する「human-in-the-loop(人間の介在)」の仕組みを前提とするため、一定の精度でも運用が可能でした。しかし、ユーザ向け機能では、ハルシネーション(AIによる事実誤認や不正確な生成)のリスクを抑えながら、高精度かつリアルタイム性を実現する必要があります。ZOZOではこれらの課題に取り組み、生成AIをどのようにユーザ体験の向上に活用するかを模索していきます。
技術コミュニティへの貢献
2024年も、ZOZOでは技術コミュニティへの貢献に取り組みました。その中で、「Girls Meet STEM」「GitHub x ZOZOTOWN」「Software Designでの執筆」の3つの活動を取り上げたいと思います。
Girls Meet STEM
12月15日、ZOZOでは、女子学生を対象に科学・技術・工学・数学(STEM)分野への興味を促進するためのイベント「Girls Meet STEM」を開催しました。当日は約20名の参加者が集まり、プログラミング体験、女性エンジニアとの交流、オフィスツアーを通じて、ITの仕事の魅力を体感していただきました。
ZOZOはこれまでもさまざまな女性活躍推進のための活動に取り組んできており、今後もこうした機会を提供していきたいと考えています。
GitHub × ZOZOTOWN コラボ
11月22日より、ZOZOTOWNは世界的な開発者プラットフォーム「GitHub」とのコラボレーションによる限定アイテムの受注販売を開始しました。Tシャツやキャップなど全9型を展開し、GitHubが日本でアパレル企業とコラボレーションする初の試みとなりました。
私の身近なエンジニア界隈でも話題になりまして、皆さんに楽しんでいただけているのを肌で感じることができました。ご購入ありがとうございました!
Software Designでの執筆
技術誌『Software Design』にて「レガシーシステム攻略のプロセス」と題した全8回の連載を執筆しました。この連載では、ZOZOTOWNのリプレイスプロジェクトにおけるアーキテクチャ設計や組織設計、検索機能のリプレイス、マスタDBの移行など、実践的な知見を詳細に解説しました。
全8回、つまり約8ヶ月に渡る長期のプロジェクトとして、関係者一丸となって完遂できたことを嬉しく思っています。執筆頂いた関係者の方々お疲れ様でした。今回アウトプットした内容が、技術コミュニティへの貢献につながれば幸いです。
2025年に向けた展望
昨年の記事「ZOZO開発組織の2023年の振り返りと現状」を執筆していた当時は、まだ開発の真っただ中にあり、具体的な進捗や成果を公開できないもどかしさを感じていました。
冒頭に、以上のように書きましたが、実は今年もまだ書けないことが多くもどかしさを感じています。2025年もZOZOの進化をご期待ください!