この記事について
かなり、初歩な話です。
2量子系がもつれあう(エンタングル)状態は、後述4つのベル状態で示されます。
- 一方で、ベル状態でない2量子系は、なぜ、もつれ合っていないのか?
- この素朴な疑問について、考察してみたいと思います。
また、他の量子コンピュータ関係の他の記事は、下記で紹介しています。
\newcommand{\bra}[1]{\left\langle #1 \right|}
\newcommand{\ket}[1]{\left| #1 \right\rangle}
\newcommand{\bracket}[2]{\left\langle #1 \middle| #2 \right\rangle}
\newcommand{\tate}[2]{\begin{bmatrix} #1 \\ #2 \end{bmatrix}}
\newcommand{\yoko}[2]{\begin{bmatrix} #1 & #2 \end{bmatrix}}
\newcommand{\mtrx}[4]{\begin{bmatrix} #1 & #2 \\ #3 & #4 \end{bmatrix}}
ベル状態
下記のとおり、2量子系のもつれ合いは、4つのベル状態で表現されます。
\displaylines{
\ket{B_{00}} = \frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{00}+\ket{11})
\ \ \ \ \ \ \ \
\ket{B_{10}} = \frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{00}-\ket{11})
\\
\ket{B_{01}} = \frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{01}+\ket{10})
\ \ \ \ \ \ \ \
\ket{B_{11}} = \frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{01}-\ket{10})
\\
}
素朴な疑問
似て非なる、下記はなぜもつれ合いでは無いのでしょうか?
\ket{\psi_{x}} = \frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{01}+\ket{11})
\ \ \ \ \ \ \ \
\ket{\psi_{y}} = \frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{00}-\ket{01})
理由としては、2量子系のテンソル積を1量子系に分解できるからです。
上記2状態は、下記のように、2つの量子状態に分解でき、
それぞれの量子をブロッホ球上で指し示すことができます。
\displaylines{
\ket{\psi_{x}} = \frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{01}+\ket{11})
= \frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{0}+\ket{1}) \otimes \ket{1}
= \color{red}{\ket{+} \otimes \ket{1} }
\\
\ket{\psi_{y}} = \frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{00}-\ket{01})
= \ket{0} \otimes \frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{0}-\ket{1})
= \color{red}{\ket{0} \otimes \ket{-} }
}
なぜ分解できるともつれ合っていないのか?
分解できるからもつれ合っていないよね。で終わらせて見ても良いのですが、、
なぜ分解できるともつれ合っていないのでしょうか?
\ket{\psi_{a}} = a_0\ket{0} + a_1\ket{1}
\ \ \ \ \
\ket{\psi_{b}} = b_0\ket{0} + b_1\ket{1}
という状態に対し、2量子系は、下記のように表現できます。
\ket{\psi_{ab}} =
a_0b_0\ket{00} +
a_0b_1\ket{01} +
a_1b_0\ket{10} +
a_1b_1\ket{11}
上記形式で、冒頭の$\ket{B_{00}}$を表現すると下記のように示せます。
\ket{B_{00}} =
\frac{1}{\sqrt{2}} \times \ket{00} +
0 \times \ket{01} +
0 \times \ket{10} +
\frac{1}{\sqrt{2}} \times \ket{11}
つまり、ベル状態について、確率振幅を整理すると下記のように表現できます。
確率振幅 | ket | $\ket{B_{00}}$ | $\ket{B_{10}}$ | $\ket{B_{01}}$ | $\ket{B_{11}}$ |
---|---|---|---|---|---|
$\color{red}{a_0} \color{green}{b_0}$ | $ \color{gray}{\ket{00}}$ | $1/\sqrt{2}$ | $1/\sqrt{2}$ | $\color{red}{0}$ | $\color{red}{0}$ |
$\color{red}{a_0} \color{orange}{b_1}$ | $\color{gray}{\ket{01}}$ | $\color{red}{0}$ | $\color{red}{0}$ | $1/\sqrt{2}$ | $1/\sqrt{2}$ |
$\color{blue}{a_1} \color{green}{b_0}$ | $\color{gray}{\ket{10}}$ | $\color{red}{0}$ | $\color{red}{0}$ | $1/\sqrt{2}$ | $-1/\sqrt{2}$ |
$\color{blue}{a_1} \color{orange}{b_1}$ | $\color{gray}{\ket{11}}$ | $1/\sqrt{2}$ | $-1/\sqrt{2}$ | $\color{red}{0}$ | $\color{red}{0}$ |
$\ket{00}$について考えてみると、
- $\color{red}{a_0} \color{orange}{b_1} = 0$ より、$\color{red}{a_0}$と$\color{orange}{b_1}$のどちらかは、$0$
- $\color{blue}{a_1} \color{green}{b_0} = 0$ より、$\color{blue}{a_1}$と$\color{green}{b_0}$のどちらかは、$0$
つまり、4変数中2変数は$0$なはずだが、
- 仮に、$\color{red}{a_0}=0$だとすると、$\color{red}{a_0} \color{green}{b_0} = 1/\sqrt{2}$が成り立たない。
- 仮に、$\color{green}{b_0}=0$だとすると、$\color{red}{a_0} \color{green}{b_0} = 1/\sqrt{2}$が成り立たない。
- 仮に、$\color{orange}{b_1}=0$だとすると、$\color{blue}{a_1} \color{orange}{b_1} = 1/\sqrt{2}$が成り立たない。
- 仮に、$\color{blue}{a_1}=0$だとすると、$\color{blue}{a_1} \color{orange}{b_1} = 1/\sqrt{2}$が成り立たない。
つまり、2量子がもつれ合った状態としては成り立つのだが、
\ket{\psi_{a}} = \color{red}{a_0}\ket{0} + \color{blue}{a_1}\ket{1}
\ \ \ \ \
\ket{\psi_{b}} = \color{green}{b_0}\ket{0} + \color{orange}{b_1}\ket{1}
という、単一量子状態で表現しようとすると、確率振幅が決めきれない状態。
つまり、ブロッホ球で表現できない状態。が、2量子系のもつれ合い。と理解できます。
おまけ
最後におまけ程度で触れておこうと思います。
下記は、もつれあっているでしょうか?
\ket{\psi_1} = \frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{11}-\ket{00})
\ \ \
\ket{\psi_2} = \frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{10}-\ket{01})
似て非なる形ですが、マイナスをくくりだすとベル状態となります。
この先頭のマイナスは、相対位相($\ket{0}と\ket{1}$の大小)には無関係で、
式全体に係るグローバル位相なので、観測上無視されます。(詳細は、こちらの記事で)
\displaylines{
\ket{\psi_1} = \frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{11}-\ket{00}) = \color{red}{-}\frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{00}-\ket{11}) = \color{red}{-}\ket{B_{10}}
\\
\ket{\psi_2} = \frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{10}-\ket{01}) = \color{red}{-}\frac{1}{\sqrt{2}}(\ket{01}-\ket{10}) = \color{red}{-}\ket{B_{11}}
}
よって、上記はベル状態なのでもつれあっています。