初めに
生成AIやDXへの関心が高まり、取り組みが着実に進んでいると言われています。ですが実際にどういうものなのか現実感を持って想像するのは難しいと感じませんか?
また、会社で「DXを実現しろ」というトップダウンの指示があっても、何をどうしたらいいかわからないと頭を抱えることも有るかと思います。私もそうです。これから勉強していく必要があると考えています。
そこで私が現在取り組んでいる農業IoT分野を題材として一緒に学びませんか?具体的な例として農業分野の中でも比較的手を出しやすく、効果が大きいと考えられる土壌水分の測定の取り組みについて一緒に考えていきましょう。
対象とする読者
- スマート農業に興味がある人
- DXに興味がある人
- IoTに興味がある人
- 農業従事者
- 農業の指導員、研究員
この連続記事は、スマート農業、電子工作、IoT、DXに関心がある方を対象としています。特にM5stackやESP32等のマイコンボードをターゲットにして説明していきますが、この記事の内容をmicroPythonに移植することにより、UIFlowやmicrobit等の教育用のプラットフォームで使用することも可能になります。
なぜ土壌水分測定が必要なのか
農業において、水やりが重要なことは広く把握されています。ただ、闇雲に水をあげておけばよいわけではありません。土の中の水分を測定することで、作物にとって「ベストなタイミング」で「ベストな量」の水を与えることが必要になります。特に農業の現場では土壌が水分を保持する力を測定するための指標が用意されており、pFといいます。そのpFがどのくらいの値の時に水を与えることが作物の成長に良い影響を与えるのかということも把握されています。
このpFをうまく利用することで作物は元気に育ち、無駄な水を使用しないで済むためコストを抑えることが出来ます。つまり、土壌水分の管理をしっかりと行うことで、農業の収入を増やしつつコストを抑えることが出来ます。
以上のことから、土壌水分管理をどれだけ上手に行うのかが儲かる農業の重要なポイントになってきます。
土壌水分の測定について
土壌水分の測定には体積含水率を測定するものと、pF値を測定するものがあります。体積含水率センサーには、電気伝導度式のものと静電容量式のものがあります。
体積含水率を測定するセンサーの問題点
体積含水率を測定するセンサーには電気伝導度式のものと、静電容量式のセンサーがありますが、どちらのセンサーにも
pFという指標について
土壌中にはスポンジのようにたくさんの隙間があります。スポンジが水を吸う力(毛管力)に相当する力をマトリクスポテンシャルといいます。作物根はこの力に負けない力で土壌から水を吸収するため、マトリクスポテンシャルを測定することで灌水のタイミングを知ることが出来ます。
このマトリクスポテンシャルを水柱の高さで表し、常用対数をとったものをpFと呼びます。
pFを測定するためには、pF計というものを用意します。pF計とは、素焼きのカップとパイプを接着して、中を水で満たして密閉したものです。素焼きカップには水は通すが空気を通さないという性質があるため、容器内の圧力(負圧)を圧力センサーで測定して換算することでpFを測定することが出来ます。
pF計のデジタル化
現状市販されているpF計には昔ながらのアナログメータ(機械式)の圧力計が使用されていることが多いです。針が動いて測定値を示すタイプのものですが、これを今の時代に合わせてデジタル化することはなかなか大変です。アナログメータの針を画像認識で読み込んでデジタルデータに変換する方法も考えられますが、その方法ではシステムが大きくなりすぎて、コストもかさんでしまいます。
そこで弊社では、圧力を電気信号に変えて、データをデジタルで読めるようにする方法を考えました。この方法を用いて小さなデバイスで圧力を測定し、pF計と組み合わせることで、土壌水分量を測定できるようになります。またM5stackやESP32等のマイコンを併用することでpF値をデジタルデータとして取得したものをデジタル通信に組み込むことが出来ます。経済的にも効率的にデジタル化することが可能になり、儲かる農業のための第一歩となります。
開発するpFセンサーの構成
今回デジタル化した圧力センサーの主要な構成です。
圧力を加えることで電圧を発生する圧力センサーと、その発生した電圧(アナログ信号)をデジタル信号に変換するADコンバータを組み合わせたシンプルな構成となっています。シンプルな構成になっていますが土壌水分量の測定のための基本的な機能は満たしています。
連続記事の進め方
この連続記事のは土壌水分測定パートについては4回で完結する予定にしており、1週間に1回のペースで更新していく予定にしています。今回説明した内容をさらに深掘りして説明していきます。
土壌水分測定についての連続記事が終わった後には、UECSという農業用の通信プロトコルを使用した農業用の自立制御システムをM5stackで使用する方法について説明していく予定にしています。
また以前に連続記事で紹介したさくらのモノプラットフォームを利用した通信を組み合わせることで遠隔モニタリングについても考えていきます。
弊社の取り組みと今後の展開
弊社の取り組みの一環として、農林水産省主催のアグリビジネスフェア、メーカーフェア深圳、メーカ―フェア台北に共同出展してきました。
今回開発している土壌水分センサーについては現場の要望から開発をスタートしており、農研機構のキーパーソン、大学の研究機関とも意見交換をしながら開発を進めています。また今後の大規模展開を目指して、M5stackで製品化できないか検討を進めています。
内容について
極力正しい情報を紹介するよう努めていますが、古い情報や、私の知識不足や勘違いによって誤った情報が記載されているかもしれません。間違った情報や記述間違い等見つけられた際にはコメントいただけますと幸いです。
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参考情報
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Interface 2018年10月号 初めてのラズパイ植物センシング 岡安崇史、堀本正文