はじめに
位相空間論では、収束・連続・コンパクト性などの概念を扱う。
解析学ではこれらを主に数列で記述することに慣れているが、一般の位相空間では数列だけでは十分でないことがある。
この問題を補うために導入されるのが ネット(net)である。
ネットは数列を一般化した概念であり、一般の位相空間における収束現象を適切に記述できる。
たとえば、第一可算空間では「閉包」「連続性」「コンパクト性」などを数列でかなり扱えるが、一般の位相空間では事情が異なる。
そこで、数列の添字集合 $\mathbb{N}$ をもっと一般の有向集合に置き換えたネットを考えることで、位相空間論の諸概念を自然に特徴付けられるようになる。
この記事では、ネットの定義から始めて、
- 収束と堆積点
- 部分ネット
- 連続写像・Hausdorff 性・コンパクト性の特徴付け
- ネット収束から位相を復元できること(Moore–Smith 定理)
- 数列では不十分になる具体的な空間の例
- Cauchy ネットと一様空間における完備化
を順に整理する。
なぜ数列では不十分なのか
まず動機を述べておく。
距離空間や第一可算空間では、点 $x$ が部分集合 $A\subseteq X$ の閉包に入ることを
「$A$ の点列で $x$ に収束するものが存在する」と言い換えられる。
しかし一般の位相空間では、これは成り立たない。
つまり、
- $x\in\overline{A}$ であっても
- $A$ の数列で $x$ に収束するものが存在しない
ことがある。
そのため、一般の位相空間で収束を正しく扱うには、数列より広い枠組みが必要になる。
それがネットである。
数列とネットの比較
ネットは「添字集合を一般化した数列」だと思うと分かりやすい。
| 概念 | 数列 | ネット |
|---|---|---|
| 添字集合 | $\mathbb{N}$ | 任意の有向集合 |
| 典型的な記法 | $(x_n)_{n\in\mathbb{N}}$ | $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ |
| 部分対象 | 部分列 | 部分ネット |
| 使いどころ | 距離空間・第一可算空間 | 一般の位相空間 |
数列はネットの特別な場合である。
したがって、ネットの議論は数列の議論を包含している。
ネットとその基本概念
有向集合
ネットを定義するために、まず添字集合として使う 有向集合 を定義する。
定義. 有向集合
空でない前順序集合 $(X,\leq)$ が 有向集合 (directed set) であるとは、任意の $\lambda,\mu\in\Lambda$ に対して、それらの共通上界が存在すること、すなわち
\forall \lambda,\mu\in\Lambda,\ \exists \nu\in\Lambda \text{ s.t. } \lambda\le\nu,\ \mu\le\nuが成り立つことをいう。
同値な言い方として、「任意の空でない有限部分集合が上界をもつ」と定義してもよい。
定義. ネット
有向集合 $\Lambda$ から 集合 $X$ への写像
x\colon \Lambda\ni\lambda\longmapsto x_\lambda\in Xを、$\Lambda$ によって添字付けられた $X$ の ネット (net) あるいは 有向点列 (directed sequence of points)、有向点族 (directed family of points) という。
通常の数列 $(x_n)_{n\in\mathbb N}$ は、数の大小関係による有向集合 $(\mathbb N,\le)$ を添字集合とするネットにほかならない。
フィルターとの対応
フィルター (filter) とは、集合 $X$ 上の集合族 $\mathcal{F}\subseteq\mathfrak{P}(X)$ であって、$\emptyset\notin\mathcal{F}$、上向き閉($A\in\mathcal{F},A\subseteq B\Rightarrow B\in\mathcal{F}$)、有限交叉について閉じている($A,B\in\mathcal{F}\Rightarrow A\cap B\in\mathcal{F}$)ものをいう。
ネットとフィルターは「収束」の異なる記述であり、次の対応で互いに翻訳できる。
- ネット ⇒ フィルター:ネット $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ に対してテイルフィルター $\mathcal{F}:=\{U\subseteq X:(x_\lambda)\text{ eventually in }U\}$ が対応する。
- フィルター ⇒ ネット:フィルター $\mathcal{F}$ に対して、$\Lambda:=\{(F,x):F\in\mathcal{F},x\in F\}$ を $(F_1,x_1)\leq(F_2,x_2)\iff F_1\supseteq F_2$ で有向集合とし、$x_{(F,x)}:=x$ と定めたネット $(x_{(F,x)})_{(F,x)\in\Lambda}$ が対応する。
この翻訳のもとで、ネット $(x_\lambda)\to x$ であることは「テイルフィルターが $x$ の近傍フィルター $\mathcal{N}(x)$ を細分すること($\mathcal{N}(x)\subseteq\mathcal{F}$)」と同値になる。また、普遍ネット のテイルフィルターは 超フィルター(任意の $A\subseteq X$ に対して $A\in\mathcal{F}$ または $X\setminus A\in\mathcal{F}$)に対応し、逆に超フィルターから構成されるネットは普遍ネットになる。
定義. 部分ネット
$X$ のネット $x=(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}, y=(y_\mu)_{\mu\in M}$ に対して、$y$ が $x$ の部分ネット ($y$ is a subnet of $x$) であるとは、写像 $f\colon M\to\Lambda$ が存在して、次の条件を満たすとき言う:
$\forall\mu\in M,y_\mu=x_{f(\mu)}$;
$f$ は単調 (monotone) である:
\forall\mu,\mu^\prime,\mu\geq\mu^\prime\Rightarrow f(\mu)\geq f(\mu^\prime);$f$ は共終的 (cofinal) である:
\forall\lambda\in\Lambda,\exists\mu_0\in M\textup{ s.t. }f(\mu_0)\geq\lambda;
数列における「部分列」は、添字の増加列を取り出すものである。
しかしネットの部分ネットは、単なる添字集合の部分集合への制限とは限らない。
この点は初学者がつまずきやすいので注意したい。
eventually / frequently
ネットの収束を述べるために、「ある時点以降ずっと入る」「どこまでも先で何度も入る」という概念を導入する。
定義. eventually / frequently
集合 $X$ のネット $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ と、部分集合 $A\subseteq X$ に対して、
$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $A$ に eventually in である ($(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ is eventually in $A$) とは、次の条件を満たすときいう:
\exists\lambda_0\in\Lambda\textup{ s.t. }\forall\lambda\in\Lambda,[\lambda\geq\lambda_0\implies x_\lambda\in A]$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $A$ に frequently in である ($(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ is frequently in $A$) とは、次の条件を満たすときいう:
\forall\lambda\in\Lambda,\exists\lambda_0\in\Lambda\textup{ s.t. }\lambda\geq\lambda_0\land x_{\lambda_0}\in A
直感としては、
- eventually in $A$:ある段階以降ずっと $A$ の中
- frequently in $A$:どれだけ先に進んでも、さらに先で $A$ に入る点が見つかる
数列で言えば、
- eventually は「十分大きい $n$ で常に成り立つ」
- frequently は「無限個の $n$ で成り立つ」
に対応している。
普遍ネット
コンパクト性の特徴付けに便利な特殊なネットとして、普遍ネットを導入する。
定義. 普遍ネット
$X$ のネット $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が、任意の部分集合 $A\subseteq X$ に対して
- $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ は $A$ に eventually in である
- $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ は $X\setminus A$ に eventually in である
のいずれかを満たすとき、$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ は $X$ の 普遍ネット (universal net) あるいは 超ネット (ultranet) という。
特に、普遍ネットとなる部分ネットを 普遍部分ネット (universal subnet) という。
直感的には、普遍ネットは任意の部分集合 $A$ に対して「最終的に $A$ 側へ入るか、補集合側へ入るか」を必ず決めてしまうネットである。
普遍部分ネットの存在
以下の補題は、frequently in を eventually in に改善した部分ネットを作るための道具である。
補題
集合 $X$ のネット $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ と、集合の逆包含関係による順序によって有向集合 $\mathcal{B}\subseteq\mathfrak{P}(X)$ を考える。各 $B\in\mathcal{B}$ に対して、$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $B$ に frequently in であるとする。
このとき $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ の部分ネット $(x_{\rho(\mu)})_{\mu\in M}$ として、任意の $B\in\mathcal{B}$ に対して、$B$ に eventually in であるものが存在する。
proof.
有向集合 $(M,\leq)$ を
M:=\{(\lambda,B)\colon x_\lambda\in B\},\quad
(\lambda,B)\leq(\lambda^\prime,B^\prime)\overset{\textup{def}}{\iff}\lambda\leq_\Lambda\lambda^\prime\land B\supseteq B^\prime
と定める。
-
$(M,\leq)$ が有向集合となること:
定義より明らかに反射律と推移律は満たすため、任意の二元が上界を持つことを示せば良い。
$(\lambda,B),(\lambda^\prime,B^\prime)\in M$ を任意に取り固定する。このとき、$\Lambda,M$ はともに有向集合なため、$\lambda,\lambda^\prime\leq\lambda_0$ かつ $B,B^\prime\supseteq B_0$ を満たす $\lambda_0\in\Lambda,B^{\prime\prime}\in\mathcal{B}$ が取れる。ここで、$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ は $B^{\prime\prime}$ において frequently in であるため、$\lambda_0\leq\lambda^{\prime\prime}$ として $x_{\lambda^{\prime\prime}}\in B^{\prime\prime}$ となるものが取れる。よって、$(\lambda^{\prime\prime},B^{\prime\prime})\in M$ となり、$(\lambda,B),(\lambda^\prime,B^\prime)\leq(\lambda^{\prime\prime},B^{\prime\prime})$ なため、$(M,\leq)$ が有向集合となることがわかる。 - 部分ネット $(x_{\rho(\mu)})_{\mu\in M}$ の構成:
写像 $\rho\colon M\to\Lambda$ を $\rho(\lambda,B)=\lambda$ とする。$\lambda\in\Lambda,B\in\mathcal{B}$ を任意に取り固定する。$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $B$ に frequently in であるため、$\lambda\leq\lambda^\prime,x_{\lambda^\prime}\in B$ を満たす $\lambda^\prime\in\Lambda$ が取れる。ここで、$\mu^\prime=(\lambda^\prime,B)\in M$ とおくと、任意の $\mu\in M$ に対して $\mu^\prime\leq\mu$ ならば $\lambda\leq\lambda^\prime=\rho(\mu^\prime)\leq\rho(\mu)$ となる。 -
$(x_{\rho(\mu)})_{\mu\in M}$ が任意の $B\in\mathcal{B}$ に対して、$B$ に eventually in であること:
$B_0\in\mathcal{B}$ を任意に取り固定する。$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $B_0$ に frequently in であるから、$x_{\lambda_0}\in B_0$ を満たす $\lambda_0\in\Lambda$ が存在する。$\mu_0:=(\lambda_0,B_0)\in M$ とおく。任意の $\mu=(\lambda,B)\geq\mu_0$ に対して、$M$ の順序の定義より $\lambda\geq\lambda_0$ かつ $B\subseteq B_0$ である。また $(\lambda,B)\in M$ より $x_\lambda\in B$ であるから、$x_{\rho(\mu)}=x_\lambda\in B\subseteq B_0$ となる。よって $(x_{\rho(\mu)})_{\mu\in M}$ は $B_0$ に eventually in である。
この補題から次が従う。
定理. 普遍部分ネットの存在
任意のネットは普遍部分ネットをもつ。
proof.
$\Sigma$ を、次の条件を満たす $\mathfrak{P}(X)$ の部分族 $\mathcal{A}$ の全体とする:
- 任意の $A\in\mathcal{A}$ に対して、$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ は $A$ に frequently in である;
- $\mathcal{A}$ は有限交叉について閉じている($A_1,\ldots,A_n\in\mathcal{A}$ ならば $A_1\cap\cdots\cap A_n\in\mathcal{A}$)。
$\{X\}\in\Sigma$ であるから $\Sigma\neq\emptyset$。$\Sigma$ に包含関係の順序を入れる。$\Sigma$ の任意の鎖 $\{\mathcal{A}_i\}_{i\in I}$ に対して $\bigcup_{i\in I}\mathcal{A}_i$ も $\Sigma$ の元である($A\in\mathcal{A}_i,\ B\in\mathcal{A}_j,\ i\leq j$ ならば $A\in\mathcal{A}_j$ ゆえ $A\cap B\in\mathcal{A}_j\subseteq\bigcup_i\mathcal{A}_i$)。よって Zorn の補題より $\Sigma$ は極大元 $\mathcal{B}$ を持つ。
$\mathcal{B}$ は有限交叉について閉じているため、逆包含によって有向集合をなす。補題を $\mathcal{B}$ に適用すると、$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ の部分ネット $(x_{\rho(\mu)})_{\mu\in M}$ であって任意の $B\in\mathcal{B}$ に対して $B$ に eventually in であるものが得られる。
$(x_{\rho(\mu)})_{\mu\in M}$ が普遍ネットであることを示す。$A\subseteq X$ を任意に取る。
場合 1:$A\in\mathcal{B}$。このとき $(x_{\rho(\mu)})_{\mu\in M}$ は $A$ に eventually in である。
場合 2:$A\notin\mathcal{B}$。$\mathcal{B}$ の極大性より、$\mathcal{B}\cup\{A\}$ から生成される有限交叉閉族は $\Sigma$ に属さない。すなわち、ある $B_0\in\mathcal{B}$ が存在して $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ は $A\cap B_0$ に frequently in でない、すなわち eventually in $X\setminus(A\cap B_0)=(X\setminus A)\cup(X\setminus B_0)$ となる。よってある $\lambda_0\in\Lambda$ があって、$\lambda\geq\lambda_0$ ならば $x_\lambda\in(X\setminus A)\cup(X\setminus B_0)$ となる。
$(x_{\rho(\mu)})_{\mu\in M}$ は $B_0$ に eventually in であるから、ある $\mu_1\in M$ があって $\mu\geq\mu_1$ ならば $x_{\rho(\mu)}\in B_0$ となる。$\rho$ が共終的であるから、ある $\mu_2\in M$ があって $\rho(\mu_2)\geq\lambda_0$ となる。$\mu_1,\mu_2$ の共通上界 $\mu_0\in M$ を取ると、任意の $\mu\geq\mu_0$ に対して:
- $\mu\geq\mu_1$ より $x_{\rho(\mu)}\in B_0$;
- $\rho$ の単調性と $\mu\geq\mu_0\geq\mu_2$ より $\rho(\mu)\geq\lambda_0$ ゆえ $x_{\rho(\mu)}\in(X\setminus A)\cup(X\setminus B_0)$。
これらを合わせると $x_{\rho(\mu)}\in X\setminus A$ を得る。よって $(x_{\rho(\mu)})_{\mu\in M}$ は $X\setminus A$ に eventually in である。$\square$
これはネット論の基本定理の一つであり、後でコンパクト性を述べるときに重要になる。
位相空間におけるネットの収束
以後、位相空間 $X$ に対して、$X$ の台集合上のネットを単に $X$ のネットと呼ぶこととする。
定義. ネットの収束
位相空間 $X$ 上のネット $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ と点 $x\in X$ に対して、$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $x$ に収束する ($(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ converges to $x$) とは、$x$ の任意の近傍 $U$ に対して、$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $U$ に eventually in であるときいう。
$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $x$ に収束するとき、$x$ を $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ の 収束点 (limit point) という。
また、$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $x$ に収束することを $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\to x$ と表す。
これは数列の収束の定義をそのまま一般化したものになっている。
定義. ネットの堆積
位相空間 $X$ 上のネット $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ と点 $x\in X$ に対して、$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $x$ に堆積する ($(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ clusters to $x$) とは、$x$ の任意の近傍 $U$ に対して、$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $U$ に frequently in であるときいう。
$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $x$ に堆積するとき、$x$ を 堆積点 (cluster point) という。
堆積点と部分ネット
ネットの堆積点は、収束する部分ネットによって特徴付けられる。
定理. 堆積点の特徴付け
位相空間 $X$ 上のネット $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ と点 $x\in X$ に対して、以下同値:
- $x$ は $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ の堆積点である;
- $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ の部分ネットで $x$ に収束するものが存在する;
proof.
(1 $\Rightarrow$ 2):$x$ を $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ の堆積点とする。
M:=\{(\lambda,U)\colon x_\lambda\in U,\ U\text{ は }x\text{ の近傍}\}
とし、$(\lambda,U)\leq(\lambda',U')$ を $\lambda\leq_\Lambda\lambda'$ かつ $U\supseteq U'$ で定める。$x$ の任意の近傍 $U$ と任意の $\lambda\in\Lambda$ に対して、$(x_\lambda)$ が $U$ に frequently in であるから $\lambda'\geq\lambda$ かつ $x_{\lambda'}\in U$ となる $\lambda'\in\Lambda$ が存在し、$(\lambda',U)\in M$ となる。これより $M$ は空でなく有向集合であることがわかる。
写像 $\rho\colon M\to\Lambda$ を $\rho(\lambda,U)=\lambda$ で定める。$(\lambda,U)\leq(\lambda',U')$ ならば $\lambda\leq\lambda'$ ゆえ $\rho$ は単調である。また、任意の $\lambda_0\in\Lambda$ に対して $x$ の任意の近傍 $V$ をとれば $\lambda'\geq\lambda_0$ かつ $x_{\lambda'}\in V$ となる $\lambda'$ が存在し、$\rho(\lambda',V)=\lambda'\geq\lambda_0$ となるから $\rho$ は共終的である。よって $(x_{\rho(\mu)})_{\mu\in M}$ は $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ の部分ネットである。
$x$ の任意の近傍 $V$ に対して、$x$ が堆積点であることより $\lambda_0\geq\lambda_0$ かつ $x_{\lambda_0}\in V$ となる $\lambda_0$ が存在し $\mu_0:=(\lambda_0,V)\in M$。任意の $\mu=(\lambda,U)\geq\mu_0$ に対して $U\subseteq V$ かつ $x_{\rho(\mu)}=x_\lambda\in U\subseteq V$。よって $(x_{\rho(\mu)})_{\mu\in M}$ は $x$ に収束する。
(2 $\Rightarrow$ 1):$(x_{\rho(\mu)})_{\mu\in M}\to x$ を $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ の部分ネットとする。$x$ の任意の近傍 $U$ と任意の $\lambda\in\Lambda$ に対して:
- $(x_{\rho(\mu)})\to x$ より、ある $\mu_1\in M$ があって $\mu\geq\mu_1$ ならば $x_{\rho(\mu)}\in U$;
- $\rho$ の共終性より、ある $\mu_2\in M$ があって $\rho(\mu_2)\geq\lambda$。
$\mu_1,\mu_2$ の共通上界 $\mu_0$ をとると、$\rho(\mu_0)\geq\rho(\mu_2)\geq\lambda$(単調性)かつ $x_{\rho(\mu_0)}\in U$。よって $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ は $U$ に frequently in であるから、$x$ は堆積点である。$\square$
定理. 閉包の特徴付け
位相空間 $X$ の点 $x\in X$ と部分集合 $A\subseteq X$ に対して、以下同値:
- $x\in\overline{A}$;
- $x$ に収束する $A$ のネットが存在する;
proof.
(1 $\Rightarrow$ 2):$x\in\overline{A}$ とする。$x$ の近傍全体 $\mathcal{N}(x)$ を逆包含で有向集合とみなす。$x\in\overline{A}$ より、各 $U\in\mathcal{N}(x)$ に対して $U\cap A\neq\emptyset$ であるから $y_U\in U\cap A$ を選ぶ。$(y_U)_{U\in\mathcal{N}(x)}$ は $A$ のネットである。
$x$ の任意の近傍 $V$ に対して、$U\subseteq V$($\mathcal{N}(x)$ の順序で $U\geq V$)ならば $y_U\in U\subseteq V$。よって $(y_U)_{U\in\mathcal{N}(x)}$ は $x$ に収束する。
(2 $\Rightarrow$ 1):$A$ のネット $(y_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $x$ に収束するとする。$x$ の任意の近傍 $U$ に対して、$(y_\lambda)$ は $U$ に eventually in であるから、ある $y_{\lambda_0}\in U\cap A$ が存在する。よって $U\cap A\neq\emptyset$ であり $x\in\overline{A}$。$\square$
連続写像の特徴付け
ネットを使うと、連続性も数列と同じ雰囲気で記述できる。
定理. 連続写像の特徴付け
位相空間 $X,Y$ の間の写像 $f\colon X\to Y$ と点 $x_0\in X$ に対して、以下同値:
- $f$ は点 $x_0$ で連続である。
- $x_0$ に収束するような$X$ の任意のネット $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ に対して、$Y$ のネット $(f(x_\lambda))_{\lambda\in\Lambda}$ は $f(x_0)$ に収束する。
proof.
(1 $\Rightarrow$ 2):$f$ が $x_0$ で連続であるとし、$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\to x_0$ とする。$f(x_0)$ の任意の近傍 $V$ に対して、連続性より $f^{-1}(V)$ は $x_0$ の近傍である。$(x_\lambda)\to x_0$ より $(x_\lambda)$ は $f^{-1}(V)$ に eventually in であり、$x_\lambda\in f^{-1}(V)$ ならば $f(x_\lambda)\in V$ であるから $(f(x_\lambda))_{\lambda\in\Lambda}$ は $V$ に eventually in。よって $(f(x_\lambda))_{\lambda\in\Lambda}\to f(x_0)$。
(2 $\Rightarrow$ 1):$f$ が $x_0$ で不連続であると仮定して矛盾を導く。不連続性より、ある $f(x_0)$ の近傍 $V$ が存在して $f^{-1}(V)$ は $x_0$ の近傍でない。すなわち $x_0$ の任意の近傍 $U$ に対して $U\not\subseteq f^{-1}(V)$ であるから、$x_0$ の近傍全体 $\mathcal{N}(x_0)$ を逆包含で有向集合とし、各 $U\in\mathcal{N}(x_0)$ に対して $x_U\in U$ かつ $f(x_U)\notin V$ となる $x_U$ が取れる。
$x_0$ の任意の近傍 $W$ に対して、$U\subseteq W$($\mathcal{N}(x_0)$ の順序で $U\geq W$)ならば $x_U\in U\subseteq W$ ゆえ $(x_U)_{U\in\mathcal{N}(x_0)}\to x_0$。条件 2 より $(f(x_U))_{U\in\mathcal{N}(x_0)}\to f(x_0)$ のはずだが、$(f(x_U))$ は $V$ に一度も入らないため $f(x_0)$ に収束できない。矛盾。$\square$
Hausdorff 性の特徴付け
Hausdorff 空間では極限が一意になる。これはネットでも同様である。
定理. Hausdorff 性の特徴付け
位相空間 $X$ に対して、以下同値:
- $X$ は Hausdorff 空間である。
- $X$ の任意のネットは、収束点が存在すれば一意的である。
proof.
(1 $\Rightarrow$ 2):$X$ を Hausdorff 空間とし、$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $x$ および $y$ に収束すると仮定する。$x\neq y$ とすると、Hausdorff 性より互いに交わらない開集合 $U\ni x,\ V\ni y$ が取れる。$(x_\lambda)\to x$ より $(x_\lambda)$ は $U$ に eventually in であり、$(x_\lambda)\to y$ より $(x_\lambda)$ は $V$ に eventually in である。よって共通上界以降は $x_\lambda\in U\cap V=\emptyset$ となり矛盾。ゆえに $x=y$。
(2 $\Rightarrow$ 1):$X$ が Hausdorff でないとすると、ある $x\neq y$ が存在して $x$ の任意の近傍 $U$ と $y$ の任意の近傍 $V$ に対して $U\cap V\neq\emptyset$ となる。$\Lambda=\mathcal{N}(x)\times\mathcal{N}(y)$ を成分ごとの逆包含で有向集合とし、各 $(U,V)\in\Lambda$ に対して $z_{(U,V)}\in U\cap V$ を選ぶ。
$x$ の任意の近傍 $W$ に対して、$(U,V)\geq(W,X)$(すなわち $U\subseteq W$)ならば $z_{(U,V)}\in U\subseteq W$ ゆえ $(z_{(U,V)})\to x$。同様に $(z_{(U,V)})\to y$。$x\neq y$ であるが同一ネットが $x$ にも $y$ にも収束し、条件 2 に矛盾する。$\square$
コンパクト性の特徴付け
ネットはコンパクト性を完全に特徴付ける。
定理. コンパクト性の特徴付け
位相空間 $X$ に対して、以下同値:
- $X$ はコンパクトである。
- $X$ の任意のネットは堆積点を持つ。
- $X$ の任意のネットは収束する部分ネットを持つ。
- $X$ の任意の普遍ネットは収束する。
proof.
$(1)\Rightarrow(4)\Rightarrow(3)\Rightarrow(2)\Rightarrow(1)$ の順に示す。
(1) $\Rightarrow$ (4):$X$ をコンパクトとし、$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ を普遍ネットとする。
\mathcal{F}:=\{A\subseteq X\colon(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\text{ が }A\text{ に eventually in}\}
とおく。$(x_\lambda)$ が普遍ネットであることから、任意の $A\subseteq X$ に対して $A\in\mathcal{F}$ または $X\setminus A\in\mathcal{F}$ の一方が成り立ち(同時に成立すると $\emptyset$ に eventually in となり不合理)、$\mathcal{F}$ は超フィルターをなす。
$\mathcal{G}:=\{\overline{A}\colon A\in\mathcal{F}\}$ は有限交差性質を持つ閉集合族である($A_1,\ldots,A_n\in\mathcal{F}$ ならば $A_1\cap\cdots\cap A_n\in\mathcal{F}$ ゆえ $\overline{A_1}\cap\cdots\cap\overline{A_n}\supseteq\overline{A_1\cap\cdots\cap A_n}\neq\emptyset$)。$X$ のコンパクト性より $\bigcap_{A\in\mathcal{F}}\overline{A}\neq\emptyset$ であるから、$x\in\bigcap_{A\in\mathcal{F}}\overline{A}$ を取る。
$(x_\lambda)\to x$ を示す。$x$ の任意の開近傍 $U$ に対して、$(x_\lambda)$ が普遍ネットであるから $U\in\mathcal{F}$ または $X\setminus U\in\mathcal{F}$。後者ならば $x\in\overline{X\setminus U}=X\setminus U$ となり $x\in U$ に矛盾。よって $U\in\mathcal{F}$、すなわち $(x_\lambda)$ は $U$ に eventually in。
(4) $\Rightarrow$ (3):任意のネット $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ に対し、普遍部分ネットの存在定理より普遍部分ネットが存在し、仮定 (4) よりそれは収束する。
(3) $\Rightarrow$ (2):$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ の収束する部分ネット $(x_{\rho(\mu)})_{\mu\in M}\to x$ が存在するとき、堆積点の特徴付けの定理より $x$ は $(x_\lambda)$ の堆積点である。
(2) $\Rightarrow$ (1):$X$ がコンパクトでないとすると、有限部分被覆を持たない開被覆 $\{U_\alpha\}_{\alpha\in A}$ が存在する。$\Lambda$ を $A$ の有限部分集合全体とし包含関係で有向集合とし、各 $F\in\Lambda$ に対して $x_F\in X\setminus\bigcup_{\alpha\in F}U_\alpha$ を選ぶ(有限部分被覆が存在しないため可能)。
仮定 (2) より $(x_F)_{F\in\Lambda}$ は堆積点 $x\in X$ を持つ。$\{U_\alpha\}$ は $X$ を被覆するから、ある $\alpha_0\in A$ で $x\in U_{\alpha_0}$。$U_{\alpha_0}$ は $x$ の近傍であるから、堆積点の定義より $F_0:=\{\alpha_0\}$ に対してある $F\supseteq F_0$($F\geq F_0$ in $\Lambda$)で $x_F\in U_{\alpha_0}$ となるものが存在する。しかし $\alpha_0\in F_0\subseteq F$ より $x_F\notin\bigcup_{\alpha\in F}U_\alpha\supseteq U_{\alpha_0}$ となり矛盾する。$\square$
距離空間では「任意の列が収束部分列をもつ」こととコンパクト性が近い関係にあるが、一般位相空間では列では不十分である。
しかし、列をネットに置き換えるとコンパクト性を完全に特徴付けられる。
これがネットの最も重要な利点の一つである。
ネットの収束性から位相の復元
ネットは位相から定義されるだけでなく、逆にネットの収束関係から位相を復元することもできる。
これは Kelley による Moore–Smith 収束の定理として知られている。
まず、位相を仮定せず「収束」だけを公理的に指定する枠組みを導入する。
定義. 収束構造
集合 $X$ 上の 収束構造 (convergence structure) とは、$X$ のネットと $X$ の点との対のクラス $\mathcal{C}$ であって、$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\to x$ という記法が $((x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda},\,x)\in\mathcal{C}$ を意味するものをいう。
定理. Moore–Smith 型の特徴付け(Kelley, 1955)
集合 $X$ 上の収束構造 $\mathcal{C}$ が、ある位相によるネット収束として実現されるための必要十分条件は、次の 4 条件がすべて成り立つことである。
- (定値収束) 有向集合 $\Lambda$ と点 $x\in X$ に対して、定値ネット(常に $x$ をとるネット)は $x$ に収束する。
- (部分ネットへの継承) $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\to x$ であり $(y_\mu)_{\mu\in M}$ が $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ の部分ネットならば $(y_\mu)_{\mu\in M}\to x$。
- (非収束の安定性) $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $x$ に収束しないならば、$(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ の部分ネット $(y_\mu)_{\mu\in M}$ であって、$(y_\mu)_{\mu\in M}$ のいかなる部分ネットも $x$ に収束しないものが存在する。
- (対角条件) 有向集合 $\Lambda$ 上のネット $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $x$ に収束し、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して有向集合 $M_\lambda$ 上のネット $(x_{\lambda,\mu})_{\mu\in M_\lambda}$ が $x_\lambda$ に収束するとする。有向集合
を成分ごとの順序 $(\lambda_1,f_1)\leq(\lambda_2,f_2)\iff\lambda_1\leq\lambda_2\text{ かつ }\forall\lambda,\,f_1(\lambda)\leq_{M_\lambda}f_2(\lambda)$ で有向集合とすると、対角ネット $(x_{\lambda,f(\lambda)})_{(\lambda,f)\in N}$ も $x$ に収束する。N:=\Lambda\times\prod_{\lambda\in\Lambda}M_\lambdaこのとき $\mathcal{C}$ を実現する位相は一意に定まる。
条件 3 は「収束しない部分ネットが取れる」ではなく、「いかなる部分ネットも収束しない部分ネットが取れる」という強い条件である。条件 4 の有向集合 $N=\Lambda\times\prod_\lambda M_\lambda$ は成分積であり、$f\in\prod_\lambda M_\lambda$ が各 $\lambda$ に $M_\lambda$ の元を対応させることで対角方向の「同時に十分先へ進む」ことを可能にする。
proof sketch.
必要性(4 条件の成立):位相空間 $(X,\tau)$ のネット収束が (1)–(4) を満たすことを示す。
- (1): 定値ネットが定値に収束することは位相の定義から明らか。
- (2): 収束の部分ネットへの継承は定義から明らか。
- (3): $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が $x$ に収束しないとすると、ある開近傍 $V\ni x$ があって $(x_\lambda)$ は $V$ に eventually in でない。添字集合 $\Lambda':=\{\lambda\in\Lambda:x_\lambda\in X\setminus V\}$ は $\Lambda$ において共終的であり(任意の $\lambda_0\in\Lambda$ に対して $\lambda_0$ 以上の元を $\Lambda'$ から取れる)、かつ有向集合をなす。制限ネット $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda'}$ の任意の部分ネットは全項が閉集合 $X\setminus V$ に含まれるため、$x$ の開近傍 $V$ に eventually in になれず $x$ に収束しない。
- (4): $x$ の任意の開近傍 $V$ に対して、$(x_\lambda)\to x$ よりある $\lambda_0\in\Lambda$ があって $\lambda\geq\lambda_0\Rightarrow x_\lambda\in V$。各 $\lambda\geq\lambda_0$ に対して $V$ は $x_\lambda$ の開近傍でもあるから、$(x_{\lambda,\mu})\to x_\lambda$ よりある $\mu_0(\lambda)\in M_\lambda$ があって $\mu\geq\mu_0(\lambda)\Rightarrow x_{\lambda,\mu}\in V$。$f_0\in\prod_\lambda M_\lambda$ を $f_0(\lambda)=\mu_0(\lambda)$ で定めると、$(\lambda,f)\geq(\lambda_0,f_0)$($N$ の順序で)ならば $\lambda\geq\lambda_0$ かつ $f(\lambda)\geq\mu_0(\lambda)$ ゆえ $x_{\lambda,f(\lambda)}\in V$。よって対角ネットは $V$ に eventually in。
十分性(位相の復元):$\mathcal{C}$ が (1)–(4) を満たすとき、次のように $X$ 上の位相 $\tau$ を定義する:
U\subseteq X\text{ が開}\iff\forall x\in U,\ \forall(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}\to x\text{ in }\mathcal{C},\ (x_\lambda)\text{ は }U\text{ に eventually in}
- この定義が位相の公理を満たすことは (1)(2) から確認できる(空集合・全体・和集合・有限交叉の各条件をネットの eventually in の性質で示す)。
- $\mathcal{C}\subseteq\mathcal{C}_\tau$($\mathcal{C}$ での収束が $\tau$ での収束を含むこと): $(x_\lambda)\to x$ in $\mathcal{C}$ ならば任意の開近傍 $U\ni x$ に対して開集合の定義より $(x_\lambda)$ は $U$ に eventually in ゆえ $(x_\lambda)\to x$ in $\tau$。
- $\mathcal{C}_\tau\subseteq\mathcal{C}$: $(x_\lambda)\not\to x$ in $\mathcal{C}$ を仮定する。条件 (3) より部分ネット $(y_\mu)_{\mu\in M}$ であっていかなる部分ネットも $x$ に収束しないものが取れる。集合 $F:=\{z\in X:\exists(y_\mu)\text{ の部分ネット }\to z\text{ in }\mathcal{C}\}$ を考えると、$x\notin F$ である。$X\setminus F$ が $\tau$ において開であることを示せば、$(y_\mu)$ が $X\setminus F$ に eventually in になれず $(x_\lambda)$ も $x$ の開近傍 $X\setminus F$ に eventually in でないことが従う。実際、$w\in X\setminus F$ かつ $(w_\alpha)\to w$ in $\mathcal{C}$ のとき $(w_\alpha)$ が頻繁に $F$ に入るとすれば、$F$ の各点への収束部分ネットと $(w_\alpha)$ を対角条件 (4) で組み合わせることで $(y_\mu)$ の部分ネットが $w$ に収束する subnet が構成でき $w\in F$ となって矛盾する。
一意性: 位相は収束から一意に定まる($U$ が開かどうかは上の条件で完全に決まる)。$\square$
通常、位相は開集合系で定義する。
しかしこの定理は、同値な立場として
- どのネットがどの点に収束するか
を基本データとして位相を記述できることを示している。
つまり、位相空間論は
- 開集合で記述することもできるし
- 収束で記述することもできる
のである。
一般位相空間では、ネットはその「収束による記述」を担う標準的な道具になっている。
近傍添字によるネットの典型例
閉包の特徴付けや連続性の証明で何度も現れる基本的な構成をまとめておく。
点 $x\in X$ の近傍全体 $\mathcal{N}(x)$ を、逆包含
U\le V \iff U\supseteq V
で順序付けると、$\mathcal{N}(x)$ は有向集合になる。
この添字集合を使ってネットを作ると、多くの証明が機械的に進む。
例 1(閉包の特徴付け):$x\in\overline{A}$ のとき、各近傍 $U\in\mathcal{N}(x)$ に対して $U\cap A\neq\emptyset$ であるから $x_U\in U\cap A$ を選べる。ネット $(x_U)_{U\in\mathcal{N}(x)}$ は $A$ の点からなり、$x$ の任意の近傍 $V$ に対して $U\subseteq V$($\mathcal{N}(x)$ の順序で $U\geq V$)ならば $x_U\in U\subseteq V$ ゆえ $(x_U)_{U\in\mathcal{N}(x)}\to x$。
例 2(連続性の特徴付け):$f\colon X\to Y$ が $x_0$ で連続でないとき、ある $f(x_0)$ の近傍 $V$ があって $f^{-1}(V)$ は $x_0$ の近傍でない。すなわち各 $U\in\mathcal{N}(x_0)$ に対して $U\not\subseteq f^{-1}(V)$ であるから、$x_U\in U$ かつ $f(x_U)\notin V$ となる点 $x_U$ が選べる。$(x_U)_{U\in\mathcal{N}(x_0)}\to x_0$ であるが $(f(x_U))_{U\in\mathcal{N}(x_0)}$ は $V$ に一度も入らないため $f(x_0)$ に収束しない。
この「近傍を添字にする」構成は、ネット論の最も基本的なテクニックである。
列では不十分になる具体例
はじめにで述べたように、第一可算空間では数列によって収束・閉包などを記述できる。しかし一般の位相空間では数列が位相的な性質を完全に捉えることができない。ここでは具体的な例を通じてこれを確認する。
第一可算性
定義. 第一可算性
位相空間 $X$ が 第一可算 (first countable) であるとは、各点 $x\in X$ が可算な近傍基をもつことをいう。すなわち、可算個の近傍 $U_1\supseteq U_2\supseteq\cdots$ であって任意の近傍 $V\ni x$ に対してある $n$ で $U_n\subseteq V$ となるものが存在することをいう。
距離空間は常に第一可算である($U_n=B_{1/n}(x)$ が近傍基をなす)。第一可算空間では、閉包・連続性・コンパクト性がすべて点列によって特徴付けられる。
例 1:余可算位相
$X=\mathbb{R}$ に 余可算位相 を入れる:
U\text{ が開}\iff U=\emptyset\text{ または }U^c\text{ が可算}
閉包が点列で特徴付けられない例:$A=[0,1]$ とする。任意の非空開集合 $U$ は非可算(補集合が可算ゆえ)であり、非可算集合 $A$ と交わる。よって $\overline{A}=\mathbb{R}$ であり、特に $2\in\overline{A}$。
$A$ の点列で $2$ に収束するものは存在しない。実際、任意の点列 $(a_n)\subset A$ の値域 $S=\{a_n:n\in\mathbb{N}\}$ は可算ゆえ $V:=\mathbb{R}\setminus S$ は $2$ を含む開集合であるが、$a_n\in S$ より $(a_n)$ は $V$ に eventually in でない。
一方、可算部分集合全体 $\Lambda=\{C\subseteq\mathbb{R}:C\text{ は可算}\}$ を包含で有向集合とし、各 $C\in\Lambda$ に対して $x_C\in A\setminus C$($A$ が非可算ゆえ選べる)と定めたネット $(x_C)_{C\in\Lambda}$ は $2$ に収束する:$2$ の任意の開近傍 $V=\mathbb{R}\setminus C_0$ に対して $C\supseteq C_0$ ならば $x_C\in A\setminus C\subseteq\mathbb{R}\setminus C_0=V$。
例 2:順序数の空間
最小の非可算順序数を $\omega_1$ とし、$[0,\omega_1]=\{\alpha:\alpha\leq\omega_1\}$ に順序位相を入れる。$\omega_1$ の開近傍の基は $\{(\alpha,\omega_1]:\alpha<\omega_1\}$(非可算族)であり、この空間は $\omega_1$ において第一可算でない。
$A=[0,\omega_1)$(すべての可算順序数の集合)は $[0,\omega_1]$ において稠密であり $\omega_1\in\overline{A}$。
$A$ の点列で $\omega_1$ に収束するものは存在しない:任意の点列 $(\alpha_n)_{n\in\mathbb{N}}\subset A$ に対して $\beta:=\sup_n\alpha_n$ は可算個の可算順序数の上限ゆえ $\beta<\omega_1$。よって $(\beta,\omega_1]$ は $\omega_1$ を含む開集合だが $\alpha_n\leq\beta$ より $(\alpha_n)$ はこれに eventually in でない。
一方、$\Lambda=[0,\omega_1)$ を自然な順序で有向集合とし $x_\alpha=\alpha$ と定めると、ネット $(x_\alpha)_{\alpha<\omega_1}$ は $\omega_1$ に収束する:$\omega_1$ の任意の開近傍 $(\beta,\omega_1]$ に対して $\alpha>\beta$ ならば $x_\alpha=\alpha\in(\beta,\omega_1]$。
Cauchy ネットと完備化
Cauchy 列の概念を一様空間でのネットへ一般化することができる。これにより、距離に依存しない「完備性」の概念が定式化される。
一様空間
定義. 一様空間
集合 $X$ 上の 一様構造 (uniformity) とは、$X\times X$ 上のフィルター $\mathcal{U}$ であって、次を満たすものをいう:
- 任意の $D\in\mathcal{U}$ は対角線 $\Delta_X:=\{(x,x):x\in X\}$ を含む;
- $D\in\mathcal{U}$ ならば $D^{-1}:=\{(y,x):(x,y)\in D\}\in\mathcal{U}$;
- 任意の $D\in\mathcal{U}$ に対して、ある $E\in\mathcal{U}$ があって $E\circ E\subseteq D$,ここで $E\circ E:=\{(x,z):\exists y,(x,y)\in E,(y,z)\in E\}$。
組 $(X,\mathcal{U})$ を 一様空間 (uniform space) といい、$\mathcal{U}$ の元を 近縁 (entourage) という。
近縁 $D\in\mathcal{U}$ は「$D$-近い」という「近さの基準」を与える:$(x,y)\in D$ を「$x$ と $y$ は $D$-近い」と読む。
具体例
- 距離空間 $(X,d)$:$D_\varepsilon:=\{(x,y):d(x,y)<\varepsilon\}$ が近縁の基底をなす。条件 1–3 は距離の公理から従う。
- 位相群 $(G,\cdot)$:単位元の近傍 $V$ に対して $D_V:=\{(x,y):xy^{-1}\in V\}$ が近縁の基底をなす。
一様空間 $(X,\mathcal{U})$ から自然に位相が定まる:$U\ni x$ が近傍 $\iff$ ある $D\in\mathcal{U}$ があって $D[x]:=\{y:(x,y)\in D\}\subseteq U$。
Cauchy ネットと完備性
定義. Cauchy ネット
一様空間 $(X,\mathcal{U})$ 上のネット $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ が Cauchy であるとは、次の条件を満たすときいう:
\forall D\in\mathcal{U},\ \exists\lambda_0\in\Lambda\textup{ s.t. }\forall\lambda,\lambda^\prime\in\Lambda,[\lambda,\lambda^\prime\geq\lambda_0\implies (x_\lambda,x_{\lambda^\prime})\in D]
距離空間では $D=D_\varepsilon$ とすると $d(x_\lambda,x_{\lambda^\prime})<\varepsilon$($\lambda,\lambda^\prime\geq\lambda_0$)となり、通常の Cauchy 条件と一致する。
収束するネットは必ず Cauchy である:$(x_\lambda)\to x$ かつ $D\in\mathcal{U}$ とすると、対称な $E\in\mathcal{U}$ で $E\circ E\subseteq D$ なるものを取り、$\lambda,\lambda^\prime\geq\lambda_0$ で $(x_\lambda,x),(x_{\lambda^\prime},x)\in E$ ならば $(x_\lambda,x_{\lambda^\prime})\in E\circ E^{-1}=E\circ E\subseteq D$。
定義. 完備一様空間
一様空間 $(X,\mathcal{U})$ が 完備 (complete) であるとは、$X$ のすべての Cauchy ネットが収束するときいう。
距離空間 $(X,d)$ においては、Cauchy 列による完備性(Cauchy 列がすべて収束する)と Cauchy ネットによる完備性(Cauchy ネットがすべて収束する)は同値である。これは距離空間が第一可算であるため、Cauchy ネット $(x_\lambda)$ から Cauchy 部分列を抽出できることによる。
完備化定理
定理. 完備化の存在と一意性
任意の一様空間 $(X,\mathcal{U})$ に対して、一様連続写像 $\iota\colon X\to\hat{X}$ であって、
- $(\hat{X},\hat{\mathcal{U}})$ は完備 Hausdorff 一様空間;
- $\iota$ は一様埋め込みであり $\iota(X)$ は $\hat{X}$ において稠密;
を満たすものが(一様同型を除いて)一意に存在する。$\hat{X}$ を $(X,\mathcal{U})$ の 完備化 (completion) という。
proof sketch.
Cauchy ネットの同値類として完備化を構成する。二つの Cauchy ネット $(x_\lambda)_{\lambda\in\Lambda}$ と $(y_\mu)_{\mu\in M}$ を同値 $(x_\lambda)\sim(y_\mu)$ とは、積有向集合 $\Lambda\times M$ 上の Cauchy ネット $(x_\lambda,y_\mu)_{(\lambda,\mu)\in\Lambda\times M}$ が対角線 $\Delta_X$ に収束することと定める:
\forall D\in\mathcal{U},\ \exists(\lambda_0,\mu_0)\textup{ s.t. }\forall\lambda\geq\lambda_0,\mu\geq\mu_0,\ (x_\lambda,y_\mu)\in D
$\hat{X}:=\{\text{Cauchy ネットの }\sim\text{-同値類}\}$ とし、一様構造・位相を商で定める。埋め込み $\iota(x):=[(x)_{\lambda\in\{0\}}]$(定値ネット)は一様埋め込みとなる。距離空間の場合、この構成は通常の Cauchy 列による完備化と一致する($\mathbb{Q}$ の完備化が $\mathbb{R}$ になることがその典型例)。$\square$
まとめ
ネットは、数列を一般化した収束の道具であり、一般の位相空間において非常に重要である。
この記事で見たように、ネットを使うと次のような事実が成り立つ。
| 概念 | ネットによる特徴付け |
|---|---|
| $x\in\overline{A}$ | $A$ のネットで $x$ に収束するものが存在する |
| $f$ が $x_0$ で連続 | $x_0$ に収束するすべてのネットの像が $f(x_0)$ に収束する |
| $X$ が Hausdorff | $X$ のすべてのネットの収束点は(存在すれば)一意 |
| $X$ がコンパクト | $X$ のすべてのネットが堆積点をもつ(同値:収束部分ネットをもつ、普遍ネットが収束する) |
| $\mathcal{C}$ が位相から来る | 定値収束・部分ネット継承・非収束の安定性・対角条件の 4 条件(Moore–Smith 定理) |
要するに、距離空間で数列を用いて行っていた議論の多くが、一般位相空間ではネットを用いることで正しい形に拡張される。
第一可算空間ではネットはやや過剰に見えるかもしれない。
しかし一般位相空間まで視野を広げると、ネットは単なるテクニカルな一般化ではなく、本来あるべき収束概念であることが分かる。
さらに Moore–Smith 定理は、位相という概念自体がネットの収束関係と完全に同値であることを示しており、収束を軸に位相空間論を再構築できることを意味している。