市民と議論して共創するAIの可能性
Code for Nagoya/名古屋工業大学の白松です!今年の8月から、東京大学 デジタル空間社会連携研究機構のシビックテック・デザイン学創成寄付研究部門の特任教授としても、シビックテックの研究に携わっております。昨年のシビックテック・アドベントカレンダーのために書いた記事では、シビックテックの様々な場面でのLLMのユースケースをご紹介しましたが、今回は市民と議論しつつ共創的活動も支援するAIの可能性について考えてみます。
そういえば最近、こんな記事もありました。OpenAIの技術スタッフが最新モデル「o1」について、Xの投稿で「o1はほとんどのタスクでほとんどの人間よりも優れた性能を備えている」「これってもうAGI(汎用AI)を達成したってことじゃないの」と言っているようです。o1がAGIかどうかは議論の余地があるものの、これから社会課題を解決したい人々がo1みたいな高性能なAIと一緒に策を練るのは、きっとごく当たり前になっていくことでしょう。
「じゃあAIに全部考えて貰えばいいじゃん」と言い出す人もいそうですが、それは違いますよね。だって、課題当事者は人間ですし、AIが当事者の事情を全て自動的に汲み取ることはまだまだ技術的に不可能ですから。もし様々なセンサーデータみたいなもので当事者の事情を全て解析できるようになったとしても、当事者抜きでAIが勝手に解決策を決めてしまうというのは、いろいろ問題がありそうです。なので、市民とAIが一緒になって議論しながら共創していく方がいいんじゃないですかね。
市民と議論して共創するAIの例
名工大の白松研究室では、LLMを使って議論や合意形成を支援するシステムをいくつか試作しています。今年の記事ではその中から、
- 対面議論を整理して新たな観点から意見を言うAI
- AIを相手に議論の練習ができる議論シミュレータ
について簡単にご紹介します。
対面議論を整理して新たな観点から意見を言うAI
2024年2月にこんな実証実験をやってみました。名古屋市や周辺自治体の若手職員の皆さんが議論するワークショップで、公民連携についての議論をLLMベースのシステムが支援しました。どのように支援したかというと、まず議論の音声を音声認識し、その中から付箋に書くような内容を抽出し、構造化します。さらに、「この場にもし民間事業者がいたら、どんな人がこの話題に興味を持ち、どのような新たな観点を発言するか」をLLMに生成させました。要は、「議論参加者が見落としている観点を補えるステークホルダーを召喚し、意見を言わせる」ということをLLMにやってもらったわけですね。いわば、イタコAIです。この実験では、参加者の82%に「AIの意見が議論を促進した」と評価されました [Sato, et al. 2024]。
さらに2024年10月には、北名古屋市で行われた「市民と議員の意見交換会」で新たなシステムの実証実験を行い、2024年12月には佐賀市のSAGAスマート街なかプロジェクトでもワークショップの議論を整理してAIに意見生成させる実証実験を行いました。
まだまだ改良の余地のあるシステムではありますが、たとえば「その場にいない当事者」がどう思っている可能性があるかを予想しつつ解決策を考えたい時など、仮説を立てたりアイデア出しをするときに役立ちそうです。
AIを相手に議論の練習ができる議論シミュレータ
こちらも、佐賀市のSAGAスマート街なかプロジェクトの議論を支援するために開発したシステムで、2024年12月に実証実験を行いました。このプロジェクトに参加する大学生の皆さんに、まずはAI相手に議論参加の練習をして頂くための議論シミュレータを提供しました。
この図で言うと「しらまつ」だけが人間のユーザで、他は全部LLMベースの議論参加AIです。議論参加AIにはプロジェクトについての知識を与えているので、ユーザはこのシミュレータでの議論の練習を通じて、プロジェクトの背景を学ぶことができます。また、ユーザが何か発言するたびにその議論参加スキルをLLMが採点し、画面右側のレーダーチャートに反映されます。ユーザが、「この点数を上げるためにどんなことを言えば良いか」を考えて発言することで、議論参加が上手くなっていくことを期待しています。
AIと人間が共創するシビックテック
Gartnerが2024年9月に発表したLLMのハイプサイクルでは、LLMはそろそろ幻滅期が近いとされています。しかし、ここまでご紹介した実験を通じて感じるのは、実社会での応用を目指す上では、まだまだ研究ネタの宝庫だということです。例えば、議論練習の難易度をコントロールしようと思ったら、LLMの演じる議論参加AIの頑固さや認知バイアスを制御したくなりますが、プロンプトだけでは簡単に制御できません。そのへんを制御できるようになると、様々なコミュニケーションの練習に使えるようになるはずです。
これからのシビックテックでは、生成AIを使ったプロトタイピングは確実に当たり前になっていくはずです。
単にAIにコーディングをしてもらうだけでなく、市民の意見を整理したり、アイデア出しを手伝ったり、カバーできていない観点を補ったり、未来予測を手伝ったりしてもらうことで、「市民とAIによる共創」が盛んに行われるようになりそうです。
「生成AIに仕事を奪われるのでは」という不安の声をよく聞きます。でも、ここまでご紹介した事例を見ると、AIは「競争相手」というより「共創相手」として活躍できそうです。社会課題の解決において重要なのは、AIと人間がお互いの得意分野を活かしながら、より良い解決策を見出していく姿勢です。その意味で、市民とAIの共創はまだ始まったばかり。これからどんなことになっていくのか、本当に楽しみです。
社会の結び目になるAIを社会実装する会社
そんなわけで、人と人をつなぎ社会の結び目になるAIを社会実装する会社を4月に作りました。ラテン語の「社会、仲間」を表すSociaという語と、英語の「結ぶ人」を表すKnotterという語を組み合わせて、株式会社ソシアノッターと名付けました。まだまだ小商いしかしていませんが、この記事をお読みになって興味をお持ちになった方は、ぜひ白松までご一報下さい!
Comments
Let's comment your feelings that are more than good