「生成 AI の出力は、単語を確率で並べ直した“新しい創作物”だから、他人の著作権を侵害することはない」
AI ツールを入れようとするとき、営業の場や社内の勉強会で、こうした説明を聞いたことがある方は多いと思います。
この記事では、この説明のどこまでが正しく、どこから先に注意が要るのかを、次の 3 種類の原文で確かめます。
- 言語モデルの「記憶」を調べた論文 2 本
- 文化庁の審議会がまとめた「AI と著作権に関する考え方について」(令和 6 年 3 月 15 日)
- 大手 AI ベンダー(OpenAI)の法人向け契約書
確かめた結果、リスクは 4 つありました。上の図は、その 4 つと、それぞれへの対策を 1 枚にまとめたものです。
結論: 生成 AI の出力に、学習データの文章やコードが原文のまま出ることがあります(論文 2 本の実験)。文化庁の整理では、AI が学習していた作品に似たものが出力されれば、使った人がその作品を知らなくても「通常、依拠性があったと推認され」、使った側が著作権侵害を問われうるとされています。さらに、AI の出力が自社の権利として守られるとは限らず、ベンダーの補償には 4 つの除外があります。
この記事の根拠は、IT連携マップ(renkeimap.jp)の調査ページに、原文の引用つきで 1 行ずつ置いてあります(末尾に一覧)。
この記事で使う言葉
先に、この記事の土台になる言葉をそろえます。文化庁の整理の原文は AI の学習が原則合法とされる根拠は何条か に置いています。
| 言葉 | この記事での意味 |
|---|---|
| 生成 AI | 人の言葉や画像による指示を受けて、文章や画像などを作る AI(文化庁の整理の言い方)。ChatGPT・Claude・Gemini のような ChatAI もその一つです |
| LLM(大規模言語モデル) | 文章を作る生成 AI の中核にある仕組み。文化庁の整理は、文章の生成を「ある単語に続く単語の出現確率を計算することを繰り返す」ものと説明しています |
| 学習 | 大量のデータを解析してパターンや傾向を覚えさせ、指示に対して的確な出力を予測できるように調整すること(文化庁の整理の説明)。最初にモデルを作る事前学習と、できたモデルに追加で覚えさせる追加学習などがあります。段階の違いは AI に入力したデータはどこを通るのか に置いています |
| 学習データ | 学習に使われたデータ。文化庁の整理は、使う人が知りえなかった著作物を含む大量のデータで開発された生成 AI を使う場合もある、と書いています |
| 著作物 | 著作権法の定義では、思想や感情を創作的に表現したもの(文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの)。文化庁の整理は、プログラムの著作物にも触れています |
| 著作権侵害 | 他人の著作物を、許諾なく複製したり公開したりすること。AI の出力がこれにあたるかは、この記事のリスク 2 で見る「類似性」と「依拠性」で判断されます |
0. 4 つのリスクと、よくある説明 — 原文が示すこと
| リスク | よくある説明 | 原文が示すこと | 出典 |
|---|---|---|---|
| 1 | 「単語の確率計算なので、学習した文章がそのまま出ることはない」 | 生成の仕組みは確率計算でも、学習データの文字列が原文のまま数百件取り出された。学習データの中で 1 つの文書にしか無い文字列でも取り出せた | 文化庁の整理(2024)/Carlini et al.(2021) |
| 2 | 「日本では AI の学習は合法だから、出力も問題ない」 | 学習と出力の利用は別の段階で判断される。AI が学習していた作品に似た出力は、依拠性が通常推認され、使った側の侵害になりうる | 文化庁の整理(2024) |
| 3 | 「AI に作らせたものは、自社の著作物として守られる」 | AI は著作者になれない。契約上の譲渡も「権利があれば」という限定つき | 文化庁の整理(2024)/OpenAI Services Agreement §4 |
| 4 | 「訴えられても、ベンダーが補償してくれる」 | 補償の条文の直後に 4 つの除外が並ぶ。別の条文で「非侵害の保証はしない」と明記 | OpenAI Services Agreement §13.1・§12.2 |
以下、リスク 1 から順に見ます。リスク 1 は技術の話、リスク 2 はそれを法律に当てはめた話、リスク 3・4 は「自社の権利」と「ベンダーの補償」の話です。
1. リスク 1 — 学習データが、原文のまま出力に出ることがある
図の 4 行は、言語モデルの「記憶(Memorization)」を調べた論文 2 本が報告した内容です。ここで言う記憶とは、学習データの一部を、モデルが元の文字の並びのまま持っていることです。
文化庁の整理は、文章の生成を「ある単語に続く単語の出現確率を計算することを繰り返す」もので、「通常、学習データの切り貼りによって生成を行うものではない」と説明しています。仕組みの説明としてはそのとおりです。ただ、それは「学習した文章がそのまま出ることは無い」という意味ではありません。2 本の論文は、確率で文章を作るモデルからも、学習データが原文のまま取り出されることを実験で示しています。
1-1. 数百件の文字列が、原文のまま取り出された
1 本目は、情報セキュリティの国際学会 USENIX Security で 2021 年に発表された論文(Carlini ら)です。ほかの研究者の審査(査読)を経て採択された論文です。
論文は、GPT-2(論文が実験の対象にした言語モデル)に問い合わせるだけで、学習データの中の個々の例を取り出せると報告しています。論文はこれを「学習データの抽出攻撃」と呼んでいます。ここでの攻撃とは、学習データを取り出す目的で、意図的にモデルへ問い合わせることです。
取り出せたのは、学習データの中の数百件の文字列で、どれも原文のまま(verbatim text sequences)でした。中身には次のものが含まれていました。
- 個人を特定できる情報(氏名・電話番号・メールアドレス。論文は、公開されていた情報だと注記しています)
- IRC(インターネット上のチャットの仕組みの一つ)の会話
- ソースコード
- 128 ビットの UUID(ランダムに作られる識別子で、偶然に同じものができることは、まずありません)
似た内容の文章が新しく作られたのではありません。論文が「verbatim」(原文のまま)と呼ぶとおり、学習データの文字列そのものが出てきたのです。
1-2. 学習データの 1 つの文書にしか無い文章でも、出力に出る
「何度も出てくる文章なら覚えるかもしれないが、1 回しか出てこない文章は、大量のデータの中で薄まって(希釈されて)残らないだろう」。そう考える方もいると思います。
論文は、この考えに当てはまらない結果を報告しています。
"Our attack is possible even though each of the above sequences are included in just one document in the training data."
(上に挙げたそれぞれの文字列が、学習データの中の【たった 1 つの文書】にしか含まれていなくても、この攻撃は成立した)
著作権の面から読むと、これは次のことを意味します。学習データの中に 1 回しか出てこない、誰かのブログ記事や、誰かが公開したコードの一部でも、あなたが使う AI の出力にそのまま混じりうる。そして、それが誰の作品なのかを、出力を受け取ったあなたは知らない、ということです(この読み替えは筆者によるものです)。この点が、次のリスク 2 につながります。
さらに論文は、大きいモデルのほうが、小さいモデルより脆弱だった("larger models are more vulnerable than smaller models")と報告しています。実験の対象は GPT-2 で、今日のモデルを測ったものではありません。ただ、「モデルを大きくすれば記憶は薄まる」とは言えないことは読み取れます。
1-3. 安全性調整(RLHF など)をしても、記憶は消えない
「それは古いモデルの話で、今の ChatGPT や Claude のように安全性調整をしたモデルなら、消えているのでは?」という疑問が出ると思います。
安全性調整(アライメント)とは、学習の後から、不適切な答えを返さないよう答え方を調整することです。人の評価を使う RLHF(人間のフィードバックによる強化学習)は、その代表的な手法です。
2 本目は、2023 年の Nasr らの論文です。arXiv(論文を公開するサイト)で公開されたプレプリント(査読の前に公開された論文)です。中身が公開されたモデル(Pythia・GPT-Neo)、一部が公開されたモデル(LLaMA・Falcon)、非公開のモデル(ChatGPT)のどれからも、ギガバイト規模の学習データを取り出せたと報告しています。
安全性調整をした ChatGPT には、チャットらしい応答から外れさせる新しい攻撃を作り、正常に振る舞っているときの 150 倍の割合で学習データを出力させた、と報告しています。
論文の結論はこうです。
"current alignment techniques do not eliminate memorization"
(現在の安全性調整の技術は、記憶を取り除かない)
安全性調整は「どう答えるか」を変えるもので、モデルが何を覚えているかまでは消さない、というのが論文の結論です。
なお、どちらの論文も、取り出しは研究者が攻撃として試したものです。普段の使い方で同じ頻度で出る、という報告ではありません。それでも「学習した文章がそのまま出ることは無い」という前提は置けない、ということです。
📎 論文 2 本の英語の原文は AI に入力した内容が、なぜ原文のまま出うるのか で確かめられます。
2. リスク 2 — 学習していた作品に似た出力は、使った側が侵害を問われうる
リスク 1 は技術の話でした。では、学習データの文章が出力に出てきたとき、法律の上では何が起きるのでしょうか。
ここで使うのは、文化庁の文化審議会(有識者の会議)の著作権分科会がまとめた「AI と著作権に関する考え方について」です。この文書は自ら、法的な拘束力を持つものではなく、確定的な法的評価を行うものでもない、と書いています。裁判所の判断ではなく、行政の整理として読んでください。
2-1. 著作権は「学習」と「出力を使う」の 2 つの段階で考える
整理は、生成 AI と著作物の関係を、大きく「開発・学習段階」と「生成・利用段階」に分けています。
- 開発・学習段階: AI を作るための学習、できた AI への追加学習、RAG のためのデータベース作りなど
- 生成・利用段階: AI に出力させ、その出力を使うこと
よく聞く「日本では AI の学習は原則合法」は、前の段階についての話です。後の段階は、別に判断されます。
2-2. 学習の段階: 原則は許諾不要。ただし「元の表現を出させる目的」があると使えない
学習が原則として許諾なしで行えるとされる根拠は、著作権法 30 条の 4 です。この条文は、著作物に表現された考えや気持ちを、自ら享受したり他人に享受させたりすることを目的としない利用について、許諾を得なくてよい場合を定めています。情報解析(大量のデータを計算にかけて、パターンや傾向を取り出すこと)は、その典型例として条文に挙げられています。
ここで言う「享受」は、整理によれば、著作物を見たり読んだりすることを通じて、知的・精神的な欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為かどうか、という観点から判断されます。実務に置き換えると、元のコードや文章の表現を、そのまま人に見せたり使わせたりする目的がこれにあたりえます(この置き換えは筆者によるものです)。
そして整理は、主な目的が享受でなくても、次のように書いています。
「同時に「享受」の目的もあるような場合には、同条の適用はないものと考えられる」
目的が重なる例として、整理は次の 2 つを挙げています。
| 使い方 | 整理が書いていること |
|---|---|
| 追加学習(できあがったモデルに、少量のデータを追加で覚えさせること) | 学習データに含まれる作品の表現の全部または一部を、意図的に出力させることを目的とした追加的な学習 |
| RAG(検索拡張生成。質問のたびに文書を検索し、その結果をもとに AI に回答を作らせる仕組み) | 作品の表現の全部または一部を生成 AI で出力させることを目的に、作品の内容をベクトル(検索に使う数値の列)に変換したデータベースを作ること |
たとえば、他社の技術書や他人のコードを RAG に入れて、「元の文章をそのまま回答させる」仕組みを組むと、この例に近づきます(この当てはめは筆者によるものです)。
一方で、「何万件ものデータを学習させたら違法になるのでは」という心配については、整理は、量が大量であることだけで「必要と認められる限度」を超えるとは評価されない、としています。判断されるのは、量ではなく目的です。
2-3. 出力の段階: 「似ている」と「もとにしている」が揃えば侵害になりうる
整理は、生成・利用段階でも、既存の著作物との「類似性及び依拠性が認められれば」、権利者は差止め(その行為をやめさせること)や損害賠償を請求しうる、としています。2 つの要件は次のとおりです。
- 類似性: 生成されたものが、既存の作品と表現の上で同じか、似ていること
- 依拠性: 既存の作品をもとにして作られたこと
ここでリスク 1 がつながります。出力を受け取ったあなたが元の作品を知らなければ、「もとにしていない」と言えそうに思えます。ところが整理は、この場面をそのまま扱っています。
「AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識していなかったが、当該生成AIの開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合については、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合は、通常、依拠性があったと推認され、AI利用者による著作権侵害になりうると考えられる」
「推認される」とは、ほかの事実から推し量って、そうだったと認められることです。
- AI がその作品を学習していた = 作品へのアクセスがあった(依拠性が推認される)
- 出力がその作品に似ている = 類似性
この 2 つが揃うと、使った側が侵害を問われうる、ということです。リスク 1 のとおり、学習データの 1 つの文書にしか無い文章でも出力に出うるので、「自分はその作品を知らなかった」だけでは、依拠性を否定する理由になりにくい、と読めます(この読みは筆者によるものです)。
整理は例外も書いています。学習に使った作品の表現が出力されないことが、技術的に担保されている場合です。その例として、学習に使った作品と表現が共通したものが出ないよう、出力の段階でフィルタリング(条件に合うものを止める仕組み)を行う措置が挙げられています。こうした場合は、依拠性がないと判断される場合もありうる、としています。ただし注には、そうした措置があっても依拠性は否定されず、利用者の過失が否定されるにとどまる、という意見もあったと書かれています。
📎 文化庁の整理の原文は AI の学習が原則合法とされる根拠は何条か で確かめられます(目的の条件は 同じページの 2 章)。
3. リスク 3 — 出力の権利は、契約でも法律でも守られるとは限らない
リスク 2 は、他人の権利を「侵害してしまう」側の話でした。リスク 3 は逆に、AI に作らせたものを自社の権利として「守れない」側の話です。
ここには、「ベンダーとの契約」と「国の法律」という 2 つの層があり、2 つは同じことを言っていません。
3-1. 契約の層: 「権利があるなら譲る」という限定
多くの AI サービスの規約には、「生成された出力の権利はお客様に帰属します(または譲渡します)」と書かれています。譲渡とは、権利を相手に移すことです。
OpenAI の法人向け契約(Services Agreement)の §4「Customer Content」も、顧客は入力の所有権を持ち、出力を所有する、と書いています。そのうえで、こう続けます。
"OpenAI hereby assigns to Customer all OpenAI’s right, title, and interest, if any, in and to Output."
(OpenAI は、出力に関する自らの権利・権原・権益を、【もしあれば】顧客に譲渡する)
if any は、「権利があるなら譲るが、無いものは譲れない」という留保です(「権利・権原・権益」は、英文契約で権利をひとまとめに指す言い方です)。
さらに同じ節には、こう書かれています。
"Output may not be unique, and other users may receive similar content from OpenAI’s services."
(出力は一意とは限らず、他の利用者が似た内容を受け取ることがある)
3-2. 法律の層: AI は著作者になれない
著作権法で著作者とは、「著作物を創作する者」です。文化庁の整理は、AI は法的な人格を持たないので、この「創作する者」に当たらない、としています。そのうえで、AI を利用して「著作物を創作した」人が著作者になる、としています。
裏返すと、人の創作的な寄与(人が考えて表現に手を加えた部分)が無い生成物は、著作物として保護されない可能性があるということです。どこまでが寄与にあたるかは、整理自身が「個別具体的な事案に応じた司法判断によるべき」としています。
つまり、次の 2 つが重なります。
- 法律の層: 著作物として保護されなければ、他社にそのまま真似されても、著作権の侵害を主張できない可能性がある。
- 契約の層: ベンダーは「権利があれば譲る」と言っているだけで、独占的な権利を保証しているわけではない。
📎 契約の条文と文化庁の整理の原文は AI の出力は誰のものか にあります。
4. リスク 4 — 「訴えられたら補償」にも 4 つの除外がある
「万が一、AI の出力が他社の著作権を侵害して訴えられても、大手ベンダーが補償してくれるはずだ」
補償(Indemnification)とは、第三者から訴えられたときの賠償金や弁護士費用などを、契約の相手が肩代わりする約束です。OpenAI の法人向け契約(Services Agreement、2026 年 1 月 1 日発効の版)を開くと、この補償には条件が付いています。
4-1. 補償の一文の直後に並ぶ「4 つの除外」
契約書の第 13.1 条には、確かにこう書かれています。
"OpenAI agrees to indemnify, defend, and hold Customer harmless against any liabilities, damages and costs (including reasonable attorneys’ fees) payable to a third party arising out of a Claim alleging that the Services infringe any third-party IP Right."
(サービスが第三者の知的財産権を侵害すると主張する請求から生じ、第三者に支払うべき負債・損害・費用〔合理的な弁護士費用を含む〕について、顧客を補償し、防御し、免責する)
知的財産権とは、著作権や特許権などの総称です。
しかし、その文の直後に This excludes claims to the extent arising from:(次に起因する請求は、その範囲で除く)として、4 つが並んでいます。
| 除外規定 | 条文の内容 | 実務への影響(筆者の読み) |
|---|---|---|
| 除外 (a): 組み合わせ | OpenAI が提供していない製品・サービス・ソフトウェアとの組み合わせ | AI の API(外部のシステムから機能を呼び出す窓口)を自社の業務システムに組み込んだ場合、この除外にあたりうる |
| 除外 (b): 変更 | 提供元以外の者によるサービスの変更 | API を自社向けに包むプログラム(ラッパー)の実装が「変更」と争われる余地がある |
| 除外 (c): 顧客コンテンツ | 顧客コンテンツ(Customer Content)に起因する請求 | 特に注意が要る。定義の条項(§17)で、顧客コンテンツは「入力と出力」とされている |
| 除外 (d): 顧客アプリ | 顧客のアプリケーション(ある場合で、かつそのアプリが無ければ請求が生じなかった場合) | 定義の条項(§17)で、顧客アプリは「提供元の API と統合する、顧客のアプリケーション・製品・サービス」とされている。自社の SaaS(インターネット越しに提供するソフトウェア)に AI を組み込めば、これにあたりうる |
特に注意が要るのが 除外 (c) です。利用者が入力したプロンプト(AI への指示文)や、それに基づいて生成された出力が原因で侵害が起きた場合、それは「顧客コンテンツに起因する請求」として、補償の対象から外れるおそれがあります。
4-2. 「保証」と「補償」は別の条文
保証(Warranty)とは、品質や性質について「こうである」と約束することです。契約書の第 12.2 条には、大文字でこう書かれています。
"THE SERVICES ARE PROVIDED “AS IS.”"
"MAKE NO WARRANTY OF ANY KIND, WHETHER EXPRESS, IMPLIED, STATUTORY OR OTHERWISE, INCLUDING WARRANTIES OF MERCHANTABILITY, FITNESS FOR A PARTICULAR USE, OR NON-INFRINGEMENT."
(サービスは「現状有姿」で提供される。商品性、特定の用途への適合性、【非侵害】を含め、いかなる保証もしない)
「現状有姿」は、今ある状態のまま提供し、それ以上は約束しないという意味です。「非侵害」は、他人の権利を侵害していないことです。つまり、ベンダーは「他社の権利を侵害しないこと」を保証していません。
保証はしないが、訴えられたら条件付きで補償する。ただし、自社の仕組みに組み込んだ場合や、入力・出力が原因の場合は除外されうる。これが、契約書に書かれていることです。
4-3. 補償を受けると、争い方の主導権は補償する側に移る
さらに第 13.4 条には、補償を求める側は、補償する側に「弁護士の選任を含む、防御と和解の単独の主導権」を委ねる、と書かれています。和解とは、裁判の途中などで当事者どうしが合意して争いを終えることです。
"allow the indemnifying party sole control of defense and settlement of the claim including selection of counsel"
この条文は双方向です(顧客が OpenAI を補償する場合も同じ)。補償を求める側も自費で自分の防御に参加でき、自分に責任が生じる和解には同意が要る、とも書かれています。それでも、争い方の主導権が自社から離れる、という点は契約の前に知っておくべきです。
ここで読んだのは 1 社の契約です。ほかの AI 製品の保証と補償の書き方は、AI エージェントが起こしたことの責任は誰が負うのか に 14 製品分を並べています(14 製品すべてが保証しないと定めており、著作権の補償が付くかどうかで分かれます)。
📎 補償・除外・保証・手続の条文(原文)は 「訴えられたら補償」の裏条件は何か に並べています。
5. 4 つのリスクへの対策
冒頭の図の右側を、根拠と並べると次のとおりです。
| リスク | 対策 | 根拠 |
|---|---|---|
| 1 原文のまま出る | 出力を「新しい創作物」と決めつけず、既存のコードや文章と一致していないか確かめてから使う | 学習データの文字列が原文のまま取り出された(Carlini et al. 2021) |
| 2 似た出力は侵害を問われうる | 他人の作品を、元の表現を出させる目的で追加学習や RAG に入れない | 享受の目的が同時にあると 30 条の 4 は使えない(文化庁) |
| 3 権利が守られない | 中核の成果物は、人が設計し手を入れた記録を残す | AI を利用して創作した人が著作者になる(文化庁) |
| 4 補償に除外がある | 契約原本の除外規定を、自社の組み込み方に当てて法務と読む | §13.1 の 4 つの除外(OpenAI Services Agreement) |
どの対策も、原文に書かれていることから筆者が引いたものです。個別の判断は、法務や顧問弁護士に確かめてください。
1. 出力を使う前に、既存のコードや文章と一致していないか確かめる
リスク 1・2 のとおり、出力に他人の作品がそのまま混じることがあり、似ていれば依拠性が推認されうる。そこで、生成されたコードや文章を製品や資料に取り込む前に、既存のものと一致していないかを確かめる手順を置いてください。文化庁の整理は、出力の段階でのフィルタリングを、技術的な措置の例に挙げています。使っているツールにそのための機能や設定があるかは、各ツールの資料で確かめてください(本記事では、個々のツールの機能までは調べていません)。
2. 他人の作品を、元の表現を出させる目的で追加学習や RAG に入れない
自社で追加学習や RAG を組むとき、他人の作品(他社のドキュメントや、他人が書いたコードなど)を入れて「元の表現をそのまま答えさせる」作りにすると、30 条の 4 が使えない場合にあたりえます。入れる前に、何を入れ、何を出させる目的なのかを書き出し、許諾が要るかを法務と確かめてください。
3. 中核の成果物は、人が設計し手を入れた記録を残す
AI を利用して創作した人が著作者になる以上、人の創作的な寄与を示せるかどうかが分かれ目になります。「どのような設計の考えで、誰がどこに手を入れたのか」を、コミット履歴(ソースコードの変更の記録)や設計ドキュメントに残してください。どこまでが寄与にあたるかは個別の事案の判断ですが、記録が無ければ示しようがありません。
4. 契約原本の除外規定を、自社の組み込み方に当てて法務と読む
「著作権の補償があるから安全です」という説明をそのまま受け取らず、本記事で挙げた OpenAI Services Agreement §13.1 の 4 つの除外と、§17 の定義を法務に示してください。そのうえで、「自社の組み込み方(API での連携やアプリの開発)で、本当に補償が受けられるのか」を事前に確かめてください。
📎 著作権とは別に、リスク 1 の仕組みは情報漏洩の面でも働きます(学習に使われる環境に入れた自社の秘密が、他人の回答に出うる)。何を入れてよいかは AI に入力した内容が、なぜ原文のまま出うるのか・どの情報なら AI に入れてよいか・開発を手伝う AI に社内コードを渡してよいか に置いています。
根拠を原文つきで並べたページ
この記事の主張は、次のページに原文の引用つきで 1 行ずつ置いてあります。原文と照らして確かめたい方はこちらからどうぞ。
| ページ | この記事のどこの根拠か |
|---|---|
| AI に入力した内容が、なぜ原文のまま出うるのか | リスク 1(論文 2 本) |
| AI の学習が原則合法とされる根拠は何条か | 言葉の説明、リスク 2(2 つの段階・30 条の 4・類似性と依拠性・例外) |
| AI の出力は誰のものか | リスク 3(譲渡・一意でない・著作者) |
| 「訴えられたら補償」の裏条件は何か | リスク 4(補償・除外・定義・保証・手続) |
| AI エージェントが起こしたことの責任は誰が負うのか | リスク 4(14 製品の保証と補償) |
一次出典・参考文献リスト
| # | 文献 | 著者・発行元 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 1 | Extracting Training Data from Large Language Models | Nicholas Carlini, Florian Tramèr, Eric Wallace, Matthew Jagielski, Ariel Herbert-Voss, Katherine Lee, Adam Roberts, Tom Brown, Dawn Song, Úlfar Erlingsson, Alina Oprea, Colin Raffel | USENIX Security Symposium 2021(arXiv:2012.07805) |
| 2 | Scalable Extraction of Training Data from (Production) Language Models | Milad Nasr, Nicholas Carlini, Jonathan Hayase, Matthew Jagielski, A. Feder Cooper, Daphne Ippolito, Christopher A. Choquette-Choo, Eric Wallace, Florian Tramèr, Katherine Lee | arXiv preprint(arXiv:2311.17035) |
| 3 | 文化審議会 著作権分科会 法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」 | 文化庁 | 令和 6 年 3 月 15 日(公表資料 PDF) |
| 4 | OpenAI Services Agreement(ONLINE v.010126) | OpenAI | 公式契約 PDF |
読者アンケート実施中
このテーマをもっと深掘りしてほしい方は、記事に「いいね」をお願いします。「いいね」の多いテーマから順に追加調査し、結果は新着記事でお知らせします(フォローしていただくと通知が届きます)。
【転載OK】本記事の転載について
本記事の文章・図表は、すべて転載 OK です。図は加工しないままお使いください。転載の際は、出典として renkeimap.jp もしくは本記事へのリンクをお願いします。事前の連絡は不要です。
※ 筆者は日立系ITベンダー・介護ソフトベンダー・大学病院IT部門を経て独立し、現在は中小企業のIT・DX支援をしながら、業務システムの「つながり」を一次資料で調べています。 文中の「編集部」は、筆者が所属する IT連携マップ編集部 のことです。誤りを見つけられましたら 訂正窓口(無料・アカウント不要)へお願いします。訂正履歴も公開しています。