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Code for Nagoya/名工大の白松です。2022年4月に岐阜で開催された「シビックテックミートアップ2022 いざ岐阜へ」で「シビックテックでGPT-3を使い倒す」というLTをしてからわずか1年半で、LLM(Large Language Model; 大規模言語モデル) の進化がえげつないことになってびっくりです。Code for Nagoyaや白松研究室では、LLMをどうシビックテックや合意形成に使うかを日々試しておりまして、この記事ではそのへんの事例をご紹介するつもりです。

はじめに

約1年前、2022年11月に公開されたOpenAIのChatGPTは、あっという間に世界中で1億人以上のユーザを獲得し、ゲームチェンジャーのように言われています。OpenAI以外にも多くの企業がLLMを開発していて、今後ますます高精度化していくと予想されています。言語モデルという名前にはなっていますが、言語的な知識を持つだけでなく、あたかも世の中のことがある程度わかっているかのような振る舞いをしてくれるLLMたち。この記事では、LLMをシビックテック活動に役立てるアプローチをいくつかご紹介します。

ペルソナ生成とロールプレイ

LLMが生成するテキストにはハルシネーション(幻覚)と呼ばれるウソが混じることがあります。自信たっぷりに、非常にもっともらしいウソをつくわけです(最近のGPT-4等のモデルでは、知らないことは知らないと言えるようになっていて、ハルシネーションはかなり抑制されています)。この性質は、フィクションを生成させるにはむしろ都合が良くて、たとえば「こういう社会問題のステークホルダーってどんな人?」とか、「こういうサービスにはどんな潜在的なユーザがいそう?」というようなペルソナを作るには、LLMのこういう性質は非常に都合が良いわけです。例えば、ChatGPTに「日本の少子高齢化問題に取り組むシビックテックプレイヤーのペルソナ」を2人生成させると、こんな感じ

1. ペルソナ1:ミキ

  • 年齢・性別: 35歳、女性
  • 職業: ソーシャルイノベーター / エンジェル投資家
  • 背景: ITスタートアップで成功を収めた後、社会問題に焦点を当てた投資に興味を持つ。特に、高齢者の生活向上と若い世代の支援に注力。
  • 興味・関心事: 高齢者向けのテクノロジー、若者のキャリア開発、スタートアップのメンタリング
  • 取り組み: 高齢者のためのアクセシブルなデジタルツールの開発と若者の社会起業家精神を促進するプログラムの支援。

2. ペルソナ2:ヨシキ

  • 年齢・性別: 50歳、男性
  • 職業: 地方自治体の役員
  • 背景: 地方自治体で長年働き、地域の高齢化問題に取り組む。地域コミュニティの活性化と持続可能な地方創生に熱心。
  • 興味・関心事: 地方創生、コミュニティベースのプロジェクト、公共政策
  • 取り組み: 地域の高齢者と若者を結びつけるプログラムの開発と実施。例えば、高齢者の知識と経験を活用したメンターシッププログラムや地域内の交流イベントの企画。

こんな感じで、ChatGPT等のLLMはそれっぽいペルソナを作ったり、そのペルソナの視点から意見を言うようなロールプレイをするのが得意です。こういうペルソナ生成とロールプレイをシビックテックに活用した事例を2つご紹介します。

アイデアへのフィードバック生成

2023年5月にCode for Nagoyaが開催した「防災×遊び×子ども」ハッカソンでは、子どもたちが防災を遊びながら学べるようなアプリやサービスの開発を目指しました。しかし、残念ながら参加者は大人だけで、子どもたちをゲストとして呼ぶことができませんでした。そこで、大人たちのアイデアに意見を言ってくれる子供のペルソナを生成し、フィードバックしてもらうことにしました。3月に既にアイデアソンをやっていたので、アイデアソンに出てきたアイデアについてChatGPTに意見を言わせてみました。
image.png
このとき使ったプロンプトはこちらから確認できます。

とても出木杉君みが強いペルソナにはなっていますが、何人もペルソナを作って意見を言わせることで、アイデアをブラッシュアップするときの参考にはなりそうです。ペルソナと意見をいっぱい生成して、その傾向を集計するような機能も作った方が、ブラッシュアップ時の参考にしやすいかもしれないですね。このハッカソンの様子は、電子情報通信学会 第2回合意と共創研究会で発表しました。

仮想市民との議論

ペルソナを生成して意見を言わせると、議論参加の練習やファシリテーションの練習に活用することもできます。

例えば、2023年6月に開催されたファシリテーションサミット名古屋2023では、ChatGPTと話し合いの可視化技術を使って、ファシリテーションのトレーニングをしよう!~目指せ!1億総ファシリテータ―!!~というワークショップを開催しました。LLMベースの仮想市民が架空のX小学校の統廃合について議論し、それを人間のファシリテーターがどうにかしてファシリテートするという、名工大白松研で開発したWebアプリを使ったグループワークです。さらに、ハイラブル株式会社の話し合い可視化技術を使って、グループワークの進行自体を後から振り返るメタなグループワークも楽しいワークショップでした。
このワークショップの様子は8月4日の中日新聞で紹介して頂きました。

このときのWebアプリについては、人工知能学会 第11回市民共創知研究会で発表していますので、そちらを読んでください。この発表原稿にも書かれていますが、単純な実装だと仮想市民同士の議論がずっと並行線になりがちなので、人間の議論をどのくらい再現できているかという点については、今後の課題になっています。ただ、ファシリテーションや議論参加の練習台としての可能性はありそうだなーと思っています。また、実際に議論やワークショップを行う前に、そのオーガナイザー側が「どんな論点がありそうか」を考えるためにも使えそうです。

議論や合意形成の支援

これ以外にも、名工大白松研ではLLMを活用した様々な議論支援手法に取り組んでいます。

  • 冗長な音声認識結果を要約しつつ、付箋に書き起こして議論を構造化する作業を自動化(論文
  • 議論の参考になりそうな関連情報を自動的に検索して提示(論文
  • アウフヘーベン、つまり意見の対立を止揚させて「統合命題」を導くための支援(論文
  • 議論参加者が議題についての理解を深めるためのコーチング(IJCAI-DemocrAI 2023でBest Student Paper Award)
  • 市民意見への自動タグ付けと分析(電子情報通信学会 第1回合意と共創研究会で優秀賞)
  • 議論でどの論点がどの程度言及されているかを可視化

シビックテック活動では、課題当事者やステークホルダーと熟議したり、市民を交えて合意形成したりするプロセスは避けて通れないと思います。このようなプロセスでLLMを活用すると、かなり捗るようになるのではないかと思っています。

LLMにSFを書かせてまちの未来像を議論

オモイカネプロジェクトでは、ChatGPTにSFプロトタイピングしてもらってシビックテック活動に役立てようというアイデアに取り組んでいます。「まちの未来をバックキャスティングで考えよう!」みたいなワークショップって多いと思いますが、我々人間の想像力には限界がありますので、なかなか難しいですよね。そこで、AIにSFとか未来シナリオを生成させたら、そのへん補って未来について考えやすくなるんじゃないかというようなことを考えています。

その一環として、名工大のコミュニティ創成教育研究センターが2023年9月に開催した第27回 コミュニティ工学ワークショップ「AIに短編SFを書かせて未来を考えてみよう!~ChatGPT×SFプロトタイピング~」では、ChatGPTに最良の未来/最悪の未来を執筆させて、それを見ながら未来について考えるグループワークを行いました。ただ、下手なプロンプトではなかなか発想を飛躍させた理想像は出て来ずに、フォアキャスティング的な予測に基づくストーリーが生成されがちだということがわかりました。

そこで、2023年11月に開催されたCode for Japan Summit 2023では、そのへんを少し改良したプロンプトを用意して「ChatGPT×SFプロトタイピング:AIに短編SF小説を書かせて未来を議論する方法」というワークショップに臨みました。まず主人公となる2人のペルソナを生成した上で、最良・最悪の未来を描いた短編SFを書かせ、さらにその分岐点についても分析してもらうようなプロンプトを試しました。このときのプロンプトは、GPT Builderを使ってSFプロトタイパーというGPTsに仕込んでありますので、ChatGPT Plusへの課金アカウントをお持ちの方は、ぜひお試しください。

行政文書から「あのときの経緯」を探して説明

他にも、愛知県の実証実験事業Aichi X Techの「蓄積された行政情報を簡単に発見できる庁内システムを構築したい!」という募集に名工大白松研+ハイラブル株式会社のチームが採択されて、LLMを使ったGovTechに取り組んでいます。何をやっているかと言うと、膨大な行政文書の中から調べたい「あのときの経緯」をLLMで検索して説明してくれるシステムを作っています。RAG(Retrieval-Augmented Generation; 検索拡張生成)の一種ですね。

行政職員の方は異動が多いので、異動直後にいきなり「あのときの経緯をまとめて上役への説明資料を作ってね」と言われると、すごく大変らしいんですね。いろんな地方自治体で使って頂ける可能性があるシステムになると思いますし、行政だけでなく企業などでも使えるものにしたいと考えています。

やる気のある組織や個人をWebから探索

あ、もう一つありました。トヨタ財団の支援を受けたNPO法人ボラみみより情報局のプロジェクト「AIを活用した地域資源の発掘と地域助け合いネットワークの構築」に協力しています。これは何をしようとしているかと言うと、やる気のある組織や個人をWebから探索して、LLMで自動抽出しようという試みです。そうすると、やる気のある組織同士のマッチングをしたり、課題当事者とのマッチングをしたりといったサービスに繋がるわけですね。

当然、Web上の情報だけでは限界もあるわけですが、例えばこれまでも人手で検索エンジンを使って検索していたような、組織の生存確認ですとか、様々な作業を自動化するだけでも意味があるのではないかと思っています。

まとめ

そんな感じで、アイデアソンから合意形成まで、シビックテックの様々な場面でLLMが活用できるのではないかと思って日々試行錯誤しています。とても楽しいです。このへんの研究成果を社会実装するために、新しい法人を1月ごろまでに設立しようと準備しています。
ご興味のある方は、ぜひCode for Nagoya/名工大の白松までお声がけください!


(追記) この記事の執筆を手伝ってくれたChatGPTの感想

この記事の構成を考えたり執筆するときに手伝ってくれた自作GPTsに、この記事の感想を聞いてみました。いい感じで褒めてくれたので、嬉しくなって載せておきます。
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