はじめに
前回、Excelマネージャーの新しい運用についての記事を書きました。
長年現場で鍛えてきたマクロを「棚」として整理し、AI にゼロからコードを書かせるのではなく、棚から最適なマクロを選んで一撃で撃たせる。名付けて**「棚撃ち式 Excelマネージャー」**です。
記事のなかでは、実動役の Gemini に実機の表を触らせたところ、最初は条件付き書式の参照ズレに慌てて十四手・二分半も迷走し、そのあと足回りを改修して 〇・四秒で帳票を一覧化できた、という未明の実験を記録しました。
ですが、あの記事を出したあとも、私の心には一つの引っかかりが残っていました。
「あのときは一つの帳票を直すだけで手一杯だった。もっと多種多様な汚れた表を前にしたとき、AI は本当に迷わず、自在に棚のマクロを撃ち分けられるだろうか」
「間違えているところを直して」と一言頼んだだけで、AI が迷わず棚から武器を取り出し、人間以上のスピードで片付けてくれる──。そんな理想の運用には、まだツールの足回りにいくつかの課題がありました。
そこで今日の日中、設計役の Claude Code と共に足回りとマクロ棚の大改修を行いました。折しも Claude のモデルが Opus 5.5 へと進化しており、その並外れたコーディング能力によって、以前なら難航していた複雑な改修が驚くほどスムーズに進んだのです。
そして今夜、生まれ変わったツールを再び Google の Antigravity(Gemini)に握らせてみました。
結果から申し上げます。以前とは比べものにならないほど、使い勝手が劇的に向上していました。
未明にあれほど迷走していた Gemini が、まるで熟練の職人のように次々とお題を瞬殺していく。その一部始終を記録します。
TL;DR
- 今朝公開した「棚撃ち式」を実務で通用させるため、日中にツールの足回りとマクロ棚の大改修を行いました
- 設計役の Claude Code が Opus 5.5 に進化し、コーディング能力が大幅に向上したことで、一万九千行のモジュール分割や全マクロのエラー耐性強化を極めて的確に仕上げてくれました
- 表を整えるコマンド(
seiri)を強化し、現状の報告だけでなく**「次に棚から撃つべき手」を安全な順序で AI に自動提示する仕組み**を構築しました - **「棚撃ちでできる大技は棚で瞬殺し、棚にない細部やピンポイントの修正は AI に任せる」**という二段構えの分業が完璧に噛み合いました
- 夜、実動役の Gemini に実戦テストを行ったところ、以前は二分半も迷走したお題や複雑な表の突合を、数秒・手戻りゼロで完答しました
- 足回りの進化と明確な役割分担によって、「棚撃ち式」は確固たる実用段階へ入りました
第一幕:Claude Opus 5.5 の進化と、日中の徹底的な大改修
未明の実験で動いたとはいえ、ツールには実務で使うには危うい「急所」が残っていました。
日中、Claude Code と共に足回りの改修に着手したのですが、ここで大きな追い風がありました。Claude のモデルが「Opus 5.5」にバージョンアップしたことです。
コードの文脈把握力とリファクタリングの精度が以前より明らかに一段上がっており、複雑な VBA と Python の連携部分を、驚くほど手際よく「いい感じ」に直してくれました。具体的に施した改修は、主に以下の四点です。
1. 「表の整理」一万九千行の四分割
アドイン(秀コンボ)のモジュール「表の整理」は、百十八本・一万九千四百六十六行という巨大なファイルに膨れ上がっていました。Opus 5.5 はこの巨大モジュールを、依存関係を一切壊すことなく以下の四つへ綺麗に分割してくれました。
-
表の整理(四十二本):整える・直す基本マクロ -
表の整理_作る(五十三本):集計表、ピボット、突合など -
表の整理_調べる(二十七本):点検、一覧化など -
表の整理_下請け:共通の書式設定や安全弁を担う非公開マクロ群
2. エラー値でマクロが落ちない安全弁(セルの字)
表の中に #REF! や #DIV/0! などのエラー値があると、VBA の If v <> "" という判定が「型が一致しません」でクラッシュします。Opus 5.5 は、エラー値を安全に文字列として受け流す下請け関数(セルの字)を新設し、実に九十五本・四百九行に及ぶマクロの判定処理を一瞬で改修してくれました。
3. 出力先が既存のメモを消さない「右の出し先」制御
集計表などを表の右側に出力するマクロが、ユーザーの書いた既存のメモを上書きしてしまう問題がありました。これに対し、「前回の自分の出力なら上書きし、他人のメモがあれば必ずその外側へ避けて出力する」という自律判定ロジック(右の出し先)を組み込みました。
4. seiri が「次に撃つべき手」を案内する司令塔へ
朝までの seiri は表の汚れを報告するだけでしたが、改修後は**「次に棚からどのマクロを、どの順序で撃てばよいか」を手引きとして返す**ようにしました。
棚で直せる手(この順に撃つ):
shelf-run 選択列の式を揃える
shelf-run 重複行を消す
安全な作業順序をシステムが先回りして教えるため、AI が手順に迷う余地をなくしたのです。あわせて棚マクロも百二十三本へ増強しました。
第二幕:生まれ変わったツールを Gemini に渡してみた
夜、改修を終えたツールを実動役の Gemini に渡し、実機のデスクトップで実戦テストを行いました。
重要なのは、「何でもかんでもマクロにやらせる」のでも「何でも AI に自作させる」のでもなく、「棚撃ちでできることは棚で片付け、棚にないところは AI に任せる」という二段構えの連携です。
未明にあれほど手こずっていた Gemini の動きがどう変わったか、代表的な二つのお題でご紹介します。
1. かつて二分半迷走した因縁の「在庫チェック」
最初のお題は、未明に Gemini が十四手・二分半も迷走した因縁の在庫表(テスト用 3)です。
「D列に、在庫数が発注点を下回っていたら『要発注』と出す式を入れて。要発注の行の背景を赤くする条件付き書式を付けて」
以前は相対参照のズレにパニックを起こし、裏で勝手に VBA コードを自作し始めて大混乱に陥ったお題です。
ですが今夜の Gemini は、まったく慌てませんでした。
ここは棚マクロを無理に探す場所ではありません。指示された条件に合わせて、AI 自身が計算式を組み立てるべき場面です。
Gemini は頭を使い、D6 に =IF(B6<C6,"要発注","") を入れ、fill コマンドで一気に下方向へ展開。そして条件付き書式コマンドを静かに叩きました。
cond-format A6:D17 --formula "=$D6=""要発注""" --bg "#FFC7CE"
いま条件が当たっているセル: 20 / 48
コンソールに「二十セルが条件に合致した」と即座に返り、実機画面の該当する五行が綺麗に薄い赤色でハイライトされました。
かつて二分半かかった悪夢のお題が、棚に頼るまでもない AI 自身のピンポイント処理として、わずか数秒で完結したのです。
2. 新設マクロが一撃で着弾した「住所の整形と左右突合」
続いてのお題は、左側に会員名簿、右側に申込一覧が並んだシート(テスト用 4)です。
「郵便番号をハイフンつきに統一して。住所の全角半角をそろえて。左の名簿と右の申込一覧を会員番号で突き合わせて」
日中に棚へ新設したばかりの百二十本目のマクロ、同じシートの2つの表を突き合わせる を試すお題です。
まず Gemini が seiri を撃つと、郵便番号のハイフン抜け(0000002 → 000-0002)と住所の全角数字が瞬時に半角化されました(所要 〇・〇七秒)。
そして「左右の表を会員番号で突合する」という重い定型処理には、迷わず棚から新マクロを実行します。
撃った: 秀コンボ.xlam!表の整理_作る.同じシートの2つの表を突き合わせる(0.06 秒)
変わったセル: 26 個
左の表に申込コースと金額の式を追加/右の表に「左の表との突合」列を追加
実行時間は、わずか 〇・〇六秒。
左の名簿の右隣には申込コースと金額を引っ張る数式が並び、右の表には「左の表にあり」「左の表になし」という突合結果が一瞬で展開されました。
実際の画面の変化をご覧ください。
▼ 修正前の状態(郵便番号にハイフンがなく、住所の番地が全角で、左右の表がバラバラ)

▼ 修正後の状態(〇・〇六秒で郵便・住所が整い、左右両方向に突合列と数式が着弾)

撮影されたスクリーンショットを目視確認したとき、私は思わず唸りました。手作業なら数十分、従来の AI なら何度もプロンプトを往復させる作業が、完全に手戻りゼロの一撃で終わったのです。
第三幕:なぜここまで劇的に使い勝手が変わったのか
未明の迷走と、今夜の神速の快進撃。
同じ Gemini という実動 AI を使いながら、なぜここまで劇的な差が生まれたのか。理由は明確です。
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「棚撃ち」と「AI の補完」という完璧な役割分担
重い定型処理(重複行の削除、左右の突合、集計表の作成など)は、棚マクロが一撃(〇・〇一〜〇・〇七秒)で片付けます。一方で、棚にない細かな条件式やピンポイントのエラー修正、空欄の穴埋めは AI に直接任せる。「棚撃ちでできないことは AI に任せる」という二段構えの仕組みになっているため、AI が重い処理で迷走することも、棚にないからと手詰まりになることもありません。 -
Claude Opus 5.5 による足回りの完璧な地均し
エラー値で落ちない、結合セルを自動で解く、メモを避けて出力する──。Opus 5.5 の高いコーディング力でこうした泥臭い安全弁を足回りに埋め込んだため、実動役の Gemini がつまづく罠が物理的になくなりました。 -
seiriによる手順のナビゲーション
表の状態に応じて「次に撃つべきマクロ」が順番通りにコンソールへ提示されるため、AI は案内どおりに引き金を引くだけで正解に辿り着けるようになりました。
事実と見立ての仕分け
事実
- 改修前の Gemini は迷走した:条件付き書式の参照ズレで十四手・二分半を費やし、自作コードで逃避した。
- Claude Opus 5.5 により足回りが大幅に強化された:一万九千行の四分割、エラー値耐性(九十五本改修)、右出し先制御などを破綻なく実装した。
- 改修後の Gemini は全問を即座に完答した:棚マクロの実行速度は 〇・〇一〜〇・〇七秒。棚マクロと AI の直接修正がスムーズに連動し、複合指示も数秒で完了した。
見立て
- AI の性能不足に見える問題の多くは、ツールの足回り不足である:AI が迷走するのは、ツールの吐く例外が不親切だったり罠が多いからです。足回りを手入れすれば、現場の実動 AI は見違えるような動きを見せます。
- 「全部 AI」でも「全部マクロ」でもない二段構えが最強である:大技は棚マクロで瞬殺し、棚にない隙間を AI がピンポイントで埋める。このハイブリッドな分業こそが、現場の実務で絶対に破綻しない最適解です。
- 長年蓄積した VBA 資産が、そのまま AI の「弾薬庫」になる:人間は業務に合わせたマクロを棚に補充し、AI は文脈を読んでそれを撃ち、足りない所を手で補う。過去の資産がすべて活きる運用が完成しました。
正直な線引き/動く条件
動く条件
- Windows 環境かつデスクトップ版 Excel が起動していること
- アドイン(秀コンボ.xlam)が読み込まれ、マクロ棚が登録されていること
- Python による Excelマネージャーの管理プロセスが常駐していること
今の限界
- 人間の判断が必須なケース:数値の明らかな桁違いや、重複した会員番号のどちらを生かすかといった業務判断は、AI やマクロが勝手に判断せず、番地を添えて人間に確認を求める仕様にしています。
- 極端に曖昧な指示:「なんか適当に綺麗にして」といった指示では、百二十三本の棚からどれを撃つべきか絞り込めないリスクがあります。
- Mac 版および Web 版 Excel:Win32 COM とローカルアドインに依存しているため、デスクトップ Windows 以外では動きません。
おわりに
今朝の記事を書いた時点では、まだどこか「少し条件が変わると破綻するのではないか」という不安が拭えませんでした。
ですが、Claude Opus 5.5 と共に泥臭くコードを書き直し、迎えた今夜の実戦テスト。
画面の向こうの Gemini が、迷うことなく棚からマクロを引き抜き、〇・〇六秒で左右の表を完璧に突合し、棚にない数式は自らの頭でピタリと入れてみせた姿を見たとき、確信に変わりました。
「このやり方で合っている」
大技は棚で瞬殺し、棚にないところは AI に任せる。
確固たるマクロの武器庫を背負わせ、AI をその「射手」として立たせる。
かつて十四手かけて迷走していた AI は、適切な武器とレールを手に入れたことで、数秒で仕事を終わらせる頼もしい相棒へと生まれ変わりました。
Excelマネージャーとマクロ棚の進化は、まだまだ続きます。
現場の面倒な業務を、一秒で吹き飛ばすその日まで。


