この記事について
正規直交基底に対して、パウリゲートを適用した際にどのような演算となるかは、ブロッホ球のグローバル位相についてで確認しました。
基底へのパウリゲートの適用は、2つの見方ができると思うのでそれぞれと対応させて演算結果がどのような意味を持っているか?を少し解釈してみたいと思います。
- 線形代数での、固有値問題・固有値方程式
- 量子力学での、時間($t$)に依存しないシュレディンガー方程式
なお、量子力学の方は若干理解が足りていない気もしており、補足等頂ければ幸いです。
また、他の量子コンピュータ関係の他の記事は、下記で紹介しています。
\newcommand{\bra}[1]{\left\langle #1 \right|}
\newcommand{\ket}[1]{\left| #1 \right\rangle}
\newcommand{\bracket}[2]{\left\langle #1 \middle| #2 \right\rangle}
\newcommand{\tate}[2]{\begin{bmatrix} #1 \\ #2 \end{bmatrix}}
\newcommand{\yoko}[2]{\begin{bmatrix} #1 & #2 \end{bmatrix}}
\newcommand{\mtrx}[4]{\begin{bmatrix} #1 & #2 \\ #3 & #4 \end{bmatrix}}
おさらい
基底に、パウリゲートを適用するとは下記のような演算です。
X\ket{0} = 1\times\ket{0}
\ \ \ \ \ \
X\ket{1} = -1\times\ket{1}
この演算について、線形代数的な意味と量子力学的な意味を確認していきます。
線形代数
固有値問題とは
線形代数でいう、固有値問題とは下記のような表現となります。
A\overrightarrow{x}=\lambda \overrightarrow{x}
行列$A$に対して、ベクトル$\overrightarrow{x}$を演算すると、固有値$\lambda$を得ることができるような、
(つまり行列にベクトルを作用させた結果が、そのベクトルの定数倍で表現できるような)
ベクトルと固有値の対を求めるような問題です。
パウリゲート適用と見比べる
この固有値問題と、基底に対するパウリゲート適用を見比べると、いかがでしょうか似ていませんか?
A\overrightarrow{x}=\lambda \overrightarrow{x}
\ \ \ \ \ \ \ \
X\ket{0} = 1\times\ket{0}
ちなみに、$\ket{0}$は縦ベクトルであることを補記しておきます。
\ket{0} = \tate{1}{0}
解釈する
状態ベクトル$\ket{\psi}$へのパウリ$XYZ$の適用は、その適用により右辺に$\ket{\psi}$の定数倍が得れるのであれば、これは線形代数の固有値問題に対応します。
では、パウリ$XYZ$の固有値、固有ベクトルを最後に確認しておきましょう。
確認は簡単で、ブロッホ球のグローバル位相についてにて導入した下記計算結果を見ていきます。
対象の基底 | Xゲート適用 $X\ket{\psi}$ |
Yゲート適用 $Y\ket{\psi}$ |
Zゲート適用 $Z\ket{\psi}$ |
---|---|---|---|
$\ket{0}$ | $\ket{1}$ | $\color{black}{i}\ket{1}$ | $\ket{0}$ |
$\ket{1}$ | $\ket{0}$ | $\color{black}{-i}\ket{0}$ | $\color{black}{-1}\ket{1}$ |
$\ket{+}=\frac{\ket{0}+\ket{1}}{\sqrt{2}}$ | $\ket{+}$ | $\color{black}{-i}\ket{-}$ | $\ket{-}$ |
$\ket{-}=\frac{\ket{0}-\ket{1}}{\sqrt{2}}$ | $\color{black}{-1}\ket{-}$ | $\color{black}{i}\ket{+}$ | $\ket{+}$ |
$\ket{i}=\frac{\ket{0}+i\ket{1}}{\sqrt{2}}$ | $\color{black}{i}\ket{i-}$ | $\ket{i}$ | $\ket{i-}$ |
$\ket{i-}=\frac{\ket{0}-i\ket{1}}{\sqrt{2}}$ | $\color{black}{-i}\ket{i}$ | $\color{black}{-1}\ket{i-}$ | $\ket{i}$ |
各ゲート適用時に、右辺と左辺が同一の状態ベクトル$\ket{\psi}$となるものを選び出せば良いので、、
対象の基底 | Xゲート適用 $X\ket{\psi}$ |
Yゲート適用 $Y\ket{\psi}$ |
Zゲート適用 $Z\ket{\psi}$ |
---|---|---|---|
$\ket{0}$ | $+1 \times \ket{0}$ | ||
$\ket{1}$ | $-1 \times \ket{1}$ | ||
$\ket{+}=\frac{\ket{0}+\ket{1}}{\sqrt{2}}$ | $+1 \times \ket{+}$ | ||
$\ket{-}=\frac{\ket{0}-\ket{1}}{\sqrt{2}}$ | $-1 \times \ket{-}$ | ||
$\ket{i}=\frac{\ket{0}+i\ket{1}}{\sqrt{2}}$ | $+1 \times \ket{i}$ | ||
$\ket{i-}=\frac{\ket{0}-i\ket{1}}{\sqrt{2}}$ | $-1 \times \ket{i}$ |
となります。つまり、
- パウリ$Z$の固有ベクトルは、$Z$基底の$\ket{0}と\ket{1}$で、固有値は$+1と-1$
- パウリ$X$の固有ベクトルは、$X$基底の$\ket{+}と\ket{-}$で、固有値は$+1と-1$
- パウリ$Y$の固有ベクトルは、$Y$基底の$\ket{i}と\ket{i-}$で、固有値は$+1と-1$
ブロッホ球上の回転を想像すると自明かも知れませんが、パウリXの固有ベクトルがX基底といった事実は、VQEやQAOAを学ぶ際にも地味に必要となるので意識頂ければと。
量子力学
シュレディンガー方程式
シュレディンガー方程式とは、量子力学における波動としての量子の振る舞いを記述するための方程式です。
i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\psi({\bf{r}},t)= \left\{ - \frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 + V({\bf{r}}) \right\} \psi({\bf{r}},t)
\ \ \ \ \
$\bf{r}$は3次元空間でのベクトルで、$t$は時刻、$\nabla^2$はラプラシアンです。
\nabla^2 =
\frac{\partial^2}{\partial x^2} +
\frac{\partial^2}{\partial y^2} +
\frac{\partial^2}{\partial Z^2}
下記の部分は、ハミルトニアンとも呼ばれ$H$で表現されますが、2階偏微分演算子を含むことを忘れないように、$\hat{H}$で表現されたりもします。
\left\{ - \frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2 + V({\bf{r}}) \right\}
ハミルトニアンの部分を$\hat{H}$で示すと、下記のように表現できます。
i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\psi({\bf{r}},t)= \hat{H}\psi({\bf{r}},t)
\ \ \ \ \
時間に依存しないシュレディンガー方程式
上記は、空間$\bf{r}$と時間$t$の両方に依存した形の式であるため、変数分離をおこない時間に非依存な形に変形します。変形過程は省略するのですが、空間に依存する部分に着目し変形をすすめると下記のような形で表現できす。
\hat{H}\varphi_n({\bf{r}}) = E_n\varphi_n({\bf{r}})
\ \ \ \ \
これは、エネルギー固有状態$\varphi_n$に対してハミルトニアン$\hat{H}$を適用すると、エネルギー固有値$E_n$を得るという、エネルギーが確定した定常状態における、ハミルトニアン、エネルギー固有状態、エネルギー固有値の3者の関係性を表現する式となっています。
エネルギー固有値($E$)は1つではなく、1つのエネルギー固有状態($\varphi_n$)に対して、1つのエネルギー固有値($E_n$)が存在するという、線形代数の固有値、固有ベクトルと同様の関係を持っています。
パウリゲート適用と見比べる
下記を見比べると、パウリ演算におけるハミルトニアン($H$を$X$)とした場合に、エネルギー固有状態$\ket{0}$対するエネルギー固有値が1であるように読み取れる。(気がします。)
\hat{H}\varphi_n({\bf{r}}) = E_n\varphi_n({\bf{r}})
\ \ \ \ \ \ \ \
X\ket{0} = 1\times\ket{0}
つまり、(ココからは若干解釈が怪しいですが、、)
パウリゲートの適用を量子力学的な側面から解釈すると、
X\ket{\psi} = E\ket{\psi}
状態ベクトル$\ket{\psi}$対し、ハミルトニアン(パウリゲート)を適用し、状態ベクトルの定常状態における、エネルギー固有値を得るというオペレーションに対応すると言え(そうです。)
そして、改めてパウリゲートが演算子である。という点を認識しました。
まとめ
パウリゲート適用と線形代数と量子力学を並べてみて、類似性を検討してみました。
量子力学の領域は知識不足もあり、、
若干、自信が無いですが、詳しい方いらっしゃればぜひコメント頂ければと。。