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忠犬AIエージェントを深掘りしてみたら見えてきた話

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はじめに

前回、自分の道具に名前を付けました。忠犬AIエージェントです。

放したら好きに走り回るのがAIエージェントだと思っていた。うちのはそうではなくて、どこを嗅ぐか、どこで待つか、どこで試すかを、こちらが決めている。だったら忠犬だろう、という話でした。

書き終えてから、妙なことが起きました。名前を付けた途端に、考えが先へ進みはじめたのです。

それまで漠然と「使いやすい」としか言えなかったものが、「しつけの項目が七つある」と数えられるようになった。数えられるようになったら、今度はそのうち六つが、思っていた場所と違うところにあったことに気がつきました。

今日は、その続きです。道具は一行も直していません。言葉が一つ増えただけで見えてきたものの話です。

TL;DR

  • 前回、しつけの項目は七つあると書きました。数え直してもらったら、六つは既に画面の上にありました。VBAを書かないと決められないのは、一つだけです
  • 残る一つは「どこを嗅ぐか」——AIに渡す材料の選び方です。ここだけが、いまもVBAに書いてあります
  • ただ、これも本質はチェックボックスの並びです。値・数式・シート構造・図形・条件付き書式・印刷設定。並べて選ばせれば、画面に降ります
  • 材料は仕事ごとに違います。住所の突き合わせなら名前付き範囲、帳票なら図形と印刷設定。だから置き場は全体の設定ではなく、手順書の中が筋だと思っています
  • 落とし穴が一つ。選べるということは、重くなるということです。全部にチェックを入れれば賢くなる道具ではありません。だから画面に見積りの字数を出す。字数は待ち時間であり、料金でもあります
  • しつけは、たぶん次の問題になります。根拠が一つあって、作っている側が既に手綱を積んでいるからです
  • 一番大きいのは、これが現場の人の手に届く場所にあることだと思っています。仕事を一番よく知っている人が、自分でしつけられる

数え直したら、六つは画面の上だった

前回、こういう表を出しました。しつけの項目が七つある、という話です。

決めること 犬で言うと
何を見に行くか どこを嗅ぐか
どう注文するか 呼び方
どこを相手にするか 行っていい範囲
どのAIを使うか どの犬か
いつ止まるか 待て
書かせるかどうか よし
どこで試すか 訓練場

書いたあとで、この七つがそれぞれどこに書いてあるかを数え直してもらいました。結果はこうです。

決めること 決める場所 VBAが要るか
何を見に行くか VBA 要る
どう注文するか 定型・手順書の管理フォーム 画面
どこを相手にするか 対象ブック・シートを選ぶ欄 画面
どのAIを使うか AIとモデルを選ぶ欄 画面
いつ止まるか 手順書の完了条件 画面
書かせるかどうか 実行前の確認と[元に戻す] 画面
どこで試すか 練習用シート五枚 画面

七つのうち六つが、画面の上にありました。

自分で作っておいて気づいていなかった、というのは間抜けな話です。ただ、これは自慢する話でもありません。そうなったのは、たまたまです。定型も手順書も、最初は自分が使いやすいようにフォームに置いただけで、「しつけを画面に降ろそう」と考えて作ったわけではない。

前回も書いたとおり、忠犬という名前も後から付いたものです。作ってから、名前が付いて、名前で数えたら、構造が見えた。 順序としては、たぶんそういうことでした。

六つ

残る一つ ── 「どこを嗅ぐか」

VBAが要るのは、一番上の一行だけです。

前回、実測のログを出しました。私が打った注文は三行、約50字。ところが実際にAIへ送られたのは2,234字でした。差は、道具が自分で集めた材料です。ログにこう並んでいます。

範囲 テスト用4!A1:M13
数式 テスト用4!A1:M13
シート構造 テスト用4
名前付き範囲一覧

セルの値。数式。シートの構造。名前付きの範囲。この四つを選んだのは、私が書いたVBAです。

つまり、うちの犬が嗅げる匂いは、いまのところ四種類しかありません。図形の数は嗅げない。条件付き書式も、入力規則も、印刷の設定も、嗅げない。書いていないからです。

八月三十一日に結合セルの帳票を直させたとき、要らない図形を三つ消させ、印刷を一ページ幅に収めさせました。あれが通ったのは、指示の側で「図形を消して」と言ったからです。材料として先に渡していれば、AIは「図形が三つある」と知った上で答えられた。言われて探すのと、渡されて知っているのとでは、違います。

それも、たぶん画面に降ります

ここが今回いちばん書きたいところです。

この最後の一つも、本質はチェックボックスの並びです。

  • 値を見るか
  • 数式を見るか
  • シートの構造を見るか
  • 名前付き範囲を見るか
  • 図形と画像を見るか
  • 条件付き書式を見るか
  • 入力規則を見るか
  • 印刷の設定を見るか
  • 他のシートの一覧を見るか

並べて選ばせれば済む話です。いまVBAに書いてあるのは、まだ誰も並べていないからで、原理として画面に置けないわけではありません。

そうなると、しつけの七項目は全部、画面の上で終わります。VBAを一行も書かずに、犬の嗅ぎ先まで自分で決められる。

あと一つ

材料は、仕事ごとに違う

ただ、置き場には考えるところがあります。

材料の組み合わせは、仕事ごとに違うからです。

  • 住所の突き合わせ → 名前付き範囲が要る
  • 帳票の整形 → 図形と印刷設定が要る
  • 数式の点検 → 数式と条件付き書式が要る

全体の設定として一つ持つと、どの仕事にも中途半端になります。だから、手順書の中に持たせるのが筋だと思っています。手順書を選ぶと、その手順書が持っている材料に切り替わる。

こうすると、七つ目のしつけが完了条件と同じ場所に入ります。「この仕事は、これを見て、これができたら終わり」が一枚に収まる。単発の質問に使う定型のほうは、既定のままでいいはずです。

選べるということは、重くなるということ

ここで正直に書いておきたい落とし穴があります。全部にチェックを入れれば賢くなる、という道具ではありません。

前回のログをもう一度使います。

送り 履歴 待ち
一往復目 2,234字 0字 1.7秒
二往復目 4,128字 2,323字 7.1秒
言い直したとき 6,751字 6,678字 14.5秒

材料四種で、一往復目が2,234字です。ここに図形も条件付き書式も印刷設定も足したら、一往復目から重くなります。 送る字数が増えれば、待ち時間も、料金も増えます。

なので、画面には見積りの字数を出すべきだと思っています。チェックを入れ替えるたびに「いまの材料 ≒ 2,200字」と更新する。しつけの重さが、目に見える。

必要な数字は、もう画面に出ています。新しく測るものはありません。

もう一つ、この字数は料金の話でもあります。AIエージェントの費用は、賢さで決まるのではなく、往復の数と、一往復の重さで決まります。前回のログのとおり、うちの犬は一つの注文に往復四回、それまでの経緯を抱えたまま飛びます。嗅がせる材料を増やせば一往復が重くなり、しつけが甘ければ往復が増える。しつけの重さは、そのまま請求書に出ます。 ここは書きたいことが別にあるので、次に回します。

犬にたとえるのが行き過ぎかもしれませんが、嗅がせる匂いを増やせば増やすほど、判断は遅くなります。何を嗅がせないかを決めるのも、しつけのうちでした。

外に出るときも、リードは持ったまま

一つだけ、別の方向の話を短く書きます。

八月に、Excelの中からWindowsの他のアプリを動かす仕組みを作りました。電卓を叩かせたデモがあります。

これは一見、囲い込みを破る話に見えます。Excelの中に閉じておくつもりが、外に出ていくわけですから。

ただ、あの仕組みの肝は速度ではありませんでした。どのアプリの、どの部品を、どの順で押すかが、シートに書いてあることのほうです。行き先も、行き方も、人が読める場所に置いてある。

囲いを破ったのではなく、リードを長くしただけです。しつけの思想が、そのまま外向きに伸びた形になっています。犬が家を出るときも、綱はこちらが持っている。

リード

しつけは、たぶん次の問題になる

ここからは見立てです。

AIエージェントは、いま「何ができるか」で語られています。ただ、普及が進めば、次に来るのは**「どこまでやらせるか」**のほうだと思っています。何を見せていいのか。どこで止めるのか。何をしたのか後から追えるのか。

根拠を一つ挙げます。八月末に Claude for Excel に取材したとき、向こうが持っていた仕掛けはこうでした。

  • 書き込み先にデータがあれば、既定では書かない(明示の許可が要る)
  • 手順書の各段に完了条件を書かせる
  • 計画の可否はチャットに書いてターンを終える(勝手に進めない)
  • 常時ONの指示を変えるときは、人が承認するまで保存しない

賢くする側が、同時に勝手にやらせない仕掛けを積んでいます。しつけが要るという話は、使う側の心配ごとであるだけでなく、作る側が既に取り組んでいる問題でもある。ここは本人談ですが、実演の行動としても見えていました。

だとすれば、これから問われるのは「そのしつけを、誰が決めるのか」だと思います。作った人が決めた既定のまま使うのか、使う人が自分で決められるのか。

現場の人が、自分で仕立てられること

そして、ここが一番大きいと思っています。

エージェントの手綱を自分で握る道は、既にあります。PythonでもTypeScriptでも、道具を定義して、見せる範囲を決めて、止まる条件を書ける。エンジニアには、前からできることです。

問題は、その言語を書く人と、その仕事を知っている人が、たいてい別人だということです。

どこを見れば足りるのか。どこで止まるべきなのか。何を見落とすと事故になるのか。それを一番よく知っているのは、その仕事を毎日やっている人です。でもその人は、たいていプログラムを書きません。だから説明して、作ってもらって、違うものが返ってくる。伝言ゲームになります。

Excelの中なら、同じ人ができます。

しかも、七つのうち六つは画面の上でした。VBAを一行も書かずに、呼び方も、止まり方も、試す場所も決められる。残る一つが画面に降りれば、全部です。

しつけの中身を決めるのは、その仕事を分かっている人であるべきで、分かっている人が触れる場所に道具がある。 キャッチフレーズを一つ付けたことで見えてきたのは、結局そこでした。

事実と見立ての仕分け

例によって仕分けます。

事実。 しつけの七項目のうち六つが画面の上(フォームとシート)にあり、VBAが要るのは「何を見に行くか」の一つだけである、というのは、いま手元で動いている Excelコンボ を数え直した結果です。材料の四種類(値・数式・シート構造・名前付き範囲)と、送り・履歴の字数、待ち時間は、九月一日の録画に映っていたログの実測値で、前回の記事に載せたものと同じです。Claude for Excel の四つの仕掛けは、八月二十八日に本人に聞いた答えで、仕様書と突き合わせたものではありません。

そして、はっきり書いておきます。材料を画面から選ぶ仕組みは、まだ作っていません。 この記事に書いたのは設計の見通しであって、動いているものの報告ではありません。作った後で、材料を減らすと送り字数がいくら減るのか、増やすと待ち時間がどれだけ伸びるのかを測って、そのときにまた書きます。

見立て。 「しつけが次の問題になる」は私の読みです。「材料は手順書に持たせるのが筋」も、まだ作っていない以上、机の上の判断です。「六つが画面の上にあったのはたまたま」も、自分の作業を振り返っての言い分で、証明できるものではありません。

正直な線引き

  • この記事には、新しい実測がありません。 数字は前回の使い回しです。材料タブは未実装で、動かして測った結果ではありません
  • 七つという数え方も、六つという内訳も、私が線を引いたものです。別の数え方をすれば六つにも十にもなります
  • 材料を画面に降ろすと、選ぶ手間が使う人に来ます。いまはVBAに書いてあるので、使う人は何も選ばなくていい。降ろすことが常に良いとは限りません
  • 「エンジニアには前からできること」と書きましたが、私は他の言語のフレームワークを使い込んだわけではありません。外から眺めての比較です
  • Windows 版の Excel の話です。Mac や Web では動きません
  • 道具は前回から一行も変えていません。この記事は、考えが動いただけの回です

道具そのものの中身と、落として動かすまでの話は、八月末の記事にまとめてあります。

おわりに

道具を一行も直さずに、記事が一本書けてしまいました。

やったことは、名前を一つ付けて、その名前で自分の道具を数え直しただけです。それだけで、七つのうち六つが思っていた場所と違うところにあることが分かり、残る一つをどうすればいいかまで見えた。

言葉というのは、こういう働きをするものらしい。名前が付くまで、私はこの道具を「使いやすい」としか言えませんでした。

うちの犬は、いまも隣に伏せています。嗅げる匂いは四つのまま、増えても減ってもいません。

ただ、次に教えるものは、もう決まりました。

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