皆さんこんにちは。この記事は株式会社カオナビ Advent Calendar 2025の19日目の記事です。
はじめに
今年からエンジニアリングマネージャー(以降、EM)1年生になりました。 この1年、チームや組織のあらゆる「悩み」や「課題」と正面衝突してきましたが、その中で一番しんどかったのが「決めること」です。
この記事では、「意思決定」をテーマに、新米EMが直面した壁と、そこで得た気づきについて書いていきます。
エンジニアからEMになって変わった景色
濁流のような情報量に溺れる
エンジニア時代は必要な情報を自ら「取りに行く」スタイルでしたが、EMになった途端、組織・採用・チーム・メンバーの状況など、強制的に大量の情報が流れ込んでくるようになりました。 当初はSlackの未読や会議の連続で、コンテキストの切り替えが追いつかず、情報の海で溺れているような感覚さえありました。
「知らなかった」ことへの後悔と、渇望
しかし、その情報の中には、現場時代に抱いていた「なぜ?」への答えがたくさんありました。 「この文脈を知っていれば、当時の自分はもっと上手く立ち回れたのに」——そんな悔しさが芽生えると同時に、意識が反転しました。
「溺れないように情報を遮断する」のではなく、「正しい判断のために、もっと情報が欲しい」。 意思決定の精度は、手持ちのカード(情報)の枚数で決まると痛感したからです。
情報不足の怖さ
EMとして意思決定のプロセスを分解していく中で、現場時代に感じていたモヤモヤの正体と、その背後にある「怖さ」が見えてきました。
「決められない」「腹落ちしない」の正体
現場でエンジニアをしていた頃、「議論が平行線で決まらない」「決まったけれど、チーム全員が腹落ちしていない」という状況によく遭遇しました。 当時はそれを「リーダーシップの問題」や「メンバー間の相性」のせいにしていましたが、今ならわかります。 その多くは、シンプルに「判断に必要な情報がテーブルに乗っていなかった」ことが原因でした。見えている景色(情報)が違う者同士が議論をしても、噛み合うはずがありません。
「得やすい情報」に依存する罠
人間には「利用可能性ヒューリスティック」と呼ばれる、手に入りやすい情報だけを使って判断してしまう傾向があります。 私はこの傾向を甘く見ていました。 「声の大きい人の意見」「たまたまSlackで見かけた発言」「自分の過去の成功体験」。これら『近場にある情報』だけで判断を下すことは、暗闇で鍵を落としたのに、街灯の下(明るい場所)だけを探し続けるようなものです。これでは正しい意思決定などできるはずがありません。
情報処理能力は「成長のボトルネック」にもなる
EMの仕事は、瞬発力が求められます。 会議中や相談を受けたその瞬間に、脳内の引き出しから適切なコンテキスト(文脈)を取り出し、即座にアウトプットする。今の私には、まだその能力が足りていません。
「常にアンテナを張り、脳内に大量の情報をインデックス化して溜め込むこと」 「必要な時に、それを0.1秒で取り出して言語化すること」
この「脳の容量(ストック)」と「出力速度(スループット)」が低いままだと、毎回「持ち帰って確認します」となり、チームのスピードを殺してしまいます。 これはセンスの問題ではなく、意識的に負荷をかけて鍛えるべき「訓練」の領域です。ここを伸ばさない限り、私の処理能力がそのままチームの成長の天井(ボトルネック)になってしまう。そう強く自戒しています。
意思決定の質を上げるための「生存戦略」
情報のボトルネックを解消し、EMとして「決断できる」状態を作るために。私が現在進行形で取り組んでいる、意識と行動の変革(生存戦略)について記します。
「利用可能性ヒューリスティック」からの脱却を常に意識する
「手に入りやすい情報に依存する罠」から抜け出す特効薬はありません。人間の脳はサボるようにできているため、意識しなければすぐに楽な方へ流れてしまいます。 だからこそ、「自分は今、見えやすい情報だけで判断しようとしていないか?」と、呼吸をするように自問し続けること。これ以外に道はないと考えています。
- Slackで目についた意見は「全体のごく一部」ではないか?
- その報告は「事実」か、誰かの「解釈」が混ざっていないか?
- 今見えていない「沈黙している場所」にこそ、重要な情報があるのではないか?
このチェックプロセスを脳内のバックグラウンドで常に走らせること。情報を鵜呑みにせず、一度立ち止まって「情報の偏り」を疑うコストを払うことが、結果として手戻りのない意思決定に繋がります。
情報処理能力を鍛えるための「アンテナの張り替え」
もう一つは、自分の脳のスペック(帯域)を広げるための訓練です。 エンジニア時代は「特定の技術を深く掘り下げる」アンテナを張っていましたが、EMには「広く浅く、多角的に状況を察知する」アンテナが求められます。この周波数(チューニング)の切り替えは、待っていても自然には起こりません。
- 興味のない分野・自分が弱いと思っている分野にも意識的にアンテナを向ける
- 流れてくる情報をただ眺めるのではなく、「これはあの件に繋がるかも」と脳内でリンクさせる負荷をかける
これを繰り返すことは、まさに「脳の筋トレ」です。 最初はノイズにしか見えなかった情報が、アンテナの感度と処理能力が上がるにつれて、意味のある「シグナル」として受信できるようになる。そう信じて、今日も意識的にアンテナを張り替え、情報の濁流の中に身を置いています。
最後に
EM1年生として辿り着いた結論は、「意思決定の質は、情報の質と量に比例する」というシンプルな真実でした。
- これはEMだけでなく、すべてのエンジニアに必要なスキルである
- 「コミニケーション能力」や「フレームワーク」などのツールを武器にする
情報の海で溺れかけた経験を糧に、これからも良質な情報を武器にして、「納得感のある意思決定」を積み重ねていきたいと思います。