公式サイトに「API連携に対応」と書いてあった。だから大丈夫だと思って稟議を通したら、実際には上位プランの契約が必要だった——という話を、何度か聞きました。
「API連携できます」という一文は、実は何通りにも読めます。日本の業務システム56件を、公開度(誰に開かれているのか)と契約条件(いまの契約のままで使えるのか)の2軸で分類してみました。
結論から書きます。
「第三者に公開されている」のは56件中27件。半分以下です。
さらにその27件のうち5件は、特定の契約プランでないと使えません。
そして28件は、契約条件が公開資料から読めません。
最後の28件が、この記事で一番言いたいことです。これは調査不足ではなく、公開情報の側の状態です。
1. なぜ2つの軸なのか
「APIがあるか」を ○ × で聞くと、答えが噛み合いません。ベンダーは嘘をついていないのに、こちらの期待と違うことが起きます。
原因は、「ある/ない」の中に別々の話が2つ混ざっているからです。
| 軸 | 聞いていること |
|---|---|
| ① 公開度(誰に開かれているか) | 第三者(あなた、あなたが頼む開発会社)が使えるのか |
| ② 契約条件(契約の壁があるか) | いまの契約プランのままで使えるのか |
①が「公開」でも、②に壁があれば今すぐは使えません。この2つを分けないと、「APIあります」の意味が確定しないのです。
2. 軸①:公開度 — 誰に開かれているか
56件を、公式資料の記述に基づいて6つに分けました。
| 誰に開かれているか | 件数 | 意味 |
|---|---|---|
| 第三者に公開されている | 27 | 仕様が誰でも読め、自分で開発できる |
| 申込・審査・NDA が必要 | 12 | 手続きを経れば使える |
| シリーズ内・パートナー等に限定 | 7 | 外部の開発者向けではない |
| 明示的に不可 | 1 | 提供しないと書かれている |
| 公開情報の範囲で確認できない | 8 | 無いとは限らない |
| その他の理由で確認できず | 1 | 調査の手が届かなかった 1 件 |
2-1. 「確認できない」8件について
ここは慎重に書きます。「APIが無い」とは書けません。
編集部が確認したのは、公式サイトの製品ページ・ヘルプ・開発者向けページ・サイトマップです。そこに公開APIの案内が見つからなかった、というだけです。問い合わせれば個別対応があるかもしれませんし、パートナー向けに提供しているかもしれません。
「無いことの証明」はしていない、という区別を、この記事全体で守っています。
2-2. 「明示的に不可」は1件だけ
逆に言うと、はっきり「提供しません」と書いてあるのは1件だけです。残りは、程度の差はあれ何らかの道がある可能性が残っています。
3. 軸②:契約条件 — 契約の壁があるか
次に、契約条件で制限されるかを見ます。
| 契約の壁 | 件数 |
|---|---|
| 壁がある(上位プラン限定・オプション契約など) | 10 |
| 壁は無い | 18 |
| 公開資料から読めない | 28 |
28件が「読めない」。これが半分です。
ここが、この記事で一番重要な数字です。編集部が調べ足りないのではありません。 公式サイトの料金ページ・プラン比較表・利用規約を確認したうえで、APIが使える条件がどこにも書かれていないという状態です。
3-1. なぜ書かれていないのか
理由は推測になるので断定しません。ただ、構造としてはこう見えます。
- 料金ページは機能の比較表であって、APIは機能一覧に載らないことが多い
- 開発者向けページは技術の説明であって、契約条件は書かない
- その2つの間が空いている
つまり、悪意ではなくページの分担の隙間に落ちている、という見方ができます。
4. 2つの軸を掛けると、こうなります
ここが記事の中心です。
「公開APIあり」の27件のうち、5件は契約の壁つきです。
つまりそのまま使えるのは22件。56件の4割です。
代表的な例がSalesforce Sales Cloudです。API自体は公開されていて仕様も読めますが、利用できるエディションが決まっています。下位プランの契約では、仕様書を読めても呼び出せません。
kintone も、コース(プラン)によって使える範囲が変わります。freee会計・freee人事労務 も、公開APIがある一方でプランの条件が付く部分があります。
「APIはありますか」だけを聞くと、この5件は「はい」と返ってきます。 そして稟議を通したあとで、プラン変更の費用が出てきます。
5. 8つの型 — 「できます」の中身
もう少し細かく見ると、「API連携できます」の意味は8通りに分かれました。
| 型 | 中身 | 系統数 |
|---|---|---|
| T1 第三者に開かれた公開API | 仕様が誰でも読め、自分で開発できる | 25 |
| T2 上位プラン/有料オプション限定 | 公開APIだが、契約の条件がつく | 8 |
| T3 申請制・審査制・NDA | 仕様書は一般公開されない | 6 |
| T4 自社シリーズ内だけ | 外部の開発者向けではない | 2 |
| T5 パートナー/個別対応 | 「API連携実績」はあるが、仕様の配布はない | 5 |
| T6 API提供側ではない | その製品はAPIを使う側。出す側ではない | 3 |
| T7 公開APIの案内を確認できず | 無いとは限らない | 9 |
| T8 iPaaS/コネクタ経由でのみ | 単体で叩けるAPIは公開していない | 1 |
合計が56を超えます。 1系統が2つの型に当てはまることがあるためです(freee会計・freee人事労務・ジョブカン会計の3件)。
たとえば freee会計 は、公開APIがある(T1)と同時に、一部の機能はプランの条件が付く(T2)。型は排他的なラベルではありません。
★このことは、聞き方に効きます。★ 「御社のAPIはどの型ですか」と聞いても答えは出ません。「この機能を、このプランで、第三者が作った仕組みから使えますか」 — 機能とプランと主体を全部入れて聞くと、答えが1つに決まります。
5-1. T6「API提供側ではない」に注意
これは知っておくと得をします。
製品ページに「API連携対応」と書かれていても、「うちの製品が、他社のAPIを呼びに行きます」という意味のことがあります。「銀行のAPIに接続して明細を取り込みます」がこれです。
| その製品は | あなたが欲しいのは | |
|---|---|---|
| T6の記述 | APIを使う側(利用者) | ✗ 役に立たない |
| あなたの用途 | APIを出す側(提供者) | ○ こちらが要る |
つまりあなたがその製品のデータを外に出したいとき、この記述は何の役にも立ちません。
判別は簡単です。「そのAPIを叩くのは、御社ですか、こちらですか」と聞いてください。答えが「弊社が」なら、あなたの用途とは向きが逆です。
5-2. T8「iPaaS 経由でのみ」
単体で叩けるAPIは公開していないが、特定のiPaaSのコネクタとしてなら繋がる、という形です。この場合、そのiPaaSの契約が前提になります。費用の話が1つ増えます。
5-3. 型ごとの実例
型は抽象的なので、実際の記述を並べます。どれも公式サイトに書かれていることです。
T1(第三者に公開)— SmartHR
「APIの利用には別途お金がかかりますか? → SmartHRをご利用いただいていれば、無料で利用できます。」
しかも開発者向けのサンドボックス環境があり、SmartHR未利用者でも無料でAPIを試せます。Webhookも提供されています。開発者向けサイトを見れば、契約前に何ができるか分かります。
T3(申請制・NDA)— ジョブカン勤怠管理
API連携は有料プラン契約者のみで、事前申請制です。「APIお申し込みフォーム」から申請し、土日祝を除く3営業日以内に利用可能になります。開発者向けAPIの仕様書は「有料プランでご契約かつNDA締結の場合に限り」公開されます。
3営業日という数字が書かれているのは親切です。 スケジュールが引けます。
T4(シリーズ内だけ)— ジョブカン労務HR
「『ジョブカン給与計算』をご利用の場合は事業所・従業員情報をAPIで連携することができます。」
そして他社ソフトとの連携については、こう明記されています。
「他社ソフトとの連携に関しましては、ジョブカン労務HRでは直接連携する機能はありません。」
はっきり書いてあるのは、むしろ良いことです。調べる時間が減ります。
T5(実績はあるが仕様の配布はない)— ダンドリワーク
「API連携実績一覧」ページがあり、CRM・SFA・電子契約・販売管理・基幹システムとの連携実績が公開されています。ただし自社開発者向けの公開API仕様の配布はなく、連携は個別相談です。
「実績あり」は「あなたが作れる」ではありません。ここを読み違えると、開発会社に見積もりを頼んだ段階で止まります。
T7(案内を確認できず)— サイボウズ Office
クラウド版では、顧客が連携APIを利用してプログラムを作成することを許可していない、と公式の開発者コミュニティで運営事務局が回答しています。公式の拡張経路はkintoneとの併用連携です。
T8(コネクタ経由でのみ)— Microsoft Forms
単体の公開REST APIではなく、Power Automate・Logic Apps・Copilot Studio用のコネクタとして提供されています。新しい回答をきっかけに動かす仕組みと、フォーム定義・回答内容の取得ができます。ただしPower Appsでは使えません。
6. ★型ごとの全リストを出します★
抽象的な話が続いたので、56件を型ごとに並べます。 自分が使っているシステムを探してください。
| 型 | 件数 | 該当する系統 |
|---|---|---|
| T1 第三者に開かれた公開API | 23 | Garoon/Google Classroom/Google Workspace/Google スプレッドシート/HubSpot/Jotform/KING OF TIME/MOVO Berth/Misoca/Salesforce Platform/Shopify/Slack/SmartHR/Zoho CRM/board/e-Gov電子申請/invox/jGrants/ジンジャー/マネーフォワード クラウド会計/マネーフォワード クラウド経費/マネーフォワード クラウド給与/マネーフォワード クラウド請求書 |
| T1かつT2 公開APIだが、一部にプランの条件がつく | 2 | freee会計/freee人事労務 |
| T2 上位プラン・有料オプション限定 | 5 | Salesforce Sales Cloud/kintone/formrun/楽楽精算/どっと原価 |
| T3 申請制・審査制・NDA | 5+1 | e-Tax/eLTAX / PCdesk/Yahoo!ショッピング ストアクリエイターPro/ジョブカン勤怠管理/ケア樹/ジョブカン会計(T2でもある) |
| T4 自社シリーズ内だけ | 2 | ジョブカン労務HR/ジョブカン給与計算 |
| T5 パートナー/個別対応 | 5 | ANDPAD/CLIUS/Comiru/e-TUMO/ダンドリワーク |
| T6 API提供側ではない | 3 | GビズID/マネーフォワード クラウド社会保険/弥生 |
| T7 公開APIの案内を確認できず | 9 | Airワーク 採用管理/Google フォーム/Grafferスマート申請/LoGoForm/e内容証明/freee申告/いえらぶBB/いえらぶCLOUD/サイボウズ Office |
| T8 iPaaS/コネクタ経由でのみ | 1 | Microsoft Forms |
- T1 — ここに載っていれば、仕様書を読んで見積もりを取るところから始められます。
- T2 — ★この5件が、稟議の後で費用が出てくる層です。★ 先にプランの条件を確認してください。
- T3 — 申請から利用開始までの日数を聞いてください。 仕様が読めるのは申請が通った後なので、それまで見積もりの前提が置けません。
- T7 — ★もう一度書きます。**この9件は「無い」ではありません。**★ 公開情報を確認した範囲で見つからなかった、というだけです。問い合わせれば個別対応があるかもしれません。
7. 稟議の前に確認する4点
以上を、確認事項に落とします。ベンダーに聞くのは4つだけです。
1. いまの契約プランのままで使えますか
これが5件を救います。「上位プランが必要ですか」「オプション契約が要りますか」と聞いてください。
2. 申請や審査は必要ですか
12件が該当します。申請から利用開始までの期間も聞いておくと、スケジュールが立ちます。
3. 仕様書は公開されていますか。それとも申込後ですか
見積もりを取る前に読めるかどうかが変わります。読めない場合、開発会社は前提を置いて見積もるしかなく、その前提が外れると追加費用になります。
4. 取得だけですか。登録・更新もできますか
APIがあっても読み取り専用のことがあります。たとえばジョブカン会計の公開APIは8本すべてGET(取得)のみで、書き込み系の操作はありません。
「データを自動で入れたい」という要件なら、この4番目が満たされないと成立しません。
8. 聞き方の例
以上をまとめると、質問文はこうなります。
「販売管理システムの顧客情報を、会計システムへ1日1回連携したいと考えています。
対象は顧客コード、会社名、住所、電話番号です。
① いまの契約プランのままAPIを使えますか
② 利用に申請や審査は必要ですか
③ API仕様書は契約前に読めますか
④ 顧客情報の取得だけでなく、登録・更新もできますか」
「APIありますか」と聞くより、返ってくる情報の量がまったく違います。
そしてもし答えが「APIはありません」だったとしても、まだ終わりではありません。CSVや純正連携という道が残っています(別の回で扱います)。
9. ベンダーを責める話ではありません
最後に立場を書いておきます。
28件が契約条件を書いていないこと、8件で案内が見つからないこと——これらを不親切だと批判するつもりはありません。
APIを公開して維持するというのは、ベンダーにとって恒久的な保守責任を負うことです。一度公開すれば、勝手に止められません。仕様を変えるときは利用者に告知が要ります。その負担を引き受けたうえで公開している27件は、むしろ評価されるべきだと考えています。
この記事の目的は、発注する側が構造を理解して、正しく聞けるようになることです。
10. まとめ
- 「第三者に公開」は27件 / 56件。半分以下
- そのうち5件は契約の壁つき。そのまま使えるのは22件
- 契約条件が公開資料から読めないのが28件(調査不足ではなく公開情報の状態)
- 「明示的に不可」は1件だけ。残りには何らかの道がある可能性
- 「API連携できます」は8通りに読める。特にT6「API提供側ではない」(その製品はAPIを使う側)に注意
- 稟議の前に聞くのは4点:プラン/申請/仕様書/読み書きの別
「APIはありますか」ではなく、「いまの契約で、登録・更新まで、申請なしに使えますか」。
この記事の調査範囲について
- 対象は、編集部が一次調査を終えて公開している56システムです。台帳にはまだ一次調査を終えていない行が134あります。「日本の業務システム190個を全部調べた」ではありません。
- 確認時期は2026年7月28日〜8月19日です。プランも仕様も変わります。
- 「公開情報を確認した範囲では見つからなかった」と「提供していない」は区別しています。 8件は前者です。
- 分類は編集部が手で割り当てました。 台帳の記述は「公開APIの記載なし」のように無いことを言うために語が出るため、キーワード照合では逆に読みます。判断の元にした記述と出典URLは全件公開しています。
各システムの「API」「契約」の欄は RenkeiMap で1件ずつ公開しています。主な参照先はkintone、freee会計、freee人事労務、Salesforce Sales Cloud、HubSpot、SmartHR、board、ジョブカン会計、マネーフォワード クラウド会計、e-Gov電子申請、jGrants です。
調査対象の56システム(全件・公式ページ)
- Airワーク 採用管理
- ANDPAD
- board
- ケア樹
- CLIUS
- いえらぶCLOUD
- Comiru
- サイボウズ Office
- ダンドリワーク
- どっと原価
- e-Gov電子申請
- e内容証明
- e-Tax
- e-TUMO
- eLTAX / PCdesk
- formrun
- freee人事労務
- freee会計
- freee申告
- GビズID
- Garoon
- Google Classroom
- Google フォーム
- Google スプレッドシート
- Google Workspace
- Grafferスマート申請
- HubSpot
- いえらぶBB
- invox
- jGrants
- ジンジャー
- ジョブカン会計
- ジョブカン勤怠管理
- ジョブカン給与計算
- ジョブカン労務HR
- Jotform
- KING OF TIME
- kintone
- LoGoForm
- Microsoft Forms
- Misoca
- マネーフォワード クラウド会計
- マネーフォワード クラウド経費
- マネーフォワード クラウド給与
- マネーフォワード クラウド請求書
- マネーフォワード クラウド社会保険
- MOVO Berth
- 楽楽精算
- Salesforce Platform
- Salesforce Sales Cloud
- Shopify
- Slack
- SmartHR
- Yahoo!ショッピング ストアクリエイターPro
- 弥生(会計/青色申告 オンライン/Next)
- Zoho CRM
※ 一次調査を終えて公開している 56 件です。判断の元にした記述・出典URL・調査日は RenkeiMap に1件ずつ載せています。
※ 筆者は日立系ITベンダー・介護ソフトベンダー・大学病院IT部門を経て独立し、現在は中小企業のIT・DX支援をしながら、業務システムの「つながり」を一次資料で調べています。