はじめに
以前から、音楽生成AIとして名前を知っていたSuno AI。
一度かなりラフに
「〇〇のジャンルで」
などのかなりシンプルなプロンプトを投げて生成された楽曲をきいて、
「これくらいのプロンプトでもいい感じの楽曲が作れるんだなー」
という第一印象でした。
その後、エンジニアとしてAIツールを活用し、プロンプトを設計する機会が増えました。どのような指示に対して、どのような結果が返ってくるのかが少しずつ見えるようになった今、改めてSunoを試してみました。
今回はその内容を共有します。
ポイント
今回触ってみて一番大きかった発見は、本来の楽曲制作プロセスを分解し、そのフェーズごとにプロンプトを用意すると、生成結果がかなり狙いに近づくということでした。
通常の楽曲制作は、大きく分けると以下のような工程に分解できます。
- 作曲
- 作詞
- 編曲
- 音の調整、ミックス
さらに細かく見ると、
- 作曲
- メロディーを作る
- コード楽器で和音を合わせてみる
- セクションごとの展開を考える
- 作詞
- ストーリーを考える
- 主人公を考える
- Aメロ、Bメロ、サビで何を言うかを考える
- メロディに乗る文字数を調整する
- 編曲
- 楽器の構成を考える
- 楽器の質感を考える
- セクションごとの盛り上がり方を考える
- ミックス
- 音像の広さを考える
- ボーカルの近さを考える
- 各楽器の存在感を調整する
のようになります。
以降は、上記のプロセスごとの解説をします。
以下で解説する作業の順番については、一例です。
楽曲制作のプロセスごとのポイント
1. 作曲
まず全体の方向性を決める際に効いてきたのが、コード進行を先に指定してしまうという方法でした。
メロディをゼロから「なんとなくいい感じに」とお願いすると、耳あたりは良いものの、セクションごとの温度差が出にくく、全体がのっぺりとした印象になりがちでした。
そこで、Aメロ・Bメロ・サビでコード進行そのものを変えて指定してみると、期待通りにセクションごとの表情が変わってくれることがわかりました。
Key center: C major / A minor
Verse: Am - F - C - G (循環コードで淡々とした雰囲気)
Pre-Chorus: Dm - E - Am (少しずつ緊張感を高める)
Chorus: F - G - Em - Am (王道進行で開放感を出す)
たとえば上記のように、Aメロでは同じコードを繰り返すことで日常感や単調さを出し、サビに向けて機能和声的な動き(ドミナントモーションなど)を強めていくと、「盛り上がるべきところでちゃんと盛り上がる」楽曲になりやすい感覚がありました。
音楽理論の知識がなくても、「Aメロは落ち着いた感じ、サビは開放的な感じ」のように言葉で伝えるだけでも、ある程度は反映してくれます。ただ、コード進行そのものを指定した方が、狙った通りの再現性は高い印象です。
逆に、コード進行を指定せずにジャンルだけ伝えた場合は、生成のたびに雰囲気が変わりやすく、狙った着地点に持っていくまでに何度も再生成が必要になる場面が多くありました。
2. 作詞
次に歌詞を作ります。
ここで楽曲全体の方向性がかなり固まってしまうことがわかってきました。
たとえば、シンプルなJ-POPの構成として、
1A(8小節)
1B(8小節)
1C(8小節 x 2)
...(続く)
があったとします。
この中でシンガーが歌える言葉の数は、実はそこまで多くありません。
そのため、セクションごとにどれくらいの文字数が入るのか、どのセクションで何を言うのか、完成形の歌詞をある程度見据えておいた方が、望みに近いものができると感じました。
そのため、まずは
1Aでは、主人公の日常を描く。
1Bでは、少しだけ気持ちが動き始める。
1Cでは、夜の街へ飛び出していくような開放感を出す。
2Aでは、1Aと同じ日常を別の角度から描く。
2Bでは、過去と未来の間で迷う感じを出す。
2Cでは、1Cよりも少し前向きにする。
3Cでは、最後にもう一度大きく開ける。
のように、ストーリーの流れを先に作り、その後より詳細に歌詞を詰めていく。そうすることで、セクションごとの役割や楽曲全体のストーリーが明確になり、一般的な商用楽曲に見られるような一貫性に近づく実感がありました。
逆に、歌詞の方向性が曖昧なまま生成すると、メロディやアレンジは良くても、曲全体として何を言いたいのかがぼやけやすい印象です。
応用: 鼻歌でメロディーを作ってみて、それにのせる歌詞を考えると、意外にも歌詞全文はすんなり書けることもあります。生成してみると、「ここの譜割こうしたんだな」「もっとこうしたいから、こう指示してみようかな」とプロンプトを修正するきっかけにもなります。
3. 編曲
次に、編曲や音色の指定です。
以下のように、楽器構成の指定は、比較的生成結果に反映されやすい印象でしたが、
Acoustic Guitar
Electric Bass
使う楽器の質感についての指示を出しても、楽器名だけでなく、音色や演奏の質感についても、比較的細かな指示が反映され生成してくれることがわかりました。
// まずは全体で使用される楽器群について記載
Warm acoustic guitar driven arrangement,
// さらにBoss社のBlue Chorusのような...という使うエフェクターのイメージも追加
Clean drive electric guitars with lush blue chorus texture,
Melodic precision bass lines, Dynamic live band performance,
Emotional vocal delivery,
Bittersweet melodies,
Anthemic chorus,
Stylish and trendy Tokyo indie sound,
Realistic band recording,
Detailed Arrangement Notes
// 更にセクションごとに上記の楽器群がどのように入ってくるかなどを指定しても、期待通りに生成してくれる
[Verse]
Minimal arrangement, Warm acoustic guitar, Close and intimate vocal tone, Soft ambient electric guitar textures,
[1B / 2B]
Gradually widening stereo image, Subtle clean chorus guitar layers, Building emotional tension,
[Chorus]
Wide modern J-pop sound, Dynamic drums, Expansive clean chorus guitars, Melodic moving bass lines, Emotional live band feeling,
[Interverse]
Twin guitar interlude, Alternating melodic phrases left and right, Emotional call-and-response guitar solo, Warm ambient delay, Modern Japanese indie rock atmosphere,
[Pre-3C]
Acoustic guitar and vocal only
そして、その中で特に面白かったのが、Banjoのように、一般的なJ-POPでは登場頻度が比較的低い楽器を指定した際に生成された、楽器特有の自然なフレーズ。
starting from Banjo solo
などとプロンプトを入れてみると、熟練した奏者が弾いたようなクオリティのbanjoソロから始まる楽曲を作ってくれました。
入れたい楽器はもちろん、楽器の質感(歪んでいるか、生音か)についても、おおよそ考慮してくれます。音楽理論の知識もあれば、コード進行について指示を出すと、おおよそそれ通りに生成してくれました。
4. ミックス
そもそもミックスとは
オンラインマスタリングサービスなどを手掛けるLANDR社の「音楽のミックス方法:初心者ガイド」では、以下のように記載されていました。
ミキシングとは、複数のオーディオトラックをレイヤーして処理し、バランスの良い曲に仕上げる作業のことです。 プロデューサーやミキシングエンジニアは、各トラックのボリュームレベルやその他の特性を調整し、エフェクトをかけ、さまざまな道具を使って問題を防いだり解決したりします。
これまでの作曲、編曲では、譜面上における音楽的な要素をどう作っていくかを考える必要がありましたが、ミックスは譜面では表現できない全体の音のバランスをとる作業になります。
色々な人に聞いてもらえるように一曲として成り立たせ、その上でよく聞かせるためには、避けて通れない不可欠なプロセスともいえます。
先に結論
プロンプトによる細かい調整はできなそうと言う結論に至りました。 以降は、その結論に至った経緯についてまとめます。
定位(パンニング)
まずは各楽器の位置について指定してみたのですが、生成された音源は全体的にステレオ幅が広く、個々の楽器が指定した位置へ配置されているかを、完成したステレオ音源から判断するのは困難でした。
// 歌の位置
Lead Vocal : Center
Vocal Double 1 : 15% Left
Vocal Double 2 : 15% Right
Backing Vocal 1 : 30% Left
Backing Vocal 2 : 80% Left
Backing Vocal 3 : 30% Right
Backing Vocal 4 : 80% Right
// 各楽器の位置
Main Acoustic Guitar : 30% Left
Doubled Acoustic Guitar : 30% Right
Clean Electric Guitar Arpeggio : 45% Right
Lightly Driven Electric Guitar : 45% Left
Ambient Electric Guitar Left : 75% Left
Ambient Electric Guitar Right : 75% Right
Slide Banjo : 20% Right
...
Suno Remaster
実は、楽曲の基本的な構成や歌詞、アレンジを維持しながら、ミックスバランスや音質面のバリエーションを生成する「Remaster」という機能もあります。
リマスターは、トラックの構造や歌詞、パフォーマンスに満足しているが、音を洗練させたい場合に特に有用です。全体的な音質を向上させたり、楽器やボーカルのミックスとバランスを調整したり、同じ曲を保ちつつ異なる音質を試したり、さらにはボーカルの明瞭さや発音を向上させるために使用できます。
しかし、本機能の使用時にミックスに対する指示をプロンプトで入力する機能は執筆時点では存在しないため、どのようにミックスが変更されるかについては、Sunoの内部のロジック頼みになりそうです。
実際に、何度か試してみたところ、楽曲全体の音圧を無理やり上げたようなデータも生成されたため、渡す素材によっては、必ずしも筆者が意図した方向へ改善されるとは限らないと感じたため、今後のアップデートに期待ですね。
tips: 自分で歌った歌を入れてみる
歌が主役の楽曲では、特徴のある歌声があると他の楽曲との差別化ができますが、
「歌声にバリエーションをつけて」
とお願いしても、同じような声質ばかりでバリエーションがほとんどつかず、「Sunoで生成した楽曲感」がどうしても拭いきれないことが多くありました。
そこで登場するのが Voices です。
一言で言うと、「自分の声を吹き込んで、AIに歌わせ、それを元に楽曲を生成する機能」 です。
自分の歌声に自信がある方であれば、こちらを活用することで、これまで以上にオリジナリティのある楽曲を制作しやすくなります。
参考までに、以下のチュートリアル動画をご覧いただければ分かるとおり、 3:03 あたりでレコーディング、4:18 あたりでは、収録した声質を細部まで反映したボーカルで楽曲が生成されている様子を確認できます。
正確な生成のためにはスタジオクオリティのマイクが推奨されているようですが、細かな品質を気にしなければMacBook内蔵マイクでも十分試すことができます。実際に自分の声質を反映したボーカルで楽曲を生成できるため、まずは手軽な環境で試してみるのもよいでしょう。
「歌にはあまり自信がない」という方も多いと思います。
その場合は、Voicesを使うのではなく、Sunoで歌の入っていないインスト音源を生成し、Synthesizer Vなどの歌声合成ソフトで別途ボーカルを制作する方法も考えられます。
具体的には、DAWの知識が少しは必要になりますが、以下のような制作フローです。
- Sunoでインスト音源を生成する
- Synthesizer Vでメロディと歌詞を打ち込む
- Sunoのインスト音源とSynthesizer Vの歌声を書き出す
- DAWへ読み込み、一つの楽曲としてミックスしていく
この方法では、Sunoに歌声そのものを学習・生成させるのではなく、Sunoで作った伴奏と、別途制作した歌声をDAW上で組み合わせます。そのため、Voicesとは異なる制作方法になります。
ただし、Sunoで生成した音源とSynthesizer Vの歌声ライブラリには、それぞれ利用規約や商用利用条件があります。楽曲を公開・販売する場合は、使用しているSunoのプランや、Synthesizer Vの各歌声データベースのライセンスを事前に確認してください。
また、Sunoで生成した伴奏は、後からテンポやコード、構成を細かく変更することが難しい場合があります。先にボーカルメロディを作る場合は、BPMやキー、セクション構成を決めてからインスト音源を生成する方が、DAW上で合わせやすくなります。
まとめ
改めて、今回一番の発見は、「作詞・作曲・編曲・ミックス」という工程ごとにプロンプトを分解して設計すると、生成される楽曲が狙いにグッと近づく、ということでした。
逆に、ジャンルだけを伝えてざっくり生成すると、文中でお伝えしたように、雰囲気は良くても着地点が曖昧になりがちです。
今回は、QiitaというよりNoteなどで投稿するような音楽系の内容の記事でしたが、Qiitaの記事一覧を見ていて、「何か違いそう?」と感じて、ふらっと立ち寄った音楽・音楽生成AI好きの方のために、何か目新しい発見になれば幸いです。
今回の検証環境
- 検証日: 2025/7/18
- 使用したSunoのモデル: v5.5
- 使用プラン: Proプラン
- 同一条件での生成回数: 3回程度
- 歌詞と楽曲構成を固定したか: ある程度Yes
- ラウドネスをそろえて比較したか: Yes
- ヘッドホン/モニター環境
- Yamaha HS7(スピーカー)
- Universal Audio Volt 276(オーディオインターフェース)
- Sennheiser HD 25(ヘッドホン)
- Logic Pro(DAWソフト)
- スペクトラムやLUFSを計測したか: Yes
