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桁数は Math.log10(x).floor + 1 でいいのか

Last updated at Posted at 2020-05-16

この記事は Ruby を前提とするが,多くの言語で似たようなことが言えると思う。

何の話?

正の整数 x が 10 進法で何桁になるか,を求めるやり方はいくつもある。
そのうちの一つが

Math.log10(x).floor + 1

なのだが,本当にこれで正しい答えが得られるのだろうか,という話。
数学が苦手でも,Ruby をあまり知らなくても分かるよう,なるべく丁寧に見ていく。

しかし,結論だけを知りたい方は それでいいのか? の節にどうぞ。

桁数を求めるいろいろなやり方

この節では,ローカル変数 x に正の整数が代入されているとする。
Ruby はメモリーなどの条件が許せばどんな大きな整数も扱うことができる。

文字列化

Ruby の整数(Integer クラス)には,N 進法で表した数字列を生成する Integer#to_s というメソッドがある。

引数を省略すると,10 進法の数字列が得られる。

p (36 + 72).to_s # => "108"

一方,String クラスには,長さ(文字数)を数える String#length というメソッドがある。

p "Ruby".length # => 4

これを組み合わせれば

x.to_s.length

で桁数が得られる。
極めて簡単だ。

しかし,ちょっとした不安がよぎる。桁数が知りたいだけなのに,10 万桁の整数に対し長さ 10 万の巨大文字列を作るのは,もしかして遅いのでは?
実はかなり高速なのだが,その話は置いておこう。

桁ごとの数の配列を得る

Ruby には,非負整数(0 以上の整数)を N 進法で表したときの各桁の数を並べた配列を返す Integer#digits というメソッドがある。

引数を省略すると 10 進法となる。

p 1234.digits # => [4, 3, 2, 1]

下の位から順に並べるので,見た目の順序は逆転している。

これと,配列の長さを返す Array#length を使えば

x.digits.length

で桁数が得られる。

私なぞは,素人考えで「なんとなく文字列より整数のほうが処理が速そうだから,x.to_s.length より速いんでは?」と思ってしまったが,そんなことはなかった。そりゃそうか。巨大な配列が作られるわけだしね。

そして Math.log10(x).floor + 1

他にもやり方はあるが,本題の

Math.log10(x).floor + 1

に行こう。なぜこれで x の桁数が得られるのか?

Math.log10 は,与えられた引数の常用対数の値を返すメソッド。

常用対数関数

y = \log_{10}x

は 10 をていとする指数関数

x = 10^y

の逆関数だったね。
この指数関数は,$y$ が整数のときは意味が分かりやすいけれど,任意の実数に対しても定義されている。

$y$ が 0 以上の整数のときを見てみよう

$y = \log_{10}x$ $x = 10^y$
$0$ $1$
$1$ $10$
$2$ $100$
$3$ $1000$
$4$ $10000$

これを見れば,$y$ が 0 以上の整数のときは,$y + 1$ つまり $\log_{10}(x) + 1$ が桁数になることが分かる。

しかし,$y$ が整数になる $x$ は限られている。もっと一般の正の整数 $x$ についてはどうなるだろう?

ためしに,$x = 999$ を考えてみる。これは $1000$ よりちょっと小さい。
対数関数は単調増加($x$ が増えれば $y$ も増える)なので,$\log_{10}999$ は $3$ よりもちょっと小さいはずだ。
したがって,切り捨てで整数化すれば,$2$ が得られる。

切り捨てにゆか関数というものを使おう。これは,半端を数直線の左(負の無限大)に向かって切り捨てる。
今の場合,負数は出てこないから「小数部の切り捨て」と考えても差し支えない1

さて,数学記号では,床関数を $\lfloor a \rfloor$ のように書くらしいが,以上の考察から,$x$ が $100$ 以上 $999$ 以下であるとき,

\lfloor \log_{10}x \rfloor

は全て $2$ であることが分かる。
つまり,こんなふうになるんである。

$x$ $\lfloor \log_{10}x \rfloor$
$1$〜$9$ $0$
$10$〜$99$ $1$
$100$〜$999$ $2$
$1000$〜$9999$ $3$
$10000$〜$99999$ $4$

だから 1 を足した $\lfloor \log_{10}x \rfloor + 1$ で桁数が得られるというわけだ。数学的には,ね。

それでいいのか?

やっと核心に。

$\lfloor \log_{10}x \rfloor + 1$ を Ruby のコードで書けば

Math.log10(x).floor + 1

となるわけだが,一抹の不安がよぎる。それがこの記事の主旨であった。

というのは,Math.log10 は Float クラスの浮動小数点演算だ。浮動小数点演算にはふつう誤差が伴う。
微妙な誤差に起因して結果の桁が狂うことはありえないのか?

どう考えればいいのだろう?

正の整数 x を 1,2,3,… と順に見ていって,桁が変わるのはどこか。それは,もちろん 9→10 とか 99→100 とか 999→1000 といったところだよね。
浮動小数点数演算の誤差によって誤った結果が出るとすれば,この境目のあたりだろう。
10000000 のようなのが誤って一つ少ない桁にされたり,9999999999 のようなのが誤って一つ多い桁にされたり,といったことがありそう。
このうち,1000000 のような数はもともと $10^k$ の形なので,誤差が出にくい気がする。
ならば,9 が並ぶ数で実験してみようではないか。

はい,こんなコードを書きました。

1.upto(100) do |k|
  puts "%3d %3d" % [k, Math.log10(10 ** k - 1).floor + 1]
end

$k$ を 1 から 100 まで変えて,$10^k - 1$(つまり 9 を $k$ 個並べた数)の桁を計算させる。これを $k$ と並べて表示させる。数学的には一致するハズなので,同じ数が並んでいるかどうかを見る。

結果は以下の通り

  1   1
  2   2
  3   3
  4   4
  5   5
  6   6
  7   7
  8   8
  9   9
 10  10
 11  11
 12  12
 13  13
 14  14
 15  16
 16  17
 17  18
 18  19
 19  20
 20  21
 21  22
 22  23
 23  24
 24  25
 25  26
 26  27
 27  28
 28  29
 29  30
 30  31
 31  32
 32  33
 33  34
 34  35
 35  36
 36  37
 37  38
 38  39
 39  40
 40  41
 41  42
 42  43
 43  44
 44  45
 45  46
 46  47
 47  48
 48  49
 49  50
 50  51
 51  52
 52  53
 53  54
 54  55
 55  56
 56  57
 57  58
 58  59
 59  60
 60  61
 61  62
 62  63
 63  64
 64  65
 65  66
 66  67
 67  68
 68  69
 69  70
 70  71
 71  72
 72  73
 73  74
 74  75
 75  76
 76  77
 77  78
 78  79
 79  80
 80  81
 81  82
 82  83
 83  84
 84  85
 85  86
 86  87
 87  88
 88  89
 89  90
 90  91
 91  92
 92  93
 93  94
 94  95
 95  96
 96  97
 97  98
 98  99
 99 100
100 101

途中からずれている。抜粋するとココ。

 14  14
 15  16

$10^{14} - 1$ までは正しく計算できているが,$10^{15} - 1$ では案の定,正しい答えより一つ大きい数になってしまっている。

ここでふと思い当たることがあった。「浮動小数点数の精度は 10 進にして 15 桁程度」という話。
Ruby の Float は実は環境依存なので,精度は一概に言えないのだが,非常に多くの環境で IEEE 754 の「倍精度」というものが使われるらしい。これの場合,精度は 10 進で 15 桁くらいになるとのこと。

だから,9 を 15 個並べた整数で Math.log10(x).floor + 1 の結果が正しい桁数にならなかった,というのはいかにもありそうな話なわけだ。

結論

小さな整数に対しては Math.log10(x).floor + 1 でよいが,大きな整数では誤差が生じる。

  1. 負数の場合,-1.1.floor-2 であって,小数部を切り捨てた -1 ではないことに注意。

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