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ゲージ理論 ああゲージ理論 ゲージ理論 (物理編)

Last updated at Posted at 2024-12-11

この記事は
https://qiita.com/soleil299792458/items/6583a474bd013b99d28d
の後編です。
数学的なことは主に前編にまとめてあります。
後編は最低限必要なことの復習にとどめ、物理的な側面を解説しようと思います。

もくじ

-はじめに
-物理的な要請とその結末
-"電磁気学C" ~U(1)ゲージ理論~
-余ったトピック
-まとめ

前編

-ゲージ理論にできること
-ゲージ理論の気持ち
-物理→数学への翻訳
-共変微分
-数物間の言葉の対応
-あとがき(数学)
-脚注

はじめに

前編は長々とよくわからない量を導入する回になってしまい申し訳ないです。
ですがそのおかげで準備はバッチリです。ここからは本題であるゲージ理論とは何かに迫っていこうと思います。

早速、本題に入っていきたいのですが、その前に前編の復習をしておきましょう。
前編では、物理を "グラフ$y=f(x)$の一般化" であるファイバー束を導入し、それに構造群という構造が入ると微分が普通の微分におまけのついた共変微分に置き換わることを見ました。
特に最後の構造群が入ると共変微分が入るということを覚えていてください。これがゲージ理論の骨子です。
これさえ覚えておけばなんとかなるでしょう。前編でよくわからなかったり、後編から読む方もこれさえ抑えておけばなんとかなるでしょう。

物理的な要請とその結末

ここからは物理の話に移っていこうと思います。
一番最初にはゲージ理論にはゲージ原理という物理的に真っ当な原理があるといいました。ゲージ原理は言い換えると物理は人の選んだものに依存しないということです。
この主張は相対論では相対性原理として知られています。相対論では時空に関して、特別な観測者(基底の取り方)は存在しないと仮定し、情報伝達には座標に共通な最大速度(光の速さ)があるだろうということからさまざまな面白い現象が現れるとっても綺麗な理論です。1
先ほどのファイバー束の概念を思い出すと、物理を行うのは時空(底空間)だけではありませんでしたね。その上のファイバーが存在します。このファイバーに関する相対論がまさにゲージ理論であり、これにより各所の相互作用が導かれ統一的に扱うことができます。
gauge Theory.jpeg

具体的に話を展開していきましょう。
まず舞台として複素スカラー場の理論を用意します。物理的な意味としては雑に言えば時空を対等に扱って時間を特別視した"量子力学を拡張したもの"です。数学的にはファイバー$F:\mathbb{C}$ 底空間$M:\mathbb{R}^4$(時空)を取ったという意味です。
またこの空間での運動方程式としてDirac方程式

(i\gamma^{\mu}\partial_{\mu}-m)\phi(x)=0

について考えていきます。物理的な意味としては時空を対等に扱いシュレディンガー方程式を相対論的に拡張したものです。実際に電子などの粒子はこの方程式に従います。数学的にはこのファイバー束上でこのような切断$\phi(x)$の従う微分方程式を置いて振る舞いを考えると思えばいいでしょう。

少し量子力学をかじったことのある人なら、物理的に意味のある量は波動関数の2乗$\phi^{\dagger}\phi$であったことを知っていると思います。
これは逆に考えると、$\phi^{\dagger}\phi$を変えないなら波動関数を好きにいじっていいとも解釈できませんか?
すると$\phi$には「$e^{i\theta}$をかけてもいいよ」という自由度が入ります。それは数学の言葉で言えば基底を回転する自由度を加えるので上のファイバー束に 構造群$G=U(1)$ を付け加えて良いということを意味します。ファイバーF:$\mathbb{C}$の隣とのつながりが複素平面をねじる分だけ許されるということです。
IMG_0742.jpg

構造群の構造が入ると何が起こるでしょう?先ほどの議論からそれに伴った接続が導入されますね。すると通常の微分が

d \to d+A

と共変微分に置き換わります。
それに伴いDirac方程式も

(i\gamma^{\mu}(\partial_{\mu}+A_{\mu})-m)\phi(x)=0

のように形が変わります。実はこれが電磁場中におけるDirac方程式なのです。2

一番シンプルな平坦なファイバー束には物理的な観点からは構造群$U(1)$が入ることが許されます。3そのため微分に接続が入る自由度が生まれます。その自由度こそが電磁気力なのです。

さらに面白いことに、同様に他の力に関しても説明することができます。
弱い力はレプトンとクォークなどの素粒子の間に働きます。有名な例を挙げるとβ崩壊

p^+ = n + e^+ + \nu_e

などがあります。
この際にはこれらの粒子はダブレットといい$(p^+, n)_L, (e^+, \nu_e)_L$とペアになって存在します。そのため合わせてみると$\mathbb{C}\times\mathbb{C}\cong \mathbb{C}^2$となります。これに伴いU(1)の時と同様にこの2成分複素ベクトルの絶対値を変えない変換の自由度として SU(2) の構造群が入ることが許されます。許されるものは生じるのが物理です。それに伴い接続が入り、方程式は

i\gamma^{\mu}(\partial_\mu+ig\sum_{a=1}^{3}W_{\mu}^{a}\frac{\sigma^a}{2})\begin{pmatrix}\phi_1\\\phi_2\end{pmatrix} =0

のようになります。($\phi_1, \phi_2$にはそれぞれレプトンやクォークが入ります。)これが弱い力です。

また、強い力は原子核などを作る力です。原子核はクォークと呼ばれるものからできていると聞いたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。そのクォークはカラーと呼ばれる三つの自由度からなり、それらが光の三原色のように"白色"を作るときだけ原子核(バリオン)を作ります。それを数式で書くと

B = \sum_{a,b,c=1}^{3}\epsilon_{abc}q^aq^bq^c

となります。(Bがバリオン、qがクォークの場(関数)です。)
またまた同じからくりでバリオンは$\mathbb{C}\times\mathbb{C}\times\mathbb{C} \cong \mathbb{C}^3$となるので、3成分複素ベクトルの大きさを変えない変換、つまりSU(3)の構造群の自由度が許されます。
それに従って接続が入り方程式は

i\gamma^{\mu}(\partial_\mu+ig\sum_{\alpha=1}^{8}G_{\mu}^{\alpha}T^{\alpha})\begin{pmatrix}q^a\\q'^b\\q"^c\end{pmatrix} =0

となります。

これら弱い力を表現するSU(2)ゲージ理論、強い力を表現するSU(3)ゲージ理論といった非可換なゲージ群が入る理論のことを非可換ゲージ理論Yang-Mills理論といいます。
一見全く異なるように見えた力たちを統一的に見ることができましたね。
どれも起こる現象に即して構造群(ゲージ群)が入ることが許され、その自由度に入り込んだ接続が相互作用であるという力に関する新たな視点を理解していただけたでしょうか?

"電磁気学C" ~U(1)ゲージ理論~

先ほどは美しいゲージ理論の一端をご覧いただきました。ゲージ理論の凄さに驚く一方、「本当か?まだ与えられたよく知らない方程式と一致したのをみただけであんまりしっくりこないなぁ」という人も多いでしょう。
そのでこの章ではU(1)ゲージ理論が特に馴染みの深い電磁気学(Maxwell理論)になっていることを見ていこうと思います。

まず新たな量として曲率テンソルを導入します。
時間とスペースがないので正確なことは省略しますが、場に対して2回微分を行ったものは曲率を表しますよね(?)。ベクトル解析をやったことのある方は計算をしたことがあると思いますが、位置ベクトルを弧長パラメタで2回、微分を行ったものの絶対値が曲率でした。空間が曲がった一般の幾何学でも同様に2回、今度は共変微分を行ったものを曲率と定義します。ちなみにこれは座標の取り方によらない幾何学的な量です。一般相対論ではRiemann曲率テンソルといい重要な役割を果たしています。

では上に挙げた複素スカラー場のファイバー束の曲率を計算してみましょう。
曲率テンソルFは

\begin{align}
F\phi &:= \nabla^2 \phi\\
&=(d+A)(d+A)\phi\\
&=...\\
&=(dA+A \wedge A)\phi
\end{align}

つまり

F=dA+A \wedge A

が曲率テンソルとなります。曲率2形式場の強さテンソル電磁場テンソル などと呼ばれることもあります。
U(1)ゲージ理論の場合、U(1)のLie代数Aがc数なので可換なので$A\wedge A$は0となることに注意して成分表示を計算すると

F_{\mu\nu} = (\partial_{\mu}A_{\nu}-\partial_{\nu}A_{\mu})

のようになります。

それでは話を進めてこの量の意味について考えていこうと思います。
曲率はちょろっと触れたように座標の取り方によらない幾何学的な量です。ということは「逆に、物理的な実態を持っているのでは?」と捉えることはできないでしょうか?その予想は当たっており、ネタバレをしてしまうとこの曲率がまさに電磁場となっている4のです。それを以下で見ていきます。

まずは式を扱いやすくするために少々変形します。そこで突然ですが以下のBianchi恒等式を導入します。

Thm
曲率Fは以下の恒等式を満たす。
\nabla F = 0
この恒等式を Bianchi恒等式 と呼ぶ。
導出に関しては割愛します。(微分幾何や相対論の本に載っていると思います。)

これを共変微分を展開すると

\nabla F = dF+[A,F]

ただし$[A,F]=A\wedge F-F\wedge A$です。
U(1)の場合にはAとFが可換なので$[A,F]=0$が成り立ちます。よって上のBianchi恒等式から$dF=0$を得ます。
強調しておくとBianchi恒等式は可積分(空間が一点可縮、要は穴のない普通の空間です)であればいつでも成り立つ恒等式です。よってこの$dF=0$もその時には常に成り立つ式です。

これで準備は整いました。電磁場テンソルをいじっていきましょう。
まずは曲率テンソルが反対称であることに注意して、各成分を次のようにおきます。

F_{\mu \nu}=
\begin{pmatrix}
0&E_1&E_2&E_3\\
-E_1&0&-B_3&B_2\\
-E_2&B_3&0&-B_1\\
-E_3&-B_2&B_1&0\\
\end{pmatrix}

5

ではこの式をほぐしていきます。先ほどのBianchi恒等式$dF=0$を成分表示すると

\frac{1}{2}\epsilon^{\mu\nu\rho\tau}\partial_{\nu}F_{\rho\tau}= 0

となります。これの$\mu=0$項に注目すると6

\frac{1}{2}\epsilon^{0\mu\rho\tau}\partial_{\mu}F_{\rho\tau}= \nabla \cdot \mathbf{B}

$\mu\neq0$の項は7

\epsilon^{i\nu\rho\tau}\partial_{\nu}F_{\rho\tau}=\Big(\nabla\times\mathbf{E}+\frac{\partial\mathbf{B}}{\partial t}\Big)_i

一方、解析力学からLagrangianというものを持ってこようと思います。注目したい設定のもとで、関係する項を対称性などを考慮してそれっぽく組み込んだ物理量で、変分(だいたい微分)すると運動方程式を教えてくれる優れものです。8今回は計算も大変なので曲率Fを用いて一番シンプルで簡単なLagrangianを作ってみましょう。(実は物理的な裏付けもあるのです9

\mathcal{L}=-\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}

このLagrangianを元に変分を計算すると運動方程式

\partial^{\nu}F_{\nu \mu} = 0

を得ます。
また先ほどと同じように$\nu=0$は

\partial^{\nu}F_{\nu0}=-\partial^i(-E_i)=\nabla\cdot\mathbf{E}

$\nu\neq0$は

\partial^\nu F_{\nu i} = -\partial^0 (-E_i) + \partial^jF_{ji}=\Big(-\frac{\partial\mathbf{E}}{\partial t}\Big)_i

と各々計算できますね。

以上の結果をまとめると

\begin{align}
\nabla \cdot \mathbf{B}&=0\\
\nabla \times \mathbf{E}&=-\frac{\partial\mathbf{B}}{\partial t}\\
\nabla \cdot\mathbf{E}&=0\\
\nabla \times \mathbf{B}&= \frac{\partial \mathbf{E}}{\partial t}
\end{align}

となんとなんと真空中でのMaxwell方程式ではありませんか!!
今までやったことは、U(1)の構造群が入ったファイバー束に関して、幾何学量である曲率について整理するとそれがMaxwell方程式であったということです。
いや〜驚きですねぇ
電磁場とは曲率2形式Maxwell方程式Bianchi恒等式と曲率の変分であるとは、、

この綺麗な対応を見ていただければ電磁気学はU(1)ゲージ理論という主張も納得していただけたでしょうか。またゲージ理論に関しても親しみと尊敬の念が湧いてこないでしょうか。こうなるともうゲージ理論に足を向けてなど寝られなくなってきます。
こんなところでこの章は締めようと思います。

余ったトピック

これに関して興味を持ってくださった方やもっとゲージ理論の色々な側面を見てみたい方のために進んだ内容に関しても触れておこうと思います。
きっとこの記事を真面目に読んでくださった方にはいくつかの疑問点があると思います。

・我々の馴染み深いMaxwell方程式とは形が違くないか?(電荷・電流はどこへ?)
・Bianchi恒等式から磁荷、磁流がゼロであること(モノポールの非存在)が証明できてしまった?
・重力の話はどこに行った?
・$U(1) \times SU(2) \times SU(3)$ しか力が存在しないのはなぜ?(なぜSU(100)じゃダメか)
・ゲージ場を量子化したら?、、、

などと実はいっぱいの疑問点が残っています。
こちらに関しても書いてやるぞぉと意気込んでいたのですが、疲れてきたので今日はここまで、余裕があれば今年に、それかまた来年にでも書こうかなと思います。

まとめ

ゲージ理論について理解していただけたでしょうか?
ざっと話を振り返りましょう。
物理的実態は幾何学的である。つまり、座標変換に依らないというゲージ原理を仮定しました。そこから逆に物理的なものを変えないならば、、という視点で捉え直すと、ゲージ群に伴いゲージ場が接続として入ることが許されました。禁止されないものは許されるというのが物理の性です。それによって生じるのがであった。

ここで一句

$ゲージ理論$
 $ああゲージ理論$
  $ゲージ理論$

これで小学生に力ってなぁに?と聞かれても、「基底変換の自由度で生じたゲージ群に伴ってLie代数が接続項として入ったものだよ」と答えられますね!

ここまでの話を理解していただけたでしょうか?拙い文章を最後まで読んでいただきありがとうございます。僕の雑な説明で理解していただけたかわかりませんがちょぴっとでも興味を、もっと言えば皆さんの中に少しでもゲージ理論教に入信してくださる方がいらっしゃれば幸いです。

p.s.
宣伝になってしまうのですが、12/21(土)に東大駒場キャンパスで駒場理数サークルの交流会が行われます。
そこでこのゲージ理論の話をする予定なので、お時間の合う方や、よくわからなかった方、直接意見を物申したい方などをお待ちしています。
参加フォームを貼っておきます。
image.png

参考文献(物理)

ゲージ理論(物理方面)を勉強するにあたりおすすめの文献を紹介します。
数学方面は数学編に書きました。

・佐古 彰史 「ゲージ理論・一般相対性理論のための 微分幾何入門」
物理の本としてもとても良いです。著者は数学の方なので、ゲージ理論の色々なトピックに触れる形式ではありませんが、読みやすく入門にもってこいです。

・坂本 眞人 「場の量子論I・II」
こちらも読みやすくていい本です。
I巻では量子力学、相対論の復習をしつつワクワクするトピックに触れ、最後に場の量子化をします。7章にゲージ理論の話が載っています。良さでも悪さでもあるのですが、そこではファイバーなどを用いた議論をしません。
II巻は、本当はこの記事でも触れたかった弱い力の自発的対称性の破れの話などが載っています。また、ゲージ場の量子論をやるにあたり重要な経路積分の話なども載っています。

・九後 汰一郎 「ゲージ場の量子論I・II」
有名ですね。僕はまだ読んでいませんが、いい本らしいです。
本記事ではゲージ場の古典論のみを扱いました。古典論は思想が明確で理論もクリア、計算もしやすいですが、残念ながら現実には量子論が必要です。今回考えたゲージ場も量子化せねばなりません。
具体的には経路積分の肩の作用と積分測度を決めて計算をします。その話などが載っているそうです。

・別冊数理科学 「ゲージ理論の発展」
これは面白いです。ゲージ理論を研究対象としている方が、各々ゲージ理論についての考えや、興味深いトピックを寄せて書かれたものです。
入門から発展、数学から工学までと幅広いトピックが載っています。

  1. ゲージ理論の創始者の一人である内山龍雄は「物理屋には量子力学が好きな人間と相対論の好きな人間がいる」と言っていたそうです。内山は断然相対論派で量子力学なんてつまらない現象論だと言っていたそうです。ちなみに僕も圧倒的に相対論派です。皆さんはいかがでしょう?

  2. 微分が共変微分に置き換わることと相互作用が入ることの間にイメージが湧かない人も多いでしょう。
    物理に出てくるシンプルな方程式として$(\frac{d^2}{dx^2}-\frac{k}{m})x=0$という方程式を思い出してください。微分項の他に登場した定数項がまさにバネの効果を表していますね。このように微分方程式に何かしら項が加わると解の振る舞いがガラリと変わります。
    (今回は接続がゲージ場という物理的にイメージしにくいものなのでより大変なのですが、、)

  3. 物理では、理論的に禁じられるものは現象として現れませんが、その逆の禁止されないものは大抵現れます。今回もその例で、完全に電磁場も含めて存在しない真空もありますが、世の中の真空は電磁場が入りえます。それはゲージ群が入る自由度を持つためゲージ場、つまり電磁場が入ることが禁止されないからです。

  4. https://x.com/4_manifold/status/1862855933690540145

  5. ただ適当に好きなアルファベットを振っただけでなんも深い意味はありませんよ〜。

  6. 相対論の時には時間を表す項だったなぁ。

  7. 空間ですね。

  8. 適当すぎて笑っちゃいますね。解析力学も面白いのでぜひ学んでみてください。山本・中村は前に述べたように物理の幾何学化について考える本です。好きな人は好きでしょう。僕は好きです。

  9. いわゆるくりこみ可能性です。どのエネルギースケールでも矛盾がないように仮定すると高次の項が禁止されます。

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