5
2

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

エンジニアの給料は、不思議な動き方をする。同じ人が、スキルも資格も変わらないまま、転職しただけで上がる。逆に、腕は確かなのに、移った先で下がる。昨日まで書いていたコードと、今日書くコードは同じ。なのに、値段だけが動く。

このとき本人は、その額をそのまま自分の実力だと受け取る。上がれば「実力がついた」と思い、下がれば「自分が落ちた」と沈む。でも、動いているのは、たいてい本人ではない。

どの働き方が上か下か、という話ではない。自分の給料が何でできているのかが分かると、額そのものに振り回されずに済む。

給料が動いた、いくつかの場面

SIerで設計までやっていた人が、SESに移って下がる。職務経歴書の見え方や、会社の受注単価の都合で、評価額が変わるだけで、腕は何も落ちていない。

逆に、ずっとSESでやってきた人が、別の会社に移って上がる。本人は何も変わっていない。移った先の還元率が高いのか、受けている案件の単価がそもそも高めなのか。どちらの場合もある。

腕が同じで給料だけが動いたのなら、その差分は、本人の中ではなく、会社や市場の側で起きている。

給料は何でできているか

働き方によらず、給料はざっくり2つでできている。会社側の事情と、自分の価値だ。会社側の事情が土台になり、そこに自分の価値が掛かる1。といっても、ここでの価値は、腕そのものではない。その腕に市場がつける値段のことだ。価値が高ければ金額は大きく伸びるが、土台そのものが低ければ、いくら価値を掛けても、金額は知れている。

この2つは、いつもキレイに分かれるわけではない。受注そのものを取ってくる人や、プロダクトの稼ぎを伸ばす人は、土台のほうを自分で押し上げている。そういう人の給料は、会社の事情であり、同時に自分の価値でもある。反対に、土台の厚い会社ほど良い案件を任せてくれて、そこで揉まれるうちに自分の価値のほうが育っていく、ということもある。それでも、まずは2つに分けて見てみる。

土台が高い会社が、そのまま給料の高い会社とは限らない。そこから本人にいくら回すかは、会社次第だ。その土台がどう作られるかも、働き方で変わる。

受託の場合

土台は、会社がいくらで受注できて、そのうちいくらが本人に回るか、で決まる。相場より高めに受注し続けられる強い営業力があれば、原資は厚くなる。一括請負なら、案件を効率よく回すノウハウで費用が浮くぶんも乗る。逆に、いつも安く請け負うのが当たり前の会社は、原資の天井そのものが低い。本人の実力が同じでも、だ。一次受けや二次受けで戦い続けられる会社なのか、それとも、さらに下の下請けなのか。これは、複数の会社をこの目で見てきて感じたことだ。

ただし、受注額が高い会社なら給料も高い、と直結するわけではない。高く売れているのに薄給、という会社も少なくない。受注力は給料の天井を上げるが、床までは保証しない。

この「いくらで受注できるか」については、別の記事で踏み込んで書いた。請負は工数を売っているようで、その工数こそ、責任や信用に値段をつけるための歪んだ物差しでしかない、という話だ。

SES(客先常駐)の場合

客先に出ると、単価という数字がつく。たとえば月80万で出ていて、本人に渡るのは40万、ということが普通に起きる。残りが会社側だ。といっても、その差額が丸ごと会社の儲けというわけではない。社会保険の会社負担、賞与の原資、案件が途切れたときの待機ぶん、営業や管理の間接コスト。そういうものが、その中に含まれている。

そのうえで、エンドのクライアントに辿り着くまでに、間に会社が挟まれば挟まるほど、それぞれが取り分を抜いていく。間が多いほど、同じ実力でも原資は薄くなる。

ただし、それが手取りに直接効くのはフリーランスの場合だ。正社員は固定給だから、その月にどの階層の案件へ入るかで月給が動くわけではない2。効いてくるのは、もっと長い目で見た、会社全体の原資の厚みだ。

自社開発の場合

ここから先は、自分が間近で見てきた世界ではない。体で知っているのは、単価や受注で給料が決まる世界だ。

それでも、外から構造だけははっきりしている。自社開発には「単価×工数」にあたる受注額がない。自分の稼働が、そのまま売上の一行に貼り付かない。だから給料の土台は、「いくらで受注できたか」ではなく、「事業がいくら稼いでいて、人にいくらまで払えるか」と、「同じ人を採るのに市場がいくら出すか」のほうへ移る。

スタートアップだと、ここにもう一つ、効いてくるものがある。どれだけの成長を見込んでいて、どれだけ資金を調達できているか。まだ利益が出ていなくても、調達したお金と、これから伸びるという見込みを原資にして、今いくら払えるかが決まる。だから同じ職種でも、伸びに賭けて厚く採りにいく会社と、ランウェイが細っている会社とでは、土台がまるで違う。

土台の作りは変わっても、「会社側の事情×自分の価値」という骨格は変わらない。受注額の代わりに、事業の原資や、調達と成長への賭けが土台になる、というだけだ。

どの働き方でも、転職で大きく動くのは、たいていこの土台のほうだ。腕が同じなら、値段を付け替えたのは本人ではなく、会社だ。

社内の物差しと、市場の物差し

もうひとつ、見ていて思うズレがある。社内での評価と、市場での評価は、別物だ。

「うちには社内単価がある」という会社もある。でもそれは社内の物差しにすぎない。市場でいくらと値が付くかは、そこには映らない。

価値には、その会社の中でしか効かないものと、どこでも効くものがある。社内政治の立ち回り、特定の顧客やシステム固有の作法、年次、社内の人脈。これらは今の場所でしか値段がつかない。一方、設計力、技術の深さ、要件をまとめて形にする力、客先で揉まれた折衝力、数字で語れる実績。こういうものは、場所が変わっても効く。

外に出て評価が変わるのは、自分がこのどちらに寄っていたか、の違いだ。上流だろうが実装だろうが、関係ない。

そして、どこでも効く価値の中にも、高さの差はある。要件をまとめ、人を動かし、会社が大きな仕事を受けられる状態そのものを作る。この力に、いちばん高い値がつく。そこまで来ると、もう「技術者」という枠からは外れて、技術力とは別の希少さで値段がつく。

自分の価値は、どこで見えるか

やっかいなのは、自分の市場価値そのものは、ふだん見えないことだ。だから、つい手元の給料の額でそれを代用してしまう。

SESの単価は、その点では見えやすい。スキルや経験年数ごとに相場があって、エージェントに経歴を見せれば、だいたいの月額がすぐ返ってくる。ただし、その見えている数字が値付けしているのは、商流に組み込まれた枠だ。あなた個人ではない。しかも中抜き前の総額で、手元に届くまでに商流で薄まる。だから、単価がよく見えることは、あなたの価値が正確に出ていることとは違う。見えているのと、当たっているのは、別の話だ。

自社開発やSIerだと、その数字は普段見えない。でも、見えないからといって、無いわけじゃない。市場価値そのものは、転職オファーの形でちゃんと出る。むしろオファーのほうが、指標としては純度が高い。会社が中抜きなしで、あなた個人に、実際に払うと言ってきた額だからだ。1社だけだとその会社の事情でブレるが、何社か並べれば、自分につけられた値の幅が見えてくる。同じ経歴でも、会社が違えば提示額が100万、200万と開くのは、珍しくない。

「自社開発は自分の貢献が数字に出ない」という人もいる。でも数字に出にくいのは「自分が社内でいくら利益を出したか」のほうで、市場価値はそれとは関係なく付いている。今はスカウトサービスで正社員の想定年収もすぐ出てくるから、見えにくさ自体、昔ほどではない。

ひとつ注意。単価と年収は、そのまま並べて比べないほうがいい。月単価に12を掛けた数字は会社の売上に近く、年収オファーはあなたの取り分だ。賞与や社会保険の会社負担まで乗る正社員側とは、土俵が違う。

まとめ

給料の額を、そのまま自分の価値だと思わない。それだけで、だいぶ楽になる。額は「会社側の事情×自分の価値」でできていて、転職で動くのは、たいてい会社の側だ。上がっても下がっても、それが即、自分の価値の上下とは限らない。

給料は、自分の価値そのものではない。会社の事情と、自分の価値が掛け合わさった結果の数字だ。だから、数字が動いたときに最初に見るべきなのは、自分ではなく、何が動いたのかだ。

  1. 厳密な数式ではない。実際の給料は、会社の利益率や採用競争、給与テーブル、会社の配分方針など、もっと多くの要素で決まる。足し算ではなく掛け算と呼ぶのは、片方が小さいと結果が伸びないからだ。会社の払える額(土台)が低ければ、自分の価値が高くても、金額はそこで頭打ちになる。

  2. 最近は単価連動や高還元をうたうSESも増えていて、その場合は自分の単価がそのまま給料に効く。ここでの「固定給で緩衝される」は、従来型の正社員SESの話だ。

5
2
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
5
2

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?