この記事は DX 完全に理解した:01の続きです。はじめての方は先にそちらをご覧ください。
この記事は個人で作成したものであり、内容や意見は所属企業・部門見解を代表するものではありません。
DXレポートのおさらい
前回ご紹介したDXレポートの目的はDXの推進、つまり、デジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを作り出したりビジネスを変革したりすることを推進させようとしています。
しかし、このDXレポートではDXの推進を阻害してしまう課題の話もていねいに語られています。前述のようなデータの活用環境が整っていない、古いシステムの維持にコストがかかりすぎる、IT人材が足りない、何もしないと25年の崖がくる、といったようなお話です。そして、それらの課題の多くは実はDXとは関係なく、以前からあるITの課題なのです。
DXレポートによる混沌の幕開け
このDXレポートによって日本はDXに目覚めますが、昔からのITの課題がていねいに語られていたことが混沌を招いてしまいました。
IT企業の動き
DXレポートを読んだIT企業は、自社の製品・サービスに「DXにオススメ」といったキャッチを付けて売り始めました。幸いなことにDXレポートにはこれまでのITの課題の話もたくさん書いてありますので、そのどれかに絡めば決してウソではありません。
- DXのためには新たなデジタル技術の活用が必要なので、流行りのAIやRPAなどを使った製品・サービスがオススメです。
- DXのためには古いシステムを使い続けられないので、新しいシステムやクラウドへの移行がオススメです。
- DXのためにはデータ活用が必要ですが、紙だと活用できないので電子化がオススメです。
- DXのためにはIT人材が必要なので、IT人材を育成したり提供したりするサービスがオススメです。
こうして、ほとんどのIT関連製品・サービスがDXにオススメなものになりました。
一般企業の動き
毎日のようにDXというキーワードを耳にするようになり、一般企業側は何もしないと取り残されてしまいそうな危機感を持ちます。でも、肝心のDXがなんだか良く分かりません。そんなところにIT企業から「DXにオススメ」な提案が来ます。渡りに船とはこのことですね。やっぱりITの専門家は頼りになります。
こんな感じで世の中が回りますので、気がついたら「DXとはDXにオススメな製品・サービスを導入すること」というおかしな解釈ができあがってしまいました。AIを導入すればDX、RPAを導入すればDX、古いシステムを新しいプラットフォームやクラウドに移行すればDX、ITで何かやればもうDXです。
でも、DXレポートにおける本来のDXの部分、つまり「デジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを作り出したりビジネスを変革したりすること」をやってくれる製品・サービスなどありませんから、日本のDXはちっとも進みません。
また、現状の業務のままで新しいプラットフォームに移行したりRPAで自動化したりすると、本来のDXにおける「ビジネスモデルの変革」を自らやりにくくしてしまう可能性がでてきます。一度システムを完成させてしまったら、その業務を変更する際はシステムも変更しないといけません。変にシステム化してしまうと、DXが進まないどころか課題を増やしてしまう恐れすらあるのです。
IT人材ビジネス
DXレポートのおかげかどうかは分かりませんが、IT人材が足りないという事実も大きく広まりました。かつてはIT土方1とか新3K(きつい、帰れない、給料安い)2とか言われていたソフトウェア エンジニアですが、最近は引く手あまたでウハウハな職業になったらしく、未経験エンジニアの育成ビジネスなども活況な模様です。
ただし、DXに必要な人材はこれまでとは異なるので注意が必要です。
前回の「ITわかる人が足りない問題」のご説明で三省連携による「IT人材需給に関する調査」のグラフを引用しましたが、実はこの調査結果をきちんと読むと、従来型のIT人材は余ってしまうという予測になっています。IT人材全体は確かに足りないのですが、その内訳は、従来型のIT人材が足りないのではなくDXで必要とされる先端のIT人材が足りないのです。
以下のグラフは同じ調査結果からの引用ですが、従来型のIT市場は小さくなっていくことが分かります。また、赤線の「Reスキル率」というのは、従来型のIT人材から先端のIT人材へとスキルを転換していく割合を示しています。
足りないのは従来型のIT人材ではないので、未経験の方が今のIT人材を目指すのは危険です。ウハウハなのは今だけで、予測が正しければ近い将来に従来型のIT人材は余り始めてしまいます。また、現役のIT人材の方々も、スキルの転換を前提にキャリアパスを考えていかないと、IT土方へ逆戻りしてしまうかも知れません。
おわりに
混沌としたDXブームについて、思っていることを好き勝手に書いてみました。当てはまらない部分もたくさんあるかと思いますがご容赦ください。
次回は、この混沌としたDXブームを正すべく経済産業省が公開した「DXレポート2」や「DXレポート2.1」についてまとめます。