背景
いつものAIとのやり取りを思い浮かべてください
AIと仕事をするとき、一発で完璧な答えが返ってくることは、まずありませんよね。
何かを頼んで、返ってきたものを見て、「ここはこう」「それは違う」と伝えて、また返してもらう。
たいていは、この往復を何度も繰り返しながら成果物を仕上げていくはずです。
仮説:効くのは「たくさん吐き出す」こと
その往復のなかで、成果物までのリードタイム(着手から完成までの時間)をいちばん縮めるのは、一度のやり取りで、整えずに、とにかくたくさん吐き出して渡すこと——というのが私の仮説です。
渡す情報の質と量、なかでもまず「量」を意識するだけで、1ターンで話が大きく前に進み、結果としてリードタイムが大きく縮む、と感じています。
整えるな。とにかくたくさん吐き出せ。
整えるのはAIの仕事です。
だから人は文章をきれいにするのをやめて、その分、頭にあることを大量に吐き出すことに集中すればいい。
ここで大事なのは、“たくさん”と同じくらい“速く”であること。
量を増やそうとして一回の入力に時間をかけ、考え込んでしまっては本末転倒です。整えないのは、頭に浮かんだことを、時間をかけずにそのままパッと出すためでもあります。
(ユースケースによる差はあるかもしれませんが、私自身は大半の場面で効いている実感があります。)
AIとの「1ターン」の全体像
なぜ「整えなくていい」のか。一度のやり取り(1ターン)を分解すると見えてきます。
前提として、タスクの背景・目的はすでにAIに伝わっている(=文脈が蓄積されている)とします。
そのうえで、人とAIのやり取りを下記のように整理出来ます。
| 人レーン | AIレーン |
|---|---|
| ① 頭の中を言語化する:観点・違和感・疑問・質問など、いま頭にあることを言葉にする | |
| ② 発散して吐き出す:整えず、一度に大量に入力する | |
| ③ 整形・構造化:発散されている入力を、AIが整えて処理する | |
| ④ 文脈との統合:整えた入力を、蓄積されたコンテキストにつなぎ合わせる | |
| ⑤ 1ピースの生成:最終成果物の1ピースにつながる内容を返す | |
| ⑥ 検品と方向づけ:合っているか確認し、ズレていれば次ターンの方向を与える → ①へ戻る |
人が担うのは①②⑥(言語化・発散・方向づけ)、AIが担うのは③④⑤(整形・統合・生成)です。
整えなくていいのは、③④をAIが引き受けてくれるから。⑥が次ターンの①に戻り、これがぐるぐる回ります。
そしてこのなかで、リードタイムを最も左右するのが②——たくさん吐き出すこと——だと考えています。
きっかけは、社内のハイパフォーマーとの差だった
そもそも、なぜこんな仮説を考えるようになったのか。
きっかけは、社内に明らかにAI活用がうまい人が何人もいて、「自分と彼らの差は何なのだろう」と考え始めたことでした。
直接本人に聞いたわけではないのですが、人づてに聞いた答えが印象的でした。曰く、「一回の入力がとにかく速いし、量がすごい」。
教えてもらったその人は音声入力を使っていて、思いついたことをばーっと大量に喋って、それを一度に渡している、と。
当時の私は、音声入力を一切使っていませんでした。キーボード入力オンリー。
しかもブラインドタッチもできないし、そもそも「何を入力するか」を考えるのにも時間がかかるタイプです。差がつくわけだ、と思いました。
そこで想像しました。彼らはきっと、一回のやり取りで大量の、しかも質の高い情報を渡している。
だとすると、同じ成果物にたどり着くまでの往復(ターン)の数が、自分とは桁違いなのではないか。
極端に言えば、彼らが10ターンで終わらせることに、自分は100ターンかけているのかもしれない——。これが、今の仮説の芽になりました。
まず「音声入力」から試してみた
「じゃあ自分も音声入力をやってみればいい」。そう思って始めたのですが、最初は素直に使えませんでした。
音声入力は、喋った内容が変換された文字として表示されます。誤変換もそれなりに混じる。
だから最初は、「このままAIに渡したら誤解されるのでは」と心配になり、毎回、変換結果をAIに整形させるプロンプトを一枚かませてから本題を入力していました。……が、これが単純に面倒くさい。
あるとき、思い切って何も気にせず、変換されたそのままの状態でAIに渡してみました。
すると——今のAIは想像以上に賢くて、誤変換交じりの雑な入力でも普通に汲み取ってくれる。
Claude(Cowork)、ChatGPT Live、Geminiそれぞれ試しましたが、拾ったテキストをそのまま投げて全く問題ありませんでした。「なんだ、これでいいんだ」と、実際に体験してようやく腹落ちしました。
そこからは、音声でばーっと喋って渡すスタイルに切り替えました。
念のため補足すると、大事なのは音声そのものではありません。音声は、私にとって**「整えずに、速く、大量に吐き出す」を実現しやすかった手段**というだけです。
そもそも音声を選んだ動機がここにあります。キーボードで打つより、喋ったほうが圧倒的に速く、大量に出せる。「速く・たくさん」を最短でやる手段が、私の場合はたまたま音声だった、というわけです。
AIと仲良くなった(気がしている)
以前は「指示」と「指摘」しかできなかった
以前の私にとって、AIへの入力は「指示」と「指摘」の二択でした。かっちりした命令を出し、出てきたもののズレを指摘する——という硬いやり取り。
だから、痒いところに手が届かないと感じると、「まあAIが作るならこんなものか、自分で手を動かすか」と、そこで諦めて引き取ってしまっていました。
大量に吐き出せると、やり取りが柔軟になった
ところが、大量に吐き出せるようになると、ずれていても細かくフィードバックを返せる。
だんだん「後から手直しする」より、「最初からこうしてほしい」と吐き出す方向に発想が変わっていきました。
そして、やり取りの“話し方”そのものが増えました。以前は硬かったコミュニケーションが、人と話すときのように柔軟に広がったのです。
| やり取り | 以前(整えて渡していた頃) | 今(大量に吐き出すようになって) |
|---|---|---|
| 依頼 | かっちりした「指示」を出す | 「お願い・依頼」に近い口調で頼める |
| 指摘 | 出てきたもののズレを一方的に「指摘」する | 「確認」を混ぜて聞ける(「ここが気になるけど、実際どうなの?」と決めつけない) |
| 相談 | 違和感を言語化できず、諦めて自分でやる | 「こんな感じにしたいけど、どうすれば?」と相談できる |
指示・指摘という硬い2択から、お願い・確認・相談まで、その場の必要に応じて柔軟に使い分けられるようになった感覚です。
まっさらな空白から全部を伝えるのは難しいので、まず最小限の叩き台をAIに出させて、それにコメントするという進め方にも落ち着きました。
ゼロから語るより、目の前の“たたき台”に反応する方が、頭の中の言語化がずっと楽になります。
気軽に話せることが、スピードにつながる
一択の硬いコミュニケーションだったものが、人と話すときのように柔軟になりました。
そして何より、AIに入力すること自体のストレスがめちゃくちゃ減りました。「きれいな文章にまとめてから送らなきゃ」という気負いが消えて、思いついたことをそのまま話しかければいい。
このAIと気軽に話せるようになったこと——これが、次に書く「意図どおりのものが速く出るようになった」という結果に、確実につながっていると感じています。
結果:意図どおりのものが、明らかに速く出るようになった
こうして成果物をAIと作るプロセスが変わっていった結果、自分の意図どおりのものが、以前より明らかに速く出てくる体感があります。
正直、ハイパフォーマーたちとの差は、まだ埋まりきっていないと思います。自分にはまだ見えていない差が、きっとどこかにある。
それでも、数週間前・数ヶ月前の自分と比べれば、明確に前へ進んでいる実感があります。だから今、私はこの仮説を信じています。
(おまけ)直近のセッションを分析してみた
「速くなった」だけでは主観なので、実際に自分の Claude Cowork でのセッションを2つ分析してみました。見た指標は次の5つです。
-
ターン数(人が入力した回数)
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初回入力の情報量
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以降の各ターンの入力量
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できあがった成果物
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チーム内に初回レビュー版を出すまでの所要時間
(文字数・時間は概算で、時間は記憶ベースです)
先にお断りしておくと、これはあくまで裏付けの参考データです。
「整えて渡していた頃の自分」とのbefore/after比較を取ったわけではないので、この数字だけで「リードタイムが短くなった」と理論的に実証することは出来ません。
ここでは「どれくらいの入力量・ターン数で、どんな成果物が、どれくらいの時間でできたか」の実例として眺めてもらえれば。
分析したのは、発表用スライドを作ったセッション(例1)と、社内向けの判断ガイドラインを直したセッション(例2)の2つです。
| 観点 | 例1:発表用スライド | 例2:判断ガイドライン |
|---|---|---|
| 初回入力 | 1回目に「意図+実際のプロンプト一式(約4,000字超)」を整えず投入 | 序盤2ターンで「現行ガイドライン全文+関係者コメント」を投入 |
| 以降の各ターン | 1回50〜600字を毎回(数十字の微修正〜数百字の指示) | 音声のまとまった塊、1回150〜500字 |
| ターン数 | 多め(社外公開版まで反復して磨き込み) | 約7ターンと少なめ |
| 成果物 | スライド13枚(+社外公開用に具体例を差し替え) | 約2ページ・2,000字規模(Before/After+判断軸+FAQ) |
| 初回レビュー版まで | 約2時間 | 約2時間 |
補足すると、例1は1ターンあたりの前進量が大きいのが特徴で、一度の指示で複数のスライドが同時に書き換わり、体裁の確認まで一気に進みました。
例2は渡した文章量こそ多くないものの、「利用者が迷わない判断軸をどう言語化するか」という難所で、正直かなり頭を使う作業。それでも一往復ごとに論点が本質へ深まり、2時間で初版に到達できました。
どちらにも共通するのは、初回に大量に吐き出し、その後も方向を保ったまま量を出し続けていること。これが「最小の手間で意図した成果物へ近づく」感覚の正体なのだと思います。
まとめ
改めて、仮説として言いたいことはシンプルです。
AIとのやり取りで成果物に速くたどり着く鍵は、整えずに、速く、方向を1つに保ったまま、とにかくたくさん吐き出すこと。
整えるのはAIの仕事。人はその分のエネルギーを「吐き出す量」に全振りすればいい。
もちろん、ユースケースによって効き方に差はあるはずで、そこはこれから検証していきたいところです。
それでも、大半の場面でこれ自体が大きな効果を生んでいる——というのが、いまの私の実感です。
ひとつだけ、正直な余談を。たくさん吐き出せるようになって意図した成果物を速く作れるようになった一方で、脳の疲労感がすごいんです。
短い時間にかなり濃く仕事をしている感覚があって、すぐ疲れてしまう。長時間ぶっ通しで稼働するのは、正直、以前より大変になった気がします。
速く進む分、負荷もちゃんとついてくるんだな、と。
それでも、もし心当たりがあれば、次にAIへ何かを頼むとき、整えるのをやめて、思いつくままに全部吐き出してみてください。
それで1ターンの進み具合が変わるかどうか、ぜひ試してみてほしいです。