この記事は DX 完全に理解した:02の続きです。
はじめての方は DX 完全に理解した:01からご覧ください。
この記事は個人で作成したものであり、内容や意見は所属企業・部門見解を代表するものではありません。
日本のDXが進まない
前回のおさらいになりますが、DXが単なるITの課題解決とごっちゃになってしまった日本では、本来のDXがなかなか進みません。
情報処理推進機構(IPA)が企業にDX推進の自己診断アンケートを実施したところ、未着手の企業が約3割、全社戦略が不明確な中での散発的な取り組みにとどまっている企業が約4割で、きちんと全社戦略としてDX実現を目指すことができている先行企業は1割にも満たないことがわかりました。
このIPAのサイトでは回答企業名も公開されていますが、名だたる企業が並ぶにも関わらずこの結果です。
DXレポート2
2018年9月のDXレポートで「日本はこのままだとヤバいぞ!」と警鐘を鳴らした経済産業省ですが、日本のDXがおかしな方向に進んでしまったため、2020年12月に再び「DXレポート2」で警鐘を鳴らしています。
このレポートでは一般企業の経営者がすべきことがまとめられていますので、私の理解を簡単にまとめます。
コロナ禍でわかったこと
コロナ禍で深刻な影響を受けた企業が多い中、デジタルなサービスは大きく伸びました。AmazonなどのECサイトが分かりやすいですが、ECサイトに限らず、デジタル化の動きはコロナ禍が終息しても元に戻ることはないでしょう。そのため、企業は、デジタルに慣れてデジタルが当たり前になってきた顧客に引き続き対応していく必要があります。
また、コロナ禍で事業環境が大きく変化し、突然の在宅勤務やWeb会議などを強いられることになりましたが、このような大きな変化でも、経営トップが号令をかけることで迅速に対応できることが分かってきました。つまり、本来のDXが目指していたデジタルによるビジネスの変革も、経営トップが主導すれば実現できる可能性を示しています。
企業が取り組むべきこと
直ちに(超短期)
まず、今回のコロナ禍のような迅速な対応が必要な事項は、経営トップのリーダーシップの下で、市販の製品・サービスの導入を検討してください。
ただし、これらのツールはあくまでも「手段」であり「目的」ではありません。ツールを入れてもDX推進のスタート地点に立てるだけなので、その先の取り組みへとつなげていく必要があります。
短期
短期の施策としては、DX推進体制の整備が必要です。
経営層や事業部門、IT部門間で、DX推進の目的や戦略、その進め方の共通理解を形成する必要があります。また、経営層が推進してチェックする体制を作らないといけません。
ここを現場丸投げにしてしまうと、現場に本来の目的や戦略が伝わらず、IT企業の言いなりでDXなツールの導入が目的にすり替わってしまいます。
中長期
中長期の施策としては、環境の変化に迅速に対応できる体制の確立が必要です。
自社の製品やサービスをなるべく短期で作って市場に出し、その反響を見て短期で改善するサイクルを回し続ける必要があります。そのためには、それができる開発体制の確立が必要で、IT企業との関係構築も重要になるでしょう。
また、各企業がそれぞれで似たような仕組みを作るのは無駄なので、そういったものは企業間で共用することによりコストを下げて、各社が本来の投資へお金を回せるような取り組みも必要です。
これらを実現するためには、人材も重要です。変革を主導できるような人材や、思い描いた製品・サービスをきちんとシステムとして実現できる技術者が必要です。
これらが企業が取り組むべき内容ですが、いずれもかなり難しいことですよね。企業間の仕組みの共用などは政府の支援も不可欠になってきます。そのため、このレポートでは、政府の政策の方向性についても語られています。ご興味のある方は、ぜひ実際のレポートをご参照ください。
DXレポート2.1
DXレポート2では一般企業とIT企業との関係についてはサラッとしか語られていませんでしたが、その部分を補足した「DXレポート2.1」が2021年8月に公開されました。
こちらについても私の理解を簡単にまとめてみます。
一般企業とIT企業の良くない関係
本来のDXを進めるためには、デジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを作り出したり変革したりする必要がありますが、必要となるデジタル技術はIT企業が持っています。そのため、DXの推進はIT企業と一緒にやっていく必要があります。
でも、今のIT企業はDXの推進まではなかなか手伝ってくれません。「言われたシステムを作ります。それには◯◯人月かかるので◯◯円払ってください。でも、そのシステムでDXが成功するかどうかは知りません。」というスタンスなのです。これでは一緒には進められません。
DX実現における企業のあるべき姿
このレポートでは、DX実現における業界構造のあるべき姿をまとめています。
この図の下半分が現状です。大企業をトップとした中小零細企業の下請け構造です。
これに対して、DXを実現した状態が上半分です。製品やサービスを素早く作って市場に追従していくためには、大企業主体で巨大なピラミッド構造を作っている場合ではありません。さまざまなサービスを素早く結びつけて作り上げる必要があるため、ネットワーク的な構造になります。
この理想の構造における企業の姿には、図にある①から④の4パターンがあります。
①企業の変革を共に推進するパートナー
企業のDX推進をお手伝いする企業です。お客様のDX実現を目的に、一緒にがんばってくれる方々です。前述の図で下半分から上半分に変わっていくお手伝いをする役目です。成果報酬形のDXコンサルといったイメージでしょうか。
②DXに必要な技術を提供するパートナー
企業のDX推進を技術面でお手伝いする企業です。①と同様に、前述の図の下半分から上半分に変わっていくお手伝いをする役目です。これまでのIT企業に近い形ですが、図に「伴走」とあるように、DX推進を一緒にがんばってくれるところがポイントです。
③共通プラットフォームの提供主体
企業間や業界間で共用できる仕組みを提供する企業です。DXレポート2で企業が取り組むべきことの1つに、「各企業がそれぞれで似たような仕組みを作るのは無駄なので、そういったものは企業間で共用できるように」といったお話がありましたが、この部分をサービスとして提供する企業です。
④新ビジネス・サービスの提供主体
お客様にサービスを提供する企業です。これまでの一般企業の位置ですが、自分ですべてを作り上げるのではなく、提供されているサービスを組み合わせているところがポイントです。
企業がDXを進めるために
今後は、各企業がこの①から④のどれに該当するのかを判断したり、その分類において理想にどれくらい近づけているのかを評価したりするための指標を整備していく予定とのことです。
DXレポートの次回予告
DXレポート2.1の最後に続編の予告がありました。日本のDX推進のために様々な対応策の検討が進んでおり、続編ではそれらを取りまとめる予定とのことです。
2018年9月のDXレポートで火蓋が切られた経済産業省と日本企業との攻防(?)は、これからも目が離せませんね。日本で本来のDXが進んでいくことを願うばかりです。
おわりに
経済産業省のDXレポートのご紹介を中心に、日本におけるDXについて3回に分けてご説明いたしました。これらの記事が、みなさまのDX理解の一助になりましたら幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
(おまけ)
所属する会社のブログでは、この記事をブラッシュアップして、もう少し詳しくDXを解説しています。もし、業務でDX推進やAI導入などをご検討中でしたら、ぜひご参照ください。