1. はじめに
これは「imtakalab Advent Calendar 2023」の17日目の記事です。
2. 著者について
- 私立理系大学の学部3年生
- VTuberが好き(ホロライブの箱推し)
- 最近になって、「研究」の初歩の初歩の初歩を始めた
3. 対象読者
- 研究室のメンバー
- 「ラプラスの悪魔」というワードを聞いたことない、もしくは、聞いたことはあるけどよく分からないよ、という方
4. 背景
上述の通り、僕はVTuberが好きで、もっぱらホロライブのライバーをよく観ているのですが、その中の一人に「ラプラス・ダークネス」という方がいることもあり、ラプラスと名が付くものには、つい心が惹かれてしまいます(笑)
真面目な話をすると、確率論の勉強の中で「ラプラスの悪魔」について知る機会がありました。せっかくの理系大学生なので、そういった科学用語について知っておくことはちょっとした話の種になると思います。そのため、自分の備忘録兼皆さんの知識の足しになればと思い、筆を執りました。
注意
筆者は、可能な限り正確な内容を記載することを心がけていますが、一部の文言は筆者の独自解釈で書かれています。そのため、より正確な知識を得るためにはご自身で調べることをお勧めいたします。
5. "ラプラスの悪魔"って知ってます?
さて、本題に入る前に、そもそも「ラプラス」って誰?ということや「ラプラスの悪魔」を理解するための前提知識を学んでおきましょう。そんなことよりも、「ラプラスの悪魔」について知りたい!という方はこちらに飛んで下さい。
5.1 「ラプラス」ってどんな人?
はじめに、歴史の話をしましょう。現代まで続く確率論の歴史は大変長く、1654年頃にブレーズ・パスカルとピエール・ド・フェルマーのサイコロ賭博についての確率の議論が始まりとされています。そして、確率論の歴史( = 確率の定義の仕方)は古典的確率論と公理論的確率論の2つに大別することができます。
1812年、古典的確率論はピエール=シモン・ラプラスによって Théorie Analytique Des Probabilités に集約されました。
また、公理論的確率論は1930年頃にアンドレイ・コルモゴロフによって導入されました。
簡単にまとめると、ラプラス大先生は、それまでバラバラに研究されていた確率の問題をまとめ上げ、現代まで使われ続けることになる「確率」という概念を定義し、それを体系化させることで確率論という学問分野を作り上げた人ですね。(凄すぎる...)
そして、コルモゴロフ大先生は、「確率」を古典的確率論ではカバーできない分野(特に数学)にも適用できるように拡張したのです。
古典的確率と公理論的確率のより詳しい説明
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古典的確率論
- 古典的確率論では、「確率」は次のように定義され、これを古典的確率といいます。
古典的確率 = \frac{着目している場合の数}{起こりうるすべての場合の数}
ちなみに、場合の数とは「ある試行において起こりうる結果の個数」のことです。
さて、では古典的確率の定義の問題点を明らかにしていきましょう。古典的確率は、ある前提の下で計算されています。-
前提1 : ある試行において、起こりうる結果は同様に確からしいと仮定する
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前提2 : 起こりうるすべての場合の数は有限である
はじめに、前提1について解説します。
まず、同様に確からしいとは「確率が等しい」という意味であり、ある試行を行ったとき、どの結果の起こりうる確率もすべて等しい、ということを意味します。
前提2は、起こりうる結果の個数は数えることができる、という意味になります。
では、これらの前提によって、古典的確率にはどのような問題点が発生するのでしょうか? -
前提1の問題点 :
- 起こりうる結果が同様に確からしいものしか、確率を考えることができない
- 直感に反する結論が導かれる可能性がある
- 古典的確率の定義において、どういう場合が同様に確からしいのかについて述べないていない、という適用範囲の不明確さがあります
例えば、{明日死ぬ確率}を考えた場合、{死ぬか、死なないか}の2通りのどちらかが起こるので、その確率は 2分の1 である、というような錯覚を与えることになるなるでしょう。これは、{死ぬか、死なないか}という起こりうる結果が 同様に確からしい という前提の下で確率を計算したために発生してしまったのです。
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前提2の問題点 :
- 個数を数えることができる試行しか、確率を考えることができない
例えば、コイン投げの試行において、表が出るまでコインを投げ続ける場合、永久に表が出ない確率はいくらになるでしょうか?このとき、起こりる結果の場合は無限に存在します。
{表, 裏表, 裏裏表, 裏裏裏表, ...}
ゆえに、さきほどの古典的確率の定義式によれば、分母の値が無限大になってしまい、永久に表が出ない確率は0という結果になります。
このように、古典的確率の定義には複数の問題点があり、計算できない例が存在しました。そこで、それを改善するために公理論的確率論が導入されたのです。
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公理論的確率論
公理論的確率論では、確率の公理を満たすものを「確率」として定義されます。- 確率は非負実数値になる
- 対象となる結果のどれかは必ず生じる
- AとBの2つの場合があり、これらが排反であるとき、 「AまたはBが起こる確率」は、Aが起こる確率と、Bが起こる確率を足したものになる
これら、3つの公理を満たすとき、その値は「確率」となります。そして、これにより、「同様に確からしい」という仮定を必要とせず、かつ数学的に確率を扱うことができるようになったのです。
ここから、さらに深掘りすることはできますがそうすると終わらなくなるので、今回はここまでにしましょう。
5.2 確率の世界観を知ろう!
我々の世界に対する見方は、大きく2つに分けることができます(当然、これ以外もありますが....)
- 世界は決定論的である!
- 与えられた情報(データや数式)だけで、未来の挙動を記述することができる、ということです。
- 例えば、日本で次に皆既日食が見られるのは2035年であることが分かっています。これは、「可能性が高い」という意味ではなく、地球と月の運動による物理的・数学的見地から計算によって導かれており、確定です。
- 世界は非決定論的である!
- 与えられた情報だけでは、未来の挙動を記述することができず、それは確定ではない、ということです。
- 例えば、降水確率(明日雨が降る確率)は過去の気象データを元にしてある程度予測することはできますが、「絶対」ではありません。
このような世界に対する見方を理解した上で、さらに確率論の世界観を確認しましょう。
- 世界は決定論的であるが、人間は全てを知り得ないため、確率を考える必要がある。
- 世界は決定論的ではなく、確率的に変化するため(=非決定論的であるため)、確率を考える必要がある。
基本的に、科学は世界が決定論的であるか非決定論的であるかを語らない、と言われています。しかしながら、量子力学は、「世界は決定論的ではない」と積極的に主張する立場であるようです。
それでは、かのラプラス大先生はどのように世界を捉えていたのでしょうか?それを含めながら、本記事の主題に入っていきましょう。
5.3 「ラプラスの悪魔」とは何か?
(.....やっと、ここまで来きました。)
ラプラスの悪魔という単語は、ラプラス大先生の行ったある思考実験において登場したモノのことを指しています。
次のような思考実験を考えましょう。
ある悪魔を思う浮かべてみましょう。悪魔は以下の性質を持っています。
- 悪魔は、世界の現在のすべての状態を知っている、つまり、世界に存在するすべてのものとそれらのすべての性質について知っている
- 悪魔は、世界のすべての自然法則を知っており、それらはこの世界の事物がどういった挙動を行うかを規定している
- 悪魔は、どんなに複雑な計算であろうと、素早く処理することが可能である
このとき、この悪魔が世界に関して何らかの予測を立てようとしました。このとき、この悪魔は「確率」を必要とするでしょうか?
(皆さんはどう思います...?)
ラプラス大先生の答えは「No!」であり、「悪魔はこの世界のいかなる時点における状態も、直ちに弾き出すことが可能である」と主張しています。
つまり、ラプラスの悪魔は世界の現在の状態をすべて知っており、過去・未来のすべての世界の状態を予測することができる、というものです。
まさに「全知全能の神」のような存在ですが、それを神とは対極な存在である悪魔と称したのは、欧米の宗教観(キリスト教)に依るところが大きいかも知れませんね。
5.4 ラプラスが言いたかったこと
結局のところ、以上の思考実験から、ラプラス大先生は何が言いたかったのでしょうか?
それは次のようなことではないかと考えています。
- ラプラスの悪魔のような、神様視点を持った存在は、すべてを知っている / 知ることができるので、確率なんてものは必要ない。
- しかしながら、私たち人間はすべての知ることはできない。そのため、確率が必要であり、また、確率を用いることで世界の過去・未来の状態について何かしら述べることが可能となる
つまりは、このような思考実験を通して、確率の必要性を主張したかったのではないでしょうか?
ちなみに、前節で確率の世界観についてお話したのを覚えているでしょうか?
これまでの議論から分からかも知れませんが、ピエール=シモン・ラプラスは、「世界は決定論的であるが、人間は全てを知り得ないため、確率を考える必要がある」という、決定論的な確率の世界観を持った人物であると考えられます。
このことは、ラプラスの悪魔が持つ性質の1つ「悪魔は、世界のすべての自然法則を知っており、それらはこの世界の事物がどういった挙動を行うかを規定している」ということからも分かります。
つまり、この世界の自然法則は確率を含んでおらず、(私たちは知り得ませんが)真の数式を用いれば、その挙動を明確に計算することができるということを意味します。
私としては、世界は非決定論的であると考えているため、そこは見解の相違ですね。
6. おわりに
いかがでしたでしょうか?
長々と説明してしまい、申し訳ないです
今回は、ラプラスの悪魔とその周辺知識の解説を行いました。ただ、正確性が欠けている部分もあるため、より正しい解説を知りたい場合は、専門書や他の解説サイトを読むことをお勧めします。
今後は「マクスウェルの悪魔」や「シュレーディンガーの猫」についても調べて、まとめてみたいですね。他にも、こういった科学用語・SF単語がありましたら、教えていただけると嬉しいです
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。