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数式の説明も、データの検品も ── Excel の中で AI が働くようにした話

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はじめに

私は事務員です。プログラマーではありません。家の自分のPCで、Excel VBA と Claude Code を組み合わせる遊びと実益を続けています。

前回は、Excel のボタンから Claude Code CLI を直接呼んで、ブック自身のマクロを AI が直す仕組みを書きました(「会話もいらずにマクロが直る」 エクセルの神様の答えにたどりついた話)。マクロの修正が、チャット画面へのコピペもいらず、ボタン一発・実測8秒で終わるようになった話です。

今回はその続きです。同じ配管を「マクロ以外」に転用したら、数式の説明も、データの検品も、Excel の中で AI が働くようになりました。

そして作りながら、確信に近づいたことが一つあります。これからは、Excel と AI のコンビネーションの時代になる、ということです。大きく出たように聞こえるかもしれませんが、本文で現物を見せながら、そう考える理由を書きます。

TL;DR

  • マクロ修正用に作った「VBA から Claude Code CLI を呼ぶ配管」を、数式とデータに転用しました
  • AI数式フォーム:選択セルの数式を、シートの文脈ごと AI に渡して「解説・チェック・作成」する
  • AI検品フォーム:選択範囲のデータを AI に渡して「表記ゆれ・外れ値・事実との食い違い」を探させる。読み取り専用でシートには一切書きません
  • 初仕事で、祝日リストの表記の不統一を見つけつつ、2021年の祝日移動(オリンピック特例)を世間知で照合して「この対応は正しい」と言い切りました
  • 「Excel に AI を載せる」サービスは増えましたが、これは少し違います。自分の道具の部品として AI を配線する話です
  • Excel と AI は機械としての得意が真逆で、組むと互いの穴がふさがります。「Excel か AI か」ではなく Excel × AI のコンビネーションが本命だと考えています

「載せる」と「配線する」

Excel で AI を使う手段は、もう珍しくありません。Copilot は Excel に載っていますし、AI アシスタントをうたうアドインもたくさんあります。

ただ、それらの多くは「Excel の横にチャット窓が開く」形です。聞けば答えてくれますが、答えは画面の中にあって、こちらの道具や作業の流れとはつながっていません。

私がやったのはその逆で、AI をチャット窓から出して、自分の VBA 資産の一部品にすることでした。

  • AI の答えは、既存の置換処理や退避・復元の仕組みにそのまま流れ込む
  • AI に渡す材料(数式・シートの見出し・実データ)は、VBA が自動で用意する
  • 呼び出すのは汎用チャットではなく、「この作業のこの検分をしろ」という定型指示

部品なので、見た目は普通の UserForm です。ボタンを押すと数秒〜数十秒で答えが返ってくる。それだけです。でも使ってみると、この「それだけ」が効きます。

現物その1:AI数式フォーム

マクロの次に手を付けたのは数式でした。一般的な Excel 利用者にとっては、マクロより数式のほうが本丸だからです。

フォームは三段構えです。

  • 対象:選択セルの数式が表示される
  • 頼み:「解説して」「間違いがないかチェックして」「こういう式を作って」の定型コンボ+自由記入
  • 答え:AI の回答。式が返ってきたときだけ「適用」ボタンが押せる

肝は、式そのものより文脈の渡し方です。数式の意味はシートの文脈が九割なので、VBA 側でこういうダイジェストを組んで一緒に渡します。

01.png

  • 見出し行・列の中身
  • 式が参照している範囲の実データのサンプル
  • 同じ式が下に引っ張られている場合は R1C1 で比較して1行に畳む(渡すサイズはセル数ではなくパターン数で決まる)
  • 空セルに新しい式を作るときは、対象行の実データも渡す

これで「この式は何をしているのか」を聞くと、セル番地の羅列ではなく、見出しの言葉で説明が返ってきます。他人から引き継いだシートの解読には、はっきり効きます。実測で、フル解説が50秒、「結論先・指摘3点まで」と縛った短縮版で25秒ほどです。

適用した式は既存のメモリ退避に乗るので、復元ボタン一発で元に戻ります。ここが「配線」の意味で、書き戻しの安全装置はマクロ修正用に作ったものがそのまま使い回せています。

現物その2:AI検品フォーム

数式の次はデータです。こちらは思い切って読み取り専用にしました。シートには何も書かない。範囲を選んでボタンを押すと、指摘が1行1件で返ってくるだけです。

02.png

  • 対象はフォームを開いた時点の選択範囲(1セルなら表全体に自動拡張)
  • データは行番号・列記号付きで畳んで AI に渡す(大きい表は先頭300行×30列で区切り、「残りは未検品」と AI にも明示)
  • 定型指示は13本:表記ゆれ・形式混在・外れ値・重複・空欄・事実照合・列対応・合計・並び順・誤字・敬称統一など
  • 返しは「セル番地: 指摘内容(根拠)」。確信が持てない指摘には(要確認)が付く

書かないので、事故が起きようがありません。配るときにも説明が楽です。

初仕事の話

最初に検品させたのは祝日リストでした。返ってきた指摘のひとつは「2021/09/20 だけ月のゼロ埋めが他と揃っていない」という表記の不統一。これは普通の検査です。

面白かったのはその先で、2021年の祝日は東京オリンピックの特例で海の日などが移動しているのですが、AI はそれを世間知で照合したうえで「この移動の反映は正しい」と言い切りました

日付の形式チェックなら従来の Excel 機能でもできます。しかし「この祝日リストは現実の祝日と合っているか」という事実との照合は、関数にも入力規則にもできない仕事です。ここが AI を部品にする一番の理由だと思っています。

三つ並べると見えてくること

フォーム 対象 書き込み 位置づけ
AIマクロフォーム(前回) マクロのコード 置換(退避・復元つき) 配管を作った
AI数式フォーム 数式+シート文脈 適用(退避・復元つき) 配管を応用した
AI検品フォーム 範囲のデータ なし(読み取り専用) 業務の型に落とした

配管は一本で、変わるのは「何を渡して、何をさせるか」だけです。定型指示のリストは「よく使う頼み方の置き場」で、手打ちで繰り返した指示を定型に昇格させて育てていきます。使うほど自分の仕事に馴染んでいく、というのが載せ物のチャットとの一番の違いです。

Excel と AI のコンビネーションの時代

三つのフォームを使ううちに、考えが一段進みました。これは「Excel が AI で少し便利になった」という話にとどまらない気がしています。

Excel と AI は、機械としての性格が真逆です。

  • Excel は決定論の機械です。数式もマクロも、一度焼き付けた手順を、何万回でも同じ結果で繰り返します。速くて、確実で、コストはほぼゼロ。ただし「意味」は扱えません。祝日リストの日付の形式は検査できても、「その祝日は現実の祝日と合っているか」には答えられません
  • AI は確率の機械です。意味と文脈と世間知を扱えます。祝日の移動も、表記のゆれも、見出しの言葉が指すものも分かります。ただし毎回同じ答えが返る保証はなく、大量の反復計算をさせるには遅くて高くつきます

得意が真逆だということは、組み合わせると互いの穴がふさがるということです。役割分担はこうなります。

  • 繰り返す仕事・形を保つ仕事・データの置き場は、Excel が受け持つ
  • 意味の判断・事実との照合・人間の言葉での説明は、AI が受け持つ
  • 毎回 AI に計算させる必要はありません。AI に作らせた式やマクロを Excel に焼き付ければ、あとは決定論の機械が黙って走ります

今回の検品フォームは、この分担の小さな見本です。範囲を畳んで渡すのは VBA(形の仕事)、祝日の特例を照合するのは AI(意味の仕事)、指摘を受けて直すかどうかを決めるのは人間。三者とも、自分の得意なことしかしていません。

もう一つ、大事なことがあります。Excel は、ほとんどの職場のほとんどの机に、すでにあるということです。新しいシステムを入れなくても、いま目の前にある表とファイルのまま、AI という部品を一本配線すればいい。「AI 導入」は大ごとである必要がなくて、手元の道具につなぐだけで始まります。私はこれを家の遊びでやっていますが、この組み合わせ方そのものは、どこの Excel でも同じはずです。

ここで、Excel が長年言われてきた悪口を思い出してください。「ブラックボックスだ」「属人化する」「作った人が辞めたら誰にも分からなくなる」。もっともに聞こえますが、根っこは一つです。中身を読める人が、そばにいなかった。それだけのことでした。

その根っこが、消えました。AI は VBA も数式も普通に読みます。今回の AI数式フォームがやっているのは、まさに「他人の作った式を、見出しの言葉で説明させる」ことです。作った本人がいなくても、ブックを開いて聞けば、中身が言葉になって返ってくる。ブラックボックスと呼ばれていた箱は、もう開くのです。

だから「AI が来たから Excel は終わる」とは、私は思っていません。逆です。中身が読めるようになった以上、属人化を理由に Excel を遠ざける理屈は、もう成り立ちません。現場のあちこちにすでにあって、誰でも触れて、AI が中身の説明も検品もしてくれる。この資産の値打ちは、これから見直されていくはずです。Excel か AI かではなく、Excel と AI のコンビネーションの時代だと考えています。

正直な線引き

  • 動かすには Claude Code CLI(またはGemini CLI)のセットアップとログインが要ります。誰のExcelでもすぐ動くものではありません
  • AI の指摘を鵜呑みにはしません。指摘→実測で再現→採用、の順を守っています(再現しない一般論の指摘は捨てます)
  • このフォーム入りのブックはまだ公開していません。改良が続いているためです

次回予告

三部作の構想でいうと、検品の次は「AI要約説明」(表を渡して、何の表かを説明させる)、その次が「AI文章」(A4定型のレイアウトを崩さずに文面だけ AI に書かせる)です。検品フォームの複製でほぼ作れる見込みなので、できたらまた書きます。

と、書いた後で実際にやってみたら、だんだんすごいものができてしまったかもしれない。

ちょっと震えてしまっています(笑)

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