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ジェミニAPIを有料課金したら、今後の方向性が見えてきた話

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はじめに

昨日、Gemini API の有料課金を始めました。

この連載を読んでくださっている方ほど、意外に思われるかもしれません。私はこれまで、金をかけずに Excel から AI を使う工夫ばかり書いてきたからです。コピーして貼るだけの型から始まり、GAS を中継所にする方法、しまいには画面の部品を名指しで操縦して、キーの一文字も使わずにチャットへ仕事をさせる方法まで試しました。無料で行ける道は、たぶん一通り歩いています。

その私が、金を払うと決めました。

理由は「無料の道が行き止まりだったから」ではありません。無料の道は全部通れました。通れた上で、払うほうが得だと判断が変わったのです。そして課金してみたら、値段の話よりずっと大きいものが見えてきました。今日はその話です。

TL;DR

  • 無料で Excel から AI を使う道を一通り作った上で、Gemini API の有料課金に乗り換えることを決めました
  • 決め手は、画面の作りが変わっても壊れないこと・何をどこまで読んだか見えること・安いことの3つです
  • 料金は公式の料金表から試算すると、一往復1円未満の世界でした(本文に計算を載せています)
  • 課金して初めて「トークン」というメーターが見えました。チャットと API は、同じ AI の別製品です
  • API の向こう側では Python が動きます。Python の入っていないパソコンに、計算力が届くということです
  • 見えてきた方向性は、AI を「呼ばれる側」から「道具を呼ぶ側」に回すこと。Excel の中に小さな作業員を住まわせる設計が、部品として組めるようになりました
  • そして次に作るものが決まりました。ブック群と会話する道具です。長年寝かせてきた構想の部品が、昨日で全部そろいました

無料の梯子は、全段登った

まず、これまでの道のりを整理しておきます。Excel から生成 AI に仕事をさせる方法として、私が実際に作って使ってきたのは、こういう段々です。

  1. コピーして貼る。 人間がチャット画面との間を運ぶ。確実だが、手が塞がる
  2. GAS を中継所にする。 VBA から HTTP で Google Apps Script を呼び、そこから先を任せる
  3. 画面を操縦する。 Windows 標準の仕組みでチャット画面の部品を名指しで押し、貼って、送信して、答えを持ち帰る

どの段も、ちゃんと動きました。3番目などは、ボタン一つで表の検品が十数秒で帰ってくるところまで行きました。「キーがなくても、ここまでできる」を確かめる実験としては、やり切ったと思っています。

ただ、使い込むほどに、無料の道に共通する弱点も体で分かってきました。

画面に寄りかかる方法は、画面が変わると壊れます。 実際、ある日メニューの文言が変わって、動いていた仕組みが止まったことがあります。直すのは難しくありませんが、「いつ止まるか分からないもの」の上に道具は積み上げられません。

チャットは、何をどこまで読んだか見えません。 たとえば全国の郵便番号データ、約12万行。あれを丸ごと渡して仕事をさせようとしても、チャット系のサービスでは処理しきれませんでした。どこで諦めたのか、何行目まで見たのか、こちらからは分からない。答えは返ってくるのに、根拠の範囲が見えないのです。

つまり無料の道は「通れるが、その上に建てられない」道でした。実験には十分、土台には不足。そこまで分かったところで、正門の値札を、あらためて見に行きました。

値札を見たら、桁を疑った

Gemini API の料金は公式の料金表に出ています。

2026年8月20日時点の主なところを抜くと、こうです(100万トークンあたり・米ドル)。

モデル 入力 出力
Gemini 3.7 Flash $0.75 $3.75
Gemini 3.1 Pro Preview $2.00 $12.00
Gemini 2.5 Flash $0.30 $2.50
Gemini 2.5 Flash-Lite $0.10 $0.40

トークンというのは AI の世界の従量計の単位で、ざっくり文字数に比例する量だと思ってください。ピンと来ないと思うので、私の使い方に当てはめて計算します。

Excel のセル範囲を渡して検品させる、いつもの一往復。渡す側が3,000トークン、返ってくる側が1,000トークンとして、Gemini 3.7 Flash なら

  • 入力: $0.75 × 0.003 = $0.00225
  • 出力: $3.75 × 0.001 = $0.00375
  • 合計: $0.006 ── 1ドル150円で換算して、約0.9円

一往復、1円しません。 一日中使って百往復しても100円弱。桁を間違えたのではないかと、値札を疑う金額です。

安すぎる

なお、Flash 系のこの単価は「2026年12月31日まで」と明記されていて、2027年からは倍額になる予定も同じ表に書いてあります。倍になっても一往復2円弱ですが、値上げの予定を隠さず先に書いてある料金表は、それはそれで信用できるものです。

無料枠もあります。それでも私が有料課金を選んだのは、回数の上限に頭を使いたくなかったこと、そして道具の土台にするなら「使わせてもらっている」より「客である」ほうが筋が通ると思ったことによります。月々の上限額は設定できるので、青天井の心配はありません。

チャットと API は、電灯とコンセントだった

課金して使ってみて、分かったことがあります。チャットと API は、同じ AI の「別製品」です。

例えて言うなら、チャットは電灯、API はコンセントです。

電灯は、スイッチを入れれば明かりが点きます。誰でも使えて、それ自体で完結している。ただし、できることは「照らすこと」だけです。定額で使い放題に見えますが、配線には触れません。

コンセントは、それ自体は何もしません。穴が空いているだけです。そのかわり、何を挿すかをこちらが決められる。挿した機械の分だけ電気代を払う。電灯の明るさは製品を作った側が決めますが、コンセントに何を挿すかは、家の者が決めるのです。

ここ最近、私がやってきた「画面の操縦」は、言ってみれば電灯のスイッチを機械の手で入れたり消したりして、明かりの点き方で信号を送るような芸当でした。動きます。動きますが、本来それは配線のやる仕事です。

課金して手に入れたのは、賢い AI ではありません。壁のコンセントです。同じ Gemini でも、電灯としての Gemini と、コンセントの向こうの Gemini は、道具としてまったく別物でした。

ここだった

メーターが見えると、設計が変わる

コンセントには、メーターが付いてきます。

API は一往復ごとに「入力に何トークン、出力に何トークン使ったか」を返してきます。チャットをいくら使っても一度も見えなかった数字です。定額の電灯の下では、電気が何ワットかなど考えもしませんでした。メーターが見えた瞬間、考えが変わります。

一往復1円未満なら、「ここぞという時に聞く」をやめられるのです。

とりあえず全部通す。失敗したらもう一回。検算にもう一往復。答えを三通り作らせて比べる──そういう「雑に量を使う」設計が、財布の心配なしに組めます。高い AI は相談相手ですが、安い AI は材料です。材料になった瞬間、道具の中に埋め込めるようになります。

ついでに書くと、Gemini 本人(API 側)に「チャット製品と何が違うのか」と聞いたら、無料の製品は利用者が増えるほど一人あたりに割ける計算を節約せざるを得ない、という趣旨の答えが返ってきました。AI の自己申告なので裏は取れません。ただ、理屈は通っています。定額の製品は混めば薄まる。従量の API は、薄めたら請求が減るだけなので、薄める動機がない。深く読ませるかどうかを決める権利が、向こうの混み具合からこちらの財布に移る──これがメーターの本当の意味だと思います。

見えてきた方向性

ここからが本題です。コンセントに何を挿すか。課金して二日、試しながら見えてきた方向性が三つあります。

その一: API の向こうで Python が動く

Gemini API には「コード実行」という機能があります。AI が自分で Python のコードを書き、Google 側の実行環境で走らせて、実行結果を踏まえて答えを返してくる。料金表には、コード実行の追加料金はなく通常のトークン単価に含まれる、と明記されています。

これが何を意味するか。Python の入っていないパソコンに、Python の計算力が届くということです。

AI の暗算は信用できません。これは連載で何度も書いてきたとおりです。しかしコード実行なら、答えは実際に走った計算の出力です。集計、変換、検算──Excel 側は VBA の標準機能で HTTP を一本投げるだけ。手元に何もインストールしなくても、向こう側に計算機が置いてある。

その二: AI が、道具を「呼ぶ側」に回る

API には function calling という仕組みがあります。こちらが「使える道具の一覧」を渡しておくと、AI が「この道具をこの引数で使いたい」と返してくる。実行するのはこちら側で、結果を渡すとまた次の手を考える。この繰り返しです。

気づいた方もいると思います。これは、AI アシスタントが裏でやっていることと同じ形です。

私の手元には、開いているブックからマクロを取り出す・差し替える・シートを読む・書くという道具が、この連載で一式そろっています。あれを「道具の一覧」として AI に渡し、VBA が実行係をやれば──Excel の中に、小さな作業員が住めることになります。何かの製品を導入するのではなく、VBA と HTTP だけで、です。

会話しながら作る、というこの連載の芯は手放しません。その上で、「会話で型を作り、固まった型を数でこなすのは作業員に任せる」という分担が、部品として組める距離に来ました。設計図はもう頭の中にあります。

その三: 十二万行に、正面から向き合える

チャットに飲ませられなかった郵便番号12万行の話を思い出してください。API 側では、事情が変わります。

一つは、入り口が広いこと。いまのモデルは一度に100万トークン、最上位の Gemini 3.5 Pro なら200万トークンを受け取れるので、かなりの量をそのまま渡せます。もう一つは、全部渡す必要がそもそもないこと。構造のあるデータは、コード実行で絞り込ませるか、function calling で必要な範囲だけ取りに来させればいい。12万行から特定の県の分を抜くのに、AI が12万行を読む必要はないのです。

どの戦略で行くかを、データの性質に合わせてこちらが選べる。チャット製品では、その選択権ごと向こうに預けるしかありませんでした。大量のデータの前で立ち往生していたのは、AI の能力の限界ではなく、製品の形の限界だった──課金して一番はっきりしたのは、ここかもしれません。

道具の側は、できていた

方向性が見えたところで、手元の道具を見直して、少し笑いました。

私の Excel ツール群は、AI を呼ぶ部分の「エンジン」を、これまで何度も載せ替えてきました。コピペの時代、GAS 中継の時代、画面操縦の時代。載せ替えのたびに上物を作り直すのが嫌で、いつからか、呼び出し口だけ差し替えられる作りになっています。

つまり、API という新しいエンジンを受けるソケットは、空けて待ってあったのです。狙っていたわけではありません。エンジンが何度も変わったから、変わっても壊れない形に自然となっていた。無料の梯子を全段登った遠回りは、無駄ではなくて、この形を作るための工程だったようです。

だから、これからやることは増築ではなく差し込みです。手元の検品や数式まわりのエンジンを API に載せ替える──それはすぐ済む話で、本命はその先にあります。

前から温めている、ブック(群)と会話する道具です。何百のブックを横断して、「去年のあの数字どこだっけ」と日本語で聞くと、セル番地を根拠に答えが返ってくる。文書を取り込んで会話するサービスは世の中にありますが、あちらが読むのは取り込んだ瞬間の写しです。こちらが相手にするのは、再計算の走る生きたブックで、根拠は「だいたいこの辺」ではなく 売上!$D$12。しかも読むだけでなく、「じゃあ直しておいて」まで言える。

どこだ

Excel と会話する──言葉にすると簡単ですが、これをやるには、ブックの地図を見る目と、必要な場所だけ取りに行く手と、それを回す頭と、量に耐える財布が全部要ります。長年寝かせてきたのは、そのどれかがいつも欠けていたからです。昨日、最後の一枚がそろいました。

作ります。次に書くのは、たぶんその話です。

事実と見立ての仕分け

例によって仕分けます。

事実: 料金表の数字と「2027年からの倍額予定」「コード実行は通常のトークン単価に含まれる」の記載(2026年8月20日に公式ページで確認。リンクは本文のとおり)。一往復の金額は、その料金表に仮の使用量(入力3,000・出力1,000トークン)を当てた試算であること。郵便番号データ約12万行をチャット系サービスで処理しきれなかったこと(私の環境での体験です)。画面の文言変更で自作の仕組みが止まったことがあること。

見立て: 「定額の製品は混むと薄まる」は、Gemini 自身の発言と私の使用感から来る見立てで、Google の内部事情を確かめたわけではありません。「function calling で Excel の中に作業員を住まわせられる」は、部品の実在からの見立てで、実装はこれからです。「無料の道は土台に不足」も私の用途での判断で、実験や学習には今も無料の道で十分だと思っています。

正直な線引き

  • チャットをやめる話ではありません。 人間が読み書きする相手としてのチャットは、今もいちばん使っています。土台にする部分だけ API に移す、という話です
  • 従量は、使い方しだいで嵩みます。 私の試算は小さな往復の話で、巨大な入力を高いモデルに毎回渡せば桁は変わります。月々の上限設定を先に入れておくのが安全です
  • API キーの管理は自己責任です。 キーをコードやブックに直に書かない、公開するものに含めない。ここは無料の道になかった、新しい注意事項です
  • 私の環境は Windows 11 と Excel で、道具を作る相棒は Claude Code(この整理も、クロード・フェーブルとの会話で書いています)。作る頭と、作った道具に積む頭は、別でいいというのが今のところの結論です
  • 為替と料金は変わります。この記事の円換算は執筆時点の目安です

おわりに

無料でどこまで行けるかを試し続けました。行けました。行けたからこそ、どこから先が「払う価値のある部分」なのかが、値札を見る前に分かっていた──課金を決めた日に思ったのは、そういうことです。

電灯の下で暮らしながら、ずっと配線図を眺めていた気がします。昨日、壁にコンセントが付きました。

さて、何から挿しましょうか。

それでは、また。

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