Ruby 4 で組込みクラスになった Pathname と Set の gem は読み込めるか？

Ruby 4.0.0 で Pathname と Set が組込みクラスになるとのこと。
参考：Ruby 4.0.0 preview3 リリース

pathname や set の gem は読み込めるのだろうか？

なお，本記事の執筆にあたって，以下の二つのバージョンの Ruby を用いた。

• ruby 3.4.8 (2025-12-17 revision 995b59f666) +PRISM [arm64-darwin25]
• ruby 4.0.0preview3 (2025-12-18 master cfa3e7cf75) +PRISM [arm64-darwin25]

これまでの pathname

pathname は，Ruby 3.4 系では標準添付ライブラリーであった。

そのため，

• 使うには require "pathname" が必要
• しかし，とくにインストールする必要はない

であった。

ただ，gem の形で提供されているので，Ruby に添付されているもの以外のバージョンも，インストールして使うことができる。

これまでの set

私の認識では，Ruby 3.4 系の set は

• 標準添付ライブラリーである
• ただし pathname などと違い，require しなくても使えるようになっている

であった。

しかし，今改めて Ruby 3.2.0 のリリースノート を見ると，

Set は require "set" を実行しなくても使用できる組み込みのクラスとなりました。 [Feature #16989] この機能は Set を参照した時、または Enumerable#to_set を呼んだ時に有効となります。

とある。
require 不要になったのは Ruby 3.2 のときということだ。
それはいいのだが，ここで既に「組み込みのクラス」という表現が使われている。

もう一度 4.0.0-preview3 のリリースノートを見ると，こちらは

Set は autoload される標準ライブラリのクラスではなく、組み込みクラス (core class) になりました。 [Feature #21216]

となっている。

「組み込みのクラス」と「組み込みクラス (core class) 」は違うのだろうか？　用語が混乱しているのだろうか。

ともあれ，set は gem として提供されており，Ruby 3.4 系では Ruby に添付されていないバージョンの set をインストールして使うことはできる：

付属の set をそのまま使う場合

p RUBY_VERSION # => "3.4.8"
p Set::VERSION # => "1.1.2"

gem のバージョンを指定して使う場合

p RUBY_VERSION # => "3.4.8"

gem "set", "1.1.0"

p Set::VERSION # => "1.1.0"

参照しただけでバージョンが固定され，別バージョンが使用不可に

p RUBY_VERSION # => "3.4.8"

Set # とくに何もしないが，Set を参照する

gem "set", "1.1.0"
# => 'Gem::Specification#check_version_conflict': can't activate set-1.1.0, already activated set-1.1.2 (Gem::LoadError)

Ruby 4 で gem は読み込めるのか

ここからが本題だ。

組込みクラスになってしまうと，gem で提供される pathname や set は使えなくなるのではないだろうか？

Ruby 4 で実験的に導入された Ruby::Box によるネームスペースを使えばひょっとして可能なのかとも思ったが，どう試せばよいかも分からなかった。

pathname

Ruby 4.0.0-preview3 で，gem 指定した pathname の require を試みる。
なお，以下の実験で，RUBY_VERSION が "4.0.0" を返しているが，使用したバージョンはプレビュー版である。

p RUBY_VERSION # => "4.0.0"
p Pathname::VERSION # => "0.4.0"

gem "pathname"
require "pathname"
# =>
# /Users/XXXXX/.rbenv/versions/4.0.0-preview3/lib/ruby/gems/4.0.0+1/gems/pathname-0.4.0/lib/pathname.rb:17: warning: already initialized constant Pathname::VERSION
# <internal:pathname_builtin>:194: warning: previous definition of VERSION was here
# /Users/XXXXX/.rbenv/versions/4.0.0-preview3/lib/ruby/gems/4.0.0+1/gems/pathname-0.4.0/lib/pathname.rb:36: warning: already initialized constant Pathname::SEPARATOR_LIST
# <internal:pathname_builtin>:312: warning: previous definition of SEPARATOR_LIST was here
# /Users/XXXXX/.rbenv/versions/4.0.0-preview3/lib/ruby/gems/4.0.0+1/gems/pathname-0.4.0/lib/pathname.rb:37: warning: already initialized constant Pathname::SEPARATOR_PAT
# <internal:pathname_builtin>:313: warning: previous definition of SEPARATOR_PAT was here
# /Users/XXXXX/.rbenv/versions/4.0.0-preview3/lib/ruby/gems/4.0.0+1/gems/pathname-0.4.0/lib/pathname.rb:43: warning: already initialized constant Pathname::ABSOLUTE_PATH
# <internal:pathname_builtin>:323: warning: previous definition of ABSOLUTE_PATH was here

p Pathname::VERSION # => "0.4.0"

これによると，

• gem "pathname" までは問題ない
• そのあと require すると Pathname::VERSION などの定数が既に定義されている，と警告が出る
• require の前後で Pathname::VERSION の値は変わらない

のようだ。
警告であってエラーではなく，鬱陶しいだけで動作には問題ないのかもしれない。

Gemfile と Bundler を使っている場合，警告は Bundler.require の時点で出る。

なお，gem "pathname" せずに require "pathname" すると何も起こらない。

以上の実験では，pathname のバージョンを指定していなかった。
バージョンを指定するとどうか。
先ほどの検証コードで

gem "pathname"

を

gem "pathname", "0.3.0"

に変えてみた（pathname 0.3.0 はインストールしておく）。

すると，

• require 前の Pathname::VERSION は "0.4.0"
• require 後の Pathname::VERSION は "0.3.0"
• 警告は同様のものが出たが，警告が出るライブラリー箇所は pathname 0.4.0 のファイルから 0.3.0 のファイルに変わった（まあ当然）

という点が違っていた。

Bundler を使った場合（Gemfile に gem "pathname", "0.3.0" を記述）も同様であった。

set

set も同じようにやってみようとしたが，Ruby 4.0.0-preview3 では Set::VERSION が定義されていないらしく，バージョンを確かめることすらできなかった：

p RUBY_VERSION # => "4.0.0"
p Set::VERSION
# => uninitialized constant Set::VERSION (NameError)

これは，gem メソッドで set gem のバージョンを指定して require しても変わらない：

p RUBY_VERSION # => "4.0.0"

gem "set", "1.1.0"
require "set"

p Set::VERSION
# => uninitialized constant Set::VERSION (NameError)

上記コードで，require ではエラーも警告も出ない。
ここが pathname と大きく違うところ。

Bundler を使った場合も同様だった。

set gem では，バージョン 1.1.0 でも 1.1.2 でも，Set::VERSION は定義されている。

• https://github.com/ruby/set/blob/v1.1.0/lib/set.rb#L219
• https://github.com/ruby/set/blob/v1.1.2/lib/set.rb#L227

この定数が参照できない，ということは，Ruby 4.0.0-preview3 では Bundler を使っても gem 版の set ライブラリーは使えない，ということなのかもしれない。

まとめ

Ruby 4.0.0 の，あくまでプレビュー版についてだが，以下のようにまとめられるかと思う。

pathname

• require 無しで使える
• gem のバージョンを指定して require することもできる
• その場合，Pathname クラスの定数の上書きに関する警告が出る

別バージョンの pathname を require しても，Pathname クラスが入れ換わるわけではなく，上書きされるだけだと思う。
だから，組込みのほうに仮に xxx というメソッドがあったとして，その xxx を持たないバージョンを require したとしても，xxx が消えたりはしないのではないかと思う。
そうだとすれば，これが問題を引き起こすこともありうるのではないか。

set

• gem 版には存在する Set::VERSION 定数が存在しない
• require 無しで使える
• set gem を require することはできないぽい（require でエラーは出ないが，gem 版が読み込まれたようには見えない）